1 / 26
1.政略結婚
しおりを挟む
昔この国には魔術師がたくさんいた。だが年月が流れ魔術師になれるほどの膨大な魔力を持つ者は数えるほどしか存在しなくなった。
多くの民は生活に役に立つ程度の微々たる魔力しか持っていなかったので、膨大な魔力を持つ者は尊敬よりも畏怖されるようになっていた。
そんな世の中に俺は有り得ないほどの魔力を備えて誕生してしまった。
普通は魔力が高めの家系にしか生まれなくなった魔術師。
それなのにほとんど魔力を持たない家系から突然生まれた…。この予期せぬ事態に両親は我が子の誕生を素直に喜べなかった。
愛情がないわけではなかったが、それよりも得体のしれない膨大な魔力を恐れる気持ちの方が勝ったのだろう。
侯爵家の嫡男に生まれたのに俺は幼少の頃から孤独だった。両親と俺との間には見えない壁があり、記憶にある限り親子の触れ合いなんて一切なかった。
膨大な魔力は制御できなければ大変なことになる。誕生してすぐに本邸から出され、別邸で恐る恐る世話をする使用人達に囲まれて生活していた。何不自由ない生活を与えられたが、そこにはもちろん愛情など存在しない。
そして物心つく頃から始まった血反吐を吐くような魔力の制御訓練。どんなに辛くても助けてくれる者はおらず逃げることは許されなかった。
そして14年後、感情が欠如した最年少の魔術師が誕生した。
両親は俺が王家から認められた魔術師になると喜んでいたが、それは息子への愛情からではなく侯爵家の繁栄に繋がるからだ。貴重な魔術師を輩出した一族は何かと優遇される事も多いのだ。
そして18歳になると同時に王命で婚姻を結ぶことなった。侯爵家は快諾していたがそこに俺の意思など存在しない。ただ新たに生まれた魔術師の血筋を絶やしたくない王家と、子供を贄にしてもより繁栄したい侯爵家の利害の一致でしかなかった。
こんな呪われた血を繋いでなんの意味があるというんだ。
膨大な魔力を持つ魔術師の周りにはそのお零れにあずかろうとする権力や欲に取り憑かれた亡者しかいない。つまり魔術師本人は魔力が有るが故に幸福になんてなれない。その矛盾に苦しみ多くの魔術師は年若いうちに自ら命を絶つことを選択する…。
それも悪くはないかな…。
だからその子種までも利用したい王家は魔術師達を成人と同時に婚姻を結ばせるている。
そんな政略結婚に期待など一切なかった。これはただの仕事であり、子供を作り早くこの世から解放される事ばかり考えるようになっていた。
結婚式の当日に初めて会った花嫁は俺の目を真っ直ぐ見て挨拶をしてくれた。
「初めまして、エリザベス・アダムスと申します。
アレクサンダー様の目は素敵ですね、こんな素敵な方と結婚出来て嬉しいです。
不束者ですが末永くよろしくお願い致します」
「……あ、ああ。アレクサンダー・カーターだ」
普通の者は恐れから魔術師とは目も合わせようとしない。目を合わせようとする奴は魔術師の俺を利用しようと媚びへつらう者しかいなかった。そしてその目はみんな一様に澱んでいて嫌悪感しかなかった。
だが花嫁になるエリザベスの目には畏怖も媚びもない。あるのは……俺への純粋な興味…?
なんで目を逸らさないんだ?
魔術師が怖くないのか…。
「ふふふ、アレクサンダー様は無口なんですね」
「い、いやそんな事はない…はずだ」
笑いながらも俺から目を逸らさない彼女との出会いは衝撃だった。だがその後の結婚生活のほうが驚きの連続だった。
まず彼女は俺を魔術師ではなく一人の人間として扱った。
『アレクサンダー様、好きですよ』と好意を示す。
『なんでこんな事をするんですか!』と俺の態度が悪ければ怒りもする。
毎日毎日『アレク様!』と反応が薄い俺に自分から歩み寄ってくれる。
生まれて初めてだった、魔力関係なくちゃんと俺自身を見てくれる人は。
胸に宿る熱い想いは愛するという感情の芽生えだった。気づけば彼女を本気で愛するようになっていた。
「リズ愛しているよ。俺がこんな気持ちを持てるなんて想像した事も無かった。魔術師は幸せとは無縁の存在だったから。有り難う、俺にもやっと心から大切だと思えるものが出来た」
「いつでも真っ直ぐに私を見てくれるアレクを愛しているわ。私と一緒にいて幸せを感じてくれるのも嬉しい。もっともっと貴方を幸せにしてあげたい」
もうリズがいない人生なんて考えられなかった。
何があっても彼女を手離さないと誓い、魔術師でありながら愛する人と幸せな人生を歩んでいくはずだった。
多くの民は生活に役に立つ程度の微々たる魔力しか持っていなかったので、膨大な魔力を持つ者は尊敬よりも畏怖されるようになっていた。
そんな世の中に俺は有り得ないほどの魔力を備えて誕生してしまった。
普通は魔力が高めの家系にしか生まれなくなった魔術師。
それなのにほとんど魔力を持たない家系から突然生まれた…。この予期せぬ事態に両親は我が子の誕生を素直に喜べなかった。
愛情がないわけではなかったが、それよりも得体のしれない膨大な魔力を恐れる気持ちの方が勝ったのだろう。
侯爵家の嫡男に生まれたのに俺は幼少の頃から孤独だった。両親と俺との間には見えない壁があり、記憶にある限り親子の触れ合いなんて一切なかった。
膨大な魔力は制御できなければ大変なことになる。誕生してすぐに本邸から出され、別邸で恐る恐る世話をする使用人達に囲まれて生活していた。何不自由ない生活を与えられたが、そこにはもちろん愛情など存在しない。
そして物心つく頃から始まった血反吐を吐くような魔力の制御訓練。どんなに辛くても助けてくれる者はおらず逃げることは許されなかった。
そして14年後、感情が欠如した最年少の魔術師が誕生した。
両親は俺が王家から認められた魔術師になると喜んでいたが、それは息子への愛情からではなく侯爵家の繁栄に繋がるからだ。貴重な魔術師を輩出した一族は何かと優遇される事も多いのだ。
そして18歳になると同時に王命で婚姻を結ぶことなった。侯爵家は快諾していたがそこに俺の意思など存在しない。ただ新たに生まれた魔術師の血筋を絶やしたくない王家と、子供を贄にしてもより繁栄したい侯爵家の利害の一致でしかなかった。
こんな呪われた血を繋いでなんの意味があるというんだ。
膨大な魔力を持つ魔術師の周りにはそのお零れにあずかろうとする権力や欲に取り憑かれた亡者しかいない。つまり魔術師本人は魔力が有るが故に幸福になんてなれない。その矛盾に苦しみ多くの魔術師は年若いうちに自ら命を絶つことを選択する…。
それも悪くはないかな…。
だからその子種までも利用したい王家は魔術師達を成人と同時に婚姻を結ばせるている。
そんな政略結婚に期待など一切なかった。これはただの仕事であり、子供を作り早くこの世から解放される事ばかり考えるようになっていた。
結婚式の当日に初めて会った花嫁は俺の目を真っ直ぐ見て挨拶をしてくれた。
「初めまして、エリザベス・アダムスと申します。
アレクサンダー様の目は素敵ですね、こんな素敵な方と結婚出来て嬉しいです。
不束者ですが末永くよろしくお願い致します」
「……あ、ああ。アレクサンダー・カーターだ」
普通の者は恐れから魔術師とは目も合わせようとしない。目を合わせようとする奴は魔術師の俺を利用しようと媚びへつらう者しかいなかった。そしてその目はみんな一様に澱んでいて嫌悪感しかなかった。
だが花嫁になるエリザベスの目には畏怖も媚びもない。あるのは……俺への純粋な興味…?
なんで目を逸らさないんだ?
魔術師が怖くないのか…。
「ふふふ、アレクサンダー様は無口なんですね」
「い、いやそんな事はない…はずだ」
笑いながらも俺から目を逸らさない彼女との出会いは衝撃だった。だがその後の結婚生活のほうが驚きの連続だった。
まず彼女は俺を魔術師ではなく一人の人間として扱った。
『アレクサンダー様、好きですよ』と好意を示す。
『なんでこんな事をするんですか!』と俺の態度が悪ければ怒りもする。
毎日毎日『アレク様!』と反応が薄い俺に自分から歩み寄ってくれる。
生まれて初めてだった、魔力関係なくちゃんと俺自身を見てくれる人は。
胸に宿る熱い想いは愛するという感情の芽生えだった。気づけば彼女を本気で愛するようになっていた。
「リズ愛しているよ。俺がこんな気持ちを持てるなんて想像した事も無かった。魔術師は幸せとは無縁の存在だったから。有り難う、俺にもやっと心から大切だと思えるものが出来た」
「いつでも真っ直ぐに私を見てくれるアレクを愛しているわ。私と一緒にいて幸せを感じてくれるのも嬉しい。もっともっと貴方を幸せにしてあげたい」
もうリズがいない人生なんて考えられなかった。
何があっても彼女を手離さないと誓い、魔術師でありながら愛する人と幸せな人生を歩んでいくはずだった。
84
お気に入りに追加
1,733
あなたにおすすめの小説


お飾りな妻は何を思う
湖月もか
恋愛
リーリアには二歳歳上の婚約者がいる。
彼は突然父が連れてきた少年で、幼い頃から美しい人だったが歳を重ねるにつれてより美しさが際立つ顔つきに。
次第に婚約者へ惹かれていくリーリア。しかし彼にとっては世間体のための結婚だった。
そんなお飾り妻リーリアとその夫の話。

【完結】婚約破棄はお受けいたしましょう~踏みにじられた恋を抱えて
ゆうぎり
恋愛
「この子がクラーラの婚約者になるんだよ」
お父様に連れられたお茶会で私は一つ年上のナディオ様に恋をした。
綺麗なお顔のナディオ様。優しく笑うナディオ様。
今はもう、私に微笑みかける事はありません。
貴方の笑顔は別の方のもの。
私には忌々しげな顔で、視線を向けても貰えません。
私は厭われ者の婚約者。社交界では評判ですよね。
ねぇナディオ様、恋は花と同じだと思いませんか?
―――水をやらなければ枯れてしまうのですよ。
※ゆるゆる設定です。
※名前変更しました。元「踏みにじられた恋ならば、婚約破棄はお受けいたしましょう」
※多分誰かの視点から見たらハッピーエンド


(完)イケメン侯爵嫡男様は、妹と間違えて私に告白したらしいー婚約解消ですか?嬉しいです!
青空一夏
恋愛
私は学園でも女生徒に憧れられているアール・シュトン候爵嫡男様に告白されました。
図書館でいきなり『愛している』と言われた私ですが、妹と勘違いされたようです?
全5話。ゆるふわ。

皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。

どうやら貴方の隣は私の場所でなくなってしまったようなので、夜逃げします
皇 翼
恋愛
侯爵令嬢という何でも買ってもらえてどんな教育でも施してもらえる恵まれた立場、王太子という立場に恥じない、童話の王子様のように顔の整った婚約者。そして自分自身は最高の教育を施され、侯爵令嬢としてどこに出されても恥ずかしくない教養を身につけていて、顔が綺麗な両親に似たのだろう容姿は綺麗な方だと思う。
完璧……そう、完璧だと思っていた。自身の婚約者が、中庭で公爵令嬢とキスをしているのを見てしまうまでは――。

さよなら私の愛しい人
ペン子
恋愛
由緒正しき大店の一人娘ミラは、結婚して3年となる夫エドモンに毛嫌いされている。二人は親によって決められた政略結婚だったが、ミラは彼を愛してしまったのだ。邪険に扱われる事に慣れてしまったある日、エドモンの口にした一言によって、崩壊寸前の心はいとも簡単に砕け散った。「お前のような役立たずは、死んでしまえ」そしてミラは、自らの最期に向けて動き出していく。
※5月30日無事完結しました。応援ありがとうございます!
※小説家になろう様にも別名義で掲載してます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる