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45.大切なもの④〜エドワード視点〜
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俺が何よりも大切にしたいものは変わらない。
それは愛する人の幸せ。
彼女の幸せが何よりも優先すべきもの。
そのためにするべきことなんて決まっている。
分かっていたけど、認めたくなかっただけだ。
もう止めよう、…進もう。
分かっていたんだ、もう俺は彼女の隣りにいるべき人間ではない。
それはもうヒューイの役目だ。
マリアを愛し、彼女に愛されているのは彼だから。
『俺ではない』
目の前にいる彼に視線をやる。彼は俺が正しい答えを出すのを静かに待っている。
「……ありがとう、ヒューイ。
俺は君のお陰で今度こそ間違えずに済みそうだ」
彼のお陰で辿り着けた答えだった。
「勘違いするな、お前の為じゃない。
俺が守るべき人はマリアだけだ。
だがお前が俺の従兄弟であることは変わらない。縁は切らずにおいてやる」
礼を言う俺に優しい言葉は掛けてはこない。
だがヒューイの眼差しは穏やかになっている。
俺の覚悟がちゃんと伝わっているのだろう。
そうだな、お前はそういう奴だ。
上手く周りを操って進むべき道に導いてくれる。
ありがとう…ヒューイ。
彼が思い描いていた通りにきっと俺は動いているのだろう。だが不満なんてない、それは俺が望んでいたものでもあるから。
背中を押してくれる人が弱い俺には必要だった。
だから感謝しかなかった。
そして愛しい人をこれ以上悲しませずに済むことに心から安堵していた。
トントンッ…。
扉がノックされマイル侯爵家の侍女がヒューイに客人の来訪を告げる。
「ヒューイ様、お約束していたお客様がいらっしゃっています。どちらにお通しいたしますか?」
「分かった、天気がいいから東屋に案内しておいてくれ。すぐに俺もそちらに向かう」
侍女は『承知致しました』と言うと丁寧にお辞儀をしてから部屋から出ていった。
ヒューイが俺の方を見て声を掛けてくる。
「会っていくか…」
誰にとも言わずにそう尋ねてきた。きっと彼の約束の相手はマリアなのだろう。
俺のことを信じてくれているようで嬉しかった。
だがまだ駄目だと思った、彼女に会うのは今じゃない。ちゃんといろいろなことを済ませてからでないと会う資格はない。
それにまだ…笑える自信はなかった。
彼女は俺の笑顔が好きだったから、今度会う時は最高の笑顔で会いたい。
「いや、止めておくよ」
俺の言葉に頷く彼は、俺がそう言うのを分かっていたような顔をしている。
彼には敵わない、何もかも…。
だからこそ俺は彼女の幸せを確信しているのだ。
深く頭を下げる俺の背をバンッと叩き『じゃあなっ』とヒューイは振り返らずに部屋から出ていった。
その後すぐに、マリアに会わないように案内され俺はそっとマイル侯爵邸から去っていった。
その足で久しぶりに屋敷に戻ると、ケビンを抱いたラミアが目を潤ませ俺を出迎えてくれた。
「おかえりなさい、エディ…」
「ラミア、ただいま」
久しぶりに会うとは思えない簡素な挨拶。
彼女は俺に何も聞いてこない。
一生懸命にぎこちない笑顔を浮かべながら俺の外套を脱がせてくれ、いつもと変わらずに接しようとしてくれる。
記憶を取り戻していなかったら『夫を愛している健気な妻』にしか見えなかっただろう。
だが今はそう思えない自分がいる。
記憶を取り戻した俺はわずかに感じた違和感をつなぎ合わせ、今まで信じてい事実に疑問を覚えていた。
『本当にそうだったのか…』と。
それは愛する人の幸せ。
彼女の幸せが何よりも優先すべきもの。
そのためにするべきことなんて決まっている。
分かっていたけど、認めたくなかっただけだ。
もう止めよう、…進もう。
分かっていたんだ、もう俺は彼女の隣りにいるべき人間ではない。
それはもうヒューイの役目だ。
マリアを愛し、彼女に愛されているのは彼だから。
『俺ではない』
目の前にいる彼に視線をやる。彼は俺が正しい答えを出すのを静かに待っている。
「……ありがとう、ヒューイ。
俺は君のお陰で今度こそ間違えずに済みそうだ」
彼のお陰で辿り着けた答えだった。
「勘違いするな、お前の為じゃない。
俺が守るべき人はマリアだけだ。
だがお前が俺の従兄弟であることは変わらない。縁は切らずにおいてやる」
礼を言う俺に優しい言葉は掛けてはこない。
だがヒューイの眼差しは穏やかになっている。
俺の覚悟がちゃんと伝わっているのだろう。
そうだな、お前はそういう奴だ。
上手く周りを操って進むべき道に導いてくれる。
ありがとう…ヒューイ。
彼が思い描いていた通りにきっと俺は動いているのだろう。だが不満なんてない、それは俺が望んでいたものでもあるから。
背中を押してくれる人が弱い俺には必要だった。
だから感謝しかなかった。
そして愛しい人をこれ以上悲しませずに済むことに心から安堵していた。
トントンッ…。
扉がノックされマイル侯爵家の侍女がヒューイに客人の来訪を告げる。
「ヒューイ様、お約束していたお客様がいらっしゃっています。どちらにお通しいたしますか?」
「分かった、天気がいいから東屋に案内しておいてくれ。すぐに俺もそちらに向かう」
侍女は『承知致しました』と言うと丁寧にお辞儀をしてから部屋から出ていった。
ヒューイが俺の方を見て声を掛けてくる。
「会っていくか…」
誰にとも言わずにそう尋ねてきた。きっと彼の約束の相手はマリアなのだろう。
俺のことを信じてくれているようで嬉しかった。
だがまだ駄目だと思った、彼女に会うのは今じゃない。ちゃんといろいろなことを済ませてからでないと会う資格はない。
それにまだ…笑える自信はなかった。
彼女は俺の笑顔が好きだったから、今度会う時は最高の笑顔で会いたい。
「いや、止めておくよ」
俺の言葉に頷く彼は、俺がそう言うのを分かっていたような顔をしている。
彼には敵わない、何もかも…。
だからこそ俺は彼女の幸せを確信しているのだ。
深く頭を下げる俺の背をバンッと叩き『じゃあなっ』とヒューイは振り返らずに部屋から出ていった。
その後すぐに、マリアに会わないように案内され俺はそっとマイル侯爵邸から去っていった。
その足で久しぶりに屋敷に戻ると、ケビンを抱いたラミアが目を潤ませ俺を出迎えてくれた。
「おかえりなさい、エディ…」
「ラミア、ただいま」
久しぶりに会うとは思えない簡素な挨拶。
彼女は俺に何も聞いてこない。
一生懸命にぎこちない笑顔を浮かべながら俺の外套を脱がせてくれ、いつもと変わらずに接しようとしてくれる。
記憶を取り戻していなかったら『夫を愛している健気な妻』にしか見えなかっただろう。
だが今はそう思えない自分がいる。
記憶を取り戻した俺はわずかに感じた違和感をつなぎ合わせ、今まで信じてい事実に疑問を覚えていた。
『本当にそうだったのか…』と。
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