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4.不在

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俺は息子の沈んだ様子に友達と喧嘩でもしたのかと思った。この年頃の男の子にならよくある事なので深刻になり過ぎない方がいいと思い、わざとお道化た口調で話し掛けた。

「おいおい、どうしたそんな顔をして。誰と喧嘩でもしたんだ?その様子を見ると負けたのか、ハハハ」

「…違うよ、そんなんじゃない」

「なら好きな女の子に振られでもしたかー」

「違う…」

「うーん、分かった!それなら悪さでもしてお母さんに叱られたんだろう。お父さんも一緒に謝ってあげるから元気出せ。せっかくのパーティーなんだから今は楽しみな、」

「違うって言ってるだろう!そのへらへらした話し方やめてよー!」

リチャードは父である俺の言葉を遮り、眉を吊り上げ泣きながら叫んでいた。
いつにない息子の様子に俺は真面目な顔で問いただした。

「いったいどうしたんだ。ドエイン商会の跡継ぎがそんな態度では笑われるぞ」

「ふんっ。跡継ぎならお父さんみたいな態度をしろってこと?どんな時もニコニコとしてろって言うの!
だからお父さんは離縁しても笑っているの?
それとも本当に離縁が嬉しくて笑っているの?
どっちなのさー!」

リチャードは泣きながらおかしなことを俺に訴えてきている。

(なに…?離縁って何のことだ。息子に誰か嘘を吹き込んだのか?)

俺は涙でぐちゃぐちゃになったリチャードの顔をハンカチで優しく拭きながら、正しい情報を話して聞かせることにした。

「誰に何を言われたが知らないが、お父さんは離縁なんてしていないから安心しろ。それに間違った情報を鵜吞みにするのは良くないぞ。いったい誰からそんな事を聞いた?」

「ほ、本当に?
お母さんと離縁してないの?
お母さんが家を出ていく時、『もう戻ることはないと思う』って言ってたんだ。僕のせいでお母さんが傷ついてたのが分かったから『行かないでっ!』って言えなかったの…。
そしたら、その数日後にお祖父さんが『お母さんは離縁したからもう二度と帰ってこない』って言ったんだよ。アイリスにも簡単には会えないって。僕、お祖父さんが言うから信じちゃったんだ。
でも良かった、嘘だったんだね!
やっぱり帰ってくるんだ。
じゃあお母さんとアイリスはいつ家に帰ってくるの?」

リチャードの言葉を聞いて俺は固まってしまった。最初は意味が良く理解できなかった。

(出て行った?ベラとアイリスが…?それにそんな事を言ったのが父だとはどういう事だ…。なぜそんな嘘を孫に吐くんだ?)

リチャードが離縁が嘘だと思って安心した表情になったのと反対に、俺の顔からは表情が抜け落ちてしまった。

(ベラとアイリスを探しても見つからなかったのは、この場に居ないからなのか…。どういう事だ、俺は父にさっき会ったが何も伝えられていないぞ。早く確認しなくては…)

俺はせっかく安心しているリチャードをまた不安にさせるのは忍びないので『お父さんは用事を思い出したからちょっとこの場を離れるけど、お前はちゃんとあっちのテーブルに行って食事をしなさい』と笑顔で言ってテーブルの方に行かせた。
そして真相を知っているであろう父のところへ駆け出して行った。



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