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33.残酷な真実②

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「だ・か・ら、そこが違うんだって。
番様って、『人』なんですよね?
人って六歳でそんな風になりませんから!」

そう言い切る料理人に侍女長は少しだけ動揺してしまう。

「で、ですが番様は…幼少期からご立派でした。誰から見ても!」


『はぁー、』と溜息を吐いてから彼は話を続ける。

「確かに優秀な獣人の子は早熟で心身ともに親離れも早い傾向にあるようですね。
現に俺の知り合いの七歳の子も純血に近い獣人なので驚くくらいしっかりしています。ええ、本当にそんな子なら今の話も納得できます。
でもそれって親離れが早い獣人の特徴なんですよ。
『人』にはそんな特徴はありませんから。

『人』は寿命が獣人より遥かに短いのに、親離れするまでに時間が掛かる人種なんです。
ましてや番の感覚もないんですよね?あるなら百歩譲って、その番と惹かれ合う感覚が家族と離れる淋しさを埋めるかもしれませんが…。
なかったんですよね、その感覚は?
だからこそ番である竜王様と離れていたんですよね…。

それならきっとそのいつも幸せそうな笑顔なんて噓ですよ。
きっと知らない大人達の中で自分を守るために必死に笑っていたんじゃないかな。こっそりと一人で泣きながら…。
だって誰から見ても立派だったんでしょう?それって誰も信用していなかったってことですよ、…たぶん。

この報告書を読むとそんな番様が想像できます。
…お幸せだったなんて正直思えませんね」

一気のそう言った料理人の表情はとても辛そうだった。


「…………っ!」

目を見開き侍女長は何も答えられずにいた。
だがこれは他の侍女達も同じだった。

それほど彼の言葉は衝撃だった。まさかそんな風に受け取る者がいるなんて思ってもいなかったから。


どちらの見方が真実なのか…。

自分達が信じていた事実が根底から揺らいでいる。

見ている物は同じでも解釈が違えばこんなにも真実が違って来るのだと突きつけられたからだ。



侍女長は番様との日々を振り返る。

幼い番様が家族に会えないのは可哀想だと最初は思っていた。しかし目の前にいる番様の大丈夫そうな様子を日々見ていたら『番様はしっかりとした子なのだわ』と思うようになった。

『人で番の感覚が無いから』と竜王様への気持ちが育つまで家族との面会をさせなかったくせに、一方で『獣人のように早熟でしっかりしている』と都合よく思い込む。

そこに悪意はないが、その矛盾に気づきもしなかった。

なぜなら獣人の感覚を持ち育った環境も獣人側で、それが当たり前だったから…気づかない。

すべては自分の物差しで考えていた。

『人』の物差しを知らなかった、知ろうとしなかった、考えもしなかった。


だがそれは他の侍女達も同じだった。


誰か一人でも『ちょっと待って…』と声を上げていたらみな考えただろう。

わざとそうしていた訳では決してないのだから。

だが残念なことに優秀で自分自身も親離れが早かった彼らはその感覚がなかった。


誰もが『番様は大丈夫だ、親離れ出来ている』という前提で接し、番様の本心を探ることはしなかった。


良かれと思ってな者達をお付きにしたゆえの悲劇だった。



『番様は本当は無理をなさっていたのか…』
『苦しんでいらっしゃたのか……』
『あの笑顔は鎧だったなんて…』

次々と湧き上がる後悔。

幼い頃から親身になってお世話していただったゆえに尚更だ。
自分達なりに寄り添っているつもりだったのに、何ひとつ理解してあげていなかった。


「わ、私…、なんて事を…。も、申し…わ、け…ありません。
番様を…苦しめていた、んて…。
あ、あ、あああ……、私が番様…、追い詰めたな…て。うっううっう…」

侍女長は己の過ちに気づいてその場で崩れ落ちる。それは侍女達も同様だった。
番様を追い詰めた原因が自分達だったと分かり、自責の念から漏れ出る嗚咽は止まることはなかった。

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