85 / 85
84.幸せな番が微笑みながら願うこと
しおりを挟む
そして1年後無事に私とエドは正式に結ばれることとなった。
そうなると問題は私が死んだことになっていることだ。
番だった私が今更生き返っても面倒だし、なにより竜王の番という特別な存在は何かと狙われやすいそうだ。
だからエドは『竜王は番の死を乗り越えて健気に支えた侍女と運命的に結ばれる』という美談をあらかじめ市井には流しておいた。
いわゆる情報操作というものだ。
その手際の良さは流石でやっぱり賢王なんだなと感心してしまう。
普通は番を亡くした獣人は再婚はせず生涯その番だけを愛し続ける。だが何事にも例外はあるもの、齢300歳を越える竜王なら普通と違っても純血で竜人だからと国民はなんとなく誤魔化されてくれ、私の存在も孤独な竜王様を慰める存在として好意的に受け入れられた。
今日は私とエドの婚姻の儀が大広間で行われる。
王宮の大広間は華やかな衣装に身を包んだ多くの人達で埋め尽くされている。その中には私の家族もいるし、すべての事情を知っている宰相様達の姿もある。もちろん美談を真実だと思っている人達が大半だが、その表情はみな一様にこの婚姻を祝福しているのが分かる。
覚えていないが6年前もきっとこうだったのだろう。
あの時の私は『番様』で今日の私はただの『アン』だが…。
凛々しく美丈夫なエドが真っ白な婚礼衣装を纏った22歳の私の手を取りゆっくりと祭壇に向かって進んで行く。
周りの人々は私達に惜しみない拍手と温かい言葉を送ってくれる。
『アン幸せになれ!』
『おめでとうございます!竜王様、アン様』
『どうぞ、末永くお幸せにー!!』
『お綺麗ですよ、アン様』
『お二人ともとてもお似合いです!』
口々から出る言葉は心から婚姻を祝うものだけ。
竜王の相手は番ではないことになっているが、竜王の表情を見れば彼が今本当に幸せなのが良く分かる。
だから番同士ではないが、この婚姻をみな祝福している。
皆が見守る中、儀式は粛々と進んで行く。
番同士の婚姻の儀の場合、最後に自分の意志で己の指先を傷つけ、流した血をお互いに舐めあう。
これにより寿命が長命の方に合わせられ末永くともに歩んでいけるようにするのだ。
だが今回はそれはない。私は番ではないことになっているのでその儀式は省略されているのだ。
だが実際はもう私とエドはすでに二人でこの儀式を済ませている。
永遠に一緒だ。
目の前の神官が竜王と花嫁に問い掛ける。
「これから死が二人を別つまでお互いを愛しともに歩んでいくことを誓いますか?」
私とエドは見つめ合う、お互いに想っていることは同じだ。
「はい、誓う」
「はい、誓います」
私達の言葉を聞き、周りからは自然と拍手が巻き起こる、それは永遠の愛を祝福し称えるものだった。
6年前は私はここで自ら命を絶とうとしたという。その時の気持ちもエドを愛するあまり辿り着いた答えだったようだ。
つまり今の私と過去の私は同じ気持ちだ。
『愛する人を誰よりも幸せにしたい』
‥‥それだけ。
随分と遠回りしてしまったが、今エドが私の隣で幸せそうに笑ってくれている。
「愛しているよ、アン。君をだれよりも幸せにしたい」
「エド、愛しているわ。私も貴方を幸せにするわ」
私とエドはこれから長い人生を共に歩んでいく。
楽しいことも大変なこともあるだろう。
きっと可愛い子供達を一緒に育て笑い合っていくのだろう。
これからの将来を考えると自然と笑みが零れてくる。隣のエドを見ると彼も同じことを考えているのが分かる。
なにがあるかは分からないけどお互いに願うことはいつも同じ、幸せな番は微笑みながらいつも相手の幸せを心から願っているのだ。
(完)
*****************************
※これにて完結です。
最後まで読んでいただき有り難うございました。
そうなると問題は私が死んだことになっていることだ。
番だった私が今更生き返っても面倒だし、なにより竜王の番という特別な存在は何かと狙われやすいそうだ。
だからエドは『竜王は番の死を乗り越えて健気に支えた侍女と運命的に結ばれる』という美談をあらかじめ市井には流しておいた。
いわゆる情報操作というものだ。
その手際の良さは流石でやっぱり賢王なんだなと感心してしまう。
普通は番を亡くした獣人は再婚はせず生涯その番だけを愛し続ける。だが何事にも例外はあるもの、齢300歳を越える竜王なら普通と違っても純血で竜人だからと国民はなんとなく誤魔化されてくれ、私の存在も孤独な竜王様を慰める存在として好意的に受け入れられた。
今日は私とエドの婚姻の儀が大広間で行われる。
王宮の大広間は華やかな衣装に身を包んだ多くの人達で埋め尽くされている。その中には私の家族もいるし、すべての事情を知っている宰相様達の姿もある。もちろん美談を真実だと思っている人達が大半だが、その表情はみな一様にこの婚姻を祝福しているのが分かる。
覚えていないが6年前もきっとこうだったのだろう。
あの時の私は『番様』で今日の私はただの『アン』だが…。
凛々しく美丈夫なエドが真っ白な婚礼衣装を纏った22歳の私の手を取りゆっくりと祭壇に向かって進んで行く。
周りの人々は私達に惜しみない拍手と温かい言葉を送ってくれる。
『アン幸せになれ!』
『おめでとうございます!竜王様、アン様』
『どうぞ、末永くお幸せにー!!』
『お綺麗ですよ、アン様』
『お二人ともとてもお似合いです!』
口々から出る言葉は心から婚姻を祝うものだけ。
竜王の相手は番ではないことになっているが、竜王の表情を見れば彼が今本当に幸せなのが良く分かる。
だから番同士ではないが、この婚姻をみな祝福している。
皆が見守る中、儀式は粛々と進んで行く。
番同士の婚姻の儀の場合、最後に自分の意志で己の指先を傷つけ、流した血をお互いに舐めあう。
これにより寿命が長命の方に合わせられ末永くともに歩んでいけるようにするのだ。
だが今回はそれはない。私は番ではないことになっているのでその儀式は省略されているのだ。
だが実際はもう私とエドはすでに二人でこの儀式を済ませている。
永遠に一緒だ。
目の前の神官が竜王と花嫁に問い掛ける。
「これから死が二人を別つまでお互いを愛しともに歩んでいくことを誓いますか?」
私とエドは見つめ合う、お互いに想っていることは同じだ。
「はい、誓う」
「はい、誓います」
私達の言葉を聞き、周りからは自然と拍手が巻き起こる、それは永遠の愛を祝福し称えるものだった。
6年前は私はここで自ら命を絶とうとしたという。その時の気持ちもエドを愛するあまり辿り着いた答えだったようだ。
つまり今の私と過去の私は同じ気持ちだ。
『愛する人を誰よりも幸せにしたい』
‥‥それだけ。
随分と遠回りしてしまったが、今エドが私の隣で幸せそうに笑ってくれている。
「愛しているよ、アン。君をだれよりも幸せにしたい」
「エド、愛しているわ。私も貴方を幸せにするわ」
私とエドはこれから長い人生を共に歩んでいく。
楽しいことも大変なこともあるだろう。
きっと可愛い子供達を一緒に育て笑い合っていくのだろう。
これからの将来を考えると自然と笑みが零れてくる。隣のエドを見ると彼も同じことを考えているのが分かる。
なにがあるかは分からないけどお互いに願うことはいつも同じ、幸せな番は微笑みながらいつも相手の幸せを心から願っているのだ。
(完)
*****************************
※これにて完結です。
最後まで読んでいただき有り難うございました。
404
お気に入りに追加
5,229
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説

運命の番?棄てたのは貴方です
ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。
番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。
※自己設定満載ですので気を付けてください。
※性描写はないですが、一線を越える個所もあります
※多少の残酷表現あります。
以上2点からセルフレイティング

【完結】貴方の望み通りに・・・
kana
恋愛
どんなに貴方を望んでも
どんなに貴方を見つめても
どんなに貴方を思っても
だから、
もう貴方を望まない
もう貴方を見つめない
もう貴方のことは忘れる
さようなら

わたしにはもうこの子がいるので、いまさら愛してもらわなくても結構です。
ふまさ
恋愛
伯爵令嬢のリネットは、婚約者のハワードを、盲目的に愛していた。友人に、他の令嬢と親しげに歩いていたと言われても信じず、暴言を吐かれても、彼は子どものように純粋無垢だから仕方ないと自分を納得させていた。
けれど。
「──なんか、こうして改めて見ると猿みたいだし、不細工だなあ。本当に、ぼくときみの子?」
他でもない。二人の子ども──ルシアンへの暴言をきっかけに、ハワードへの絶対的な愛が、リネットの中で確かに崩れていく音がした。
婚約者を想うのをやめました
かぐや
恋愛
女性を侍らしてばかりの婚約者に私は宣言した。
「もうあなたを愛するのをやめますので、どうぞご自由に」
最初は婚約者も頷くが、彼女が自分の側にいることがなくなってから初めて色々なことに気づき始める。
*書籍化しました。応援してくださった読者様、ありがとうございます。

(本編完結・番外編更新中)あの時、私は死にました。だからもう私のことは忘れてください。
水無月あん
恋愛
本編完結済み。
6/5 他の登場人物視点での番外編を始めました。よろしくお願いします。
王太子の婚約者である、公爵令嬢のクリスティーヌ・アンガス。両親は私には厳しく、妹を溺愛している。王宮では厳しい王太子妃教育。そんな暮らしに耐えられたのは、愛する婚約者、ムルダー王太子様のため。なのに、異世界の聖女が来たら婚約解消だなんて…。
私のお話の中では、少しシリアスモードです。いつもながら、ゆるゆるっとした設定なので、お気軽に楽しんでいただければ幸いです。本編は3話で完結。よろしくお願いいたします。
※お気に入り登録、エール、感想もありがとうございます! 大変励みになります!

【完結】貴方達から離れたら思った以上に幸せです!
なか
恋愛
「君の妹を正妻にしたい。ナターリアは側室になり、僕を支えてくれ」
信じられない要求を口にした夫のヴィクターは、私の妹を抱きしめる。
私の両親も同様に、妹のために受け入れろと口を揃えた。
「お願いお姉様、私だってヴィクター様を愛したいの」
「ナターリア。姉として受け入れてあげなさい」
「そうよ、貴方はお姉ちゃんなのよ」
妹と両親が、好き勝手に私を責める。
昔からこうだった……妹を庇護する両親により、私の人生は全て妹のために捧げていた。
まるで、妹の召使のような半生だった。
ようやくヴィクターと結婚して、解放されたと思っていたのに。
彼を愛して、支え続けてきたのに……
「ナターリア。これからは妹と一緒に幸せになろう」
夫である貴方が私を裏切っておきながら、そんな言葉を吐くのなら。
もう、いいです。
「それなら、私が出て行きます」
……
「「「……え?」」」
予想をしていなかったのか、皆が固まっている。
でも、もう私の考えは変わらない。
撤回はしない、決意は固めた。
私はここから逃げ出して、自由を得てみせる。
だから皆さん、もう関わらないでくださいね。
◇◇◇◇◇◇
設定はゆるめです。
読んでくださると嬉しいです。

【完結】亡くなった人を愛する貴方を、愛し続ける事はできませんでした
凛蓮月
恋愛
【おかげさまで完全完結致しました。閲覧頂きありがとうございます】
いつか見た、貴方と婚約者の仲睦まじい姿。
婚約者を失い悲しみにくれている貴方と新たに婚約をした私。
貴方は私を愛する事は無いと言ったけれど、私は貴方をお慕いしておりました。
例え貴方が今でも、亡くなった婚約者の女性を愛していても。
私は貴方が生きてさえいれば
それで良いと思っていたのです──。
【早速のホトラン入りありがとうございます!】
※作者の脳内異世界のお話です。
※小説家になろうにも同時掲載しています。
※諸事情により感想欄は閉じています。詳しくは近況ボードをご覧下さい。(追記12/31〜1/2迄受付る事に致しました)

幼馴染に振られたので薬学魔法士目指す
MIRICO
恋愛
オレリアは幼馴染に失恋したのを機に、薬学魔法士になるため、都の学院に通うことにした。
卒院の単位取得のために王宮の薬学研究所で働くことになったが、幼馴染が騎士として働いていた。しかも、幼馴染の恋人も侍女として王宮にいる。
二人が一緒にいるのを見るのはつらい。しかし、幼馴染はオレリアをやたら構ってくる。そのせいか、恋人同士を邪魔する嫌な女と噂された。その上、オレリアが案内した植物園で、相手の子が怪我をしてしまい、殺そうとしたまで言われてしまう。
私は何もしていないのに。
そんなオレリアを助けてくれたのは、ボサボサ頭と髭面の、薬学研究所の局長。実は王の甥で、第二継承権を持った、美丈夫で、女性たちから大人気と言われる人だった。
ブックマーク・いいね・ご感想等、ありがとうございます。
お返事ネタバレになりそうなので、申し訳ありませんが控えさせていただきます。
ちゃんと読んでおります。ありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる