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36.残酷な真実⑤

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文官の言動を見て短絡的に考えていた自分を恥じるしかなかった。

私はこの状況を聞いた時はまずアンの家族をなじっていた。家族を取り巻く事情や気持ちを深く考えることなく、『大切なアンを傷つけて』と。

だが目の前の文官はそれは違うと教えてくれた。

アンと家族の仲を間違ったほうに導いたのは私達だったと真実を指摘してくれた。


 思い上がりだった…。
 傷つけていたのは家族ではなく傍にいた我々だった。


アンだけでなく家族さえも追い込んでいたなんて考えもしなかった。
私が狂気に陥らないことで手一杯だったなんて、言い訳にもならない。

番を守れと命令した私、忠実な宰相、見守っていた侍女。

アンを完璧に守っていたはずだった。

 いったい私はなにを今まで見ていたのだろうか…。
 なにを必死で守ろうとしていたのか。


家族はきっと文官が言うようにそうしなければいけない状況に精神的に追い込まれていたのだろう。
きっとアンと同じだったのだ。

六年という年月は竜人である私にとっては短いが人である彼らにとっては果てしなく長く感じ、追い込まれるには十分だったのだろう。

 そう…追い込んだのだ。
 守っている気になって、追い詰めていた。
 私はなんてことを…していた。

私がやっていたことは、正反対の結果しか生まず滑稽でしかない。

すべてが悪循環でしかなかった。

六年ぶりに再会した家族との絆さえも奪われ、アンはどれほど孤独だったのかと思うと自分のことを絞め殺したくなった。



だがそれで終わりではなかった。
その後も『人の感覚』からの視点で話す彼らによって、アンが感じていた真実が見えてくる。

それは些細なことも含めたら膨大な量となっていく。
アンは一人で10年間もそれを背負って生きてきたのだ。


なぜ10年後にアンがあの結末に辿り着いたのか朧気だが分かってくる。

だが肝心なあの言葉と行動の矛盾だけが分からない。

 
 私がアンを追い詰めた、10年も掛けて…。
 それが真実だろう。
 ぐっ、…だからあんなことになった。

 だがあの時のアンの言葉も真実だったはず…。
 なぜどちらも真実なんだ? 

 くそっ、分からん…。
 なにがまだあるんだ?
 それを知りたいっ!


受け入れ難い真実を受け入れても最終的な答えに辿り着けない焦りに心が引き千切られる。



意見を出し尽くしたのか暫く誰も発言せず沈黙が続いていた。


「あ、あの…僕も発言してもいいですか?」

騎士見習いの少年が周りに向かって小さな声を上げた。

「あ、あぁ…構わん。思ったことを言ってくれ」

憔悴した私が力なくそう言うと、その少年は話し始めた。

「今更こんなことを聞くのはおかしいって分かっているんですが…。
でも念のために聞きたくなって。
間違っていても怒らないでください…。
えっと、番様って本当に『人の感覚』しかなかったんですか?」

その何気ない質問に部屋の空気は一変する。
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