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25.近づく距離④
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「じゃあ決まりだな。マリアは俺と一緒に夜会に参加しよう。これは侯爵子息と伯爵令嬢の約束だから、もう覆すことは許されない。
もしどちらかが約束を反故にしたらマイル侯爵家とクーガー伯爵家の責任問題にまで発展するな。お互いに責任重大だな、あっはっは」
そう言うヒューイはなんだかとても嬉しそうで、家同士の責任問題について言及している顔ではない。それに最後はしっかりと笑い声まで上げている。
その様は寡黙な側近というより陽気な側近にしか見えない。
両親も彼の言葉に『うん、うん』と頷きながらお互いに耳元で囁きあっている。
「そうなったら我が家は社交界から追放かな、それは困ったぞ先祖に顔向けができない」
「あらあら、それはとても困るわね。そうなったらどうしましょうか?あっ、でもこれは親である私達が穏便に対処すればいいことだから、そうなってもマリアには内緒にしておきましょう」
その声は丸聞こえで、囁きあってる風を装っているが完全に確信犯だ。
それに困ったと言いながら全然困った顔はしていない。いつも以上に晴れやかな表情を浮かべている。
兄にいたってはニヤニヤしながら『マリア、家を潰してこのお兄様を泣かすなよ』と軽口を叩いてとても楽しげだ。
明らかに秘蔵のお酒の飲みすぎだろう兄を軽く睨むが酔っ払いには全く効果はなかった。
「マリア、お兄様はとっても嬉しいんだぞ~。はっはっは、今日は最高だな!」
そう言いながら私にぎゅっと抱きついてくる。
お酒臭いが温かい抱擁。
そういえば幼い頃に私が泣いていると兄はいつも私を抱きしめて『お兄ちゃまがいるからな』と慰めてくれた。
兄にとって私はいくつになっても手の掛かる妹なのだろう。
私だってもう子供ではないのに。
お兄様ったら子供扱いして。
それがくすぐったいけれども嬉しくて、『もう飲み過ぎです、お兄様』と厳しめの口調で窘めながら兄の抱擁を笑って受け入れる。
大きな声で『彼と夜会に行きたい』と宣言するように叫んでしまった自分が今は恥ずかしいくて仕方がない。
でも自分の言葉を否定はしない。
行くこと自体は嫌ではない…というより彼との約束はとても嬉しかったから。
それは誤魔化しようがない事実。
一歩を踏み出すことをさっきまで躊躇していたのが嘘のようだ。
家族が優しく私の背中を押してくれ、ヒューイが一歩踏み出せずにいる私の手をしっかりと引っ張てくれたから、私は前に進むことが出来た。
彼らが臆病な私に勇気を与えてくれた。
「ありがとう」
私が今告げるべき言葉はこれだけ。
だから心を込めてみんなにこの言葉を贈る。
両親も兄もヒューイも笑顔を浮かべて、
「なんのことだ?」
「なんのことかしら?」
「…なに言ってるんだ?」
「俺こそありがとう、マリア」
と何もしていないふりをする。みんなの名演技ならぬ迷演技に思わず私が笑ってしまうとみんなつられるように声を上げて笑っている。
幸せを感じる瞬間。
彼らの優しさに包まれている私はどんなことでも乗り越えられる。
心からそう思っていると、不安なんていつの間にか消えてなくなっていた。
もしどちらかが約束を反故にしたらマイル侯爵家とクーガー伯爵家の責任問題にまで発展するな。お互いに責任重大だな、あっはっは」
そう言うヒューイはなんだかとても嬉しそうで、家同士の責任問題について言及している顔ではない。それに最後はしっかりと笑い声まで上げている。
その様は寡黙な側近というより陽気な側近にしか見えない。
両親も彼の言葉に『うん、うん』と頷きながらお互いに耳元で囁きあっている。
「そうなったら我が家は社交界から追放かな、それは困ったぞ先祖に顔向けができない」
「あらあら、それはとても困るわね。そうなったらどうしましょうか?あっ、でもこれは親である私達が穏便に対処すればいいことだから、そうなってもマリアには内緒にしておきましょう」
その声は丸聞こえで、囁きあってる風を装っているが完全に確信犯だ。
それに困ったと言いながら全然困った顔はしていない。いつも以上に晴れやかな表情を浮かべている。
兄にいたってはニヤニヤしながら『マリア、家を潰してこのお兄様を泣かすなよ』と軽口を叩いてとても楽しげだ。
明らかに秘蔵のお酒の飲みすぎだろう兄を軽く睨むが酔っ払いには全く効果はなかった。
「マリア、お兄様はとっても嬉しいんだぞ~。はっはっは、今日は最高だな!」
そう言いながら私にぎゅっと抱きついてくる。
お酒臭いが温かい抱擁。
そういえば幼い頃に私が泣いていると兄はいつも私を抱きしめて『お兄ちゃまがいるからな』と慰めてくれた。
兄にとって私はいくつになっても手の掛かる妹なのだろう。
私だってもう子供ではないのに。
お兄様ったら子供扱いして。
それがくすぐったいけれども嬉しくて、『もう飲み過ぎです、お兄様』と厳しめの口調で窘めながら兄の抱擁を笑って受け入れる。
大きな声で『彼と夜会に行きたい』と宣言するように叫んでしまった自分が今は恥ずかしいくて仕方がない。
でも自分の言葉を否定はしない。
行くこと自体は嫌ではない…というより彼との約束はとても嬉しかったから。
それは誤魔化しようがない事実。
一歩を踏み出すことをさっきまで躊躇していたのが嘘のようだ。
家族が優しく私の背中を押してくれ、ヒューイが一歩踏み出せずにいる私の手をしっかりと引っ張てくれたから、私は前に進むことが出来た。
彼らが臆病な私に勇気を与えてくれた。
「ありがとう」
私が今告げるべき言葉はこれだけ。
だから心を込めてみんなにこの言葉を贈る。
両親も兄もヒューイも笑顔を浮かべて、
「なんのことだ?」
「なんのことかしら?」
「…なに言ってるんだ?」
「俺こそありがとう、マリア」
と何もしていないふりをする。みんなの名演技ならぬ迷演技に思わず私が笑ってしまうとみんなつられるように声を上げて笑っている。
幸せを感じる瞬間。
彼らの優しさに包まれている私はどんなことでも乗り越えられる。
心からそう思っていると、不安なんていつの間にか消えてなくなっていた。
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