上 下
34 / 57

31.ラミアの微笑み

しおりを挟む
ふらつきそうになる身体を必死で周りに悟られないようにする。

ここで倒れるわけにはいかない。
そんな事になったら、一緒に来たヒューイにまで迷惑が掛かってしまう。

不安定な気持ちを抑えようと、自分のざわつく心ではなく違うことに意識を集中させようとする。


それはふと湧き上がってきた違和感。


目の前にいるラミアは己を守るために変わってしまったと思っていた。

彼女はその配慮のなさで私を傷つけていく。本人にとっては『無意識に』でも周りから見たら『平気で』になる。

周りからどう見られるかを考えない貴族はいない。それは低位貴族であっても同じことで、ラミアがそこに全く考えが及ばないとは考えづらい。

追い詰められていたとしても、そんな貴族としての基本中の基本まで忘れてしまうものだろうか。

以前の彼女は謙虚で気遣いを忘れない人だった。
男爵令嬢ゆえに教養など足りない部分はあったけれども、人として欠けているとは思わなかった。あんな関係のなかでも彼女なりにいつも配慮はしていた。

以前の彼女と今の彼女は違いすぎる。
彼女は今の自分をどう思っているのだろう。


なんだか今のラミアは不自然なほどおかしい。



伯爵夫人の重圧が彼女を変えたのだろうか。
いいえ、エドワードやダイソン伯爵家の人達が彼女を追い込むようなことをするとは思えない。そんな人達ではない。

では周りからの悪意?
そうだと最初は思っていたけれども、それだけではない気がする。

周りが見えなくなるくらい過剰に自分を守ろうとしている理由としては軽すぎる。

もっと他のことがあるはず。


 何かに怯えているの…?
 その行動の裏返しであんなこと…をしている?
 


ラミアは積極的に前に出るタイプではなかったけれども、自分の心に真っ直ぐで芯を持っている人だと感じていた。
でも今の彼女はそれを見失っているように思える。

変わったというより彷徨っているのかもしれない。

もしかしたら心が壊れかけている…?
それは考えすぎだろうか。

考えすぎだと思いたいけれども、そう考えると彼女の浅はかとも言える行動に納得がいく。

人は誰しもすべての気持ちを打ち明けられる訳ではない、大なり小なり言えない悩みを心に秘めているのがほとんどだ。


 あなたはいったい何を一人で背負っているの…。 


楽しそうに話す彼女が痛々しく見える。

ふと彼女に尋ねてしまった『ラミア様、幸せですか…』と。その答えは決まっているはずなのに、なぜか胸騒ぎがしてしまう。


「ええ勿論です、マリア様。私は幸せですわ」


期待通りの言葉を紡ぐ彼女は背筋を伸ばしを浮かべている。

その姿は伯爵夫人としてあるべき姿だと貴族達は称賛するだろう。

その表情は完璧に幸せを表現出来ている。
それは…不自然なほどの『完璧さ』だった。



それなのに私には『彼女が泣いている』ようにしか見えなかった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

元妻からの手紙

きんのたまご
恋愛
家族との幸せな日常を過ごす私にある日別れた元妻から一通の手紙が届く。

【完結】愛に裏切られた私と、愛を諦めなかった元夫

紫崎 藍華
恋愛
政略結婚だったにも関わらず、スティーヴンはイルマに浮気し、妻のミシェルを捨てた。 スティーヴンは政略結婚の重要性を理解できていなかった。 そのような男の愛が許されるはずないのだが、彼は愛を貫いた。 捨てられたミシェルも貴族という立場に翻弄されつつも、一つの答えを見出した。

初恋の残滓

あやむろ詩織
恋愛
「もう初恋の夢は見ない」のクリフ視点です。 リクエストいただきましたので、別視点を書いてみました。 お楽しみいただければ幸いです♪ *浮気男側の話になりますので、ばっちこいという方のみお読み下さい。

夫は私を愛してくれない

はくまいキャベツ
恋愛
「今までお世話になりました」 「…ああ。ご苦労様」 彼はまるで長年勤めて退職する部下を労うかのように、妻である私にそう言った。いや、妻で“あった”私に。 二十数年間すれ違い続けた夫婦が別れを決めて、もう一度向き合う話。

愛されていないのですね、ではさようなら。

杉本凪咲
恋愛
夫から告げられた冷徹な言葉。 「お前へ愛は存在しない。さっさと消えろ」 私はその言葉を受け入れると夫の元を去り……

【完結】記憶を失くした旦那さま

山葵
恋愛
副騎士団長として働く旦那さまが部下を庇い頭を打ってしまう。 目が覚めた時には、私との結婚生活も全て忘れていた。 彼は愛しているのはリターナだと言った。 そんな時、離縁したリターナさんが戻って来たと知らせが来る…。

愛することはないと言われて始まったのですから、どうか最後まで愛さないままでいてください。

田太 優
恋愛
「最初に言っておく。俺はお前を愛するつもりはない。だが婚約を解消する意思もない。せいぜい問題を起こすなよ」 それが婚約者から伝えられたことだった。 最初から冷めた関係で始まり、結婚してもそれは同じだった。 子供ができても無関心。 だから私は子供のために生きると決意した。 今になって心を入れ替えられても困るので、愛さないままでいてほしい。

あなたが望んだ、ただそれだけ

cyaru
恋愛
いつものように王城に妃教育に行ったカーメリアは王太子が侯爵令嬢と茶会をしているのを目にする。日に日に大きくなる次の教育が始まらない事に対する焦り。 国王夫妻に呼ばれ両親と共に登城すると婚約の解消を言い渡される。 カーメリアの両親はそれまでの所業が腹に据えかねていた事もあり、領地も売り払い夫人の実家のある隣国へ移住を決めた。 王太子イデオットの悪意なき本音はカーメリアの心を粉々に打ち砕いてしまった。 失意から寝込みがちになったカーメリアに追い打ちをかけるように見舞いに来た王太子イデオットとエンヴィー侯爵令嬢は更に悪意のない本音をカーメリアに浴びせた。 公爵はイデオットの態度に激昂し、処刑を覚悟で2人を叩きだしてしまった。 逃げるように移り住んだリアーノ国で静かに静養をしていたが、そこに1人の男性が現れた。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※胸糞展開ありますが、クールダウンお願いします。  心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。イラっとしたら現実に戻ってください。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

処理中です...