44 / 57
41.新たな婚約②
しおりを挟む
「我が息子ながら目が高い奴だと褒めてやりましたよ。
女嫌いなのかと心配していた時期もありましたが、理想が高いだけだったようで安心しました。
それからマリア嬢の気持ちはどうなんだと聞いたら『大丈夫だ』というので、それならば善は急げだと今日お邪魔しております。
もしクーガー伯爵の許可が頂けるなら是非ともマリア嬢を我が家の嫁に迎えたいと望んでいます」
マイル侯爵の言葉に父は喜びから涙ぐんでいる。
母は目に涙を浮かべながらも、まだ表情は崩していない。
「失礼ながらお尋ねします。マリアはダイソン伯爵家に嫁いでいた時、…とても不幸な結果に終わりました。そのことをご承知の上でのお言葉でしょうか?」
母は私が子を産めなかったことを言っているのだ。これを知らずに私を受け入れて、後から知ったのではきっと私が肩身の狭い思いをすると危惧している。母として気にならないはずはない。曖昧なまま嫁がせたくはないのだろう。
この質問にマイル侯爵夫人が答える。
「それについては知っております。とても残念なことでマリア様がどんなにお辛かったか心中お察しします。
でもそれは誰にでも起こる可能性があります、マリア様だからというわけではありません。
まだ生まれていない子のことは誰にも分かりませし、それはコウノトリに任せたいと思っています。
もし子に恵まれなくても親戚から養子を取ればいいだけのこと、そんな家はたくさんありますわ。
ですから安心して嫁いできては頂けませんか?」
その温かい言葉に偽りなんてなかった。母はただただ頭を下げ続け、感極まってむせび泣いている。
私も救われた思いだった。
誰にとっても子供に恵まれるかどうかは分からない。子が流れたことが原因で子が生まれにくいとは診断されていないけれど、やはりずっと気になっていた。
夫人は私の方を見て更に話しを続ける。
「今回のこと先代のダイソン伯爵夫妻にも事前に話をしておいたほうが良いと思って伝えました。そうしたらお二人は頭を下げ『マリア嬢は本当に素晴らしい方です。どうか大切にしてあげてください』と何度も言っておりました。
離縁した婚家からこんなふうに思われているなんて、マリア様は本当に素敵な方ですね」
まさか先代のダイソン伯爵夫妻が私の為に頭を下げてくれていたなんて知らなかった。
私から縁を切ったのにいまだに私のことを気遣ってくれているなんて…。
心のなかで彼らにそっと頭を下げ感謝をする。
本当に私は周りに恵まれている、そう思っているとヒューイが声を掛けてくる。
「マリア、違うぞ。恵まれているんじゃない、君にみんなが引き寄せられているんだ。だから変な輩が惹き寄せられる前に俺と正式に婚約をしよう」
焦るように彼は言ってくる。両家の家族はにこやかな笑みを浮かべて私の言葉を待っている。
私の言葉なんてもう決まっているからすぐに返事をする。
「ヒューイ、不束者ですがよろしくお願いします」
「寡黙で近寄り難い男だがよろしく、マリア」
照れながらも見つめ合う私達に『おめでとう』『幸せにね』と温かい言葉を両家の家族から送られる。部屋に控えていた我が家の執事や侍女達までも涙ぐみながら『おめでとうございます、マリアお嬢様』と拍手をしてくれていた。
本来ならマイル侯爵夫妻とヒューイはそのまま帰るはずだったが、兄の強い勧めもあり一緒に祝杯を上げることになった。
両家も打ち解け和やかに話していたが、途中から兄が豹変した。
『ヒューイ、妹を頼んだぞー。こいつは本当に可愛い妹なんだ、もし泣かせたら許さんからな…。うっう…マリアーお兄様はとっても嬉しいんだぞ~』
泣きながらそう叫んでいた。
兄が泣き上戸だと初めて知った…。
お兄様…もうやめて…。
私がどんなに諌めても兄の暴走は止まらず、両親は『ノーマンは妹思いだから』と笑っているだけ。
そのうち兄ノーマンはヒューイに『妹の長所』なるものを語り出し、『俺のほうがマリアのことは知っている』と返り討ちにあってまた泣いていた…。
両親達はそれを見ながら笑っていてたが、私は穴があったら入りたいと心の底から思いながら固まっていた。
こうして私とヒューイの婚約は皆から祝福され早々に結ばれた。それと同時に結婚式の日取りも決められ、なんとそれは三ヶ月後となった。
それは貴族としては異例の速さだった。準備など間に合うのかと心配したが、ヒューイはマイル侯爵家と側近の権力を存分に利用して、なんの問題もなく全ての準備を終わらせてしまった。
女嫌いなのかと心配していた時期もありましたが、理想が高いだけだったようで安心しました。
それからマリア嬢の気持ちはどうなんだと聞いたら『大丈夫だ』というので、それならば善は急げだと今日お邪魔しております。
もしクーガー伯爵の許可が頂けるなら是非ともマリア嬢を我が家の嫁に迎えたいと望んでいます」
マイル侯爵の言葉に父は喜びから涙ぐんでいる。
母は目に涙を浮かべながらも、まだ表情は崩していない。
「失礼ながらお尋ねします。マリアはダイソン伯爵家に嫁いでいた時、…とても不幸な結果に終わりました。そのことをご承知の上でのお言葉でしょうか?」
母は私が子を産めなかったことを言っているのだ。これを知らずに私を受け入れて、後から知ったのではきっと私が肩身の狭い思いをすると危惧している。母として気にならないはずはない。曖昧なまま嫁がせたくはないのだろう。
この質問にマイル侯爵夫人が答える。
「それについては知っております。とても残念なことでマリア様がどんなにお辛かったか心中お察しします。
でもそれは誰にでも起こる可能性があります、マリア様だからというわけではありません。
まだ生まれていない子のことは誰にも分かりませし、それはコウノトリに任せたいと思っています。
もし子に恵まれなくても親戚から養子を取ればいいだけのこと、そんな家はたくさんありますわ。
ですから安心して嫁いできては頂けませんか?」
その温かい言葉に偽りなんてなかった。母はただただ頭を下げ続け、感極まってむせび泣いている。
私も救われた思いだった。
誰にとっても子供に恵まれるかどうかは分からない。子が流れたことが原因で子が生まれにくいとは診断されていないけれど、やはりずっと気になっていた。
夫人は私の方を見て更に話しを続ける。
「今回のこと先代のダイソン伯爵夫妻にも事前に話をしておいたほうが良いと思って伝えました。そうしたらお二人は頭を下げ『マリア嬢は本当に素晴らしい方です。どうか大切にしてあげてください』と何度も言っておりました。
離縁した婚家からこんなふうに思われているなんて、マリア様は本当に素敵な方ですね」
まさか先代のダイソン伯爵夫妻が私の為に頭を下げてくれていたなんて知らなかった。
私から縁を切ったのにいまだに私のことを気遣ってくれているなんて…。
心のなかで彼らにそっと頭を下げ感謝をする。
本当に私は周りに恵まれている、そう思っているとヒューイが声を掛けてくる。
「マリア、違うぞ。恵まれているんじゃない、君にみんなが引き寄せられているんだ。だから変な輩が惹き寄せられる前に俺と正式に婚約をしよう」
焦るように彼は言ってくる。両家の家族はにこやかな笑みを浮かべて私の言葉を待っている。
私の言葉なんてもう決まっているからすぐに返事をする。
「ヒューイ、不束者ですがよろしくお願いします」
「寡黙で近寄り難い男だがよろしく、マリア」
照れながらも見つめ合う私達に『おめでとう』『幸せにね』と温かい言葉を両家の家族から送られる。部屋に控えていた我が家の執事や侍女達までも涙ぐみながら『おめでとうございます、マリアお嬢様』と拍手をしてくれていた。
本来ならマイル侯爵夫妻とヒューイはそのまま帰るはずだったが、兄の強い勧めもあり一緒に祝杯を上げることになった。
両家も打ち解け和やかに話していたが、途中から兄が豹変した。
『ヒューイ、妹を頼んだぞー。こいつは本当に可愛い妹なんだ、もし泣かせたら許さんからな…。うっう…マリアーお兄様はとっても嬉しいんだぞ~』
泣きながらそう叫んでいた。
兄が泣き上戸だと初めて知った…。
お兄様…もうやめて…。
私がどんなに諌めても兄の暴走は止まらず、両親は『ノーマンは妹思いだから』と笑っているだけ。
そのうち兄ノーマンはヒューイに『妹の長所』なるものを語り出し、『俺のほうがマリアのことは知っている』と返り討ちにあってまた泣いていた…。
両親達はそれを見ながら笑っていてたが、私は穴があったら入りたいと心の底から思いながら固まっていた。
こうして私とヒューイの婚約は皆から祝福され早々に結ばれた。それと同時に結婚式の日取りも決められ、なんとそれは三ヶ月後となった。
それは貴族としては異例の速さだった。準備など間に合うのかと心配したが、ヒューイはマイル侯爵家と側近の権力を存分に利用して、なんの問題もなく全ての準備を終わらせてしまった。
126
お気に入りに追加
6,807
あなたにおすすめの小説
誰かのために優しい嘘をつく
矢野りと
恋愛
――まただ…、また始まってしまう……。
死んだはずなのに私は目覚め、また同じ日を繰り返す。もう何度目なのかそれすら分からなくなっている。そして、どんなに必死に足掻いても結果が変わることはない。
『…ア‥オサ…。アオ、アオッ、アオッ―――!』
愛する夫は私の体を掻き抱きながら、私の名を繰り返す。
死ぬ間際に聞くあなたの悲痛な叫びに――私の心は抉られる。
あなたを残して逝きたくないと思いながら、彼の腕の中で私はいつも死を迎えた。
いつか終わりが来るのだろうか。
もしこれが最後なら……。
変わらぬ結果を変えようと時間を費やすよりも、あなたと過ごす僅かな時間を私は心に刻みたい……。
※この作品の設定などは架空のものです。
※お話があわない時はそっと閉じていただけたら幸いです。
※感想欄のネタバレ配慮はありません。
【完結】さようなら、王子様。どうか私のことは忘れて下さい
ハナミズキ
恋愛
悪女と呼ばれ、愛する人の手によって投獄された私。
理由は、嫉妬のあまり彼の大切な女性を殺そうとしたから。
彼は私の婚約者だけど、私のことを嫌っている。そして別の人を愛している。
彼女が許せなかった。
でも今は自分のことが一番許せない。
自分の愚かな行いのせいで、彼の人生を狂わせてしまった。両親や兄の人生も狂わせてしまった。
皆が私のせいで不幸になった。
そして私は失意の中、地下牢で命を落とした。
──はずだったのに。
気づいたら投獄の二ヶ月前に時が戻っていた。どうして──? わからないことだらけだけど、自分のやるべきことだけはわかる。
不幸の元凶である私が、皆の前から消えること。
貴方への愛がある限り、
私はまた同じ過ちを繰り返す。
だから私は、貴方との別れを選んだ。
もう邪魔しないから。
今世は幸せになって。
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
元サヤのお話です。ゆるふわ設定です。
合わない方は静かにご退場願います。
R18版(本編はほぼ同じでR18シーン追加版)はムーンライトに時間差で掲載予定ですので、大人の方はそちらもどうぞ。
24話か25話くらいの予定です。
王妃は涙を流さない〜ただあなたを守りたかっただけでした〜
矢野りと
恋愛
理不尽な理由を掲げて大国に攻め入った母国は、数カ月後には敗戦国となった。
王政を廃するか、それとも王妃を人質として差し出すかと大国は選択を迫ってくる。
『…本当にすまない、ジュンリヤ』
『謝らないで、覚悟はできています』
敗戦後、王位を継いだばかりの夫には私を守るだけの力はなかった。
――たった三年間の別れ…。
三年後に帰国した私を待っていたのは国王である夫の変わらない眼差し。……とその隣で微笑む側妃だった。
『王妃様、シャンナアンナと申します』
もう私の居場所はなくなっていた…。
※設定はゆるいです。
【完結】記憶を失くした旦那さま
山葵
恋愛
副騎士団長として働く旦那さまが部下を庇い頭を打ってしまう。
目が覚めた時には、私との結婚生活も全て忘れていた。
彼は愛しているのはリターナだと言った。
そんな時、離縁したリターナさんが戻って来たと知らせが来る…。
おかえりなさいと言いたくて……
矢野りと
恋愛
神託によって勇者に選ばれたのは私の夫だった。妻として誇らしかった、でもそれ以上に苦しかった。勇者と言う立場は常に死と隣り合わせだから。
『ルト、おめでとう。……でも無理しないで、絶対に帰ってきて』
『ああ、約束するよ。愛している、ミワエナ』
再会を誓いあった後、私は涙を流しながら彼の背を見送った。
そして一年後。立派に務めを果たした勇者一行は明日帰還するという。
王都は勇者一行の帰還を喜ぶ声と、真実の愛で結ばれた勇者と聖女への祝福の声で満ちていた。
――いつの間にか私との婚姻はなかったことになっていた。
明日、彼は私のところに帰ってくるかしら……。
私は彼を一人で待っている。『おかえりなさい』とただそれだけ言いたくて……。
※作者的にはバッドエンドではありません。
※お話が合わないと感じましたら、ブラウザバックでお願いします。
※感想欄のネタバレ配慮はありません(_ _)
※書籍化作品『一番になれなかった身代わり王女が見つけた幸せ』(旧題『一番になれなかった私が見つけた幸せ』)の前日譚でもありますが、そちらを読んでいなくとも大丈夫です。
幸せな番が微笑みながら願うこと
矢野りと
恋愛
偉大な竜王に待望の番が見つかったのは10年前のこと。
まだ幼かった番は王宮で真綿に包まれるように大切にされ、成人になる16歳の時に竜王と婚姻を結ぶことが決まっていた。幸せな未来は確定されていたはずだった…。
だが獣人の要素が薄い番の扱いを周りは間違えてしまう。…それは大切に想うがあまりのすれ違いだった。
竜王の番の心は少しづつ追いつめられ蝕まれていく。
※設定はゆるいです。
愛することはないと言われて始まったのですから、どうか最後まで愛さないままでいてください。
田太 優
恋愛
「最初に言っておく。俺はお前を愛するつもりはない。だが婚約を解消する意思もない。せいぜい問題を起こすなよ」
それが婚約者から伝えられたことだった。
最初から冷めた関係で始まり、結婚してもそれは同じだった。
子供ができても無関心。
だから私は子供のために生きると決意した。
今になって心を入れ替えられても困るので、愛さないままでいてほしい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる