71 / 85
70.束の間の夢①
しおりを挟む
離宮に良い思い出などない。あそこは私がアンを閉じ込めていた鳥籠であって罪の証だ。
宰相達は5年前離宮を取り壊そうとした。私がアンを失った喪失感に苛まれ幽鬼のようになっていたから、少しでもアンを思い出すものをなくそうとしたのだ。
だが私はそれを許可をしなかった。
あの場所は私の罪をもっとも感じさせてくれる場所だ。あそこに行くことで自分の罪を感じ、より自分自身を苦しめたかった。
アンにしたことを忘れるなんて許されない…。
私はあんな罪を犯しておきながら誰にも罰せられることなく生きている。‥‥私が竜王だからだ。
誰かに罰して貰えたら良かった。
『お前は最低な屑だ』と罵って欲しかった。
この身体を切り刻み『アンの苦しみはこんなものじゃなかった』とこの胸に剣を突き立てて欲しい。
‥‥それが望み。
誰でもいい、私を罰してくれ。
アンと同じ、いやそれ以上の苦しみを与えてくれ。
お願いだ、誰でもいいから…。
誰もが愚かな私を憐れむが、それだけだ。
『番を失ったのです、もう十分苦しまれてます。そしてこれからもその苦しみは続くのです』と跪き首を垂れる臣下達。
誰かではなくに自分で始末をつければいい…。
だが私はこの命を自分の手で断つことはなかった。
命が惜しいからではない。
アンが番でなくなってもこの世界で生きているのならその命を尽きる時まで、自分も同じ世界にいたいと思ってしまうのだ。
その考えがどんなに醜く独り善がりなものか分かっているが、そうせずにはいられなかった。
分かっている…、私が生きていることこそがアンにとって害悪なのは。
だが…どうしても…アンがいるこの世界に同じ時に存在していたい。
どうか許して欲しい、もう…傷つけないから…。
この離宮を訪れ自分の罪と向き合うことは儀式のようになり5年間欠かすことなく続けていた。
それはアンが王宮で働き始めてからも続いている。
アンの気配を感じ歓喜に囚われアンの前に姿を現しそうになる弱い自分に、自分がやったことを突きつけるために。
『お前はもう資格などない、自分で壊したんだ』と魂に刻み込む。
そうだ、都合良く考えるな。
もうアンは番ではない。
あの子に手を伸ばすことは罪だ。
‥‥忘れるな。
ある日、いつものように離宮に一人でいると誰も近寄らないように通達を出しているはずの離宮に人が入ってきた。
扉が開く前からその気配でそれがアンなのは分かっていた。
目の前に現れたアンは幼さが消え去り素敵な女性になっていた。咽び泣きそうになるのを必死に堪えてる、動くことさえ出来ない。
痺れるような甘い香りとアンに会えた喜びで自分を見失いそうになってしまう。
‥‥ア…ン…………。
何も言えなかった、‥‥言う資格もない。だからそのまま去るつもりだった。
だがアンの様子が明らかにおかしかったので自分から声を掛けてしまった。
『ここでなにをしている…』
無理矢理感情を抑える。愛おしさに抱き締めたくなる衝動を拳を握り締め耐える。
駄目だ、これ以上アンに近づくな。
宰相達は5年前離宮を取り壊そうとした。私がアンを失った喪失感に苛まれ幽鬼のようになっていたから、少しでもアンを思い出すものをなくそうとしたのだ。
だが私はそれを許可をしなかった。
あの場所は私の罪をもっとも感じさせてくれる場所だ。あそこに行くことで自分の罪を感じ、より自分自身を苦しめたかった。
アンにしたことを忘れるなんて許されない…。
私はあんな罪を犯しておきながら誰にも罰せられることなく生きている。‥‥私が竜王だからだ。
誰かに罰して貰えたら良かった。
『お前は最低な屑だ』と罵って欲しかった。
この身体を切り刻み『アンの苦しみはこんなものじゃなかった』とこの胸に剣を突き立てて欲しい。
‥‥それが望み。
誰でもいい、私を罰してくれ。
アンと同じ、いやそれ以上の苦しみを与えてくれ。
お願いだ、誰でもいいから…。
誰もが愚かな私を憐れむが、それだけだ。
『番を失ったのです、もう十分苦しまれてます。そしてこれからもその苦しみは続くのです』と跪き首を垂れる臣下達。
誰かではなくに自分で始末をつければいい…。
だが私はこの命を自分の手で断つことはなかった。
命が惜しいからではない。
アンが番でなくなってもこの世界で生きているのならその命を尽きる時まで、自分も同じ世界にいたいと思ってしまうのだ。
その考えがどんなに醜く独り善がりなものか分かっているが、そうせずにはいられなかった。
分かっている…、私が生きていることこそがアンにとって害悪なのは。
だが…どうしても…アンがいるこの世界に同じ時に存在していたい。
どうか許して欲しい、もう…傷つけないから…。
この離宮を訪れ自分の罪と向き合うことは儀式のようになり5年間欠かすことなく続けていた。
それはアンが王宮で働き始めてからも続いている。
アンの気配を感じ歓喜に囚われアンの前に姿を現しそうになる弱い自分に、自分がやったことを突きつけるために。
『お前はもう資格などない、自分で壊したんだ』と魂に刻み込む。
そうだ、都合良く考えるな。
もうアンは番ではない。
あの子に手を伸ばすことは罪だ。
‥‥忘れるな。
ある日、いつものように離宮に一人でいると誰も近寄らないように通達を出しているはずの離宮に人が入ってきた。
扉が開く前からその気配でそれがアンなのは分かっていた。
目の前に現れたアンは幼さが消え去り素敵な女性になっていた。咽び泣きそうになるのを必死に堪えてる、動くことさえ出来ない。
痺れるような甘い香りとアンに会えた喜びで自分を見失いそうになってしまう。
‥‥ア…ン…………。
何も言えなかった、‥‥言う資格もない。だからそのまま去るつもりだった。
だがアンの様子が明らかにおかしかったので自分から声を掛けてしまった。
『ここでなにをしている…』
無理矢理感情を抑える。愛おしさに抱き締めたくなる衝動を拳を握り締め耐える。
駄目だ、これ以上アンに近づくな。
158
お気に入りに追加
5,229
あなたにおすすめの小説

運命の番?棄てたのは貴方です
ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。
番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。
※自己設定満載ですので気を付けてください。
※性描写はないですが、一線を越える個所もあります
※多少の残酷表現あります。
以上2点からセルフレイティング

【完結】貴方の望み通りに・・・
kana
恋愛
どんなに貴方を望んでも
どんなに貴方を見つめても
どんなに貴方を思っても
だから、
もう貴方を望まない
もう貴方を見つめない
もう貴方のことは忘れる
さようなら

わたしにはもうこの子がいるので、いまさら愛してもらわなくても結構です。
ふまさ
恋愛
伯爵令嬢のリネットは、婚約者のハワードを、盲目的に愛していた。友人に、他の令嬢と親しげに歩いていたと言われても信じず、暴言を吐かれても、彼は子どものように純粋無垢だから仕方ないと自分を納得させていた。
けれど。
「──なんか、こうして改めて見ると猿みたいだし、不細工だなあ。本当に、ぼくときみの子?」
他でもない。二人の子ども──ルシアンへの暴言をきっかけに、ハワードへの絶対的な愛が、リネットの中で確かに崩れていく音がした。
婚約者を想うのをやめました
かぐや
恋愛
女性を侍らしてばかりの婚約者に私は宣言した。
「もうあなたを愛するのをやめますので、どうぞご自由に」
最初は婚約者も頷くが、彼女が自分の側にいることがなくなってから初めて色々なことに気づき始める。
*書籍化しました。応援してくださった読者様、ありがとうございます。

【完結】貴方達から離れたら思った以上に幸せです!
なか
恋愛
「君の妹を正妻にしたい。ナターリアは側室になり、僕を支えてくれ」
信じられない要求を口にした夫のヴィクターは、私の妹を抱きしめる。
私の両親も同様に、妹のために受け入れろと口を揃えた。
「お願いお姉様、私だってヴィクター様を愛したいの」
「ナターリア。姉として受け入れてあげなさい」
「そうよ、貴方はお姉ちゃんなのよ」
妹と両親が、好き勝手に私を責める。
昔からこうだった……妹を庇護する両親により、私の人生は全て妹のために捧げていた。
まるで、妹の召使のような半生だった。
ようやくヴィクターと結婚して、解放されたと思っていたのに。
彼を愛して、支え続けてきたのに……
「ナターリア。これからは妹と一緒に幸せになろう」
夫である貴方が私を裏切っておきながら、そんな言葉を吐くのなら。
もう、いいです。
「それなら、私が出て行きます」
……
「「「……え?」」」
予想をしていなかったのか、皆が固まっている。
でも、もう私の考えは変わらない。
撤回はしない、決意は固めた。
私はここから逃げ出して、自由を得てみせる。
だから皆さん、もう関わらないでくださいね。
◇◇◇◇◇◇
設定はゆるめです。
読んでくださると嬉しいです。

もうすぐ婚約破棄を宣告できるようになるから、あと少しだけ辛抱しておくれ。そう書かれた手紙が、婚約者から届きました
柚木ゆず
恋愛
《もうすぐアンナに婚約の破棄を宣告できるようになる。そうしたらいつでも会えるようになるから、あと少しだけ辛抱しておくれ》
最近お忙しく、めっきり会えなくなってしまった婚約者のロマニ様。そんなロマニ様から届いた私アンナへのお手紙には、そういった内容が記されていました。
そのため、詳しいお話を伺うべくレルザー侯爵邸に――ロマニ様のもとへ向かおうとしていた、そんな時でした。ロマニ様の双子の弟であるダヴィッド様が突然ご来訪され、予想だにしなかったことを仰られ始めたのでした。

幼馴染に振られたので薬学魔法士目指す
MIRICO
恋愛
オレリアは幼馴染に失恋したのを機に、薬学魔法士になるため、都の学院に通うことにした。
卒院の単位取得のために王宮の薬学研究所で働くことになったが、幼馴染が騎士として働いていた。しかも、幼馴染の恋人も侍女として王宮にいる。
二人が一緒にいるのを見るのはつらい。しかし、幼馴染はオレリアをやたら構ってくる。そのせいか、恋人同士を邪魔する嫌な女と噂された。その上、オレリアが案内した植物園で、相手の子が怪我をしてしまい、殺そうとしたまで言われてしまう。
私は何もしていないのに。
そんなオレリアを助けてくれたのは、ボサボサ頭と髭面の、薬学研究所の局長。実は王の甥で、第二継承権を持った、美丈夫で、女性たちから大人気と言われる人だった。
ブックマーク・いいね・ご感想等、ありがとうございます。
お返事ネタバレになりそうなので、申し訳ありませんが控えさせていただきます。
ちゃんと読んでおります。ありがとうございます。
私の愛した婚約者は死にました〜過去は捨てましたので自由に生きます〜
みおな
恋愛
大好きだった人。
一目惚れだった。だから、あの人が婚約者になって、本当に嬉しかった。
なのに、私の友人と愛を交わしていたなんて。
もう誰も信じられない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる