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7.別れ①

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彼への気持ちがなくなったわけではない。
そんなに簡単消えるものだったら、茨の道を進んだりしない。


でもどうしようもなく疲れてしまったのだ。

心が削られていくと身体まで重くなっていくらしい。自分が自分ではなくなっていく、抜け殻のように感じてしまう。



私がこの家に残ったのは、エドが私との愛を思い出してくれるかもという期待が捨てきれなかったから。

でも彼が思い出す気配はない。
周りからも失った記憶を聞かされても、『そうか…』というだけ。

思い出そうとしていない人にこれ以上どうすればいいのだろうか。

 
 思い出したくないの?
 それともこのままでいいの…。
 そうね、このままでいいのよね。
 あなたは幸せなのだから……。


彼は私が話す思い出を聞き流す、彼にとってそれは他人の記憶だからそれも仕方がないのだろう。

私と彼の溝が埋まることはない。
私が苦しみながらここにいる意味はあるのだろうか。


…意味なんてない、最初からなかった。


愛しているけど、それだけでこの状況は乗り越えられないことを知る。


 もういいかな…、すべてを捨てて逃げていいかな…。
 
 こんなに弱くてごめんね…。
 許してくれる?
 わ、私だけは…忘れない…から。


『すべてを手放してしまいたい』

そう思うのに時間は掛からなかった。それくらいに心も体も悲鳴を上げ限界だった…。


私は夫であるエドワードと離縁する道を選ぶことにした。

今更だ罵倒される覚悟は出来ていた。散々周りを振り回しこの結果を選ぶなんて自分でも呆れるくらい勝手だと思う。

でもあの時の私には『離縁』という決断は出来なかった。遠回りした今の私だからこそ選べるのだ。


エドに話す前に私の浅はかな行いで振り回すことになった義父母達に自分の考えと謝罪を伝えた。

『申し訳ありません、エドワードとは離縁しようと思います。
反対を押し切ってまで我儘を通したのに、私は弱くて『彼を待つこと』が出来ませんでした。
このままここにいたら、私は…。
ただ振り回すだけの結果になって本当に申し訳ございません、お許しください』

『マリア。良いんだよ、これで君の気持ちに区切りがついたならそれでいいんだ。本当に愚息が迷惑を掛けてすまなかった』

『…ごめんなさいね、マリア』

『義姉上、今まで兄の為に有り難うございました』


義家族は私を責めることはなかった。事態をより混乱させただけの我儘な嫁だと罵ってもいいのにそうしない。

それどころか私に向かって『本当には申し訳なかった』と言って深く頭を下げてくる。



『短い間でしたが、この家に嫁いで幸せでした。本当にお世話になりました…』



 お義父様とお義母様の義娘でいられたら…。
 義姉としていろいろしてあげたかった…。
 
 

別れを告げた私はその思いを伝げることはなかった。それを口にしたら残された者達にしこりが残るから。
義父母達はエドやラミアとこれからも家族として関係が続いていく、だから元嫁となる私は静かに去ったほうがいい。




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