43 / 85
43.アンの目覚め
しおりを挟む
心地よい静寂のなかをたったひとりでゆらゆらと漂っていた。ここがどこかも分からないけど淋しくなんてなかった、どこからか優しい声が聞こえてきていたから…。
それは番である竜王様の声だったり、あるいは10年前と変わらない懐かしい家族の声だったりした。
とても心地よい声に心が弾む。
ふふふ…、いい夢だわ。
竜王様があんな優しい声で話し掛けてくれるなんて。
それに『ちび』ってお兄ちゃんが呼んでいるわ。
『アンお姉ちゃん』って…誰の声?
まさかミンが言ってくれているの?!
神様が『番の幸せ』を叶えた私に死後の世界でご褒美をくれたんだなっと思っていた。
…これは現実じゃない。
だって番である竜王様が私にあんなに甘い声で話し掛けることはなかったし、家族が以前と同じにように接することもなかったから。
だからこれは神様からの特別なご褒美で間違いない。
私は自分のやったことが誇らしくて心から満足していた。
『番』を幸せに出来たなんて、最高の気分だ。
死後の世界でこれからどうなるか分からないけど、あとは自然に任せて何も考えずにいればいい。
やっと訪れた平穏は久しく感じたことがなかった安らぎを私に与えてくれていたから、兎に角このままでいたかった。
……このままがいいな‥このままが…。
それなのに…慌ただしい声が心地よい世界から私を無理矢理に引きずり出そうとしてくる。
やめて…、ここに居たいの。
もう…嫌なの…。
ううん、そうじゃない。
私がいると駄目なの…誰も幸せになれないから。
『番様、番様………』という声が止むことはない。
私がそっと目を開けると、そこには見知った顔が並んでいた。それは離宮で仕えてくれていた侍女達と医師達だった。
どうやら私は失敗してしまったようだ。
番を幸せに出来ていなかった…、その証拠に私はまだみっともなく生きている。
周りは涙を流して喜んでいるようだけど、私がそれに応えることはない。
心配気に話し掛けてくる医師の声が聞こえてくる。どうやら眠っている間にせっかく潰した耳も治癒してしまったらしい。少し前よりは聞こえが悪いけど、それでも普通よりは聞こえている。
何も反応がない私を医師が心配してくれている。
話し掛け続ける医師を無視するのも悪いので少しだけ頷くと、医師だけでなく侍女達も安堵の表情に変わる。
私が聞こえているのが分かったので医師は今の状況を簡単に説明してくれた。
重傷なので暫く安静にしなければいけないこと、耳も治ること、そして幸いなことに後遺症もないこと。つまり何もしなければ、このまま生き続けてしまうということだ。
…っ、これからも生き続けるの。
このままじゃ死ねないの…?
途中から医師の言葉は耳に入ってこなかった。
心を占めるのは『番の幸せ』を邪魔している愚かな自分の存在だ。
完璧だったはずなのに何がいけなかったのか。
番に対する想いが足りなかったのか。
だから失敗してしまったのか。
自分の過ちが分からない。…次の為にちゃんと考えなくてはまた同じ間違いを犯してしまう。そんなことは絶対に駄目だ、私は番を幸せにするんだから。
周囲の呼びかけに反応することなく考え事に集中しているといきなり扉が開いた。
そこには番である愛おしい竜王様が立っていた。
一瞬で空気が変わり、甘い香りに引き寄せられてしまう。我を忘れて抱き着きたい衝動に駆られるが首の痛みが辛うじて私に理性を残してくれていた。
それは番である竜王様の声だったり、あるいは10年前と変わらない懐かしい家族の声だったりした。
とても心地よい声に心が弾む。
ふふふ…、いい夢だわ。
竜王様があんな優しい声で話し掛けてくれるなんて。
それに『ちび』ってお兄ちゃんが呼んでいるわ。
『アンお姉ちゃん』って…誰の声?
まさかミンが言ってくれているの?!
神様が『番の幸せ』を叶えた私に死後の世界でご褒美をくれたんだなっと思っていた。
…これは現実じゃない。
だって番である竜王様が私にあんなに甘い声で話し掛けることはなかったし、家族が以前と同じにように接することもなかったから。
だからこれは神様からの特別なご褒美で間違いない。
私は自分のやったことが誇らしくて心から満足していた。
『番』を幸せに出来たなんて、最高の気分だ。
死後の世界でこれからどうなるか分からないけど、あとは自然に任せて何も考えずにいればいい。
やっと訪れた平穏は久しく感じたことがなかった安らぎを私に与えてくれていたから、兎に角このままでいたかった。
……このままがいいな‥このままが…。
それなのに…慌ただしい声が心地よい世界から私を無理矢理に引きずり出そうとしてくる。
やめて…、ここに居たいの。
もう…嫌なの…。
ううん、そうじゃない。
私がいると駄目なの…誰も幸せになれないから。
『番様、番様………』という声が止むことはない。
私がそっと目を開けると、そこには見知った顔が並んでいた。それは離宮で仕えてくれていた侍女達と医師達だった。
どうやら私は失敗してしまったようだ。
番を幸せに出来ていなかった…、その証拠に私はまだみっともなく生きている。
周りは涙を流して喜んでいるようだけど、私がそれに応えることはない。
心配気に話し掛けてくる医師の声が聞こえてくる。どうやら眠っている間にせっかく潰した耳も治癒してしまったらしい。少し前よりは聞こえが悪いけど、それでも普通よりは聞こえている。
何も反応がない私を医師が心配してくれている。
話し掛け続ける医師を無視するのも悪いので少しだけ頷くと、医師だけでなく侍女達も安堵の表情に変わる。
私が聞こえているのが分かったので医師は今の状況を簡単に説明してくれた。
重傷なので暫く安静にしなければいけないこと、耳も治ること、そして幸いなことに後遺症もないこと。つまり何もしなければ、このまま生き続けてしまうということだ。
…っ、これからも生き続けるの。
このままじゃ死ねないの…?
途中から医師の言葉は耳に入ってこなかった。
心を占めるのは『番の幸せ』を邪魔している愚かな自分の存在だ。
完璧だったはずなのに何がいけなかったのか。
番に対する想いが足りなかったのか。
だから失敗してしまったのか。
自分の過ちが分からない。…次の為にちゃんと考えなくてはまた同じ間違いを犯してしまう。そんなことは絶対に駄目だ、私は番を幸せにするんだから。
周囲の呼びかけに反応することなく考え事に集中しているといきなり扉が開いた。
そこには番である愛おしい竜王様が立っていた。
一瞬で空気が変わり、甘い香りに引き寄せられてしまう。我を忘れて抱き着きたい衝動に駆られるが首の痛みが辛うじて私に理性を残してくれていた。
166
お気に入りに追加
5,229
あなたにおすすめの小説

運命の番?棄てたのは貴方です
ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。
番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。
※自己設定満載ですので気を付けてください。
※性描写はないですが、一線を越える個所もあります
※多少の残酷表現あります。
以上2点からセルフレイティング

【完結】貴方の望み通りに・・・
kana
恋愛
どんなに貴方を望んでも
どんなに貴方を見つめても
どんなに貴方を思っても
だから、
もう貴方を望まない
もう貴方を見つめない
もう貴方のことは忘れる
さようなら

わたしにはもうこの子がいるので、いまさら愛してもらわなくても結構です。
ふまさ
恋愛
伯爵令嬢のリネットは、婚約者のハワードを、盲目的に愛していた。友人に、他の令嬢と親しげに歩いていたと言われても信じず、暴言を吐かれても、彼は子どものように純粋無垢だから仕方ないと自分を納得させていた。
けれど。
「──なんか、こうして改めて見ると猿みたいだし、不細工だなあ。本当に、ぼくときみの子?」
他でもない。二人の子ども──ルシアンへの暴言をきっかけに、ハワードへの絶対的な愛が、リネットの中で確かに崩れていく音がした。
婚約者を想うのをやめました
かぐや
恋愛
女性を侍らしてばかりの婚約者に私は宣言した。
「もうあなたを愛するのをやめますので、どうぞご自由に」
最初は婚約者も頷くが、彼女が自分の側にいることがなくなってから初めて色々なことに気づき始める。
*書籍化しました。応援してくださった読者様、ありがとうございます。

(本編完結・番外編更新中)あの時、私は死にました。だからもう私のことは忘れてください。
水無月あん
恋愛
本編完結済み。
6/5 他の登場人物視点での番外編を始めました。よろしくお願いします。
王太子の婚約者である、公爵令嬢のクリスティーヌ・アンガス。両親は私には厳しく、妹を溺愛している。王宮では厳しい王太子妃教育。そんな暮らしに耐えられたのは、愛する婚約者、ムルダー王太子様のため。なのに、異世界の聖女が来たら婚約解消だなんて…。
私のお話の中では、少しシリアスモードです。いつもながら、ゆるゆるっとした設定なので、お気軽に楽しんでいただければ幸いです。本編は3話で完結。よろしくお願いいたします。
※お気に入り登録、エール、感想もありがとうございます! 大変励みになります!

【完結】貴方達から離れたら思った以上に幸せです!
なか
恋愛
「君の妹を正妻にしたい。ナターリアは側室になり、僕を支えてくれ」
信じられない要求を口にした夫のヴィクターは、私の妹を抱きしめる。
私の両親も同様に、妹のために受け入れろと口を揃えた。
「お願いお姉様、私だってヴィクター様を愛したいの」
「ナターリア。姉として受け入れてあげなさい」
「そうよ、貴方はお姉ちゃんなのよ」
妹と両親が、好き勝手に私を責める。
昔からこうだった……妹を庇護する両親により、私の人生は全て妹のために捧げていた。
まるで、妹の召使のような半生だった。
ようやくヴィクターと結婚して、解放されたと思っていたのに。
彼を愛して、支え続けてきたのに……
「ナターリア。これからは妹と一緒に幸せになろう」
夫である貴方が私を裏切っておきながら、そんな言葉を吐くのなら。
もう、いいです。
「それなら、私が出て行きます」
……
「「「……え?」」」
予想をしていなかったのか、皆が固まっている。
でも、もう私の考えは変わらない。
撤回はしない、決意は固めた。
私はここから逃げ出して、自由を得てみせる。
だから皆さん、もう関わらないでくださいね。
◇◇◇◇◇◇
設定はゆるめです。
読んでくださると嬉しいです。

【完結】亡くなった人を愛する貴方を、愛し続ける事はできませんでした
凛蓮月
恋愛
【おかげさまで完全完結致しました。閲覧頂きありがとうございます】
いつか見た、貴方と婚約者の仲睦まじい姿。
婚約者を失い悲しみにくれている貴方と新たに婚約をした私。
貴方は私を愛する事は無いと言ったけれど、私は貴方をお慕いしておりました。
例え貴方が今でも、亡くなった婚約者の女性を愛していても。
私は貴方が生きてさえいれば
それで良いと思っていたのです──。
【早速のホトラン入りありがとうございます!】
※作者の脳内異世界のお話です。
※小説家になろうにも同時掲載しています。
※諸事情により感想欄は閉じています。詳しくは近況ボードをご覧下さい。(追記12/31〜1/2迄受付る事に致しました)

幼馴染に振られたので薬学魔法士目指す
MIRICO
恋愛
オレリアは幼馴染に失恋したのを機に、薬学魔法士になるため、都の学院に通うことにした。
卒院の単位取得のために王宮の薬学研究所で働くことになったが、幼馴染が騎士として働いていた。しかも、幼馴染の恋人も侍女として王宮にいる。
二人が一緒にいるのを見るのはつらい。しかし、幼馴染はオレリアをやたら構ってくる。そのせいか、恋人同士を邪魔する嫌な女と噂された。その上、オレリアが案内した植物園で、相手の子が怪我をしてしまい、殺そうとしたまで言われてしまう。
私は何もしていないのに。
そんなオレリアを助けてくれたのは、ボサボサ頭と髭面の、薬学研究所の局長。実は王の甥で、第二継承権を持った、美丈夫で、女性たちから大人気と言われる人だった。
ブックマーク・いいね・ご感想等、ありがとうございます。
お返事ネタバレになりそうなので、申し訳ありませんが控えさせていただきます。
ちゃんと読んでおります。ありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる