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39.開かれた心④
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「マリア、それだけか…?
他に言いたいことがあったら言えばいい。すべてを吐き出してしまえばいい」
私の目を真っ直ぐ見つめヒューイはそう言ってくる。
自分が今酷い顔をしているのは分かっている。涙は流れ続けているし、心の醜さがきっと顔に滲み出ているはず。
でも彼から目を逸らさなかった。
すべてを知った貰ったほうが終りが近い。
そうね、もう何も隠さないわ。
ヒューイ、ありがとう。
…さような…ら…。
もう迷いはなかった。
彼に誰にも言えなかったあの子への想いもすべて聞いてもらおう。
「私ね…絶対に天に召されたあの子のことを忘れないわ。何があろうと私だけはあの子のことを覚えてあげるの。数カ月間しか一緒にいられなかったけれども、愛しいあの子は永遠に宝物だから。
これからどんな人生を送ろうとも私の中からあの子が消えることなんて絶対にないわ」
産声すらあげられなかったのに我が子に囚われ続ける私。自分でない他の男との子供を忘れないと宣言する女性はどんなに面倒な存在だろう。
でもこれだけは譲れない、何があろうと。
どんなにヒューイのことを愛していても…。
これですべてが終わった。
もう彼は私から離れていく。
これしかなかった…。
本当の自分を偽っても、いつか崩れていく。
彼がどんな表情をしているか溢れる涙で見えなかった。でもきっと軽蔑しているのだろう。もしかしたら騙されたと憎んでいるかもしれない。
それも仕方がないこと、すべては自業自得だ。
彼の大きな手が私の頬を流れる涙を優しく何度も拭っていく。
「マリア、忘れる必要なんてない。この世に生まれてくることは叶わなかったけど、君のお腹に数ヶ月いた大切な子供だ。
俺がずっと一緒に忘れないでいる。
それに君の心は汚れてなんていない。
人は誰だって心の中にいろいろな感情を抱えている、それが人間だ。
でも人は自分の行動を選ぶことが出来る。思ったまま怒りをぶつけることや人を陥れることも出来る状況で君はしなかった。
心の葛藤を相手にぶつけずに耐えていた。
それは君自身が選択したことだ。
君はどんなに辛くても相手に慈悲を与えることを自ら選んだ。
そんな自分を誇っていい。
君の周りにいる人達は愚か者ではない、ちゃんと何が真実か見極めて君のそばにいる。
君が本当は酷い人間ならこんなにも素晴らしい人が集まるわけがない。
そうだろう?
そして君は誰よりも幸せになるべきだ。
愛している、マリア。
過去も含めて君のすべてを愛している。
だから心の中にある大切な想いを捨てる必要ない。
どうか俺の手を取ってくれないか。
俺は幸せになりたい。それには君が隣りにいてくれなくては駄目なんだ」
真っ直ぐに愛を紡いでくれる彼から目を逸らすことが出来ない。
本当に…私でいいのだろうか?
差し出された彼の手を掴んでいいのだろうか、許されるのか…。
こんな私でいいの…。
あなたを私は幸せに出来るの…。
私が何も言えずにいると彼は私の手を優しく掴む。
「マリアがいいんだ。俺はマリアを幸せにする、だから君は俺を幸せにしてくれ」
彼から再び告げられた愛の言葉。
本当にどうして彼はいつでも私の欲しい言葉をさらりと言ってくれるのだろう。
彼と一緒に幸せになりたいと心から思えた。
彼の目を見て自分の想いを伝える。それは心にあるただ一つの想い。
「愛しているわ、ヒューイ。あなたと一緒に幸せになりたい」
なんだかひどく遠回りをした気がする。でもこの時間がなかったら私はきっと素直になれなかった。
彼が私の心をゆっくりと溶かしてくれたからこそ、今彼に向き合えている。
大きな身体が私を優しく包み込んでくれ、私も彼の背にそっと腕を回す。私達はこれから一緒に誰よりも幸せになっていく。
他に言いたいことがあったら言えばいい。すべてを吐き出してしまえばいい」
私の目を真っ直ぐ見つめヒューイはそう言ってくる。
自分が今酷い顔をしているのは分かっている。涙は流れ続けているし、心の醜さがきっと顔に滲み出ているはず。
でも彼から目を逸らさなかった。
すべてを知った貰ったほうが終りが近い。
そうね、もう何も隠さないわ。
ヒューイ、ありがとう。
…さような…ら…。
もう迷いはなかった。
彼に誰にも言えなかったあの子への想いもすべて聞いてもらおう。
「私ね…絶対に天に召されたあの子のことを忘れないわ。何があろうと私だけはあの子のことを覚えてあげるの。数カ月間しか一緒にいられなかったけれども、愛しいあの子は永遠に宝物だから。
これからどんな人生を送ろうとも私の中からあの子が消えることなんて絶対にないわ」
産声すらあげられなかったのに我が子に囚われ続ける私。自分でない他の男との子供を忘れないと宣言する女性はどんなに面倒な存在だろう。
でもこれだけは譲れない、何があろうと。
どんなにヒューイのことを愛していても…。
これですべてが終わった。
もう彼は私から離れていく。
これしかなかった…。
本当の自分を偽っても、いつか崩れていく。
彼がどんな表情をしているか溢れる涙で見えなかった。でもきっと軽蔑しているのだろう。もしかしたら騙されたと憎んでいるかもしれない。
それも仕方がないこと、すべては自業自得だ。
彼の大きな手が私の頬を流れる涙を優しく何度も拭っていく。
「マリア、忘れる必要なんてない。この世に生まれてくることは叶わなかったけど、君のお腹に数ヶ月いた大切な子供だ。
俺がずっと一緒に忘れないでいる。
それに君の心は汚れてなんていない。
人は誰だって心の中にいろいろな感情を抱えている、それが人間だ。
でも人は自分の行動を選ぶことが出来る。思ったまま怒りをぶつけることや人を陥れることも出来る状況で君はしなかった。
心の葛藤を相手にぶつけずに耐えていた。
それは君自身が選択したことだ。
君はどんなに辛くても相手に慈悲を与えることを自ら選んだ。
そんな自分を誇っていい。
君の周りにいる人達は愚か者ではない、ちゃんと何が真実か見極めて君のそばにいる。
君が本当は酷い人間ならこんなにも素晴らしい人が集まるわけがない。
そうだろう?
そして君は誰よりも幸せになるべきだ。
愛している、マリア。
過去も含めて君のすべてを愛している。
だから心の中にある大切な想いを捨てる必要ない。
どうか俺の手を取ってくれないか。
俺は幸せになりたい。それには君が隣りにいてくれなくては駄目なんだ」
真っ直ぐに愛を紡いでくれる彼から目を逸らすことが出来ない。
本当に…私でいいのだろうか?
差し出された彼の手を掴んでいいのだろうか、許されるのか…。
こんな私でいいの…。
あなたを私は幸せに出来るの…。
私が何も言えずにいると彼は私の手を優しく掴む。
「マリアがいいんだ。俺はマリアを幸せにする、だから君は俺を幸せにしてくれ」
彼から再び告げられた愛の言葉。
本当にどうして彼はいつでも私の欲しい言葉をさらりと言ってくれるのだろう。
彼と一緒に幸せになりたいと心から思えた。
彼の目を見て自分の想いを伝える。それは心にあるただ一つの想い。
「愛しているわ、ヒューイ。あなたと一緒に幸せになりたい」
なんだかひどく遠回りをした気がする。でもこの時間がなかったら私はきっと素直になれなかった。
彼が私の心をゆっくりと溶かしてくれたからこそ、今彼に向き合えている。
大きな身体が私を優しく包み込んでくれ、私も彼の背にそっと腕を回す。私達はこれから一緒に誰よりも幸せになっていく。
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