今の幸せを捨て新たな幸せを求めた先にあったもの

矢野りと

文字の大きさ
上 下
16 / 21

16.懐かしい故郷②

しおりを挟む
 「ふえぇ、…」
 ふと唐突に、ヒナの声が聞こえてくる。
 すぐに俺は、顔を振り向いた。
 すると彼女は、表情をくしゃくしゃにしながら、声を殺して泣いているようだ。目の前で起きた事に、ショックを受けてしまっているようだ。
 「くっ。…」
 と俺は苦々しげに呟くと、歯をギリリと強く食い縛った。なんとか呼吸を整えて冷静さを保つ様に努めながら、ゆっくりと語りかけだす。
 「ヒナ。」
 「な、何?」
 「すまない。…俺も油断していた。だから、大変な事に。…」
 「う、ううん。」
 対してヒナも嗚咽を漏らしつつも、弱々しく返事をしており、次第に話に耳を傾けていた。
 「…今、ダフネが蛇達と戦っている。…このまま俺達は森の奥に向かえば、安全な場所に逃げ切れるだろうし。…あの女の強さなら、キリエも助けてくれるかもしれない。…」
 「……ぐすっ、…。」
 「でも、…その場合、全てが終わるまで、ただ黙って何もしないままだ。…これは俺の我が儘かもしれないけど、…黙って待っているなんて出来ない。」
 と、俺は最後に伝えると話を締めくくった。さらに再び彼女の様子を伺う。
 やがて一拍の間の後に、ーー
 「…あたし。…………あたしも、リエちゃんと、……また皆と、アイス食べたい。…」
 と、ヒナは小さな声で呟く。ついでに袖で涙を拭いだしたら、此方に顔を向けてきた。
 そうして互いに視線を交わらせると、頷いていた。同じ意思を感じている。
 俺は意を決すると自ずと立ち上り、思考を巡らせて考えを纏める。
 ほぼ同時に、ヒナも姿勢を変えながら此方の首に腕を回してしっかりと抱きつく。所謂は、おんぶする状態となる。
 そのまま俺達は小声で話をしていき、互いに作戦を伝えて擦り合わせた。ようやくして話が終わるや否や、遺跡の方に向かって走りだして行った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】裏切ったあなたを許さない

紫崎 藍華
恋愛
ジョナスはスザンナの婚約者だ。 そのジョナスがスザンナの妹のセレナとの婚約を望んでいると親から告げられた。 それは決定事項であるため婚約は解消され、それだけなく二人の邪魔になるからと領地から追放すると告げられた。 そこにセレナの意向が働いていることは間違いなく、スザンナはセレナに人生を翻弄されるのだった。

【完結】真実の愛だと称賛され、二人は別れられなくなりました

紫崎 藍華
恋愛
ヘレンは婚約者のティルソンから、面白みのない女だと言われて婚約解消を告げられた。 ティルソンは幼馴染のカトリーナが本命だったのだ。 ティルソンとカトリーナの愛は真実の愛だと貴族たちは賞賛した。 貴族たちにとって二人が真実の愛を貫くのか、それとも破滅へ向かうのか、面白ければどちらでも良かった。

幼馴染だけを優先するなら、婚約者はもう不要なのですね

新野乃花(大舟)
恋愛
アリシアと婚約関係を結んでいたグレイ男爵は、自身の幼馴染であるミラの事を常に優先していた。ある日、グレイは感情のままにアリシアにこう言ってしまう。「出て行ってくれないか」と。アリシアはそのままグレイの前から姿を消し、婚約関係は破棄されることとなってしまった。グレイとミラはその事を大いに喜んでいたが、アリシアがいなくなったことによる弊害を、二人は後に思い知ることとなり…。

嘘をありがとう

七辻ゆゆ
恋愛
「まあ、なんて図々しいのでしょう」 おっとりとしていたはずの妻は、辛辣に言った。 「要するにあなた、貴族でいるために政略結婚はする。けれど女とは別れられない、ということですのね?」 妻は言う。女と別れなくてもいい、仕事と嘘をついて会いに行ってもいい。けれど。 「必ず私のところに帰ってきて、子どもをつくり、よい夫、よい父として振る舞いなさい。神に嘘をついたのだから、覚悟を決めて、その嘘を突き通しなさいませ」

私が出て行った後、旦那様から後悔の手紙がもたらされました

新野乃花(大舟)
恋愛
ルナとルーク伯爵は婚約関係にあったが、その関係は伯爵の妹であるリリアによって壊される。伯爵はルナの事よりもリリアの事ばかりを優先するためだ。そんな日々が繰り返される中で、ルナは伯爵の元から姿を消す。最初こそ何とも思っていなかった伯爵であったが、その後あるきっかけをもとに、ルナの元に後悔の手紙を送ることとなるのだった…。

10年もあなたに尽くしたのに婚約破棄ですか?

水空 葵
恋愛
 伯爵令嬢のソフィア・キーグレスは6歳の時から10年間、婚約者のケヴィン・パールレスに尽くしてきた。  けれど、その努力を裏切るかのように、彼の隣には公爵令嬢が寄り添うようになっていて、婚約破棄を提案されてしまう。  悪夢はそれで終わらなかった。  ケヴィンの隣にいた公爵令嬢から数々の嫌がらせをされるようになってしまう。  嵌められてしまった。  その事実に気付いたソフィアは身の安全のため、そして復讐のために行動を始めて……。  裏切られてしまった令嬢が幸せを掴むまでのお話。 ※他サイト様でも公開中です。 2023/03/09 HOT2位になりました。ありがとうございます。 本編完結済み。番外編を不定期で更新中です。

幼馴染を溺愛する旦那様の前から、消えてあげることにします

新野乃花(大舟)
恋愛
「旦那様、幼馴染だけを愛されればいいじゃありませんか。私はいらない存在らしいので、静かにいなくなってあげます」

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

処理中です...