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1巻
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先生に聞けば、代理人が誰なのか分かることだがあえて尋ねなかった。
知らない相手とのやり取りが不思議と心地良かったから、それを壊したくなかったのかもしれない。
一週間はあっという間に過ぎ、気づけば代理の最終日だった。
もしかすると会えるかもと淡い期待を持っていたが、その人が早く来ることはなかった。
少しだけ残念だったけれど、良い印象のままで終わるのは悪くないと思えた。私はいつも通りに仕事をこなし日誌を書く。
でも最後にひとつだけ、いつもとは違うことをしてみた。
日誌の名前の欄に『代理M』と記したのだ。
深い意味はないし、何かを求めていた訳でもない。ただ最後だから書いてみただけ。
「先生、お世話になりました。有意義な一週間で、とても楽しかったです」
「お疲れさまでした。あなたが来ないと寂しくなるわ。それに優秀なあなたが来なくなったら仕事も溜まって、明日からまた図書室は大変なことになるわね」
先生の優しい言葉に丁寧にお礼を言って図書室をあとにし、一週間はこうして無事に終わった。
最後までもうひとりの代理に会うことはなかったけれど、それでも私の心には小さな温もりが残った。
◇ ◇ ◇
俺――エリック・サルーサは、図書室へつながる廊下を全力で走っていた。
普段ならこんなことはしない。でも今日だけは特別だった。
最終日の今日を逃したら、もう会う機会はないかもしれないから。
バタンッ!
勢いよく扉を開けると、図書室にいる生徒たちの咎めるような視線が集まる。
図書室の先生も呆れたように俺を見ている。
周りに頭を下げながら、急ぎ足で受付のほうに歩いていく。
「はぁ、はぁっ……、先生。俺、間に合わなかった?」
それだけで俺が何を言いたいのか先生には通じていた。
俺は日誌でやり取りしている代理生徒に興味を抱き、一度は会ってみたいと先生に話していたからだ。
「あら今さっき帰ったところよ、もう少し早ければ会えたのに残念だったわね。はい、日誌。今日が最終日だけど、よろしくね」
どうやらちょっとの差で間に合わなかったようだ。
残念に思いながら受け取った日誌をパラパラと読んで、あるページで手を止める。
そこにはいつもと違う『代理M』の文字があった。
「Mか……、会いたかったな。仕事の手順とか引き継ぎの日誌に、相手への心遣いが溢れていて感心していたんだ。どんな生徒だったのかな。マイケル、ミシェル、ミック……ミランダ? うーん、なんかどれもピンとこないな。先生、Mって生徒の名前を教えてもらえますか?」
気づいたらそんなことを口にしていた。
「あら教えてなかったのね? てっきり初日に言ったつもりになっていたわ。その子はね、二年生のメアリー・スパンシーよ。本当に真面目な子で、代理ではなく図書委員になってほしかったくらいよ」
そう言う先生は本当に惜しそうな表情を浮べている。きっとその生徒は、お世辞抜きで良い子だったのだろう。
「メアリー・スパンシー。一体どんな子なんだろうな。先生ありがとうございます!」
「どういたしまして、エリック」
俺は先生にお礼を言いながら、メアリー・スパンシーのことを考えていた。
特別なやり取りをしていた訳ではない。顔も知らないし、名前だって今知ったばかり。
知っていることは、彼女が日誌に綴るさりげない気遣いと相手のことを考えた仕事の配慮。決して声高に主張などしていないが、その優しさはじわりと心に染みてくるものがあった。
日誌に記された『代理M』の文字をそっと指でなぞりながら、心に残った小さな温もりに気づく。
こんな経験は初めてだった。会ってみたいという思いが募っていく。
それは単純な興味なのか、もしかしたらそれ以上の何かなのかもしれない。
……どっちでもいいさ。会えばきっと分かるのだから。
そう心の中で呟く。
このまま会わずにいるという選択肢は、完全に消えていた。
こんな風に思う自分に正直驚いている。
俺はまた彼女と出会うことになるだろう。
努力次第で、偶然という奇跡が起こるのだから。
第三章 踏みだす勇気
数週間後。私――メアリーの学園生活は、相変わらず辛い日々が続いていた。
婚約解消されてしまった姉に表向きは同情を寄せ、私には憐みや嘲笑を向ける人々。
親しい友人たちが励ましてくれるとはいえ、家族に対する私の苦悩を打ち明けることは出来なかった。
友人たちには「ありがとう、私は平気よ」と言いながらも、本音を言えばもうすべてから逃げ出したかった。
他人の好奇の視線と、親密過ぎる態度を取り続ける二人を避けたいがために、少しでも時間があると空き教室で勉強して過ごすようにしていた。
今日もお昼ご飯を食べずに、空き教室に来てひとりで教科書を読んでいる。
ふと視線を感じて横を見ると、いつの間にかひとりの男子生徒が少し離れた席に座ってこちらを見ていた。
えっ⁉ いつの間に? 全然気がつかなかったわ。
「驚かしちゃったかな? ごめんね」
私が驚いた表情を浮かべていると、その生徒はクスリと笑う。
「いいえ、大丈夫です。私が勝手に驚いただけですから。えーっと、驚いてごめんなさい?」
「驚いてごめんなさいってなんだい。面白い謝り方をするんだね、君は」
そう言って笑い続ける彼につられて、思わず私も笑ってしまった。
「本を真剣に読んでいる表情が素敵だけれど、その笑顔もいいね。ああ、それより自己紹介が先だね。俺はエリック・サルーサ。三年だ、よろしく。いちおうは初めましてかな」
気さくに話しかけて来た彼は、学園内での有名人だった。
平民だがその優秀さから最優秀生徒として入学が認められ、常に成績もトップを保ち続けている。さらに、その人柄から貴族が多数を占めるこの学園で生徒会副会長まで任されているのだ。
彼のことは私も一方的に知っていて、遠目では何度も見かけている。
でも学年が違い、直接会う機会なんて一度もなかった。
「初めまして、私は二年のメアリー・スパンシーです。サルーサ様、よろしくお願いします」
すごい人を前にして、少しドキドキしながら挨拶をする。
「そんな堅苦しい呼び方でなく、エリックでいいから。俺は平民だから様付けだと、なんかぞわぞわしちゃってね」
「えっ、でも年上の方を呼び捨てだなんて……」
いくら本人が良いと言っても、やはり躊躇してしまう。
「いいの、いいの、本人が良いって言ってるんだからさ。ほらエリックって言ってみな。俺をぞわぞわさせたくなかったら様はなしでね~」
「は、はい。では、……エリック。私のことはメアリーと呼んでください」
勇気を出して呼び捨てにすると、彼はにっこりと笑い満足そうに頷く。
「メアリー、大変良く出来ました! 君って、のみ込みが早いし、貴族にしては素直なところもすごくいいな。うん、やっぱり気に入った! もし時間があるなら、ちょっと俺の手伝いをしてくれないか?」
そう言って彼が出してきたのは、生徒の名前が書かれている紙の束だった。
どうやらその紙を名前順に並べ直して、まとめている途中だったようだ。
強引でおかしな人だと思ったけれども、嫌な感じはしなかったからお手伝いをすることにした。
淡々と作業をするのかと思いきや、お腹が痛くなるほどエリックと一緒に笑いながら進めていく。
「もう、もう止めてください! これ以上笑ったら私、死んじゃいます! ……もう、駄目、笑いすぎて苦しいわ」
私は笑いながら彼にお願いをする。
「そう? じゃあ俺はこのままいったら殺人犯か。それはちょっと困るな……。きっと母さんに泣かれて、それを見た愛妻家の父さんに殺されそうだ。殺される殺人犯なんて嫌だな。まさに脇役って感じじゃん。よし、これは生徒会副会長様の命令だ! メアリー、もう笑うな」
さっきまで私を笑わせていた彼が、真面目な顔をして、さらにおかしなことを言ってくる。
もうどうやっても笑うのは止められそうにない。
私は目に涙を浮かべながら、声を上げて笑ってしまう。
こんなに素直に笑ったのは久しぶりだった。
自分でも驚くくらいに、初対面のエリックに素の自分を出せている。
うまく言い表すのは難しいけれど、彼はとても不思議な人だ。貴族とか平民とか身分に関係なく、こんな人に会ったのは初めてだった。
エリックは強引な部分があるけれど、押し付けがましくなく人に嫌な感じを与えない。
そして彼と一緒にいると、自然と楽しい雰囲気になってくる。
人の懐にスッと入り込む、そんな人だった。
でも、それが不快ではなく、なぜかホッとする。
とても温かい人なのだろう。
私は、心の中でそんなことを考えていた。
楽しい時間はあっという間に過ぎてしまうもので、気づけばもう昼休みが終わろうとしていた。
このまま終わるのは残念だと思ってしまう。
すると、エリックが口を開いた。
「もし良かったら時間が空いているときに、また俺の手伝いをしてくれないか? 実はさあ、生徒会絡みの雑務が多すぎて困っていて、メアリーのような優秀な助手が日頃からほしいと思ってたんだ。もちろんタダでとは言わない。どうやら君は勉強が好きなようだから、俺が君を学年首位に導いてあげよう。あっ、これはカンニング方法の伝授ではなく、スパルタ指導って意味だから、誤解しないでね!」
最後の部分を慌てて訂正するエリックは、年上なのにちょっと可愛い。
こんなに楽しい気持ちはいつぶりだろう。
持て余している時間を有意義に過ごせるのはありがたく、彼の提案を受けることにした。
それに学年首位……、頑張って目指してみようかな!
久しぶりに自分でも驚くほど前向きな気持ちになっているのを感じていた。
「はい、喜んでお手伝いします。エリック、よろしくお願いします」
「良かった。メアリー、これからよろしく~」
エリックはさっと手を差し出し、私に握手を求める。
私が一瞬遅れて手を出すと、彼は力強く私の手を握り返す。
「交渉成立だな」
彼はそう言って、満足そうに頷いていた。
こうして空いた時間はエリックの手伝いをしながら、合間に勉強を教えてもらうことになった。
彼と一緒に過ごす時間は、いろいろなことで疲れている私にとって癒しとなっていく。
また彼はたぶん知っているはずなのに、姉やギルバート様のことについて何も聞いてこないことも楽だった。
それから数週間後。
いつものように二人で笑いながら作業していると、エリックがふと真面目な顔になって、私の顔を覗き込んで尋ねてきた。
「ねえメアリー、なんか無理していない?」
急にそう言われてしまい、私は何も答えられない。
……ついに、姉たちのことを聞かれるのだろう。この楽しい時間も終わっちゃうのかな。
そう思いながら彼と過ごす時間が終わりを迎えることを覚悟する。
「メアリーってさ、なんか俺とこうして馬鹿な話をしているときはちゃんと笑っているけど、学園のなかで見かける君はいつも微笑んでいるけど笑っていないよね?」
エリックが話してきたのは、私の想像していなかったことだ。
だが、それは鋭い指摘だった。
「微笑んでいるけど、笑っていないですか……。エリックには、そう見えますか?」
彼の言葉に、思ったまま返事をしてみる。どう見えているのか知りたいと思った。
「うん、見えるよ。その場だけを乗り切るために、作り笑いをしているんじゃないだろう?」
問いかけているような口調で、エリックは告げる。
でも彼の表情を見て、私に尋ねているのではなく、そう確信していると感じた。
そのまま、彼は続ける。
「うーん、上手く言えないんだけど。メアリーの微笑みは常につけている仮面みたいに思えるんだよね。余計なお世話かもしれないけどさ、それは駄目だよ。いっときの作り笑いなら誰だってする、でもずっと無理して笑っていたら本当の君がいつか壊れちゃうからやめた方がいい」
私の目を真っ直ぐに見つめ話してくるエリックは真剣そのものだ。
私の微笑みを見て、それが偽りだと気づいたのは彼が初めてだった。
一緒に暮らしている家族やギルバート様でさえ気づいてはくれなかった。
……いいえ、都合の良い私しか受け入れなかったのだ。
でも、この人はちゃんと私を見てくれている。私が良い子を演じているのを分かってくれているんだ。
心のなかにじんわりと温かいものが広がっていく。
自然と涙が零れてきた。
やっと私自身を見てくれる人に出会えた嬉しさで、笑いながら泣いてしまう。
「うぁっ! 笑いながら泣くメアリーはすごく可愛いけど、泣かせた俺って鬼畜? それとも笑わせた俺で相殺される? えっ、どっち? そこ重要だから!」
彼は少し慌てた様子で、身を乗り出して聞いてくる。
「エリックありがとう、あなたのひと言がとても嬉しかったです」
嬉し泣きをしながら、素直に感謝の言葉を彼に伝える。
「えっ、鬼畜が嬉しいの? メアリーはドМなのか。……知らなかったな」
彼は呟くようにそう言うと、目を大きく見開き驚いている。
「もうっ! そうじゃありません。私が嬉しかったのはもっと前の良い台詞ですから! 流れを読んでください、流れを!」
せっかくの感動の場面なのにエリックが変なことを言うので、あたふたしながら大きな声で訂正する。
「その表情いいね。メアリーはさあ、仮面なんて外して、いつでも誰の前でもそうしていたらいいんだよ」
彼は笑いながら軽い調子で、大切なことをサラリと言う。
指摘は鋭いが、深刻になり過ぎないように気を配ってくれたのだろう。
……彼なら分かってくれるかも。
彼になら心に抱えているものを話せる気がした。
私は、深呼吸をする。
そして、勇気を出してエリックに尋ねる。
「……私の話を聞いてもらえますか?」
「もちろん!」
優しい表情でエリックは、そう答えてくれた。
そして私は、初めて自分の胸に秘めていた葛藤を話し始めた。
エリックは相槌を打ちながら、最後まで私の話を聞いてくれた。
彼は聞き終わると腕を組んで、暫く考えていた。
そして優しい口調で、話しかけてくる。
「メアリーはずっと長い間、ひとりで頑張っていたんだな。本当に偉いと思うよ、よく壊れずにここまできたね。君だからこそ頑張ってこられたんだ」
私を労ってくれる言葉を聞きホッとする。
「聞いてくれてありがとう。今まで誰にも話せなかったからなんだか不思議な気分だわ」
彼が私を否定しなかったことが嬉しくて、話してみて良かったと思えた。
「どういたしまして。ところでメアリーはこれからどうしようと思っているの? これからも仮面を被ったまま頑張り続けるの?」
彼の口調は真剣だけれど、問い詰めている訳ではない。
私を心配してくれる気持ちだけが伝わってくる。
私はどうしたいんだろう……
このままでいる? それで本当に私はいいの……?
心が揺らぐ。彼に話したことで、今まで無理矢理に抑えていた思いが湧き上がってくる。
……良い子の仮面を外したい。
口には出さないけれど、そう思い始めていた。
小さい頃は諦めたけれど、もうあの頃の私とは違う。何も出来ずに泣いていたあの頃の小さな女の子はもういない。
心と体が自然と前を向いていくのが分かる。
そんな自分に驚いているけれど、気分は良かった。
「いいね。その表情、何か心の変化を感じるな。人って心のなかで思っていたことを言葉にすると、あれ? って思うことがあるんだよね。難しくて無理だって思っていたことが、実は出来るって気づけたり、正しいと信じていたことが本当は間違っていたりさ。まあ、その反対だってあるけどね。本当に人間ってややこしいっていうか面白いよね~」
さっきとは打って変わって、軽い口調のエリック。
彼の言葉には強制なんてない。
でも、トンと軽く背中を押されたような気がした。
それは一歩踏み出そうとする私にとって心強く感じる。
「こうして気持ちを話せたことは、私にとって大きな一歩になりました。家族との関係というか、私自身を見つめ直していこうと前向きな気持ちになれて正直驚いています。まだちゃんと私自身で分かっていない……整理出来ていない部分ばかりだけど頑張ってみます。エリック、また話を聞いてもらえますか?」
「もちろん! どんどん話していいからね。そうだ、前向きな君に俺から素敵なプレゼントをあげよう。メアリー、今度の休日は暇かい?」
「え、ええ。暇ですけど……」
「我が家に来てみない? 俺が昔使っていた試験対策の必勝ノートをあげるから。過去問は網羅しているし、授業の重要な部分も完全に把握出来る。学園の生徒なら誰しもが泣いて喜ぶほどの代物だから、持っていて損はないはずだ。それに我が家はちょっと面白いから、いい気晴らしになると思うよ」
エリックの意外な提案に驚いて何も言えずにいると、彼は顔を真っ赤にして慌てた様子で言葉を付け加える。
「あっ、変な意味に受け取らないで! 家には一うじゃ二うじゃ、うじゃうじゃと家族がいるし、俺と二人っきりになって、どうこうはないから安心して!」
うじゃうじゃ……? 家族って、うじゃうじゃと表現するかしら?
一うじゃ、二うじゃ、ないわ……それはない。
エリックは焦って変な言葉で弁解するが、私はよく分からずにぽかんとしてしまう。
だが、彼の焦り具合に思わず笑ってしまう。そしてそのまま答える。
「大丈夫です、誤解していません」
「良かった~、嫌われてなくて」
彼はホッとした様子で、胸を撫で下ろしている。
……彼と一緒にいるときは、不思議と笑ってばかりいる。
ちょっと迷いはあったけれど、彼のことは信頼していたので行くことを決めた。
「分かりました。休日は図書館に行くつもりだったので、その前に行かせてもらいますね」
「よし、決まりだな。じゃあ図書館の前で待ち合わせをしよう」
二人で詳しい待ち合わせ場所と時間を決め、次の休日に彼の家を訪問する約束をした。
そして約束の日。
休日になると、やはり姉とギルバート様は朝早くからどこかに出かけて行った。
もしかしたら誘われるかもと思ったが、二人は私を見ても笑顔で『行ってきます』と言って手を振るだけだった。
少し虚しさを感じたが、エリックとの約束を守ることが出来る安堵の気持ちの方が大きかった。
私は家族にエリックの家を訪問することは告げず、図書館で調べ物をして来ると言い屋敷を出た。乗ってきた馬車は一旦屋敷に戻し、また夕方に図書館まで迎えに来てくれるように頼んでおく。
家族に内緒で行動するのは初めてだった。
けれど、何かが変わるかもと期待に胸が弾んでいた。
私が待ち合わせ場所である図書館の前で待っていると、一台の豪華な馬車が目の前で止まり、中から私服姿のエリックが姿を現した。
えっ……! エリックって、平民なのになんで?
その馬車はどう見ても貸し馬車ではなく、所有しているものだった。それは御者の態度からもすぐに肯定された。
「エリック坊ちゃん、レディを待たせたときはちゃんと謝らないと駄目ですぜ」
「分かっているから! それに友人の前で坊ちゃんは止めてくれ……。待たせてごめん、メアリー」
坊ちゃんと言われたのが照れくさいのか、エリックは顔を真っ赤にしている。
学園のときよりも素に近いエリックを見ることが出来てなんだか嬉しい。
「いいえ大丈夫です。私も今来たところですから。それよりもエリックって良いところのお坊ちゃまなんですね、全然知りませんでした」
知らない相手とのやり取りが不思議と心地良かったから、それを壊したくなかったのかもしれない。
一週間はあっという間に過ぎ、気づけば代理の最終日だった。
もしかすると会えるかもと淡い期待を持っていたが、その人が早く来ることはなかった。
少しだけ残念だったけれど、良い印象のままで終わるのは悪くないと思えた。私はいつも通りに仕事をこなし日誌を書く。
でも最後にひとつだけ、いつもとは違うことをしてみた。
日誌の名前の欄に『代理M』と記したのだ。
深い意味はないし、何かを求めていた訳でもない。ただ最後だから書いてみただけ。
「先生、お世話になりました。有意義な一週間で、とても楽しかったです」
「お疲れさまでした。あなたが来ないと寂しくなるわ。それに優秀なあなたが来なくなったら仕事も溜まって、明日からまた図書室は大変なことになるわね」
先生の優しい言葉に丁寧にお礼を言って図書室をあとにし、一週間はこうして無事に終わった。
最後までもうひとりの代理に会うことはなかったけれど、それでも私の心には小さな温もりが残った。
◇ ◇ ◇
俺――エリック・サルーサは、図書室へつながる廊下を全力で走っていた。
普段ならこんなことはしない。でも今日だけは特別だった。
最終日の今日を逃したら、もう会う機会はないかもしれないから。
バタンッ!
勢いよく扉を開けると、図書室にいる生徒たちの咎めるような視線が集まる。
図書室の先生も呆れたように俺を見ている。
周りに頭を下げながら、急ぎ足で受付のほうに歩いていく。
「はぁ、はぁっ……、先生。俺、間に合わなかった?」
それだけで俺が何を言いたいのか先生には通じていた。
俺は日誌でやり取りしている代理生徒に興味を抱き、一度は会ってみたいと先生に話していたからだ。
「あら今さっき帰ったところよ、もう少し早ければ会えたのに残念だったわね。はい、日誌。今日が最終日だけど、よろしくね」
どうやらちょっとの差で間に合わなかったようだ。
残念に思いながら受け取った日誌をパラパラと読んで、あるページで手を止める。
そこにはいつもと違う『代理M』の文字があった。
「Mか……、会いたかったな。仕事の手順とか引き継ぎの日誌に、相手への心遣いが溢れていて感心していたんだ。どんな生徒だったのかな。マイケル、ミシェル、ミック……ミランダ? うーん、なんかどれもピンとこないな。先生、Mって生徒の名前を教えてもらえますか?」
気づいたらそんなことを口にしていた。
「あら教えてなかったのね? てっきり初日に言ったつもりになっていたわ。その子はね、二年生のメアリー・スパンシーよ。本当に真面目な子で、代理ではなく図書委員になってほしかったくらいよ」
そう言う先生は本当に惜しそうな表情を浮べている。きっとその生徒は、お世辞抜きで良い子だったのだろう。
「メアリー・スパンシー。一体どんな子なんだろうな。先生ありがとうございます!」
「どういたしまして、エリック」
俺は先生にお礼を言いながら、メアリー・スパンシーのことを考えていた。
特別なやり取りをしていた訳ではない。顔も知らないし、名前だって今知ったばかり。
知っていることは、彼女が日誌に綴るさりげない気遣いと相手のことを考えた仕事の配慮。決して声高に主張などしていないが、その優しさはじわりと心に染みてくるものがあった。
日誌に記された『代理M』の文字をそっと指でなぞりながら、心に残った小さな温もりに気づく。
こんな経験は初めてだった。会ってみたいという思いが募っていく。
それは単純な興味なのか、もしかしたらそれ以上の何かなのかもしれない。
……どっちでもいいさ。会えばきっと分かるのだから。
そう心の中で呟く。
このまま会わずにいるという選択肢は、完全に消えていた。
こんな風に思う自分に正直驚いている。
俺はまた彼女と出会うことになるだろう。
努力次第で、偶然という奇跡が起こるのだから。
第三章 踏みだす勇気
数週間後。私――メアリーの学園生活は、相変わらず辛い日々が続いていた。
婚約解消されてしまった姉に表向きは同情を寄せ、私には憐みや嘲笑を向ける人々。
親しい友人たちが励ましてくれるとはいえ、家族に対する私の苦悩を打ち明けることは出来なかった。
友人たちには「ありがとう、私は平気よ」と言いながらも、本音を言えばもうすべてから逃げ出したかった。
他人の好奇の視線と、親密過ぎる態度を取り続ける二人を避けたいがために、少しでも時間があると空き教室で勉強して過ごすようにしていた。
今日もお昼ご飯を食べずに、空き教室に来てひとりで教科書を読んでいる。
ふと視線を感じて横を見ると、いつの間にかひとりの男子生徒が少し離れた席に座ってこちらを見ていた。
えっ⁉ いつの間に? 全然気がつかなかったわ。
「驚かしちゃったかな? ごめんね」
私が驚いた表情を浮かべていると、その生徒はクスリと笑う。
「いいえ、大丈夫です。私が勝手に驚いただけですから。えーっと、驚いてごめんなさい?」
「驚いてごめんなさいってなんだい。面白い謝り方をするんだね、君は」
そう言って笑い続ける彼につられて、思わず私も笑ってしまった。
「本を真剣に読んでいる表情が素敵だけれど、その笑顔もいいね。ああ、それより自己紹介が先だね。俺はエリック・サルーサ。三年だ、よろしく。いちおうは初めましてかな」
気さくに話しかけて来た彼は、学園内での有名人だった。
平民だがその優秀さから最優秀生徒として入学が認められ、常に成績もトップを保ち続けている。さらに、その人柄から貴族が多数を占めるこの学園で生徒会副会長まで任されているのだ。
彼のことは私も一方的に知っていて、遠目では何度も見かけている。
でも学年が違い、直接会う機会なんて一度もなかった。
「初めまして、私は二年のメアリー・スパンシーです。サルーサ様、よろしくお願いします」
すごい人を前にして、少しドキドキしながら挨拶をする。
「そんな堅苦しい呼び方でなく、エリックでいいから。俺は平民だから様付けだと、なんかぞわぞわしちゃってね」
「えっ、でも年上の方を呼び捨てだなんて……」
いくら本人が良いと言っても、やはり躊躇してしまう。
「いいの、いいの、本人が良いって言ってるんだからさ。ほらエリックって言ってみな。俺をぞわぞわさせたくなかったら様はなしでね~」
「は、はい。では、……エリック。私のことはメアリーと呼んでください」
勇気を出して呼び捨てにすると、彼はにっこりと笑い満足そうに頷く。
「メアリー、大変良く出来ました! 君って、のみ込みが早いし、貴族にしては素直なところもすごくいいな。うん、やっぱり気に入った! もし時間があるなら、ちょっと俺の手伝いをしてくれないか?」
そう言って彼が出してきたのは、生徒の名前が書かれている紙の束だった。
どうやらその紙を名前順に並べ直して、まとめている途中だったようだ。
強引でおかしな人だと思ったけれども、嫌な感じはしなかったからお手伝いをすることにした。
淡々と作業をするのかと思いきや、お腹が痛くなるほどエリックと一緒に笑いながら進めていく。
「もう、もう止めてください! これ以上笑ったら私、死んじゃいます! ……もう、駄目、笑いすぎて苦しいわ」
私は笑いながら彼にお願いをする。
「そう? じゃあ俺はこのままいったら殺人犯か。それはちょっと困るな……。きっと母さんに泣かれて、それを見た愛妻家の父さんに殺されそうだ。殺される殺人犯なんて嫌だな。まさに脇役って感じじゃん。よし、これは生徒会副会長様の命令だ! メアリー、もう笑うな」
さっきまで私を笑わせていた彼が、真面目な顔をして、さらにおかしなことを言ってくる。
もうどうやっても笑うのは止められそうにない。
私は目に涙を浮かべながら、声を上げて笑ってしまう。
こんなに素直に笑ったのは久しぶりだった。
自分でも驚くくらいに、初対面のエリックに素の自分を出せている。
うまく言い表すのは難しいけれど、彼はとても不思議な人だ。貴族とか平民とか身分に関係なく、こんな人に会ったのは初めてだった。
エリックは強引な部分があるけれど、押し付けがましくなく人に嫌な感じを与えない。
そして彼と一緒にいると、自然と楽しい雰囲気になってくる。
人の懐にスッと入り込む、そんな人だった。
でも、それが不快ではなく、なぜかホッとする。
とても温かい人なのだろう。
私は、心の中でそんなことを考えていた。
楽しい時間はあっという間に過ぎてしまうもので、気づけばもう昼休みが終わろうとしていた。
このまま終わるのは残念だと思ってしまう。
すると、エリックが口を開いた。
「もし良かったら時間が空いているときに、また俺の手伝いをしてくれないか? 実はさあ、生徒会絡みの雑務が多すぎて困っていて、メアリーのような優秀な助手が日頃からほしいと思ってたんだ。もちろんタダでとは言わない。どうやら君は勉強が好きなようだから、俺が君を学年首位に導いてあげよう。あっ、これはカンニング方法の伝授ではなく、スパルタ指導って意味だから、誤解しないでね!」
最後の部分を慌てて訂正するエリックは、年上なのにちょっと可愛い。
こんなに楽しい気持ちはいつぶりだろう。
持て余している時間を有意義に過ごせるのはありがたく、彼の提案を受けることにした。
それに学年首位……、頑張って目指してみようかな!
久しぶりに自分でも驚くほど前向きな気持ちになっているのを感じていた。
「はい、喜んでお手伝いします。エリック、よろしくお願いします」
「良かった。メアリー、これからよろしく~」
エリックはさっと手を差し出し、私に握手を求める。
私が一瞬遅れて手を出すと、彼は力強く私の手を握り返す。
「交渉成立だな」
彼はそう言って、満足そうに頷いていた。
こうして空いた時間はエリックの手伝いをしながら、合間に勉強を教えてもらうことになった。
彼と一緒に過ごす時間は、いろいろなことで疲れている私にとって癒しとなっていく。
また彼はたぶん知っているはずなのに、姉やギルバート様のことについて何も聞いてこないことも楽だった。
それから数週間後。
いつものように二人で笑いながら作業していると、エリックがふと真面目な顔になって、私の顔を覗き込んで尋ねてきた。
「ねえメアリー、なんか無理していない?」
急にそう言われてしまい、私は何も答えられない。
……ついに、姉たちのことを聞かれるのだろう。この楽しい時間も終わっちゃうのかな。
そう思いながら彼と過ごす時間が終わりを迎えることを覚悟する。
「メアリーってさ、なんか俺とこうして馬鹿な話をしているときはちゃんと笑っているけど、学園のなかで見かける君はいつも微笑んでいるけど笑っていないよね?」
エリックが話してきたのは、私の想像していなかったことだ。
だが、それは鋭い指摘だった。
「微笑んでいるけど、笑っていないですか……。エリックには、そう見えますか?」
彼の言葉に、思ったまま返事をしてみる。どう見えているのか知りたいと思った。
「うん、見えるよ。その場だけを乗り切るために、作り笑いをしているんじゃないだろう?」
問いかけているような口調で、エリックは告げる。
でも彼の表情を見て、私に尋ねているのではなく、そう確信していると感じた。
そのまま、彼は続ける。
「うーん、上手く言えないんだけど。メアリーの微笑みは常につけている仮面みたいに思えるんだよね。余計なお世話かもしれないけどさ、それは駄目だよ。いっときの作り笑いなら誰だってする、でもずっと無理して笑っていたら本当の君がいつか壊れちゃうからやめた方がいい」
私の目を真っ直ぐに見つめ話してくるエリックは真剣そのものだ。
私の微笑みを見て、それが偽りだと気づいたのは彼が初めてだった。
一緒に暮らしている家族やギルバート様でさえ気づいてはくれなかった。
……いいえ、都合の良い私しか受け入れなかったのだ。
でも、この人はちゃんと私を見てくれている。私が良い子を演じているのを分かってくれているんだ。
心のなかにじんわりと温かいものが広がっていく。
自然と涙が零れてきた。
やっと私自身を見てくれる人に出会えた嬉しさで、笑いながら泣いてしまう。
「うぁっ! 笑いながら泣くメアリーはすごく可愛いけど、泣かせた俺って鬼畜? それとも笑わせた俺で相殺される? えっ、どっち? そこ重要だから!」
彼は少し慌てた様子で、身を乗り出して聞いてくる。
「エリックありがとう、あなたのひと言がとても嬉しかったです」
嬉し泣きをしながら、素直に感謝の言葉を彼に伝える。
「えっ、鬼畜が嬉しいの? メアリーはドМなのか。……知らなかったな」
彼は呟くようにそう言うと、目を大きく見開き驚いている。
「もうっ! そうじゃありません。私が嬉しかったのはもっと前の良い台詞ですから! 流れを読んでください、流れを!」
せっかくの感動の場面なのにエリックが変なことを言うので、あたふたしながら大きな声で訂正する。
「その表情いいね。メアリーはさあ、仮面なんて外して、いつでも誰の前でもそうしていたらいいんだよ」
彼は笑いながら軽い調子で、大切なことをサラリと言う。
指摘は鋭いが、深刻になり過ぎないように気を配ってくれたのだろう。
……彼なら分かってくれるかも。
彼になら心に抱えているものを話せる気がした。
私は、深呼吸をする。
そして、勇気を出してエリックに尋ねる。
「……私の話を聞いてもらえますか?」
「もちろん!」
優しい表情でエリックは、そう答えてくれた。
そして私は、初めて自分の胸に秘めていた葛藤を話し始めた。
エリックは相槌を打ちながら、最後まで私の話を聞いてくれた。
彼は聞き終わると腕を組んで、暫く考えていた。
そして優しい口調で、話しかけてくる。
「メアリーはずっと長い間、ひとりで頑張っていたんだな。本当に偉いと思うよ、よく壊れずにここまできたね。君だからこそ頑張ってこられたんだ」
私を労ってくれる言葉を聞きホッとする。
「聞いてくれてありがとう。今まで誰にも話せなかったからなんだか不思議な気分だわ」
彼が私を否定しなかったことが嬉しくて、話してみて良かったと思えた。
「どういたしまして。ところでメアリーはこれからどうしようと思っているの? これからも仮面を被ったまま頑張り続けるの?」
彼の口調は真剣だけれど、問い詰めている訳ではない。
私を心配してくれる気持ちだけが伝わってくる。
私はどうしたいんだろう……
このままでいる? それで本当に私はいいの……?
心が揺らぐ。彼に話したことで、今まで無理矢理に抑えていた思いが湧き上がってくる。
……良い子の仮面を外したい。
口には出さないけれど、そう思い始めていた。
小さい頃は諦めたけれど、もうあの頃の私とは違う。何も出来ずに泣いていたあの頃の小さな女の子はもういない。
心と体が自然と前を向いていくのが分かる。
そんな自分に驚いているけれど、気分は良かった。
「いいね。その表情、何か心の変化を感じるな。人って心のなかで思っていたことを言葉にすると、あれ? って思うことがあるんだよね。難しくて無理だって思っていたことが、実は出来るって気づけたり、正しいと信じていたことが本当は間違っていたりさ。まあ、その反対だってあるけどね。本当に人間ってややこしいっていうか面白いよね~」
さっきとは打って変わって、軽い口調のエリック。
彼の言葉には強制なんてない。
でも、トンと軽く背中を押されたような気がした。
それは一歩踏み出そうとする私にとって心強く感じる。
「こうして気持ちを話せたことは、私にとって大きな一歩になりました。家族との関係というか、私自身を見つめ直していこうと前向きな気持ちになれて正直驚いています。まだちゃんと私自身で分かっていない……整理出来ていない部分ばかりだけど頑張ってみます。エリック、また話を聞いてもらえますか?」
「もちろん! どんどん話していいからね。そうだ、前向きな君に俺から素敵なプレゼントをあげよう。メアリー、今度の休日は暇かい?」
「え、ええ。暇ですけど……」
「我が家に来てみない? 俺が昔使っていた試験対策の必勝ノートをあげるから。過去問は網羅しているし、授業の重要な部分も完全に把握出来る。学園の生徒なら誰しもが泣いて喜ぶほどの代物だから、持っていて損はないはずだ。それに我が家はちょっと面白いから、いい気晴らしになると思うよ」
エリックの意外な提案に驚いて何も言えずにいると、彼は顔を真っ赤にして慌てた様子で言葉を付け加える。
「あっ、変な意味に受け取らないで! 家には一うじゃ二うじゃ、うじゃうじゃと家族がいるし、俺と二人っきりになって、どうこうはないから安心して!」
うじゃうじゃ……? 家族って、うじゃうじゃと表現するかしら?
一うじゃ、二うじゃ、ないわ……それはない。
エリックは焦って変な言葉で弁解するが、私はよく分からずにぽかんとしてしまう。
だが、彼の焦り具合に思わず笑ってしまう。そしてそのまま答える。
「大丈夫です、誤解していません」
「良かった~、嫌われてなくて」
彼はホッとした様子で、胸を撫で下ろしている。
……彼と一緒にいるときは、不思議と笑ってばかりいる。
ちょっと迷いはあったけれど、彼のことは信頼していたので行くことを決めた。
「分かりました。休日は図書館に行くつもりだったので、その前に行かせてもらいますね」
「よし、決まりだな。じゃあ図書館の前で待ち合わせをしよう」
二人で詳しい待ち合わせ場所と時間を決め、次の休日に彼の家を訪問する約束をした。
そして約束の日。
休日になると、やはり姉とギルバート様は朝早くからどこかに出かけて行った。
もしかしたら誘われるかもと思ったが、二人は私を見ても笑顔で『行ってきます』と言って手を振るだけだった。
少し虚しさを感じたが、エリックとの約束を守ることが出来る安堵の気持ちの方が大きかった。
私は家族にエリックの家を訪問することは告げず、図書館で調べ物をして来ると言い屋敷を出た。乗ってきた馬車は一旦屋敷に戻し、また夕方に図書館まで迎えに来てくれるように頼んでおく。
家族に内緒で行動するのは初めてだった。
けれど、何かが変わるかもと期待に胸が弾んでいた。
私が待ち合わせ場所である図書館の前で待っていると、一台の豪華な馬車が目の前で止まり、中から私服姿のエリックが姿を現した。
えっ……! エリックって、平民なのになんで?
その馬車はどう見ても貸し馬車ではなく、所有しているものだった。それは御者の態度からもすぐに肯定された。
「エリック坊ちゃん、レディを待たせたときはちゃんと謝らないと駄目ですぜ」
「分かっているから! それに友人の前で坊ちゃんは止めてくれ……。待たせてごめん、メアリー」
坊ちゃんと言われたのが照れくさいのか、エリックは顔を真っ赤にしている。
学園のときよりも素に近いエリックを見ることが出来てなんだか嬉しい。
「いいえ大丈夫です。私も今来たところですから。それよりもエリックって良いところのお坊ちゃまなんですね、全然知りませんでした」
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