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18.思わぬ再会①

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領地で私を待っていたのは温かい歓迎と新鮮な空気と静かな時間。

そのどれもが私の傷ついた心を癒やしてくれる。



屋敷の裏にある森を散策しながら冷たい空気を深く吸い込む。その冷たさは心地良く、心を落ち着かせてくれる。


なんだか久しぶりにちゃんと息を吸えたような感じがした。


思えば元夫が行方知れずになってからずっと私は気が張っていた。彼の帰ってくる場所を守り続けることで、彼の生存に必死に縋っていた。
そして彼が奇跡の生還を果たし私の元に帰って来てくれても気が休まることはなかった。以前とは違う張りつめた糸が心に巻きつき耐えられないほどの息苦しさに苛まれていた。


けれどもやっとそれらから開放された。



ほっとした思いと淋しさとそれに心の奥にしまった愛と…自分でも把握しきれない多くの感情を抱えているけれども、息苦しさはもう感じない。

まだ先のことは何も決まっていないけれど、あのとき離縁を選んだことを後悔してはいない。

…一度たりとも。


私のことを案じてくれる人達に囲まれて少しづつだけど、笑えるようになっていく。
心からの笑えているかと問われれば、それはまだ『否』だ。

『ゆっくりでいいから』と家族や友人達が言ってくれるから、焦ってはいない。





静かに暮らしている私に、両親と兄のノーマンは『いつまでもここにいて良いから』と優しく寄り添ってくれる。
あちらの家でのこともすべて把握しているはずだけど、私から話さない限り聞いてくることもない。

離縁したとはいえ伯爵令嬢の私には『後添え』の申込みも来ているようだが、そのどれもをクーガー伯爵家当主である父は断ってくれているようだ。

出戻った伯爵令嬢など厄介者扱いされても仕方がない存在なのに、家族は『マリアが笑っていればそれでいい』とどこまでも優しい。


そのお陰なのだろう、前に進もうと言う気持ちが私に芽生えてくる。


クーガー伯爵家では慈善活動に力を入れている。私も嫁ぐ前は孤児院の訪問などを行っていた。

子供達の笑い声や孤児院で子供達と遊んで過ごした時間を思い出す。

そのどれもが愛おしいかった。


 ……また会いたいな、子供達に。
 
 
それは心からの想い。

一時は無邪気なの声さえも辛い時期があったけれど、…もう大丈夫だと思えた。 
 




そして私は孤児院で子供達に勉強を教え始めた。

動きやすい服を身に纏い、子供を傷つけるかもしれない装飾品を外し『マリア先生!』と呼ばれる毎日。

子供達は私を見極めようといろいろと試すようなことをしてくるので、私も本気で向かい合う。
反抗して逃げる子だっているし、一日だって同じ日はなく悩みは尽きない。


でも不思議とやめたいとは思わなかった。


あっという間に一ヶ月が過ぎていき、ある日子供達が私の周りになぜか集まってきた。

『みんな、どうしたの?』

私の問いかけにもじもじとしている子供達。急かすことなく目線を合わせるようにしゃがんで待っていると一人の男の子が前に出てくる。

『あのさ、…マリア先生って意外とやるじゃん。
ちょっと行儀がよすぎるけどさ、俺たちの仲間にしてやるよ!』

照れながらそう言ったのは一番私に反抗的だったゲイルだった。他の子達も『マリア先生、だいすき!』と口々に言ってくれる。


子供達に受け入れられた瞬間だった。


『ありがとう、嬉しいわ!』

私が嬉しさのあまりゲイルに抱きついたら、他の子供達も『わたしも!』『ぼくも!』と言って抱きついてきて、おしくらまんじゅうのような状態にみんな大笑いする。


それは私もで、気づいたらは一緒になって大きな口を開け笑っている自分がいた。


 私…笑っているの?
 そうよ、笑えているわ!


貴族令嬢としては失格だけれども、誰もそんな私を咎める人はいない。
心からの笑顔を取り戻せた私に家族も『笑顔のマリアが一番素敵だな』と言ってくれ、充実した日々を過ごしていく。







いつも通り朝から孤児院に行った日のこと。

じゃんけんで負けた私が鬼になり、子供達は孤児院の広い庭を逃げ回っている。
手加減なしで追いかけているはずなのに、誰も捕まらない。

「マリア先生ー!おそいよ、もっとはやく走らなくっちゃ。いつまでたっても鬼のままだよー」

「はぁ、はぁ…ちょっと待って。
もうこれ以上は無理……」


元気な子供達に対して、私は髪も乱れて息も絶え絶えになっている。足の長さでは負けていないはずなのに、完全に年齢が響いてる。


 確かにこのままだと永遠に鬼の気がする…。
 …若さには勝てな…い。
 う、うう…情けないわね。
 

ゼィゼィしながらそんなことを考えていると、後ろから声を掛けてくる人がいた。


「…マリア…嬢…?
マリア・クーガー伯爵令嬢か?」


ここではみんな私を『マリア先生』としか呼ばないのに、呼ばれたのは貴族としての私だった。

誰かしらと振り向いた私の視線の先には、孤児院の柵にしがみついて一生懸命に笑いを堪えている男性の姿があった。

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