愚か者は幸せを捨てた

矢野りと

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2.魅了の解除

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---現在---

俺は魅了の呪縛に囚われていた愚かな一人だった。

第一王子やその側近達など身分が高く将来有望な男達が、二年前くらいから一人の魅了使いによって囚われ愚かな行為をするようになっていた。だがすべての身分が高く将来有望な男達が魅了されたのではなく、魅了防御のブレスレットを外しただけが掛かっていたのだ。

一年前に魅了使いの存在が明らかになり、王宮は騒然とした。魅了された者達が多数おり、みんな身分が高く将来王国を支えるような優秀な人物ばかりだった為、この件は公にしないことになった。魅了使いは秘密裏に処刑され、強力な魅了に掛かっている者達は一年ほど地方で病気療養という名目で解除治療を施された。


解除治療は苦しみの連続だった。それは魅了されている間に大切な何かを捨てたものほど辛いものだったらしい。
魅了中の記憶は靄が掛かっておりはっきり思い出すことはすぐには出来ない。時間が経てば少しづつ思い出すらしいが、治療中に思い出せる者はいなかった。
けれども、何かを失ってしまった喪失感だけは襲ってくるのだ。なにが辛いのかも分からず、心が締め付けられる苦しみが毎日続いた。

『俺は何を失ってしまったんだろう』

日々考えていたが答えは見つからなかった…。


だが俺は軽く考えていた、治療が終了した後に愛妻サラに教えてもらえばいいのだと。
三年前に相思相愛で結ばれたサラ。身分が子爵家なので両親には強く反対されたが、俺はサラのいない人生は考えられず強引に結婚した。

『永遠に君を愛し、どんな苦難からも君を守り続ける』お互いに誓い合った。

俺は永遠の幸せを手に入れた。

…はずだった。






一年間の治療を終え、待っていたのは驚くべき現実だった。

王都にある邸宅に戻ると、執事が侍女達が玄関で並んで俺の帰宅を待っていてくれた。だが、そこのサラの姿がなかった。どんな時でも必ず俺の帰りを満面の笑みを浮かべて待っているのに、今日という特別な日になぜかサラだけがいなかった。

なんだか胸騒ぎがしていた。

「おい、サラはどうした。出迎えに来ないなんて体調でも悪いのか?」
「…マキタ様、まだ記憶は戻られていないのですか?」
「ああ、徐々に戻るらしいが、魅了中の記憶はまだ思い出していないんだ。そんなことよりもサラはどうしたんだ、なぜいない?」
「サラ様はこの邸宅にはもうおりません」
「どういうことだ?サラは俺が治療中に出て行ってしまったのか!」
「違います。マキタ様が治療期間中ではなくそれ以前に出ていかれました。詳細は私ではなく公爵夫妻にお尋ねください。一使用人の私が話してよい内容ではございません」


俺はその場で崩れ落ちてしまった。愛するサラがいないことが信じられなかった。

『愛するサラが魅了に囚われていた俺を捨てたのか…。永遠の愛を誓ったのに、なぜなんだ…』

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