5 / 14
5.サラの記憶①
しおりを挟む
結婚生活一年目は毎日が幸せで、こんなに幸せでいいのだろうかと思っていた。
『こんなに幸せ過ぎるとなんだか怖いわ』と言うと、彼は『俺と一緒なんだから君は永遠に幸せだよ』と優しく抱き締めてくれた。本当に幸せだった、私は運命の人に出会えたことを神様に感謝をしていた。
でもいつからか彼の帰宅が深夜になり、他の女性の影を感じる様になった。そして彼は私に冷たくなった。
必要な事以外は話し掛けることも許されず、離縁を求めるようになっていた。なにかがおかしいとすぐに感じた。彼はそんな人ではない、もし仮に他の女性を好きになったとしても、一方的に離縁を迫るのでなく、冷静に話し合いをするはずだ。
私は真実が知りたくて、彼が夢中になっている人に内緒で会いに行った。その女性は私と会うなり喚き始め、殴りかかって来た。周りの人が止めてくれたが、私は頬に痣が出来てしまった。
だがその女性と会ったことで私の違和感は確信に変わった。やはり彼に何かが起きていると。
その晩、彼と話し合おうと寝ずに待っていたら深夜に帰宅した彼からいきなり罵倒された。
『俺の最愛の人に襲い掛かったそうだな!お前はなんて恐ろしい女なんだ。穏便に離縁してやろうと思っていればつけあがりやがって。もう容赦しない』
マキタは顔に痣が出来ている私を見ながら言い捨て、私の横を通り抜け自室に向かった。その身体からは甘い香りがしていた、あの女性の香りだった…。
もう彼の目には私は映っていないのだろうか。
私のなかの何かが壊れ始めているのを感じていたが、彼を愛しているので気づかないふりをした。
彼は毎日離縁を迫ってくるが、私は決して頷かなかった。彼が元の彼に戻る日を信じひたすら耐えていた。
ある日体調を崩し侍女に付き添ってもらい医者の所へと訪ねて行った。診察を終えた私はまだ体調が悪かったので、まっすぐに帰らず侍女とお店に入りお茶を飲み休憩していた。すると彼があの女性と共に店に入ってきた。
二人の世界に入っている彼は私に気づくことなく、あの女性に愛を囁き口づけをしていた。そしてお茶を飲み終わると二人で上にある休憩室へと消えて行ってしまった。
私は声を掛けることも止めることもしなかった、いや出来なかった。身体が動かずただ目の前の現実を見つめていただけだった。
侍女に連れられなんとか邸宅に戻った私に話し掛ける者はいない。邸宅で働く者達は主人の所業を知っていたので、妻である私に掛ける言葉が見つからなかったのだろう。
私はこれが最後のチャンスだと決めた。今晩帰宅した彼と話し合いそれで今後のことを決断しようと思った。
彼は深夜になってから帰宅した。執事から連絡事項を聞いていた彼は私を見るなり顔を顰めた。そして言ったのだ、
『医者に行ったらしいな、無駄に金を使うな』
なぜ医者に行ったのか、体調はどうかと訊ねることなく、それだけ言って私の横を通り過ぎた。
やはりあの甘い香りがした。私はその香りに気分が悪くなりその場で蹲ってしまったが、彼はチラッと見ただけでそのまま自室へと歩いて行った。
私の心にあった大切なものが壊れるのが分かった…、もう戻れないのだ。
『こんなに幸せ過ぎるとなんだか怖いわ』と言うと、彼は『俺と一緒なんだから君は永遠に幸せだよ』と優しく抱き締めてくれた。本当に幸せだった、私は運命の人に出会えたことを神様に感謝をしていた。
でもいつからか彼の帰宅が深夜になり、他の女性の影を感じる様になった。そして彼は私に冷たくなった。
必要な事以外は話し掛けることも許されず、離縁を求めるようになっていた。なにかがおかしいとすぐに感じた。彼はそんな人ではない、もし仮に他の女性を好きになったとしても、一方的に離縁を迫るのでなく、冷静に話し合いをするはずだ。
私は真実が知りたくて、彼が夢中になっている人に内緒で会いに行った。その女性は私と会うなり喚き始め、殴りかかって来た。周りの人が止めてくれたが、私は頬に痣が出来てしまった。
だがその女性と会ったことで私の違和感は確信に変わった。やはり彼に何かが起きていると。
その晩、彼と話し合おうと寝ずに待っていたら深夜に帰宅した彼からいきなり罵倒された。
『俺の最愛の人に襲い掛かったそうだな!お前はなんて恐ろしい女なんだ。穏便に離縁してやろうと思っていればつけあがりやがって。もう容赦しない』
マキタは顔に痣が出来ている私を見ながら言い捨て、私の横を通り抜け自室に向かった。その身体からは甘い香りがしていた、あの女性の香りだった…。
もう彼の目には私は映っていないのだろうか。
私のなかの何かが壊れ始めているのを感じていたが、彼を愛しているので気づかないふりをした。
彼は毎日離縁を迫ってくるが、私は決して頷かなかった。彼が元の彼に戻る日を信じひたすら耐えていた。
ある日体調を崩し侍女に付き添ってもらい医者の所へと訪ねて行った。診察を終えた私はまだ体調が悪かったので、まっすぐに帰らず侍女とお店に入りお茶を飲み休憩していた。すると彼があの女性と共に店に入ってきた。
二人の世界に入っている彼は私に気づくことなく、あの女性に愛を囁き口づけをしていた。そしてお茶を飲み終わると二人で上にある休憩室へと消えて行ってしまった。
私は声を掛けることも止めることもしなかった、いや出来なかった。身体が動かずただ目の前の現実を見つめていただけだった。
侍女に連れられなんとか邸宅に戻った私に話し掛ける者はいない。邸宅で働く者達は主人の所業を知っていたので、妻である私に掛ける言葉が見つからなかったのだろう。
私はこれが最後のチャンスだと決めた。今晩帰宅した彼と話し合いそれで今後のことを決断しようと思った。
彼は深夜になってから帰宅した。執事から連絡事項を聞いていた彼は私を見るなり顔を顰めた。そして言ったのだ、
『医者に行ったらしいな、無駄に金を使うな』
なぜ医者に行ったのか、体調はどうかと訊ねることなく、それだけ言って私の横を通り過ぎた。
やはりあの甘い香りがした。私はその香りに気分が悪くなりその場で蹲ってしまったが、彼はチラッと見ただけでそのまま自室へと歩いて行った。
私の心にあった大切なものが壊れるのが分かった…、もう戻れないのだ。
142
お気に入りに追加
3,201
あなたにおすすめの小説
婚約者である皇帝は今日別の女と結婚する
アオ
恋愛
公爵家の末娘として転生した美少女マリーが2つ上の幼なじみであり皇帝であるフリードリヒからプロポーズされる。
しかしその日のうちにプロポーズを撤回し別の女と結婚すると言う。
理由は周辺の国との和平のための政略結婚でマリーは泣く泣くフリードのことを諦める。しかしその結婚は実は偽装結婚で
政略結婚の相手である姫の想い人を振り向かせるための偽装結婚式だった。
そんなこととはつゆ知らず、マリーは悩む。すれ違うがその後誤解はとけマリーとフリードは幸せに暮らしました。
貴方が側妃を望んだのです
cyaru
恋愛
「君はそれでいいのか」王太子ハロルドは言った。
「えぇ。勿論ですわ」婚約者の公爵令嬢フランセアは答えた。
誠の愛に気がついたと言われたフランセアは微笑んで答えた。
※2022年6月12日。一部書き足しました。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
史実などに基づいたものではない事をご理解ください。
※話の都合上、残酷な描写がありますがそれがざまぁなのかは受け取り方は人それぞれです。
表現的にどうかと思う回は冒頭に注意喚起を書き込むようにしますが有無は作者の判断です。
※更新していくうえでタグは幾つか増えます。
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
貴方もヒロインのところに行くのね? [完]
風龍佳乃
恋愛
元気で活発だったマデリーンは
アカデミーに入学すると生活が一変し
てしまった
友人となったサブリナはマデリーンと
仲良くなった男性を次々と奪っていき
そしてマデリーンに愛を告白した
バーレンまでもがサブリナと一緒に居た
マデリーンは過去に決別して
隣国へと旅立ち新しい生活を送る。
そして帰国したマデリーンは
目を引く美しい蝶になっていた
あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます
おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」
そう書き残してエアリーはいなくなった……
緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。
そう思っていたのに。
エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて……
※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。
いっそあなたに憎まれたい
石河 翠
恋愛
主人公が愛した男には、すでに身分違いの平民の恋人がいた。
貴族の娘であり、正妻であるはずの彼女は、誰も来ない離れの窓から幸せそうな彼らを覗き見ることしかできない。
愛されることもなく、夫婦の営みすらない白い結婚。
三年が過ぎ、義両親からは石女(うまずめ)の烙印を押され、とうとう離縁されることになる。
そして彼女は結婚生活最後の日に、ひとりの神父と過ごすことを選ぶ。
誰にも言えなかった胸の内を、ひっそりと「彼」に明かすために。
これは婚約破棄もできず、悪役令嬢にもドアマットヒロインにもなれなかった、ひとりの愚かな女のお話。
この作品は小説家になろうにも投稿しております。
扉絵は、汐の音様に描いていただきました。ありがとうございます。
殿下が私を愛していないことは知っていますから。
木山楽斗
恋愛
エリーフェ→エリーファ・アーカンス公爵令嬢は、王国の第一王子であるナーゼル・フォルヴァインに妻として迎え入れられた。
しかし、結婚してからというもの彼女は王城の一室に軟禁されていた。
夫であるナーゼル殿下は、私のことを愛していない。
危険な存在である竜を宿した私のことを彼は軟禁しており、会いに来ることもなかった。
「……いつも会いに来られなくてすまないな」
そのためそんな彼が初めて部屋を訪ねてきた時の発言に耳を疑うことになった。
彼はまるで私に会いに来るつもりがあったようなことを言ってきたからだ。
「いいえ、殿下が私を愛していないことは知っていますから」
そんなナーゼル様に対して私は思わず嫌味のような言葉を返してしまった。
すると彼は、何故か悲しそうな表情をしてくる。
その反応によって、私は益々訳がわからなくなっていた。彼は確かに私を軟禁して会いに来なかった。それなのにどうしてそんな反応をするのだろうか。
アリシアの恋は終わったのです【完結】
ことりちゃん
恋愛
昼休みの廊下で、アリシアはずっとずっと大好きだったマークから、いきなり頬を引っ叩かれた。
その瞬間、アリシアの恋は終わりを迎えた。
そこから長年の虚しい片想いに別れを告げ、新しい道へと歩き出すアリシア。
反対に、後になってアリシアの想いに触れ、遅すぎる行動に出るマーク。
案外吹っ切れて楽しく過ごす女子と、どうしようもなく後悔する残念な男子のお話です。
ーーーーー
12話で完結します。
よろしくお願いします(´∀`)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる