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3.帰還

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隣国への販路拡大という大きな成果を持って、俺は従業員と共に意気揚々とドエイン商会に帰って来た。商会の前では俺達の帰還の知らせを受けた他の従業員たちが出迎えてくれていた。

「若旦那様、お帰りなさい!出張お疲れ様でしたーー!」

みんな口々に帰国した俺達を労ってくれている、今回は大きな成果があった出張なので出迎えもいつもより華々しいものだった。その中に妻の姿は見えなかったが俺は気にしなかった。こんな長期の出張の後は従業員達を労うために立食パーティーを行うようになっていたので、その準備でベラが忙しいのは分かっていたからだ。

俺はみんなと共に商会の裏手にある庭園に移動した。いつもここで立食パーティーが行われる事になっているのだ。庭園は俺達の帰国を待ちかねていた従業員達で溢れかえっていて、すでに賑やかだった。

その中心にいた父は俺に気づくと、こっちに来いと手招きをしている。俺が父の側に立つと、従業員達はお喋りを止めて一斉にこちらに注目をした。

「オッホン。隣国への販路拡大も上手くいき、無事に今日五人が帰国した。息子トーマスと従業員四人の働きに惜しみない拍手を送ろうではないか。そして今日はみんな存分に楽しんでくれ、乾杯!」

「「「乾杯ーー!」」」


父の始まりの挨拶を受け、俺と同行した従業員達には盛大な拍手を送られ、パーティーが始まった。みんな食べたり飲んだりして楽しそうに過ごしている。
こんなパーティーを始めるきっかけになったのはイザベラの一言だった。『いつも頑張っている従業員達を労う機会があるといいわね』という言葉をヒントに始めたのだが、これが従業員達には大好評だった。労うだけでなく結束も強まり商会の業績アップにも貢献していた。本当にベラは俺の自慢の奥さんなんだ。


飲み物片手に歩きながら従業員達との交流を深めていると、今回のパーティーはなんか違和感を感じた。周囲をよく見てみると、テーブルに出ている料理の品数がいつもより少なくグレードも明らかに落ちている。それに飲み物の準備も足りないのか慌てて補充に走っていく者までいる始末だ。

(なんだ、今日のパーティーは準備不足じゃないか。ベラに注意をしないといけないな)

俺はそんな事を考えながら、イザベラの姿を探した。いつもなら料理の追加を運んだり、従業員達と和やかに談笑しているのに今日はまだその姿を見つけることが出来ない。
早くネックレスを渡してベラの喜ぶ顔が見たくて、俺は胸ポケットに入れている土産を服の上から無意識に触っていた。

(ベラはどこにいるんだ。早く会いたいときに限って見つからないなんてツイてないな)


すると妻を見つける前に庭園の端にいる息子の姿を見つけた。明るく物怖じしないリチャードはパーティーの時は大人に混じりお喋りを楽しんでいるのが常なのに、なぜか今日は1人でいる。
何かあったのかと近づいて行くと俺に気づいたリチャードはゆっくりと顔を上げた。その表情は暗くパーティーに相応しいものではなかった。


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