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18.幸せはどこに②

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(二人と奇跡の再会をして、あのユニ伯爵家と繋がりを持てるのか。俺にも運が向いてきたぞ)

俺は小躍りしたいほどの気持ちを抑えて、今は目の前にいるユニ伯爵子息に集中することにした。

「ところでドエイン殿は先ほどから何を熱心に見ていたのですか」

「ええお恥ずかしい話ですが7年前に別れた元妻と娘を偶然に見つけたのです。この奇跡の出会いを神に感謝して話し掛けようとしていました」

俺はユニ伯爵子息が気軽に話題を振ってくれた事を喜ぶあまり、会ったばかりの彼に自分の過去から今に至るまでべらべらと調子に乗って話していた。彼はそんな俺の話を相槌を打ちながら『そうですか』と興味深げに聞いてくれていた。そして俺の話を全て聞き終わると今度は彼がにこやかに話しを始めた。

ですか…。ハハハ、面白い事を言いますね、そんな都合の良い奇跡はありませんよ。今回ここに入れるように手配したのは私です、あなたに現実を分からせようと思いましてね。よく見てください、あなたの元嫁と娘は今誰と話していますか?」

彼が何を言いたいのか分からなかったが、俺は遠くにいるイザベラとアイリスの方に視線をやった。二人の側には立派な身なりをした壮年の貴族男性がいて、何やら親し気に話をしていた。その距離は他人なら有り得ないほど近く、親密な関係なのが窺える。そしてその男性は会話の途中でイザベラの頬に口づけまでしていて、彼女は困った顔を見せながらもそれを嬉しそうに受け入れていた。
よく見るとベラに抱かれている幼い子供はその男性に髪の色も顔立ちもよく似てる。ベラを見つけた時は興奮して子供の存在なんて気にもかけなかったが…。

(ああ…、そう言う事なのか)

「あそこにいる男性はユニ伯爵家当主であり私の父です。そしてイザベラさんは数年前からユニ伯爵夫人なんですよ。あなた方の耳に入らない様にしていたので知らなかったでしょう。
再婚にあたり彼女の過去は調べたのであなたのした事は全て把握しています。ずいぶん酷い仕打ちをしたくせに、今だに周囲にまだ未練があるように言っていますね。
父は『今のドエイン商会には何の力もないのでトーマス・ドエインは放っておけばいい』という考えですが、私は違います。父の幸せの為にも最近できた可愛い弟の為にも余計な雑草は根っこから引き抜く考えです」

「二人に二度と近づくなと警告する為に私がここに来るように仕向けたんですか…」

「察しが良くて助かります。そうです、現実を見た方が納得出来るかと思ってわざわざ呼んで上げたんですよ。あの二人の表情を見れば、今幸せなのはよく分かった事でしょう?二度と義母上とアイリスに近づかないでください」

イザベラとは離縁しているので仕方がないが、アイリスは離れていても俺の大事な娘なのは変わりがない。いくら高位貴族から言われたとしても『はいそうですか』と納得はできなかった。

「元妻には近づきません、お約束します。ですが離縁したとはいえ娘とは縁が切れてはいません!」

「確かにアイリスは義母上の連れ子として伯爵家で生活をしていますが、今の時点でユニ伯爵家の籍には入っていませんね」

「やはり半分平民の血が入った娘は伯爵家では歓迎されていないんですね。このまま貴族社会にいてはアイリスは苦労するでしょう。それなら私が引き取り幸せに育てます。だから、」

「何を勘違いしているんですか。ユニ伯爵家の籍に入っていませんが、彼女が成人したら私の妻として正式にユニ伯爵家の一員として迎えられる予定です」

「えっ!そんなこと…」

「可能ですよ。一旦書類上子爵家の養子となり、それから私と婚姻を結べばいいのです。もう子爵家にもお願いしてありますし、父と義母も承知しています。なによりアイリスが私の気持ちを受け入れてくれて婚約していますから」

俺は黙るしかなかった、そこまで話が進んでいたら平民である俺に出る幕はない。

「あなたが愚かな事をしてくれたおかげで、私と父は素晴らしい相手と巡り合う事が出来ました。これはお礼を言うべきですね、有り難うございます。
そして余計な雑草抜きをしないで済むことを願っていますよ、仮にもあなたは大切な婚約者の実父ですから。まぁやる時になったら私は一切容赦しませんから、よく覚えておいてください。
では失礼します」

俺に冷たい微笑みを向けて、ユニ伯爵子息は家族の元に颯爽と歩いて行った。
近づいてきた婚約者に気づいたアイリスは嬉しそうに微笑んで顔を赤らめていた。そんな二人をユニ伯爵とイザベラは愛おしそうに見ていて、ベラの腕の中にいる子供は兄と姉に一生懸命何かを伝えようとして手と足をこれでもかとバタつかせ家族の笑いを誘っている。

その様子は幸せな家族そのものだった。




(あぁ、俺が失ったものは金でも商人としての才気でもなく、これだったのか……)

それは俺が愚かにも捨ててしまっただった。
あんな大切なものを捨てたのに、得られたものは何もない…。

その現実に押しつぶされながら、俺は何の成果も上げないままお茶会から足早に去って行くしかなかった。






*******************************



「ガイン様、有り難う。嫌な役を頼んでごめんなさい」

「いや、俺もトーマス・ドエインには釘を刺しておきたいと思っていたから問題ないよ」

「隣国に留学中の兄からは『父は十分に反省している』と聞いていたけど、兄はちょっと甘い所があるから念には念を入れておきたかったの。母を平気で傷つけたあの人の事は絶対に許せないし、信用なんて出来ないわ。
お義父さまと結ばれてやっとお母様が新たな幸せを掴んだのだから、この幸せは守ってあげたいもの」

「そうだな俺もその気持ちは良く分かる。俺の母も男を作って出ていき周りに迷惑を掛けても平気な人だったからな。そんな奴らは何度でも同じ事を繰り返すんだ。
そんな母に傷つけられた父を幸せにしてくれた義母上には本当に感謝をしてるんだ。
なにより俺の可愛いアイリスを産んでくれた人だから絶対に守ってみせるよ。
次にトーマス・ドエインが何か行動したら容赦なく潰すだけだ。俺は子爵家や父ほど優しくないからな、きっとこの世から存在そのものを消してしまうだろう。
こんな冷酷な俺は嫌いかい?」

「フフフ。ガイン様、愛しているわ。
あの人が父だったのは昔のこと、仮にこれからあの人の身に何が起ころうと因果応報だから気にもしないでしょう。私にとって大切なのは昔の思い出ではないわ、今の幸せですもの。実父をこんな簡単に切り捨てるような冷たい私でもいいの?」


アイリスは気丈に振舞っているが、その声は震えて手は爪が食い込むほど固く握りしめている。口では冷酷な事を言っているが、この決断でアイリスの心は血を流しているだろう。
俺は彼女の強気な態度が繊細な心を隠す鎧なのを知っている。その鎧を纏い【平民から貴族になる】という茨の道を彼女は義母上と共に乗り越えてきたのを近くで見てきたのだから。


(君はもう十分頑張ったから、これからは鎧を捨てていいんだよ)

「俺の姫様、愛しているよ。君は冷たくなんかない、本当に大切なものを必死になって守ろうとしているだけだ。そんな健気な君に惚れたんだ。これからは君に代わって俺が守るから安心してくれ、愛おしいアイリス」





(終)

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

これにて完結です。
読んでくださり大変有り難うございました♪



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