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閑話~王宮~
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~宰相視点~
竜王様が執務室で書類に目を通し、次々に必要な判断を下し的確な指示を出している。
一切無駄な会話も動きもないその様は国を治める賢王として完璧と言える。仕える臣下としては頼もしい王であり、国民からしても国の安定を保ってくれる素晴らしい王だろう。
……何もかも完璧で、まったく揺るがない。
5年前からこれが竜王様にとって普通になった。
以前なら空いた時間に会話を楽しんだり、騎士達と手合わせして汗を流したりして共に笑っていた。
国政にもしっかりと取り組んでかつ、個人の時間も確保し心身の健康を保っていたのだ。
王とて疲れるし気晴らしは必要だから、それは当たり前であった。
あの10年間だけは例外だったが…、それでもあの時は先に希望があったのだ。
それなのに…今はそれがない。気晴らしも希望もなにもかも…。
あの方を失ってから竜王様は王としての責務は全うしているが、それ以外をすべて放棄してしまった。
喜怒哀楽を捨てただ機械的に生きている。
以前の竜王様を知っている我々から見たら、まるで生きる屍だ。
竜王様のお心が少しでも癒せることをと思って、様々なことを試したがすべて無駄に終わった。
私はあの方だけでなく、竜王様からもすべてを奪ってしまった。
どうすればいいんだ…。
何をしたら竜王様は前のように生きられるのか?
どうしたら…。
番を亡くした獣人はその番のことだけを自分が死ぬまで愛し続ける。だが喜怒哀楽を捨てることはない。その死を悲しみ、生きていた頃の姿を思い出し愛し続けるのだ。
今の竜王様はそれすらない、明らかに常軌を逸している。
国政は問題ないどころか、この5年ですべて上手くいっている。取り憑かれたように国政だけに取り組んでいるのだから、それも当然だった。
しかし竜王様の周りはいつも重苦しい雰囲気が纏わりつき、まるで闇の中にいるように感じてしまう。
以前の竜王様を知らない家臣達は恐れて近づかないようにするぐらいだ。
打つ手がなく竜王様が壊れるのを待つだけの日々に私達家臣の心も荒んでいく。
そんな時だった、王都から遥か遠くの地からの連絡があったのは。それはあの方の暮らしを遠くから見守っている者からだった。
あの方と関わりを持たないことになっているが、万が一にもその存在がバレてその身に危険が及ばないようにと、見守ることだけは継続していたのだ。
『王宮の侍女にあの方が応募されています。
いかがいたしましょうか?
ご指示をお願い致します』
たった三行の簡潔な連絡。
あの方と王宮はもう二度と関わることはない。
だがこの応募はあの方の意思だろう、こちらがそれに手を加えることは避けたい。
あの方は今ご自分で一生懸命生きているのだ。
今更だが…、もうその人生の邪魔はしたくない。
手を加えたりしてはいけない。
両親にはこの応募の事実だけを連絡し後は何もしないつもりだった。
念のため竜王様にもこのことを伝える。それは了承を得る為だけであり、それ以上の何かを期待するものではなかった。
あの地からの連絡を淡々と伝え、こちらの取るべき対応の確認をするのみ。
「竜王様、これで宜しいでしょうか?」
「……ああ、そうしてくれ。家族にはくれぐれも失礼のない様に連絡を」
「はい、承知いたしました」
いつもと同じ簡潔で無駄のない会話。
期待してはいなかったが、あの方に関することなら何か反応があるかと思っていた。
なにもないか…。
私はなにを期待してたんだ……。
落胆を隠すように足早に部屋を出てその扉を閉めようとした時、呟くような声が耳に届いた。
『アン、君は…幸せなんだな』
竜王様の甘い優しい声。
あの方に話し掛けていた時と同じもの。
それは感情が籠った生きている証でもあった。
その場に崩れ落ちるようにしゃがみ込み、漏れ出る嗚咽を必死に唇を噛み締めて抑え込む。
ぐぅっっ…竜王…さ、ま…。
うっ、うう‥‥、申しわ‥ありません…。
5年ぶりに竜王様の心が宿った声を聞くことができた。歓喜と果てしない後悔に咽びなくのを止められなかった。
竜王様が執務室で書類に目を通し、次々に必要な判断を下し的確な指示を出している。
一切無駄な会話も動きもないその様は国を治める賢王として完璧と言える。仕える臣下としては頼もしい王であり、国民からしても国の安定を保ってくれる素晴らしい王だろう。
……何もかも完璧で、まったく揺るがない。
5年前からこれが竜王様にとって普通になった。
以前なら空いた時間に会話を楽しんだり、騎士達と手合わせして汗を流したりして共に笑っていた。
国政にもしっかりと取り組んでかつ、個人の時間も確保し心身の健康を保っていたのだ。
王とて疲れるし気晴らしは必要だから、それは当たり前であった。
あの10年間だけは例外だったが…、それでもあの時は先に希望があったのだ。
それなのに…今はそれがない。気晴らしも希望もなにもかも…。
あの方を失ってから竜王様は王としての責務は全うしているが、それ以外をすべて放棄してしまった。
喜怒哀楽を捨てただ機械的に生きている。
以前の竜王様を知っている我々から見たら、まるで生きる屍だ。
竜王様のお心が少しでも癒せることをと思って、様々なことを試したがすべて無駄に終わった。
私はあの方だけでなく、竜王様からもすべてを奪ってしまった。
どうすればいいんだ…。
何をしたら竜王様は前のように生きられるのか?
どうしたら…。
番を亡くした獣人はその番のことだけを自分が死ぬまで愛し続ける。だが喜怒哀楽を捨てることはない。その死を悲しみ、生きていた頃の姿を思い出し愛し続けるのだ。
今の竜王様はそれすらない、明らかに常軌を逸している。
国政は問題ないどころか、この5年ですべて上手くいっている。取り憑かれたように国政だけに取り組んでいるのだから、それも当然だった。
しかし竜王様の周りはいつも重苦しい雰囲気が纏わりつき、まるで闇の中にいるように感じてしまう。
以前の竜王様を知らない家臣達は恐れて近づかないようにするぐらいだ。
打つ手がなく竜王様が壊れるのを待つだけの日々に私達家臣の心も荒んでいく。
そんな時だった、王都から遥か遠くの地からの連絡があったのは。それはあの方の暮らしを遠くから見守っている者からだった。
あの方と関わりを持たないことになっているが、万が一にもその存在がバレてその身に危険が及ばないようにと、見守ることだけは継続していたのだ。
『王宮の侍女にあの方が応募されています。
いかがいたしましょうか?
ご指示をお願い致します』
たった三行の簡潔な連絡。
あの方と王宮はもう二度と関わることはない。
だがこの応募はあの方の意思だろう、こちらがそれに手を加えることは避けたい。
あの方は今ご自分で一生懸命生きているのだ。
今更だが…、もうその人生の邪魔はしたくない。
手を加えたりしてはいけない。
両親にはこの応募の事実だけを連絡し後は何もしないつもりだった。
念のため竜王様にもこのことを伝える。それは了承を得る為だけであり、それ以上の何かを期待するものではなかった。
あの地からの連絡を淡々と伝え、こちらの取るべき対応の確認をするのみ。
「竜王様、これで宜しいでしょうか?」
「……ああ、そうしてくれ。家族にはくれぐれも失礼のない様に連絡を」
「はい、承知いたしました」
いつもと同じ簡潔で無駄のない会話。
期待してはいなかったが、あの方に関することなら何か反応があるかと思っていた。
なにもないか…。
私はなにを期待してたんだ……。
落胆を隠すように足早に部屋を出てその扉を閉めようとした時、呟くような声が耳に届いた。
『アン、君は…幸せなんだな』
竜王様の甘い優しい声。
あの方に話し掛けていた時と同じもの。
それは感情が籠った生きている証でもあった。
その場に崩れ落ちるようにしゃがみ込み、漏れ出る嗚咽を必死に唇を噛み締めて抑え込む。
ぐぅっっ…竜王…さ、ま…。
うっ、うう‥‥、申しわ‥ありません…。
5年ぶりに竜王様の心が宿った声を聞くことができた。歓喜と果てしない後悔に咽びなくのを止められなかった。
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