6 / 10
6
しおりを挟む
「ライのばかー!この女ったらしの口悪男っー!ライなんて、ライなんて…もう知らない。絶対に口を聞いてあげないんだからねーーー」
自分の部屋に籠もって、お気に入りの枕相手に自分の気持ちを思いっ切りぶつける。
でも気持ちは全然スッキリしない。
それどころか着飾った令嬢達に囲まれてにやけていたライアンの顔が頭から離れず、イライラは募っていく。
ライアンは幼馴染なのに本当に酷いと思う。
まだ婚約者も恋人もいない私を助けるふりをして、まさか自分が更にチヤホヤされようと企んでいたなんて、思いもしなかった。
むうぅ…、許すまじライアン・グレシャム。
もし私が魔女とかそんな類いだったら、確実にライアンの息の根は止まっているだろう。
だが残念なことに私は侍女だから、どんなに憎くいと思ってもライアンは元気いっぱい生きているはずだ。
うー、悔しいわ。
こんなに腹立たしいのに…。
憎んでいるのに……。
うん??に・く・ん・で・い・る…のかな?
ちょっと待って、私は彼に対して本気で怒っている。
それは間違いない。
でも憎んでいるのかと問われれば、それはなんか違う気がするのだ。
あんなに酷い扱いをされたのだから、憎んでもおかしいことはない。むしろ憎んで当然だと思う。
でも彼のことを憎めないでいる自分に気づく。
私って…どうかしている。
幼馴染の情というやつだろうか。
幼い頃からいつも隣には彼がいるのが当然だった。
そんな当たり前を私は疑問に思うこともなく、受け入れていた。
そう、嫌じゃなかった。
全然嫌じゃなかった、むしろ彼の隣は心地よかった。
うん…?ううん…??
これって、もししや私はライが好きなの??
首を傾げて持っている枕に尋ねてみるが、当然無言を貫いている。
「ねえ、なにか言ってよー」
枕を両手で持ってガクガク揺らしてみるが、結果は同じだった。
『枕は話しませーん』と自分でツッコミを入れたあと、ひとり沈黙が続く。
…………。
私はかなり焦っていた。
自分の気持ちに初めて気づいたからだ。
どうしよう、私ってライのことが好きだったんだ!?
よくよく思い返せば、いつだって私はライアンのことを目で追っていた。
それに私の話には、彼のことが出てくることが昔から多かった気がする。
『ケイレブ、聞いて。今日はライがね、木から落っこちたのよ』
『それは大変でしたね。
ライアンは大丈夫でしたか、姉上』
『大丈夫だったわ。すぐに起き上がって、全然泣かなかったのよ、凄いでしょう!
焦ったから目から汗が出てるけど平気だからなって、ライを心配して泣いている私を慰めてくれたのよ』
『…へぇ、目から汗ですか…。それはある意味すごいですね』
『そうよ、ライは最高にかっこいいのよ!ケイレブもライみたいになれるといいわね』
『…なれる気がしません』
『ふふ、確かにライは特別だからね♪』
毎日のように弟のケイレブにライの勇姿を話して聞かせていた。
今考えると恥ずかしくなる。
だけど私の気持ちには、私だけでなく周りも全然気づいていなかった。
それだけが救いだ。
両親や弟が鈍くて本当に良かったと安堵する。
とにかく気持ちを落ち着かせて、これからの対応を考えていこう。
息を深く吸い込み、心を落ち着かせてから、気持ちと事実を整理してみる。
私はライアンのことが好き。
でも彼は私のことは好きではない。
……はい、終了。
ものの数秒で整理出来てしまった。
つまりは私は詰んでいるということだ。
打つ手なしとはまさにこの事だろう…。
気づけば涙が頬を濡らしていた。
いつもなら私が泣いているとライアンが『ハンカチ持ってないから、これで我慢しろよっ』って自分の袖で拭いてくれていた。
衛生的にはかなり問題があるのは分かっている。結膜炎に何度も罹っているから。
でも今は、それでも彼に拭いてもらいたいと願ってしまう。
きっともう二度とそんな機会はないだろうと思うと『うっうぅ……、ライ…』と声を上げて泣いていた。
ガッゴン!!
物凄い音とともに扉が見事に破壊された。
「ケティ、どうしたー!!」
叫びながらライアンが私の部屋に飛び込んできた。
「扉が壊れた…」
思わずそう言ってしまった。
誰だって自分の部屋の扉がバキバキに壊れたら、言わずにはいられないだろう。だから私は…悪くない。
「…すまん。とりあえず今は一旦扉のことは忘れろ。ケティ、どうしたんだ?誰に泣かされたっ?」
ライアンはまずは小さな声で謝り、また大きな声で聞いてきた。
自分の部屋に籠もって、お気に入りの枕相手に自分の気持ちを思いっ切りぶつける。
でも気持ちは全然スッキリしない。
それどころか着飾った令嬢達に囲まれてにやけていたライアンの顔が頭から離れず、イライラは募っていく。
ライアンは幼馴染なのに本当に酷いと思う。
まだ婚約者も恋人もいない私を助けるふりをして、まさか自分が更にチヤホヤされようと企んでいたなんて、思いもしなかった。
むうぅ…、許すまじライアン・グレシャム。
もし私が魔女とかそんな類いだったら、確実にライアンの息の根は止まっているだろう。
だが残念なことに私は侍女だから、どんなに憎くいと思ってもライアンは元気いっぱい生きているはずだ。
うー、悔しいわ。
こんなに腹立たしいのに…。
憎んでいるのに……。
うん??に・く・ん・で・い・る…のかな?
ちょっと待って、私は彼に対して本気で怒っている。
それは間違いない。
でも憎んでいるのかと問われれば、それはなんか違う気がするのだ。
あんなに酷い扱いをされたのだから、憎んでもおかしいことはない。むしろ憎んで当然だと思う。
でも彼のことを憎めないでいる自分に気づく。
私って…どうかしている。
幼馴染の情というやつだろうか。
幼い頃からいつも隣には彼がいるのが当然だった。
そんな当たり前を私は疑問に思うこともなく、受け入れていた。
そう、嫌じゃなかった。
全然嫌じゃなかった、むしろ彼の隣は心地よかった。
うん…?ううん…??
これって、もししや私はライが好きなの??
首を傾げて持っている枕に尋ねてみるが、当然無言を貫いている。
「ねえ、なにか言ってよー」
枕を両手で持ってガクガク揺らしてみるが、結果は同じだった。
『枕は話しませーん』と自分でツッコミを入れたあと、ひとり沈黙が続く。
…………。
私はかなり焦っていた。
自分の気持ちに初めて気づいたからだ。
どうしよう、私ってライのことが好きだったんだ!?
よくよく思い返せば、いつだって私はライアンのことを目で追っていた。
それに私の話には、彼のことが出てくることが昔から多かった気がする。
『ケイレブ、聞いて。今日はライがね、木から落っこちたのよ』
『それは大変でしたね。
ライアンは大丈夫でしたか、姉上』
『大丈夫だったわ。すぐに起き上がって、全然泣かなかったのよ、凄いでしょう!
焦ったから目から汗が出てるけど平気だからなって、ライを心配して泣いている私を慰めてくれたのよ』
『…へぇ、目から汗ですか…。それはある意味すごいですね』
『そうよ、ライは最高にかっこいいのよ!ケイレブもライみたいになれるといいわね』
『…なれる気がしません』
『ふふ、確かにライは特別だからね♪』
毎日のように弟のケイレブにライの勇姿を話して聞かせていた。
今考えると恥ずかしくなる。
だけど私の気持ちには、私だけでなく周りも全然気づいていなかった。
それだけが救いだ。
両親や弟が鈍くて本当に良かったと安堵する。
とにかく気持ちを落ち着かせて、これからの対応を考えていこう。
息を深く吸い込み、心を落ち着かせてから、気持ちと事実を整理してみる。
私はライアンのことが好き。
でも彼は私のことは好きではない。
……はい、終了。
ものの数秒で整理出来てしまった。
つまりは私は詰んでいるということだ。
打つ手なしとはまさにこの事だろう…。
気づけば涙が頬を濡らしていた。
いつもなら私が泣いているとライアンが『ハンカチ持ってないから、これで我慢しろよっ』って自分の袖で拭いてくれていた。
衛生的にはかなり問題があるのは分かっている。結膜炎に何度も罹っているから。
でも今は、それでも彼に拭いてもらいたいと願ってしまう。
きっともう二度とそんな機会はないだろうと思うと『うっうぅ……、ライ…』と声を上げて泣いていた。
ガッゴン!!
物凄い音とともに扉が見事に破壊された。
「ケティ、どうしたー!!」
叫びながらライアンが私の部屋に飛び込んできた。
「扉が壊れた…」
思わずそう言ってしまった。
誰だって自分の部屋の扉がバキバキに壊れたら、言わずにはいられないだろう。だから私は…悪くない。
「…すまん。とりあえず今は一旦扉のことは忘れろ。ケティ、どうしたんだ?誰に泣かされたっ?」
ライアンはまずは小さな声で謝り、また大きな声で聞いてきた。
295
お気に入りに追加
3,113
あなたにおすすめの小説

手放したくない理由
ねむたん
恋愛
公爵令嬢エリスと王太子アドリアンの婚約は、互いに「務め」として受け入れたものだった。貴族として、国のために結ばれる。
しかし、王太子が何かと幼馴染のレイナを優先し、社交界でも「王太子妃にふさわしいのは彼女では?」と囁かれる中、エリスは淡々と「それならば、私は不要では?」と考える。そして、自ら婚約解消を申し出る。
話し合いの場で、王妃が「辛い思いをさせてしまってごめんなさいね」と声をかけるが、エリスは本当にまったく辛くなかったため、きょとんとする。その様子を見た周囲は困惑し、
「……王太子への愛は芽生えていなかったのですか?」
と問うが、エリスは「愛?」と首を傾げる。
同時に、婚約解消に動揺したアドリアンにも、側近たちが「殿下はレイナ嬢に恋をしていたのでは?」と問いかける。しかし、彼もまた「恋……?」と首を傾げる。
大人たちは、その光景を見て、教育の偏りを大いに後悔することになる。

冷遇する婚約者に、冷たさをそのままお返しします。
ねむたん
恋愛
貴族の娘、ミーシャは婚約者ヴィクターの冷酷な仕打ちによって自信と感情を失い、無感情な仮面を被ることで自分を守るようになった。エステラ家の屋敷と庭園の中で静かに過ごす彼女の心には、怒りも悲しみも埋もれたまま、何も感じない日々が続いていた。
事なかれ主義の両親の影響で、エステラ家の警備はガバガバですw

裏切られた令嬢は死を選んだ。そして……
希猫 ゆうみ
恋愛
スチュアート伯爵家の令嬢レーラは裏切られた。
幼馴染に婚約者を奪われたのだ。
レーラの17才の誕生日に、二人はキスをして、そして言った。
「一度きりの人生だから、本当に愛せる人と結婚するよ」
「ごめんねレーラ。ロバートを愛してるの」
誕生日に婚約破棄されたレーラは絶望し、生きる事を諦めてしまう。
けれど死にきれず、再び目覚めた時、新しい人生が幕を開けた。
レーラに許しを請い、縋る裏切り者たち。
心を鎖し生きて行かざるを得ないレーラの前に、一人の求婚者が現れる。
強く気高く冷酷に。
裏切り者たちが落ちぶれていく様を眺めながら、レーラは愛と幸せを手に入れていく。
☆完結しました。ありがとうございました!☆
(ホットランキング8位ありがとうございます!(9/10、19:30現在))
(ホットランキング1位~9位~2位ありがとうございます!(9/6~9))
(ホットランキング1位!?ありがとうございます!!(9/5、13:20現在))
(ホットランキング9位ありがとうございます!(9/4、18:30現在))

夫が平民と不倫しているようなので、即刻離婚します
うみか
恋愛
両親が亡くなり親戚の家を転々とする私。
しかしそんな折、幼馴染が私の元へ現れて愛を叫ぶ。
彼と結婚することにした私だが、程なくして彼の裏切りが判明する。


溺愛されていると信じておりました──が。もう、どうでもいいです。
ふまさ
恋愛
いつものように屋敷まで迎えにきてくれた、幼馴染みであり、婚約者でもある伯爵令息──ミックに、フィオナが微笑む。
「おはよう、ミック。毎朝迎えに来なくても、学園ですぐに会えるのに」
「駄目だよ。もし学園に向かう途中できみに何かあったら、ぼくは悔やんでも悔やみきれない。傍にいれば、いつでも守ってあげられるからね」
ミックがフィオナを抱き締める。それはそれは、愛おしそうに。その様子に、フィオナの両親が見守るように穏やかに笑う。
──対して。
傍に控える使用人たちに、笑顔はなかった。

危害を加えられたので予定よりも早く婚約を白紙撤回できました
しゃーりん
恋愛
階段から突き落とされて、目が覚めるといろんな記憶を失っていたアンジェリーナ。
自分のことも誰のことも覚えていない。
王太子殿下の婚約者であったことも忘れ、結婚式は来年なのに殿下には恋人がいるという。
聞くところによると、婚約は白紙撤回が前提だった。
なぜアンジェリーナが危害を加えられたのかはわからないが、それにより予定よりも早く婚約を白紙撤回することになったというお話です。

婚約者を交換しましょう!
しゃーりん
恋愛
公爵令息ランディの婚約者ローズはまだ14歳。
友人たちにローズの幼さを語って貶すところを聞いてしまった。
ならば婚約解消しましょう?
一緒に話を聞いていた姉と姉の婚約者、そして父の協力で婚約解消するお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる