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77.いざ対面
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ゴブッホ‥…!
ワンの強烈な頭突きが鳩尾に容赦なく食い込み、私は痛みと羞恥からわなわなと震えてしまう。これではどう見ても懐いている犬ではなく、不審者を退治した犬だ。つまり私は怪しい人物だと竜王様が飼っている犬からも認定されたのだ。
‥‥終わった、もう完全に終わった…。
「ワン、ワン。ウゥゥーーー」
恨みがましい目を向け唸ってくるワン。これは怒っている、一か月前に鳴いて呼び止めるワンを置いて去って行ったことを根に持っている。
ワンはどうやら能天気なだけでなく、ネチネチと過去にこだわる面倒な犬になってしまったようだ。
犬は飼い主に似ると言うがここまで似ているとは思ってもいなかった。
‥‥どうしてくれるの…エド。
私はワンの態度で絶体絶命になるかと思いきや、なんと救いの神が現れてくれた。
「つ…、アン様‥‥。どうしてこちらに…」
そう呟いたお偉いさんと私は初めて会う。どうやら向こうは私のことを知っているらしいが私の記憶にはない。
「宰相様、こちらの人物をご存じでしょうか?」
騎士の言葉を聞き、私はこの人が宰相様だということを知った。
そうか、この人があの‥‥。
「ああ、知っている。彼女は問題ない、私に任せて通常の業務に戻ってくれ」
宰相様の言葉に騎士達は腰の剣から手をどけ、通常の警備に戻っていった。『助かったー』と安堵していると宰相様がこちらをじっと見つめていることに気がつく。
この人の目は誰かと似ている…、そうか侍女長様が私に向けてくる目と同じなのだ。慈しむようで、それでいて深い後悔?を湛えているような眼差し。
父から聞いた人物像と目の前にいる宰相様は掛け離れている。もっと冷たい人だと思っていたが、この人からは冷たさは全然感じない。それどころか子に向けるような温かさを感じさせる。
ああ、そうか。この人もきっと苦しんでいたんだろうな。
あんな結果になって辛かったんだろうな…。
「アン様、こちらにはどうしていらっしゃったのですか…」
優秀な宰相様なら私とエドのことも薄々気づいているだろう、だがあえて知らないふりをしてくれるようだ。
きっと私に関わらないという約束を守っているのだろう。それなら私も彼に合わせて対応した方がいい。
「はい、これ私の郷里のお土産です、どうぞ召し上がってください。
それと竜王様にお渡ししたいものがあるんです」
そう言ってちらりと見せたのは父が持たせた竜殺剣だ。彼の顔が強張り『そ、それをどうして…』と狼狽えている。
「宰相様、私はどうしても竜王様に会わなければいけません。今度こそ私達はちゃんと向き合わなければいけないのです。私を信じてどうか会わせていただきませんか?」
もう嘘や誤魔化しはなしだ、自分の真剣な想いを言葉にして伝える。
彼は私の言葉を聞くと返事はせず深く頭を下げながら執務室へ入る扉の前から身をどけた。
「有り難うございます、宰相様」
私はそう言って宰相様の前を通って扉を開ける。彼の肩は小刻みに震え、声を押し殺して泣く音は聞こえてきたけど、聞かないふりをする。彼だったこの5年間後悔し続けてきたのだろう、泣く権利はあるはずだ。
バタン‥‥。
執務室に入り扉を閉めると、窓際に立ちすくみ泣きそうな顔をしているエドの姿があった。
ワンの強烈な頭突きが鳩尾に容赦なく食い込み、私は痛みと羞恥からわなわなと震えてしまう。これではどう見ても懐いている犬ではなく、不審者を退治した犬だ。つまり私は怪しい人物だと竜王様が飼っている犬からも認定されたのだ。
‥‥終わった、もう完全に終わった…。
「ワン、ワン。ウゥゥーーー」
恨みがましい目を向け唸ってくるワン。これは怒っている、一か月前に鳴いて呼び止めるワンを置いて去って行ったことを根に持っている。
ワンはどうやら能天気なだけでなく、ネチネチと過去にこだわる面倒な犬になってしまったようだ。
犬は飼い主に似ると言うがここまで似ているとは思ってもいなかった。
‥‥どうしてくれるの…エド。
私はワンの態度で絶体絶命になるかと思いきや、なんと救いの神が現れてくれた。
「つ…、アン様‥‥。どうしてこちらに…」
そう呟いたお偉いさんと私は初めて会う。どうやら向こうは私のことを知っているらしいが私の記憶にはない。
「宰相様、こちらの人物をご存じでしょうか?」
騎士の言葉を聞き、私はこの人が宰相様だということを知った。
そうか、この人があの‥‥。
「ああ、知っている。彼女は問題ない、私に任せて通常の業務に戻ってくれ」
宰相様の言葉に騎士達は腰の剣から手をどけ、通常の警備に戻っていった。『助かったー』と安堵していると宰相様がこちらをじっと見つめていることに気がつく。
この人の目は誰かと似ている…、そうか侍女長様が私に向けてくる目と同じなのだ。慈しむようで、それでいて深い後悔?を湛えているような眼差し。
父から聞いた人物像と目の前にいる宰相様は掛け離れている。もっと冷たい人だと思っていたが、この人からは冷たさは全然感じない。それどころか子に向けるような温かさを感じさせる。
ああ、そうか。この人もきっと苦しんでいたんだろうな。
あんな結果になって辛かったんだろうな…。
「アン様、こちらにはどうしていらっしゃったのですか…」
優秀な宰相様なら私とエドのことも薄々気づいているだろう、だがあえて知らないふりをしてくれるようだ。
きっと私に関わらないという約束を守っているのだろう。それなら私も彼に合わせて対応した方がいい。
「はい、これ私の郷里のお土産です、どうぞ召し上がってください。
それと竜王様にお渡ししたいものがあるんです」
そう言ってちらりと見せたのは父が持たせた竜殺剣だ。彼の顔が強張り『そ、それをどうして…』と狼狽えている。
「宰相様、私はどうしても竜王様に会わなければいけません。今度こそ私達はちゃんと向き合わなければいけないのです。私を信じてどうか会わせていただきませんか?」
もう嘘や誤魔化しはなしだ、自分の真剣な想いを言葉にして伝える。
彼は私の言葉を聞くと返事はせず深く頭を下げながら執務室へ入る扉の前から身をどけた。
「有り難うございます、宰相様」
私はそう言って宰相様の前を通って扉を開ける。彼の肩は小刻みに震え、声を押し殺して泣く音は聞こえてきたけど、聞かないふりをする。彼だったこの5年間後悔し続けてきたのだろう、泣く権利はあるはずだ。
バタン‥‥。
執務室に入り扉を閉めると、窓際に立ちすくみ泣きそうな顔をしているエドの姿があった。
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