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21.頻繁な訪問②
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ヒューイ様の訪問によって孤児院はより良い環境へと変化していく。
彼はここに学びに来ている立場だったが、ただ与えられた仕事をこなしているだけではなかった。
自ら積極的に現場の声を聞いて周り問題点を洗い出し、それを迅速に改善していく。
『出来ることはやってしまったほうが良い』とさらっと言っているが、それがどれほど大変なことなのか現場にいる私達が一番良く分かっている。
見かけを整えるだけではなく本質から改善していくことは、口で言うのは簡単だが実際には困難を極めることだ。
その方法や他に関係することの調整など考えなくてはいけないことは山程ある。
だから今まで改善したくても私達では無理だったのだ。
それをヒューイ様は子供達の為だけにやってくれた。
ここの改善は彼に課せられた仕事ではないので彼の評価には繋がらないのに。
それは国のやり方というより、彼自身の物事に対する真摯な姿勢だと分かっている。
真似したくて、誰もが出来ることではない。
彼のような人は貴重だ。
王太子本人から直に声を掛けられ、彼が側近になったという話も頷ける。
そんな彼が孤児院になくてはならない存在として認められるのに時間は掛からなかった。
そしてあっという間に半年以上が経ち、彼がここにいるのが当たり前のようになった頃、無邪気な子供達が彼に疑問をぶつけていた。
「ねえねえ、ヒューイおじさんって暇なの?毎週のように遊びに来てるでしょ。お仕事大丈夫なの?」
純粋に大好きなおじさんの心配をする女の子に悪気などない。子供には大人の仕事の話を教えたりしていないのだから。
だがその言葉に答えたのはヒューイ様ではなくゲイルだった。
「おいっ!そんなことを聞くなよ。
ヒューイおじさんが悲しくなっちゃうだろう。
毎週ここで俺達と遊んでいるってことはさぁ、大丈夫じゃないってことなんだよ。
…きっとさせんされちゃってるんだ。
こういう時はさ、そっとしてあげるもんだ。分かったな、みんな!ヒューイおじさん、俺達がついているから元気出せよ」
空気を読んでいるようで、全く正しく読めていないゲイル。
彼は背伸びしてヒューイ様の肩をバンバンと叩いている。彼なりに元気づけているつもりなのだろう。
……いい子よ、いい子なんだけど…。
ゲイル、違うから…。
仕事のことが絡んでいるのでどこまで話していいのだろうか。…そもそも私はフォローすべきだろうか。
正しい対応を模索していると、ヒューイ様の豪快な笑い声が響く。
「はー、はっはは!ありがとうな、心配をしてくれて。だが大丈夫だ、ちゃんと仕事はしているから。
ここに来ること自体が仕事でもあるけど、みんなに会いたくて来ているのも事実だな。公私ともに充実しているから俺にとってここにいることは一石二鳥なんだ。だから心配は無用だ、あっはっは」
彼はただ事実を告げて笑っている。
でも彼の言葉に私は無意識に反応してしまった。
『会いたくて来ている』
それは子供達に向けられた純粋な言葉。
分かっているのに、そこに私が含まれているように錯覚してしまう。
な、なに勘違いしているのかしらっ。
…私ったら一体どうしたのよ。
『大丈夫ならよかったー!』とはしゃぐ子供達に彼は優しい眼差しを向けている。
その彼の横顔から目が離せずにいると、ふと彼の視線が私へと向けられた。
一瞬反応が遅れ、私は彼と見つめ合う形になってしまう。
あっ…、えっと……。
彼が私に向ける眼差しはとても温かい。
その眼差しから、なぜか不自然に私は目を逸らしてしまう。
決して嫌だったのではない、でも彼の真っ直ぐな瞳を見ると全てを見透かされそうな気がした…。
なんだろう…。
別に疚しいことなんてないのに。
どうしたのかしら…。
彼に知られて困ることなどないはずなのに、なぜ私は視線を逸したのだろうか。
自分がどうしてそんな行動をしたのか分からない。
でもなぜか顔が火照って動悸のようなものを感じる。具合は悪くないはずなのに、年齢のせいだろうか…。
火照った顔を隠そうと、私は眉間にしわを寄せて誤魔化そうとする。
人は慌てていると変な行動を取ってしまうらしい。
まさに今の私はそうだった。
「あー!マリア先生、そこにしわが出てる。
大変だ!!可愛くなくなっちゃうよ」
ゲイルが私の眉間を指差し、本気で心配してくれる。子供の素直さがこの瞬間だけは恨めしい。
「何言ってるんだ、ゲイル。どんなマリア先生も可愛い決まっているだろっ」
声を張り上げてそう叫ぶヒューイ様。
その後すぐにゲイルの髪の毛をくしゃくしゃと撫で回している。
それは何かを誤魔化しているような仕草に見えた。
だけれども、何を誤魔化したいのだろう。
…気のせいかしら?
だってヒューイ様の言葉って社交辞令…よね。
彼は私に気を遣ってそう言ったのは承知している。
でも彼の口から紡がれた言葉が嬉しくて堪らない。
社交辞令でも久しぶりだとそう感じるものなのだろうか。
『ありがとう、ヒューイ様』と素直に言う私は、なにか忘れていたものを取り戻したように感じていた。
彼はここに学びに来ている立場だったが、ただ与えられた仕事をこなしているだけではなかった。
自ら積極的に現場の声を聞いて周り問題点を洗い出し、それを迅速に改善していく。
『出来ることはやってしまったほうが良い』とさらっと言っているが、それがどれほど大変なことなのか現場にいる私達が一番良く分かっている。
見かけを整えるだけではなく本質から改善していくことは、口で言うのは簡単だが実際には困難を極めることだ。
その方法や他に関係することの調整など考えなくてはいけないことは山程ある。
だから今まで改善したくても私達では無理だったのだ。
それをヒューイ様は子供達の為だけにやってくれた。
ここの改善は彼に課せられた仕事ではないので彼の評価には繋がらないのに。
それは国のやり方というより、彼自身の物事に対する真摯な姿勢だと分かっている。
真似したくて、誰もが出来ることではない。
彼のような人は貴重だ。
王太子本人から直に声を掛けられ、彼が側近になったという話も頷ける。
そんな彼が孤児院になくてはならない存在として認められるのに時間は掛からなかった。
そしてあっという間に半年以上が経ち、彼がここにいるのが当たり前のようになった頃、無邪気な子供達が彼に疑問をぶつけていた。
「ねえねえ、ヒューイおじさんって暇なの?毎週のように遊びに来てるでしょ。お仕事大丈夫なの?」
純粋に大好きなおじさんの心配をする女の子に悪気などない。子供には大人の仕事の話を教えたりしていないのだから。
だがその言葉に答えたのはヒューイ様ではなくゲイルだった。
「おいっ!そんなことを聞くなよ。
ヒューイおじさんが悲しくなっちゃうだろう。
毎週ここで俺達と遊んでいるってことはさぁ、大丈夫じゃないってことなんだよ。
…きっとさせんされちゃってるんだ。
こういう時はさ、そっとしてあげるもんだ。分かったな、みんな!ヒューイおじさん、俺達がついているから元気出せよ」
空気を読んでいるようで、全く正しく読めていないゲイル。
彼は背伸びしてヒューイ様の肩をバンバンと叩いている。彼なりに元気づけているつもりなのだろう。
……いい子よ、いい子なんだけど…。
ゲイル、違うから…。
仕事のことが絡んでいるのでどこまで話していいのだろうか。…そもそも私はフォローすべきだろうか。
正しい対応を模索していると、ヒューイ様の豪快な笑い声が響く。
「はー、はっはは!ありがとうな、心配をしてくれて。だが大丈夫だ、ちゃんと仕事はしているから。
ここに来ること自体が仕事でもあるけど、みんなに会いたくて来ているのも事実だな。公私ともに充実しているから俺にとってここにいることは一石二鳥なんだ。だから心配は無用だ、あっはっは」
彼はただ事実を告げて笑っている。
でも彼の言葉に私は無意識に反応してしまった。
『会いたくて来ている』
それは子供達に向けられた純粋な言葉。
分かっているのに、そこに私が含まれているように錯覚してしまう。
な、なに勘違いしているのかしらっ。
…私ったら一体どうしたのよ。
『大丈夫ならよかったー!』とはしゃぐ子供達に彼は優しい眼差しを向けている。
その彼の横顔から目が離せずにいると、ふと彼の視線が私へと向けられた。
一瞬反応が遅れ、私は彼と見つめ合う形になってしまう。
あっ…、えっと……。
彼が私に向ける眼差しはとても温かい。
その眼差しから、なぜか不自然に私は目を逸らしてしまう。
決して嫌だったのではない、でも彼の真っ直ぐな瞳を見ると全てを見透かされそうな気がした…。
なんだろう…。
別に疚しいことなんてないのに。
どうしたのかしら…。
彼に知られて困ることなどないはずなのに、なぜ私は視線を逸したのだろうか。
自分がどうしてそんな行動をしたのか分からない。
でもなぜか顔が火照って動悸のようなものを感じる。具合は悪くないはずなのに、年齢のせいだろうか…。
火照った顔を隠そうと、私は眉間にしわを寄せて誤魔化そうとする。
人は慌てていると変な行動を取ってしまうらしい。
まさに今の私はそうだった。
「あー!マリア先生、そこにしわが出てる。
大変だ!!可愛くなくなっちゃうよ」
ゲイルが私の眉間を指差し、本気で心配してくれる。子供の素直さがこの瞬間だけは恨めしい。
「何言ってるんだ、ゲイル。どんなマリア先生も可愛い決まっているだろっ」
声を張り上げてそう叫ぶヒューイ様。
その後すぐにゲイルの髪の毛をくしゃくしゃと撫で回している。
それは何かを誤魔化しているような仕草に見えた。
だけれども、何を誤魔化したいのだろう。
…気のせいかしら?
だってヒューイ様の言葉って社交辞令…よね。
彼は私に気を遣ってそう言ったのは承知している。
でも彼の口から紡がれた言葉が嬉しくて堪らない。
社交辞令でも久しぶりだとそう感じるものなのだろうか。
『ありがとう、ヒューイ様』と素直に言う私は、なにか忘れていたものを取り戻したように感じていた。
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