幸せな番が微笑みながら願うこと

矢野りと

文字の大きさ
上 下
36 / 85

36.残酷な真実⑤

しおりを挟む
文官の言動を見て短絡的に考えていた自分を恥じるしかなかった。

私はこの状況を聞いた時はまずアンの家族をなじっていた。家族を取り巻く事情や気持ちを深く考えることなく、『大切なアンを傷つけて』と。

だが目の前の文官はそれは違うと教えてくれた。

アンと家族の仲を間違ったほうに導いたのは私達だったと真実を指摘してくれた。


 思い上がりだった…。
 傷つけていたのは家族ではなく傍にいた我々だった。


アンだけでなく家族さえも追い込んでいたなんて考えもしなかった。
私が狂気に陥らないことで手一杯だったなんて、言い訳にもならない。

番を守れと命令した私、忠実な宰相、見守っていた侍女。

アンを完璧に守っていたはずだった。

 いったい私はなにを今まで見ていたのだろうか…。
 なにを必死で守ろうとしていたのか。


家族はきっと文官が言うようにそうしなければいけない状況に精神的に追い込まれていたのだろう。
きっとアンと同じだったのだ。

六年という年月は竜人である私にとっては短いが人である彼らにとっては果てしなく長く感じ、追い込まれるには十分だったのだろう。

 そう…追い込んだのだ。
 守っている気になって、追い詰めていた。
 私はなんてことを…していた。

私がやっていたことは、正反対の結果しか生まず滑稽でしかない。

すべてが悪循環でしかなかった。

六年ぶりに再会した家族との絆さえも奪われ、アンはどれほど孤独だったのかと思うと自分のことを絞め殺したくなった。



だがそれで終わりではなかった。
その後も『人の感覚』からの視点で話す彼らによって、アンが感じていた真実が見えてくる。

それは些細なことも含めたら膨大な量となっていく。
アンは一人で10年間もそれを背負って生きてきたのだ。


なぜ10年後にアンがあの結末に辿り着いたのか朧気だが分かってくる。

だが肝心なあの言葉と行動の矛盾だけが分からない。

 
 私がアンを追い詰めた、10年も掛けて…。
 それが真実だろう。
 ぐっ、…だからあんなことになった。

 だがあの時のアンの言葉も真実だったはず…。
 なぜどちらも真実なんだ? 

 くそっ、分からん…。
 なにがまだあるんだ?
 それを知りたいっ!


受け入れ難い真実を受け入れても最終的な答えに辿り着けない焦りに心が引き千切られる。



意見を出し尽くしたのか暫く誰も発言せず沈黙が続いていた。


「あ、あの…僕も発言してもいいですか?」

騎士見習いの少年が周りに向かって小さな声を上げた。

「あ、あぁ…構わん。思ったことを言ってくれ」

憔悴した私が力なくそう言うと、その少年は話し始めた。

「今更こんなことを聞くのはおかしいって分かっているんですが…。
でも念のために聞きたくなって。
間違っていても怒らないでください…。
えっと、番様って本当に『人の感覚』しかなかったんですか?」

その何気ない質問に部屋の空気は一変する。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

運命の番?棄てたのは貴方です

ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。 番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。 ※自己設定満載ですので気を付けてください。 ※性描写はないですが、一線を越える個所もあります ※多少の残酷表現あります。 以上2点からセルフレイティング

【完結】貴方の望み通りに・・・

kana
恋愛
どんなに貴方を望んでも どんなに貴方を見つめても どんなに貴方を思っても だから、 もう貴方を望まない もう貴方を見つめない もう貴方のことは忘れる さようなら

わたしにはもうこの子がいるので、いまさら愛してもらわなくても結構です。

ふまさ
恋愛
 伯爵令嬢のリネットは、婚約者のハワードを、盲目的に愛していた。友人に、他の令嬢と親しげに歩いていたと言われても信じず、暴言を吐かれても、彼は子どものように純粋無垢だから仕方ないと自分を納得させていた。  けれど。 「──なんか、こうして改めて見ると猿みたいだし、不細工だなあ。本当に、ぼくときみの子?」  他でもない。二人の子ども──ルシアンへの暴言をきっかけに、ハワードへの絶対的な愛が、リネットの中で確かに崩れていく音がした。

【完結】亡くなった人を愛する貴方を、愛し続ける事はできませんでした

凛蓮月
恋愛
【おかげさまで完全完結致しました。閲覧頂きありがとうございます】 いつか見た、貴方と婚約者の仲睦まじい姿。 婚約者を失い悲しみにくれている貴方と新たに婚約をした私。 貴方は私を愛する事は無いと言ったけれど、私は貴方をお慕いしておりました。 例え貴方が今でも、亡くなった婚約者の女性を愛していても。 私は貴方が生きてさえいれば それで良いと思っていたのです──。 【早速のホトラン入りありがとうございます!】 ※作者の脳内異世界のお話です。 ※小説家になろうにも同時掲載しています。 ※諸事情により感想欄は閉じています。詳しくは近況ボードをご覧下さい。(追記12/31〜1/2迄受付る事に致しました)

婚約者を想うのをやめました

かぐや
恋愛
女性を侍らしてばかりの婚約者に私は宣言した。 「もうあなたを愛するのをやめますので、どうぞご自由に」 最初は婚約者も頷くが、彼女が自分の側にいることがなくなってから初めて色々なことに気づき始める。 *書籍化しました。応援してくださった読者様、ありがとうございます。

【完結】貴方達から離れたら思った以上に幸せです!

なか
恋愛
「君の妹を正妻にしたい。ナターリアは側室になり、僕を支えてくれ」  信じられない要求を口にした夫のヴィクターは、私の妹を抱きしめる。  私の両親も同様に、妹のために受け入れろと口を揃えた。 「お願いお姉様、私だってヴィクター様を愛したいの」 「ナターリア。姉として受け入れてあげなさい」 「そうよ、貴方はお姉ちゃんなのよ」  妹と両親が、好き勝手に私を責める。  昔からこうだった……妹を庇護する両親により、私の人生は全て妹のために捧げていた。  まるで、妹の召使のような半生だった。  ようやくヴィクターと結婚して、解放されたと思っていたのに。  彼を愛して、支え続けてきたのに…… 「ナターリア。これからは妹と一緒に幸せになろう」  夫である貴方が私を裏切っておきながら、そんな言葉を吐くのなら。  もう、いいです。 「それなら、私が出て行きます」  …… 「「「……え?」」」  予想をしていなかったのか、皆が固まっている。  でも、もう私の考えは変わらない。  撤回はしない、決意は固めた。  私はここから逃げ出して、自由を得てみせる。  だから皆さん、もう関わらないでくださいね。    ◇◇◇◇◇◇  設定はゆるめです。  読んでくださると嬉しいです。

(本編完結・番外編更新中)あの時、私は死にました。だからもう私のことは忘れてください。

水無月あん
恋愛
本編完結済み。 6/5 他の登場人物視点での番外編を始めました。よろしくお願いします。 王太子の婚約者である、公爵令嬢のクリスティーヌ・アンガス。両親は私には厳しく、妹を溺愛している。王宮では厳しい王太子妃教育。そんな暮らしに耐えられたのは、愛する婚約者、ムルダー王太子様のため。なのに、異世界の聖女が来たら婚約解消だなんて…。 私のお話の中では、少しシリアスモードです。いつもながら、ゆるゆるっとした設定なので、お気軽に楽しんでいただければ幸いです。本編は3話で完結。よろしくお願いいたします。 ※お気に入り登録、エール、感想もありがとうございます! 大変励みになります!

その眼差しは凍てつく刃*冷たい婚約者にウンザリしてます*

音爽(ネソウ)
恋愛
義妹に優しく、婚約者の令嬢には極寒対応。 塩対応より下があるなんて……。 この婚約は間違っている? *2021年7月完結

処理中です...