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52.祝福される結婚③
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ダイソン伯爵夫妻と視線がぶつかる。
エドワードが何かを言いたそうな表情をしているのに気づく。
祝福の言葉だろうか、それとも…。
私が立ち止まるべきかと躊躇していると、隣りにいるヒューイが私の背に大きな手を添えてながらそっとその歩みを止める。
それはエドワードの為ではなく、躊躇していた私の為だろう。『大丈夫、俺がついているから』と言われているようだった。
彼がいてくれるから何があろうと大丈夫だと思えた。
私が彼らに向かって微笑みかけると、エドワードは私達に向かって深く頭を下げたあと落ち着いた声で言葉を紡ぐ。
「おめでとう、二人の幸せを心から祝福しているよ。君達なら誰よりも幸せになるだろう」
「感謝する」
最高の笑顔を浮かべて祝福の言葉を贈るエドワードと短い言葉で応じるヒューイ。
対照的な態度の二人だが、気まずい雰囲気ではない。
お互いに尊重しあっている、最低限の言葉で通じている、不思議とそんなふうに感じられた。
エドワードの昔と変わらない笑顔は私に過去を思い出させた。
いろいろなことがあった。
それはただの過去で片付けられるほど簡単ものではない。
愛、苦しみ、悲しみ、…そして別れ。
痛みを忘れることはない。
「大丈夫か、マリア」
心配そうに声を掛けてくるヒューイ。
彼は私の些細な表情の変化にも気づいてくる。
「私は大丈夫よ、心配しないで」
無理はしていない。
過去を忘れはしないけれども、囚われてはいない。
過去は変えられないけど、未来は自分で選ぶことができる。
迷うこともある、間違えることも。
でも人は生きている限り歩き続けなければならない。
その先にあるだろう幸せに向かって。
私だけでない、エドワードもラミアもそれぞれもがいていた。悩みながら苦しみ必死に手を伸ばして今の未来を掴んだ。
それは自分で選んだもの。
きっと今の幸せに辿り着くには全て必要だったことなのだろう。
どれが欠けてもここには辿り着けなかった。
辿り着けて良かったと今は心からそう思えている。
だって私の隣には愛する人がいる。
そっと隣りにいるヒューイを見ると彼は優しく見つめ返してくれる。
…これが私の幸せ。
そしてダイソン伯爵夫妻に目をやる。彼らはぐずるケビンを二人で一生懸命にあやしている。
…あれが彼らが築いた幸せ。
私はそれを今、心から祝福できている。
誰もが幸せになれたのだと思った。
運命は残酷だったけれども、あの試練の先に新たな幸せを隠していた。
これが正解かなんて誰も知らない。
それは他人には推し量れないもの。
自分自身だけが決める権利がある。
『幸せかどうかは私が決めていい』
これで良かったのだ。迷いなんてない、今の幸せを他の何かと比べることもない。
私はダイソン伯爵夫妻に声を掛ける。
「祝福してくれて有り難うございます。
私はヒューイと巡り会い、こうして愛する人と結ばれることが出来ました。過去を振り返ることもありませんし、あの時に戻りたいと思うこともありません。
本当に…今が幸せですから。
この幸せを大切にしていきます。
お互いに笑顔でいられる道を見つけられて良かったと心から思っています。
エドワード様とラミア様もどうか末永くお幸せに」
この言葉を笑顔で伝えることが辛くない。
それが私にとって答えであり、すべてだった。
「有り難う」
「…有り難うございます、マリア様」
エドワードは笑顔のまま優しい眼差しを向けてくる。ラミアも微笑みながら返事を返してくれる。
ケビンをその胸に抱いている彼女は優しい母の顔をしていた。
でもなぜかその幸せそうな横顔に一瞬だけ何か影のようなものが見えた気がした。
ふとラミアがこちらに顔を向ける、でも視線は合わない。
「あの…マリア様、私は……」
彼女が小さな声で私の名を呼び何かを言い掛けるが、その後の言葉は続かなかった。
エドワードが何かを言いたそうな表情をしているのに気づく。
祝福の言葉だろうか、それとも…。
私が立ち止まるべきかと躊躇していると、隣りにいるヒューイが私の背に大きな手を添えてながらそっとその歩みを止める。
それはエドワードの為ではなく、躊躇していた私の為だろう。『大丈夫、俺がついているから』と言われているようだった。
彼がいてくれるから何があろうと大丈夫だと思えた。
私が彼らに向かって微笑みかけると、エドワードは私達に向かって深く頭を下げたあと落ち着いた声で言葉を紡ぐ。
「おめでとう、二人の幸せを心から祝福しているよ。君達なら誰よりも幸せになるだろう」
「感謝する」
最高の笑顔を浮かべて祝福の言葉を贈るエドワードと短い言葉で応じるヒューイ。
対照的な態度の二人だが、気まずい雰囲気ではない。
お互いに尊重しあっている、最低限の言葉で通じている、不思議とそんなふうに感じられた。
エドワードの昔と変わらない笑顔は私に過去を思い出させた。
いろいろなことがあった。
それはただの過去で片付けられるほど簡単ものではない。
愛、苦しみ、悲しみ、…そして別れ。
痛みを忘れることはない。
「大丈夫か、マリア」
心配そうに声を掛けてくるヒューイ。
彼は私の些細な表情の変化にも気づいてくる。
「私は大丈夫よ、心配しないで」
無理はしていない。
過去を忘れはしないけれども、囚われてはいない。
過去は変えられないけど、未来は自分で選ぶことができる。
迷うこともある、間違えることも。
でも人は生きている限り歩き続けなければならない。
その先にあるだろう幸せに向かって。
私だけでない、エドワードもラミアもそれぞれもがいていた。悩みながら苦しみ必死に手を伸ばして今の未来を掴んだ。
それは自分で選んだもの。
きっと今の幸せに辿り着くには全て必要だったことなのだろう。
どれが欠けてもここには辿り着けなかった。
辿り着けて良かったと今は心からそう思えている。
だって私の隣には愛する人がいる。
そっと隣りにいるヒューイを見ると彼は優しく見つめ返してくれる。
…これが私の幸せ。
そしてダイソン伯爵夫妻に目をやる。彼らはぐずるケビンを二人で一生懸命にあやしている。
…あれが彼らが築いた幸せ。
私はそれを今、心から祝福できている。
誰もが幸せになれたのだと思った。
運命は残酷だったけれども、あの試練の先に新たな幸せを隠していた。
これが正解かなんて誰も知らない。
それは他人には推し量れないもの。
自分自身だけが決める権利がある。
『幸せかどうかは私が決めていい』
これで良かったのだ。迷いなんてない、今の幸せを他の何かと比べることもない。
私はダイソン伯爵夫妻に声を掛ける。
「祝福してくれて有り難うございます。
私はヒューイと巡り会い、こうして愛する人と結ばれることが出来ました。過去を振り返ることもありませんし、あの時に戻りたいと思うこともありません。
本当に…今が幸せですから。
この幸せを大切にしていきます。
お互いに笑顔でいられる道を見つけられて良かったと心から思っています。
エドワード様とラミア様もどうか末永くお幸せに」
この言葉を笑顔で伝えることが辛くない。
それが私にとって答えであり、すべてだった。
「有り難う」
「…有り難うございます、マリア様」
エドワードは笑顔のまま優しい眼差しを向けてくる。ラミアも微笑みながら返事を返してくれる。
ケビンをその胸に抱いている彼女は優しい母の顔をしていた。
でもなぜかその幸せそうな横顔に一瞬だけ何か影のようなものが見えた気がした。
ふとラミアがこちらに顔を向ける、でも視線は合わない。
「あの…マリア様、私は……」
彼女が小さな声で私の名を呼び何かを言い掛けるが、その後の言葉は続かなかった。
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