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18.予期せぬ再会②〜エラ視点〜
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私が外を見ているのに気がつきライも外にいるのが誰だか気がついた。
カルアをあやしながら冷めた口調で訊ねてくる。
「母さん、あれどうする?
そのまま帰ってくれそうにない雰囲気を醸し出しているよね。僕が出ていって追い払おうか?」
15歳になり私よりも背が高くなったライはもう母に縋って泣いていた三年前とは違う。母である私から見ても頼りになる存在だ。
でもこんな時にはまだ母として息子を守ってあげたいし頼って欲しいと思ってしまう。
「大丈夫、母さんに任せてちょうだい」
安心させるように笑顔で言う。
「でも…勝手な人だから何考えているか分からないし。離縁してからすぐに浮気相手と再婚しておきながら今頃になって来るなんて…。
絶対に自分にまた都合良く考えているに決まっている!伯母さんだって『義弟は前とは別人だわ、関わりたくない』って言ってたじゃないか。
だから母さんは会わないほうがいい」
ライはそう言って自ら追い払おうとする。
トウイとは離縁したけどアローク子爵家との付き合いはまだ続いているので、元夫のことは義兄の妻からの愚痴という形で多少だが耳に入って来ていたのだ。
ライの気持ちは嬉しいけれどここは母として譲れない。しっかりしていると評判の自慢の息子だけれども私にとってはいくつになっても守るべき存在なのは変わりがない。
「いいからここは母に任せて店の奥に行ってなさい。ほらカルアはお兄ちゃんから離れないって顔をしているわよ、可愛い弟付きで外に出るわけには行かないでしょう。
カルア、にーにと奥の部屋で遊んでいてね」
ライの足元には兄のただならぬ様子を察してなのか大好きな兄から離れまいとがっしりと掴まっているカルアの姿があった。きっとライが外に出て行こうとしたらカルアだってついて行こうとするだろう。もし無理矢理剥がして置いて行ったら『にーに…!』と大泣きするのは目に見えている。
カルアは兄が大好きで、ライはそんな弟にとにかく弱い。
だからカルアのことを出せばライは奥に行ってくれるはずだ。
「仕方がないな、分かったよ。カルアと奥に行ってるけど何かあったら直ぐに呼んで、絶対に無理しないでね!分かった、母さん?」
思った通りライは渋々だが折れてくれた。母思いで弟思いの優しい子なのだ。
「はいはい、分かったわ。ありがとう、ライ。
カルア、にーにと一緒でいいわね」
「ばぅー、にーにー」
心配顔のライと大好きな兄を独り占めして機嫌な様子のカルアは二人揃って奥の部屋へと行ってくれた。
店内は私一人になり、どうしようかと考える。
私は自分から声を掛けるつもりはなかった。
もしこのまま立ち去ってくれたらただの通行人という扱いでいいと思っていた。
わざわざこちらから関わり合いになりたい相手ではない。
はぁ…、このまま去ってくれないかしら。
面倒なのは御免だわ。
入ってきたら無視はできないし…。
今更捨てた妻子に会いに来るなんて何を考えているのかしら?
どうか入ってきませんように祈っていたが…。
カラン、コロンッ♪
扉に付けているベルが鳴り、元夫が俯きながら店の中へと入ってくる。
どうやら祈りは通じなかったらしい。
もうやだわ…。
なんで入ってきちゃうの。
カルアの姿だって見えたでしょうに。
いろいろと察して入ってこないのが普通じゃないの?
溜息を吐くのを必死に堪えている私の方に元夫は迷うことなく近づいてくる。
仕方がないので店用の笑顔で対応することにする。これはお客様として扱うという私からの意思表示、つまり赤の他人ということだ。
この意味を分かってくれればいいけど。
「いらっしゃいませ、エラの刺繍店へようこそ」
お決まりのセリフとお決まりの営業用笑顔で完璧に対応する。
ほら、もう私達は赤の他人なのよ。
もうなんの関係もないから。
このまま大人しく帰ってちょうだいね。
…分かり過ぎるくらいの拒絶。
彼が察して大人の対応をしてくれることを願ったが期待は脆くも崩れ去った。
私の言葉を聞いて顔を上げた彼は嬉しそうな表情を浮かべていた。
…有り得ない。
固まった笑顔の私の頭に浮かんだ言葉はそれだけだった。どうして別れた妻からこういう対応をされてそういう反応になるのだろうか。
笑顔が引き攣る私に構うことなく元夫は嬉しそうに話しだした。その口調は以前と全く同じで不貞のすえ離縁した事実など微塵も感じさせない。
「久しぶりだなエラ。えっと、三年ぶりだけど君はちっとも変わっていないな。思ったより元気そうで安心したよ。
君とライがどうしているか心配で何度か手紙を送ったりもしていたんだが手違いで君のもとには届かなかったのかな…全部戻ってきてしまっていたんだ」
無視もできないので営業用笑顔のまま返事をする。
「お久しぶり、ええと…あなたはだいぶ雰囲気が変わったわね。
ああそれと…手紙の配送に手違いはなかったわ」
人は三年でこんなに変わるのだろうかと思えるほど彼はくたびれて見えた。それになぜか開封せずに送り返した手紙のことを手違いだというのではっきりと間違いではないことを伝えた。
「はっはっは、きっと店を開いているから忙しくて誰からの手紙か確認する暇もなかったのかな。そうこともあるよな、いいんだ気にしていないから。
外で働いたことがないエラはきっと手紙を確認する余裕もないくらいに毎日大変なんだな」
「……手紙はちゃんと確認していたわ。そのうえで送り返したのよ。
毎日充実しているけど大変ではないしそれどころか、」
『楽しいわ』と続けようとした私の言葉を遮りトウイは話し始める。
「いいんだ、離縁して大変なのは分かっているよ。外で働いたことがない君がライを一人で育てながら働くのは辛かっただろう。
エラから幸せな生活を奪ってしまって本当に申し訳ないとは思っている、すまない。
それに別れたとはいえ俺は元夫でライの父親なんだから心配させまいと気を使う必要はないからな、遠慮しないでくれ」
「………」
私は彼に気を使っていないし遠慮なんてしていない、なぜそう思えるのだろうか。
手紙のことだって送り返した理由が彼の中では『俺に心配させまい…』になっているようだ。
…謎でしかない。
私は一言だってそんな事は言っていないのに。
同じ言語を使っているはずなのに会話が全く噛み合わない。
この三年間で彼は身なりや雰囲気が変わっただけでなかった。どうやら人の話を正しく聞く耳をなくしてしまったらしい。
唖然としている私に気づくことなく彼は三年分の穴を埋めるかのように一方的に話しを続けてきた。
カルアをあやしながら冷めた口調で訊ねてくる。
「母さん、あれどうする?
そのまま帰ってくれそうにない雰囲気を醸し出しているよね。僕が出ていって追い払おうか?」
15歳になり私よりも背が高くなったライはもう母に縋って泣いていた三年前とは違う。母である私から見ても頼りになる存在だ。
でもこんな時にはまだ母として息子を守ってあげたいし頼って欲しいと思ってしまう。
「大丈夫、母さんに任せてちょうだい」
安心させるように笑顔で言う。
「でも…勝手な人だから何考えているか分からないし。離縁してからすぐに浮気相手と再婚しておきながら今頃になって来るなんて…。
絶対に自分にまた都合良く考えているに決まっている!伯母さんだって『義弟は前とは別人だわ、関わりたくない』って言ってたじゃないか。
だから母さんは会わないほうがいい」
ライはそう言って自ら追い払おうとする。
トウイとは離縁したけどアローク子爵家との付き合いはまだ続いているので、元夫のことは義兄の妻からの愚痴という形で多少だが耳に入って来ていたのだ。
ライの気持ちは嬉しいけれどここは母として譲れない。しっかりしていると評判の自慢の息子だけれども私にとってはいくつになっても守るべき存在なのは変わりがない。
「いいからここは母に任せて店の奥に行ってなさい。ほらカルアはお兄ちゃんから離れないって顔をしているわよ、可愛い弟付きで外に出るわけには行かないでしょう。
カルア、にーにと奥の部屋で遊んでいてね」
ライの足元には兄のただならぬ様子を察してなのか大好きな兄から離れまいとがっしりと掴まっているカルアの姿があった。きっとライが外に出て行こうとしたらカルアだってついて行こうとするだろう。もし無理矢理剥がして置いて行ったら『にーに…!』と大泣きするのは目に見えている。
カルアは兄が大好きで、ライはそんな弟にとにかく弱い。
だからカルアのことを出せばライは奥に行ってくれるはずだ。
「仕方がないな、分かったよ。カルアと奥に行ってるけど何かあったら直ぐに呼んで、絶対に無理しないでね!分かった、母さん?」
思った通りライは渋々だが折れてくれた。母思いで弟思いの優しい子なのだ。
「はいはい、分かったわ。ありがとう、ライ。
カルア、にーにと一緒でいいわね」
「ばぅー、にーにー」
心配顔のライと大好きな兄を独り占めして機嫌な様子のカルアは二人揃って奥の部屋へと行ってくれた。
店内は私一人になり、どうしようかと考える。
私は自分から声を掛けるつもりはなかった。
もしこのまま立ち去ってくれたらただの通行人という扱いでいいと思っていた。
わざわざこちらから関わり合いになりたい相手ではない。
はぁ…、このまま去ってくれないかしら。
面倒なのは御免だわ。
入ってきたら無視はできないし…。
今更捨てた妻子に会いに来るなんて何を考えているのかしら?
どうか入ってきませんように祈っていたが…。
カラン、コロンッ♪
扉に付けているベルが鳴り、元夫が俯きながら店の中へと入ってくる。
どうやら祈りは通じなかったらしい。
もうやだわ…。
なんで入ってきちゃうの。
カルアの姿だって見えたでしょうに。
いろいろと察して入ってこないのが普通じゃないの?
溜息を吐くのを必死に堪えている私の方に元夫は迷うことなく近づいてくる。
仕方がないので店用の笑顔で対応することにする。これはお客様として扱うという私からの意思表示、つまり赤の他人ということだ。
この意味を分かってくれればいいけど。
「いらっしゃいませ、エラの刺繍店へようこそ」
お決まりのセリフとお決まりの営業用笑顔で完璧に対応する。
ほら、もう私達は赤の他人なのよ。
もうなんの関係もないから。
このまま大人しく帰ってちょうだいね。
…分かり過ぎるくらいの拒絶。
彼が察して大人の対応をしてくれることを願ったが期待は脆くも崩れ去った。
私の言葉を聞いて顔を上げた彼は嬉しそうな表情を浮かべていた。
…有り得ない。
固まった笑顔の私の頭に浮かんだ言葉はそれだけだった。どうして別れた妻からこういう対応をされてそういう反応になるのだろうか。
笑顔が引き攣る私に構うことなく元夫は嬉しそうに話しだした。その口調は以前と全く同じで不貞のすえ離縁した事実など微塵も感じさせない。
「久しぶりだなエラ。えっと、三年ぶりだけど君はちっとも変わっていないな。思ったより元気そうで安心したよ。
君とライがどうしているか心配で何度か手紙を送ったりもしていたんだが手違いで君のもとには届かなかったのかな…全部戻ってきてしまっていたんだ」
無視もできないので営業用笑顔のまま返事をする。
「お久しぶり、ええと…あなたはだいぶ雰囲気が変わったわね。
ああそれと…手紙の配送に手違いはなかったわ」
人は三年でこんなに変わるのだろうかと思えるほど彼はくたびれて見えた。それになぜか開封せずに送り返した手紙のことを手違いだというのではっきりと間違いではないことを伝えた。
「はっはっは、きっと店を開いているから忙しくて誰からの手紙か確認する暇もなかったのかな。そうこともあるよな、いいんだ気にしていないから。
外で働いたことがないエラはきっと手紙を確認する余裕もないくらいに毎日大変なんだな」
「……手紙はちゃんと確認していたわ。そのうえで送り返したのよ。
毎日充実しているけど大変ではないしそれどころか、」
『楽しいわ』と続けようとした私の言葉を遮りトウイは話し始める。
「いいんだ、離縁して大変なのは分かっているよ。外で働いたことがない君がライを一人で育てながら働くのは辛かっただろう。
エラから幸せな生活を奪ってしまって本当に申し訳ないとは思っている、すまない。
それに別れたとはいえ俺は元夫でライの父親なんだから心配させまいと気を使う必要はないからな、遠慮しないでくれ」
「………」
私は彼に気を使っていないし遠慮なんてしていない、なぜそう思えるのだろうか。
手紙のことだって送り返した理由が彼の中では『俺に心配させまい…』になっているようだ。
…謎でしかない。
私は一言だってそんな事は言っていないのに。
同じ言語を使っているはずなのに会話が全く噛み合わない。
この三年間で彼は身なりや雰囲気が変わっただけでなかった。どうやら人の話を正しく聞く耳をなくしてしまったらしい。
唖然としている私に気づくことなく彼は三年分の穴を埋めるかのように一方的に話しを続けてきた。
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