愚か者は幸せを捨てた

矢野りと

文字の大きさ
上 下
9 / 14

9.求め続ける

しおりを挟む
サラからはっきりと拒絶されたが、俺はそれを受け入れることなど出来なかった。

『まだ間に合う。何としてもサラと我が子を取り戻し、もう一度幸せな日々を手に入れてみせる』

俺は出来ることをしようと、がむしゃらに働いた。もともと宰相補佐として王宮で働いていたがあの一件により俺の評価は下がっていた。また以前と同じ信頼を周囲から勝ち取り、サラに認めてもらおうと考えていたのだ。
今の俺に出来ることは、それしかなかった。子供への養育費を送っても受け取ってもらえず、繋がりを完全に拒否されていたから。

そんな仕事漬けの毎日を送っていると、その努力が徐々に認められ宰相補佐の仕事に戻ることが出来た。以前と同じ仕事に戻れたことで、俺はサラに少し近づけた気がしていた。

『サラ、待っていてくれ。必ず君に再び認めてもらえる男になるから』

俺はただサラを取り戻すために一生懸命に働いていたのだが、公爵家の両親はそうは思わなかった。俺がサラを諦め公爵家の跡取りとして心を入れ替えたと考え、熱心に縁談を勧めてくるようになった。
俺がいくら縁談を断り、サラと再び婚姻を結びたいのだと訴えても両親は聞く耳を持たなかった。この人達には何を言っても無駄だと感じ、彼らからの呼び出しを無視し訪問を拒絶するようになった。

サラ以外のものに時間を割かれるのが許せなかったし、あの両親は放っておけばいつか諦めると安易に考えていた。



ある日両親からプレゼントがあるからと見に来いと強引に公爵家に呼び出された。最初行く気はなかったが、執事が『公爵家の使いの者の様子がいつもと違っていました。何かあるのかもしれません』と思い詰めた表情で言っていたので、とりあえず久しぶりに公爵邸に行くことにした。

両親は不機嫌な俺の態度を咎める事もなく訪問を歓迎し、気持ち悪いほどにこにこしていた。もしかして縁談の令嬢でも待機させ強引に見合いをさせられるのかと危惧したがそうではなかった。


「マキタ、お前の望むものを用意してやったぞ。最初は反対だったが、この子の容姿を確認して気が変わった。この子には公爵家の血が色濃く流れているからな」
「本当にマキタにそっくりで可愛い子だわ。あの女の血なんて一滴も流れていないみたいね。ホッホッホ、サラも最後にいい仕事をしたという事ね」

何のことを言っているんだと俺が訝しんでいると、母がソファに横たわっているものに掛けてある布を得意げにどかして見せた。

そこには俺の幼少期に瓜二つな子供が横たわっていた…。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約者である皇帝は今日別の女と結婚する

アオ
恋愛
公爵家の末娘として転生した美少女マリーが2つ上の幼なじみであり皇帝であるフリードリヒからプロポーズされる。 しかしその日のうちにプロポーズを撤回し別の女と結婚すると言う。 理由は周辺の国との和平のための政略結婚でマリーは泣く泣くフリードのことを諦める。しかしその結婚は実は偽装結婚で 政略結婚の相手である姫の想い人を振り向かせるための偽装結婚式だった。 そんなこととはつゆ知らず、マリーは悩む。すれ違うがその後誤解はとけマリーとフリードは幸せに暮らしました。

私のことは気にせずどうぞ勝手にやっていてください

みゅー
恋愛
異世界へ転生したと気づいた主人公。だが、自分は登場人物でもなく、王太子殿下が見初めたのは自分の侍女だった。 自分には好きな人がいるので気にしていなかったが、その相手が実は王太子殿下だと気づく。 主人公は開きなおって、勝手にやって下さいと思いなおすが……… 切ない話を書きたくて書きました。 ハッピーエンドです。

【完結】旦那様!単身赴任だけは勘弁して下さい!

たまこ
恋愛
 エミリーの大好きな夫、アランは王宮騎士団の副団長。ある日、栄転の為に辺境へ異動することになり、エミリーはてっきり夫婦で引っ越すものだと思い込み、いそいそと荷造りを始める。  だが、アランの部下に「副団長は単身赴任すると言っていた」と聞き、エミリーは呆然としてしまう。アランが大好きで離れたくないエミリーが取った行動とは。

ずっと好きだった獣人のあなたに別れを告げて

木佐木りの
恋愛
女性騎士イヴリンは、騎士団団長で黒豹の獣人アーサーに密かに想いを寄せてきた。しかし獣人には番という運命の相手がいることを知る彼女は想いを伝えることなく、自身の除隊と実家から届いた縁談の話をきっかけに、アーサーとの別れを決意する。 前半は回想多めです。恋愛っぽい話が出てくるのは後半の方です。よくある話&書きたいことだけ詰まっているので設定も話もゆるゆるです(-人-)

白い結婚がいたたまれないので離縁を申し出たのですが……。

蓮実 アラタ
恋愛
その日、ティアラは夫に告げた。 「旦那様、私と離縁してくださいませんか?」 王命により政略結婚をしたティアラとオルドフ。 形だけの夫婦となった二人は互いに交わることはなかった。 お飾りの妻でいることに疲れてしまったティアラは、この関係を終わらせることを決意し、夫に離縁を申し出た。 しかしオルドフは、それを絶対に了承しないと言い出して……。 純情拗らせ夫と比較的クール妻のすれ違い純愛物語……のはず。 ※小説家になろう様にも掲載しています。

いっそあなたに憎まれたい

石河 翠
恋愛
主人公が愛した男には、すでに身分違いの平民の恋人がいた。 貴族の娘であり、正妻であるはずの彼女は、誰も来ない離れの窓から幸せそうな彼らを覗き見ることしかできない。 愛されることもなく、夫婦の営みすらない白い結婚。 三年が過ぎ、義両親からは石女(うまずめ)の烙印を押され、とうとう離縁されることになる。 そして彼女は結婚生活最後の日に、ひとりの神父と過ごすことを選ぶ。 誰にも言えなかった胸の内を、ひっそりと「彼」に明かすために。 これは婚約破棄もできず、悪役令嬢にもドアマットヒロインにもなれなかった、ひとりの愚かな女のお話。 この作品は小説家になろうにも投稿しております。 扉絵は、汐の音様に描いていただきました。ありがとうございます。

あなたの婚約者は、わたしではなかったのですか?

りこりー
恋愛
公爵令嬢であるオリヴィア・ブリ―ゲルには幼い頃からずっと慕っていた婚約者がいた。 彼の名はジークヴァルト・ハイノ・ヴィルフェルト。 この国の第一王子であり、王太子。 二人は幼い頃から仲が良かった。 しかしオリヴィアは体調を崩してしまう。 過保護な両親に説得され、オリヴィアは暫くの間領地で休養を取ることになった。 ジークと会えなくなり寂しい思いをしてしまうが我慢した。 二か月後、オリヴィアは王都にあるタウンハウスに戻って来る。 学園に復帰すると、大好きだったジークの傍には男爵令嬢の姿があって……。 ***** ***** 短編の練習作品です。 上手く纏められるか不安ですが、読んで下さりありがとうございます! エールありがとうございます。励みになります! hot入り、ありがとうございます! ***** *****

殿下が私を愛していないことは知っていますから。

木山楽斗
恋愛
エリーフェ→エリーファ・アーカンス公爵令嬢は、王国の第一王子であるナーゼル・フォルヴァインに妻として迎え入れられた。 しかし、結婚してからというもの彼女は王城の一室に軟禁されていた。 夫であるナーゼル殿下は、私のことを愛していない。 危険な存在である竜を宿した私のことを彼は軟禁しており、会いに来ることもなかった。 「……いつも会いに来られなくてすまないな」 そのためそんな彼が初めて部屋を訪ねてきた時の発言に耳を疑うことになった。 彼はまるで私に会いに来るつもりがあったようなことを言ってきたからだ。 「いいえ、殿下が私を愛していないことは知っていますから」 そんなナーゼル様に対して私は思わず嫌味のような言葉を返してしまった。 すると彼は、何故か悲しそうな表情をしてくる。 その反応によって、私は益々訳がわからなくなっていた。彼は確かに私を軟禁して会いに来なかった。それなのにどうしてそんな反応をするのだろうか。

処理中です...