すべてはあなたの為だった~狂愛~

矢野りと

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1.政略結婚

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昔この国には魔術師がたくさんいた。だが年月が流れ魔術師になれるほどの膨大な魔力を持つ者は数えるほどしか存在しなくなった。

多くの民は生活に役に立つ程度の微々たる魔力しか持っていなかったので、膨大な魔力を持つ者は尊敬よりも畏怖されるようになっていた。

そんな世の中に俺は有り得ないほどの魔力を備えて誕生してしまった。

普通は魔力が高めの家系にしか生まれなくなった魔術師。
それなのにほとんど魔力を持たない家系から突然生まれた…。この予期せぬ事態に両親は我が子の誕生を素直に喜べなかった。

愛情がないわけではなかったが、それよりも得体のしれない膨大な魔力を恐れる気持ちの方が勝ったのだろう。

侯爵家の嫡男に生まれたのに俺は幼少の頃から孤独だった。両親と俺との間には見えない壁があり、記憶にある限り親子の触れ合いなんて一切なかった。

膨大な魔力は制御できなければ大変なことになる。誕生してすぐに本邸から出され、別邸で恐る恐る世話をする使用人達に囲まれて生活していた。何不自由ない生活を与えられたが、そこにはもちろん愛情など存在しない。


そして物心つく頃から始まった血反吐を吐くような魔力の制御訓練。どんなに辛くても助けてくれる者はおらず逃げることは許されなかった。

そして14年後、感情が欠如した最年少の魔術師が誕生した。

両親は俺が王家から認められた魔術師になると喜んでいたが、それは息子への愛情からではなく侯爵家の繁栄に繋がるからだ。貴重な魔術師を輩出した一族は何かと優遇される事も多いのだ。

そして18歳になると同時に王命で婚姻を結ぶことなった。侯爵家は快諾していたがそこに俺の意思など存在しない。ただ新たに生まれた魔術師の血筋を絶やしたくない王家と、子供を贄にしてもより繁栄したい侯爵家の利害の一致でしかなかった。

 こんな呪われた血を繋いでなんの意味があるというんだ。


膨大な魔力を持つ魔術師の周りにはそのお零れにあずかろうとする権力や欲に取り憑かれた亡者しかいない。つまり魔術師本人は魔力が有るが故に幸福になんてなれない。その矛盾に苦しみ多くの魔術師は年若いうちに自ら命を絶つことを選択する…。

 それも悪くはないかな…。


だからその子種までも利用したい王家は魔術師達を成人と同時に婚姻を結ばせるている。


そんな政略結婚に期待など一切なかった。これはただの仕事であり、子供を作り早くこの世から解放される事ばかり考えるようになっていた。


結婚式の当日に初めて会った花嫁は俺の目を真っ直ぐ見て挨拶をしてくれた。
 
「初めまして、エリザベス・アダムスと申します。
アレクサンダー様の目は素敵ですね、こんな素敵な方と結婚出来て嬉しいです。
不束者ですが末永くよろしくお願い致します」

「……あ、ああ。アレクサンダー・カーターだ」

普通の者は恐れから魔術師とは目も合わせようとしない。目を合わせようとする奴は魔術師の俺を利用しようと媚びへつらう者しかいなかった。そしてその目はみんな一様に澱んでいて嫌悪感しかなかった。

だが花嫁になるエリザベスの目には畏怖も媚びもない。あるのは……俺への純粋な興味…?

 なんで目を逸らさないんだ?
 魔術師が怖くないのか…。


「ふふふ、アレクサンダー様は無口なんですね」

「い、いやそんな事はない…はずだ」

笑いながらも俺から目を逸らさない彼女との出会いは衝撃だった。だがその後の結婚生活のほうが驚きの連続だった。
まず彼女は俺を魔術師ではなく一人の人間として扱った。
『アレクサンダー様、好きですよ』と好意を示す。
『なんでこんな事をするんですか!』と俺の態度が悪ければ怒りもする。
毎日毎日『アレク様!』と反応が薄い俺に自分から歩み寄ってくれる。
生まれて初めてだった、魔力関係なくちゃんと俺自身を見てくれる人は。

胸に宿る熱い想いは愛するという感情の芽生えだった。気づけば彼女を本気で愛するようになっていた。

「リズ愛しているよ。俺がこんな気持ちを持てるなんて想像した事も無かった。魔術師は幸せとは無縁の存在だったから。有り難う、俺にもやっと心から大切だと思えるものが出来た」

「いつでも真っ直ぐに私を見てくれるアレクを愛しているわ。私と一緒にいて幸せを感じてくれるのも嬉しい。もっともっと貴方を幸せにしてあげたい」


もうリズがいない人生なんて考えられなかった。
何があっても彼女を手離さないと誓い、魔術師でありながら愛する人と幸せな人生を歩んでいくはずだった。

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