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41.新たな婚約②

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「我が息子ながら目が高い奴だと褒めてやりましたよ。
女嫌いなのかと心配していた時期もありましたが、理想が高いだけだったようで安心しました。

それからマリア嬢の気持ちはどうなんだと聞いたら『大丈夫だ』というので、それならば善は急げだと今日お邪魔しております。
もしクーガー伯爵の許可が頂けるなら是非ともマリア嬢を我が家の嫁に迎えたいと望んでいます」


マイル侯爵の言葉に父は喜びから涙ぐんでいる。
母は目に涙を浮かべながらも、まだ表情は崩していない。


「失礼ながらお尋ねします。マリアはダイソン伯爵家に嫁いでいた時、…とても不幸な結果に終わりました。そのことをご承知の上でのお言葉でしょうか?」


母は私が子を産めなかったことを言っているのだ。これを知らずに私を受け入れて、後から知ったのではきっと私が肩身の狭い思いをすると危惧している。母として気にならないはずはない。曖昧なまま嫁がせたくはないのだろう。

この質問にマイル侯爵夫人が答える。


「それについては知っております。とても残念なことでマリア様がどんなにお辛かったか心中お察しします。
でもそれは誰にでも起こる可能性があります、マリア様だからというわけではありません。
まだ生まれていない子のことは誰にも分かりませし、それはコウノトリに任せたいと思っています。
もし子に恵まれなくても親戚から養子を取ればいいだけのこと、そんな家はたくさんありますわ。
ですから安心して嫁いできては頂けませんか?」


その温かい言葉に偽りなんてなかった。母はただただ頭を下げ続け、感極まってむせび泣いている。

私も救われた思いだった。
誰にとっても子供に恵まれるかどうかは分からない。子が流れたことが原因で子が生まれにくいとは診断されていないけれど、やはりずっと気になっていた。

夫人は私の方を見て更に話しを続ける。

「今回のこと先代のダイソン伯爵夫妻にも事前に話をしておいたほうが良いと思って伝えました。そうしたらお二人は頭を下げ『マリア嬢は本当に素晴らしい方です。どうか大切にしてあげてください』と何度も言っておりました。
離縁した婚家からこんなふうに思われているなんて、マリア様は本当に素敵な方ですね」


まさか先代のダイソン伯爵夫妻が私の為に頭を下げてくれていたなんて知らなかった。
私から縁を切ったのにいまだに私のことを気遣ってくれているなんて…。
心のなかで彼らにそっと頭を下げ感謝をする。


本当に私は周りに恵まれている、そう思っているとヒューイが声を掛けてくる。


「マリア、違うぞ。恵まれているんじゃない、君にみんなが引き寄せられているんだ。だから変な輩が惹き寄せられる前に俺と正式に婚約をしよう」


焦るように彼は言ってくる。両家の家族はにこやかな笑みを浮かべて私の言葉を待っている。
私の言葉なんてもう決まっているからすぐに返事をする。


「ヒューイ、不束者ですがよろしくお願いします」

「寡黙で近寄り難い男だがよろしく、マリア」


照れながらも見つめ合う私達に『おめでとう』『幸せにね』と温かい言葉を両家の家族から送られる。部屋に控えていた我が家の執事や侍女達までも涙ぐみながら『おめでとうございます、マリアお嬢様』と拍手をしてくれていた。



本来ならマイル侯爵夫妻とヒューイはそのまま帰るはずだったが、兄の強い勧めもあり一緒に祝杯を上げることになった。
両家も打ち解け和やかに話していたが、途中から兄が豹変した。

『ヒューイ、妹を頼んだぞー。こいつは本当に可愛い妹なんだ、もし泣かせたら許さんからな…。うっう…マリアーお兄様はとっても嬉しいんだぞ~』

泣きながらそう叫んでいた。
兄が泣き上戸だと初めて知った…。

 お兄様…もうやめて…。

私がどんなに諌めても兄の暴走は止まらず、両親は『ノーマンは妹思いだから』と笑っているだけ。

そのうち兄ノーマンはヒューイに『妹の長所』なるものを語り出し、『俺のほうがマリアのことは知っている』と返り討ちにあってまた泣いていた…。

両親達はそれを見ながら笑っていてたが、私は穴があったら入りたいと心の底から思いながら固まっていた。




こうして私とヒューイの婚約は皆から祝福され早々に結ばれた。それと同時に結婚式の日取りも決められ、なんとそれは三ヶ月後となった。

それは貴族としては異例の速さだった。準備など間に合うのかと心配したが、ヒューイはマイル侯爵家と側近の権力を存分に利用して、なんの問題もなく全ての準備を終わらせてしまった。

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