51 / 57
48.婚約の報告②(珍獣編)
しおりを挟む
またもや名指しされた憐れなパンター伯爵夫人はなんとか笑って誤魔化そうとする。
「おっほっほ、大した話はしていなかったので覚えておりませんわ。殿下申し訳ございません、お役に立てませんわ」
その言葉に殿下が薄ら笑いを浮かべる。
「覚えていない?では思い出せるように手助けするとしよう。『クーガー』とか『ハンター』とか『玉の…』とか言っていたな。
私は口唇術が使える、つい魅惑的な口元には目が引き寄せられてしまうのだ、許せ。それでハンター伯爵夫人思い出したか?」
殿下はじわりじわりと追い詰めていく。
「えっと…玉のこ、ではなく…宝玉のように美しいクーガー伯爵令嬢のご婚約をみなで祝福しておりましたわ!ハンターとは、自分の名を間違えてしまいましたの、『パンターとハンター』似ておりますわね、おっほっほっ」
「ああそうか、それなら納得がいく。
ハンター伯爵夫人、我が側近の婚約を祝福してくれて私からも礼を言おう。
信頼する側近であり貴重な友人でもあるヒューイ・マイルとマリア嬢の婚約を私も我が事のように喜んでいる。
流石にこんな目出度い話を変な噂に置き換える器用な輩はいないだろう」
貶めるような噂を嬉々として話していた珍獣達は殿下の言葉に青ざめていく。
これは王太子である殿下が祝福している婚約。
それを侮辱するなどあってはならないことだ。
「有り難いお言葉、恐悦至極に存じます。殿下、そんな輩は流石にいないでしょう。殿下が認めた婚約を貶めるなど、王家の存在を軽んじているも同然でございます。殿下を侮り馬鹿扱いしているとも言えるでしょう」
更にヒューイが周りに容赦なく圧を掛けていく。
なぜか巻き込まれた殿下は『……そ、そこまで言う必要あるか…ヒューイ』と頬を引きつらせている。
これで終わりかと思っていたが、そうではなかった。
「殿下、愚息とマリア嬢の婚約を祝福してくださり誠に有り難うございます。
この度の婚約、私と妻も心からの喜んでおります。もしこの気持ちに水を差すような者がおりましたら、マイル侯爵家当主の名にかけてブチッと潰してみせましょう」
息子と同じ極上の笑みを浮かべて颯爽と登場したのはマイル侯爵。なんと三人目の魔王降臨だった。
『まさか、本気か…』と誰かが呟いている。
「勿論だ…と言いたいが、きっと私の出番などないだろうな」
そう言って息子を振り返る。
「そうでしょうね。父上の手を煩わせるというか楽しみを譲るつもりはありませんから」
きっぱりと言い切るヒューイ。
親子揃って鋭い視線で周りをゆっくりとなめるように見ている。それはまるで『お前ら、覚悟はあるんだろうなっ』と脅しているかのようで…。
…いいえ、これは完全に脅しているわ。
やりすぎだから……。
未来の義父と婚約者の暴走を前にして、もう私は『ほっほほ…冗談ですわ』と優雅に微笑み続けるしかなかった。
ヒューイの計画は効果抜群だった。
手加減なし、使えるものは王太子だろうと利用するという斬新な牽制に珍獣達はふらふらだ。
それ以降は誰もが祝福の言葉しか口にしかなった。
正しくは出来なかったというべきだろうか。
それからはちょっと元気のない珍獣達。
ヒューイは貴重な観察を楽しもうと意地の悪い笑みを浮かべている。どうやらまだ許していないらしい。
『もう許してあげてもいいんじゃないかしら?』
『……もう少しだけだ』
『ヒューイ、駄目よ』
『……分かった』
ちょっと不満げな表情の彼だったけれども『もう夫婦みたいな会話だな』と喜んでいる。
実は私もそう思っていたので嬉しかった。
でも私のほうが尻に敷いているような会話に『かかあ天下にならないように気をつけよう』とも思っていた。
そんな私の心を読んだのだろうか。
『かかあ天下でもいいぞ、大歓迎だ』
そう言ってくるヒューイはやはり魔王の笑みを浮かべていた。
「おっほっほ、大した話はしていなかったので覚えておりませんわ。殿下申し訳ございません、お役に立てませんわ」
その言葉に殿下が薄ら笑いを浮かべる。
「覚えていない?では思い出せるように手助けするとしよう。『クーガー』とか『ハンター』とか『玉の…』とか言っていたな。
私は口唇術が使える、つい魅惑的な口元には目が引き寄せられてしまうのだ、許せ。それでハンター伯爵夫人思い出したか?」
殿下はじわりじわりと追い詰めていく。
「えっと…玉のこ、ではなく…宝玉のように美しいクーガー伯爵令嬢のご婚約をみなで祝福しておりましたわ!ハンターとは、自分の名を間違えてしまいましたの、『パンターとハンター』似ておりますわね、おっほっほっ」
「ああそうか、それなら納得がいく。
ハンター伯爵夫人、我が側近の婚約を祝福してくれて私からも礼を言おう。
信頼する側近であり貴重な友人でもあるヒューイ・マイルとマリア嬢の婚約を私も我が事のように喜んでいる。
流石にこんな目出度い話を変な噂に置き換える器用な輩はいないだろう」
貶めるような噂を嬉々として話していた珍獣達は殿下の言葉に青ざめていく。
これは王太子である殿下が祝福している婚約。
それを侮辱するなどあってはならないことだ。
「有り難いお言葉、恐悦至極に存じます。殿下、そんな輩は流石にいないでしょう。殿下が認めた婚約を貶めるなど、王家の存在を軽んじているも同然でございます。殿下を侮り馬鹿扱いしているとも言えるでしょう」
更にヒューイが周りに容赦なく圧を掛けていく。
なぜか巻き込まれた殿下は『……そ、そこまで言う必要あるか…ヒューイ』と頬を引きつらせている。
これで終わりかと思っていたが、そうではなかった。
「殿下、愚息とマリア嬢の婚約を祝福してくださり誠に有り難うございます。
この度の婚約、私と妻も心からの喜んでおります。もしこの気持ちに水を差すような者がおりましたら、マイル侯爵家当主の名にかけてブチッと潰してみせましょう」
息子と同じ極上の笑みを浮かべて颯爽と登場したのはマイル侯爵。なんと三人目の魔王降臨だった。
『まさか、本気か…』と誰かが呟いている。
「勿論だ…と言いたいが、きっと私の出番などないだろうな」
そう言って息子を振り返る。
「そうでしょうね。父上の手を煩わせるというか楽しみを譲るつもりはありませんから」
きっぱりと言い切るヒューイ。
親子揃って鋭い視線で周りをゆっくりとなめるように見ている。それはまるで『お前ら、覚悟はあるんだろうなっ』と脅しているかのようで…。
…いいえ、これは完全に脅しているわ。
やりすぎだから……。
未来の義父と婚約者の暴走を前にして、もう私は『ほっほほ…冗談ですわ』と優雅に微笑み続けるしかなかった。
ヒューイの計画は効果抜群だった。
手加減なし、使えるものは王太子だろうと利用するという斬新な牽制に珍獣達はふらふらだ。
それ以降は誰もが祝福の言葉しか口にしかなった。
正しくは出来なかったというべきだろうか。
それからはちょっと元気のない珍獣達。
ヒューイは貴重な観察を楽しもうと意地の悪い笑みを浮かべている。どうやらまだ許していないらしい。
『もう許してあげてもいいんじゃないかしら?』
『……もう少しだけだ』
『ヒューイ、駄目よ』
『……分かった』
ちょっと不満げな表情の彼だったけれども『もう夫婦みたいな会話だな』と喜んでいる。
実は私もそう思っていたので嬉しかった。
でも私のほうが尻に敷いているような会話に『かかあ天下にならないように気をつけよう』とも思っていた。
そんな私の心を読んだのだろうか。
『かかあ天下でもいいぞ、大歓迎だ』
そう言ってくるヒューイはやはり魔王の笑みを浮かべていた。
227
お気に入りに追加
6,930
あなたにおすすめの小説

【完結】愛したあなたは本当に愛する人と幸せになって下さい
高瀬船
恋愛
伯爵家のティアーリア・クランディアは公爵家嫡男、クライヴ・ディー・アウサンドラと婚約秒読みの段階であった。
だが、ティアーリアはある日クライヴと彼の従者二人が話している所に出くわし、聞いてしまう。
クライヴが本当に婚約したかったのはティアーリアの妹のラティリナであったと。
ショックを受けるティアーリアだったが、愛する彼の為自分は身を引く事を決意した。
【誤字脱字のご報告ありがとうございます!小っ恥ずかしい誤字のご報告ありがとうございます!個別にご返信出来ておらず申し訳ございません( •́ •̀ )】

【完結】王太子殿下が幼馴染を溺愛するので、あえて応援することにしました。
かとるり
恋愛
王太子のオースティンが愛するのは婚約者のティファニーではなく、幼馴染のリアンだった。
ティファニーは何度も傷つき、一つの結論に達する。
二人が結ばれるよう、あえて応援する、と。

氷の貴婦人
羊
恋愛
ソフィは幸せな結婚を目の前に控えていた。弾んでいた心を打ち砕かれたのは、結婚相手のアトレーと姉がベッドに居る姿を見た時だった。
呆然としたまま結婚式の日を迎え、その日から彼女の心は壊れていく。
感情が麻痺してしまい、すべてがかすみ越しの出来事に思える。そして、あんなに好きだったアトレーを見ると吐き気をもよおすようになった。
毒の強めなお話で、大人向けテイストです。

その眼差しは凍てつく刃*冷たい婚約者にウンザリしてます*
音爽(ネソウ)
恋愛
義妹に優しく、婚約者の令嬢には極寒対応。
塩対応より下があるなんて……。
この婚約は間違っている?
*2021年7月完結


【完結】貴方の傍に幸せがないのなら
なか
恋愛
「みすぼらしいな……」
戦地に向かった騎士でもある夫––ルーベル。
彼の帰りを待ち続けた私––ナディアだが、帰還した彼が発した言葉はその一言だった。
彼を支えるために、寝る間も惜しんで働き続けた三年。
望むままに支援金を送って、自らの生活さえ切り崩してでも支えてきたのは……また彼に会うためだったのに。
なのに、なのに貴方は……私を遠ざけるだけではなく。
妻帯者でありながら、この王国の姫と逢瀬を交わし、彼女を愛していた。
そこにはもう、私の居場所はない。
なら、それならば。
貴方の傍に幸せがないのなら、私の選択はただ一つだ。
◇◇◇◇◇◇
設定ゆるめです。
よろしければ、読んでくださると嬉しいです。

婚約者を想うのをやめました
かぐや
恋愛
女性を侍らしてばかりの婚約者に私は宣言した。
「もうあなたを愛するのをやめますので、どうぞご自由に」
最初は婚約者も頷くが、彼女が自分の側にいることがなくなってから初めて色々なことに気づき始める。
*書籍化しました。応援してくださった読者様、ありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる