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おまけの話
㊗書籍化 おまけの話【悲痛な咆哮②】〜ルイリア視点〜
しおりを挟む――僕は孤独だ。
『ルイリア。サイヤとルーナのことを頼んだぞ』
ルイトエリンは毎日仕事に行く前に僕の頭を撫でてこう言った。信頼されている証だと思って、僕は胸を張って頷いていた。
『もし怪しい人がいたら、二人を背負ってダッシュで帰ってくるのよ、ルイリア』
オリヴィアはそう言いながら、優しく僕を抱きしめてくれた。僕の俊足を認めてくれているのだと思うと誇らしかった。
サイヤからも『ルーナはお転婆だからよろしくね』と頼まれていた。だから、僕は木に登っては落ちてくる――本人は飛び降りたと言っているが――ミイナルーナをいつも全力で受け止めていた。
でもある日、僕は気づいてしまったのだ。
僕のことは誰が守ってくれるの……?
みんなから頼りにされているのは嬉しいけれど、これでは捨て駒と同じではないか。
オリヴィアは大人なのにルイトエリンが守ってくれる。でも僕のことは誰も守ってくれない。
ルイトエリンのことは誰が守るんだって? ……うーん、それどうでもいいかな。
兎に角、僕は自分の置かれた状況を知ってしまい、辛くて堪らないのだ。
僕ってもの凄く可哀想だよね……。
僕は山盛りのご飯をぺろりと完食した後、お代わりもせずに部屋の隅で蹲ってしまう。こんなことは初めてだった。心と体が繋がっているってこういうことなんだなと思いながら、秘かに涙を毛で拭う。モフモフの毛って防寒以外にも役に立つ。
「ルイリア、どうしたの? また鼠にびっくりしちゃったの? 大丈夫だよ。私が守ってあげるからね」
僕が顔を上げると、ミイナルーナがにこっと笑っていた。そして、その後ろで、他の家族も同じように微笑んでいた。
みんな我が家の末っ子であるお転婆娘をなにかと気に掛け大切に思っている。そして、そのミイナルーナは僕のことを大切に思っている。
これって、……絶対にそうだよねっ!
つまりは、僕は誰よりも大切にされているんだ。ただみんな照れ屋さんだから、直接僕には言えずにいた。でも、こうしてミイナルーナを通して遠回しに僕のことが一番大切だよって伝えてきた。
もうっ、分かりづらいんだよ。僕がただの熊だったら、絶対に気づかないぞ。特別に賢いから今、気づいたけど……。
僕はこの家の頂点に立っていた! 丸くて短い尻尾がピコピコと勝手動く。
「ガゥー!(僕が一番だー!)」
雄叫びをあげた僕の目の前には、お代わりのお皿が置かれていた。流石はオリヴィアだ、気が利く。
「なんだか分からないけど、元気になって良かったわ」
「どうせ、猫か鼠に負けたんだろうよ。熊なのにな……」
「お父さん、ルイリアに聞こえちゃうよ。そしたら、また落ち込んじゃうかも」
「お兄ちゃん、大丈夫だよ。ルイリア、食べるのに夢中だもん」
――パクパクッ!
僕が一心不乱に食べていると、頭上で僕の大切な家族達の声がする。
自分の咀嚼音で何を話しているかまでは聞こえないけれど、どうせ僕を褒め称えているのだろう。
だって、僕は立派な熊だから。
そして、サイヤとルーナのお兄ちゃんでもあり、オリヴィアの頼れる相棒でもある。えーと、それからルイエリンから見たら、僕ってなんだろう?
僕はルイトエリンをじっと見つめる。すると、彼も僕のほうをじっと見つめていて、目がばっちり合う。
「ガウガウ?(僕のご飯、狙っているの?)」
「はっはは、安心しろ、ルイリア。誰もご飯を取ったりしないから。もっと食べるならお代わりあるぞ」
ルイトエリンは僕のお皿にご飯を追加してくれる。珍しいこともあるもんだと思いながら、ハッとする。
まさか僕って非常食……?
サイヤとルーナは寝る前にオリヴィアに本を読んでもらうのが日課だ。そして、最近読んでいた本に『ヘンゼルとグレーテル』というお話があった。確か魔女がヘンゼルにたくさん美味しいものを食べさせ、肥えさせてから食べようとするんだ。
なんと、ルイトエリンにとって僕は未来の食材だった。
この鬼畜めっ!
「ガオオォォォ――」
真実に辿り着いた僕の喉から、悲痛な咆哮があがる。
僕は絶対に食材にならない。だから、ガリガリになって骨と皮だけになってやる。そうすれば美味しくないから食べないはずだ。
キッと鋭い目つきで、ルイトエリンを睨む。が、彼は誤魔化すようにとぼけたことを言ってくる。
「どうした? ルイリア。もっと欲しいなら、お代わりあるぞ」
「ガウッ!(いらないもん!)」
僕は首をブンブンと横に振りながら、きっぱりと主張する。もう騙されない。
でも、でもね……。
僕はお皿にまだ残っている美味しいご飯をガン見する。今日はなんと人参抜きDAYだったのだ。
オリヴィアは健康にいいからと毎日のように人参を入れてくる。けど、僕は人参野郎が大嫌いだ。あの赤いくせに、見た目に反して全然甘くない野菜だけは許せない。
この世界から消えていいものなんだと聞かれたら、迷わず『人参っ!』と答えるつもりだ。
僕は意思の固い熊だ、……たぶん。
自分で決めたことを曲げるつもりはない、…………たぶん。
でも、もったいないから、今日だけは残さず食べてあげよう。『ガウガウ!(本当は食べたくないけどねっ!)』と言ってから、僕はまたお皿にお顔を突っ込んでパクパクし始める。
……だって、僕は地球に優しい熊だもーん。
**********************
皆さまにお知らせがございます。
この度、こちらの作品の書籍化が決定しました♪
これもひとえに、読んでくださった読者様のお陰です。この場を借りて心よりお礼を申し上げます。
『本当に、本当に有り難うございました(=´▽`=)ノ』
素敵なイラストがついた書籍バージョンも、楽しんでいただけたら幸いです。
8月下旬頃発売予定となっております。
改題やイラストレーター様の情報などは、また後日近況ボードでお知らせしたいと思います。
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そしておまけ話ありがとうございます(。・㉨・。)ノ♡
これからも、素敵なお話を執筆してくださいませ(*´﹀`*)
キサラ様、祝福のお言葉有り難うございます(≧▽≦)
おまけの話も読んでいただき、感謝×感謝です♪
来月から新しいお話を投稿しますので、またお付き合いいただけたら幸いです。