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30.残酷な答え合わせ①
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私を確かに愛してくれているアンが死を選ぶ理由。
……ない訳がない、絶対に。
竜王の命令は絶対だ。
宰相をはじめ臣下達はすぐさま調査を始めたが、アンが離宮に来た頃から遡って調べているが答えに繫がるようなことは何も出てこない。
アンの周囲にいた誰に聞いても
『番様にそのような兆候はございませんでした。申し訳ありません、番様のお付きなのに何も気づけずに…』
と侍女達は泣き崩れ、護衛達は己の不甲斐なさにその拳を震わせる。
そこに偽りは微塵も感じられない。
これが演技なら大したものだが、そもそもアンの周囲には身元が確かで信頼のおける優秀な者しか置いていない。
裏で動いている黒幕がいるのかと疑念を抱く。
念のため宰相達の調査とは別に竜王直属の裏の部隊にも極秘で探らせるが、上がってきた報告書の内容はほとんど宰相が上げたものと相違ないものだった。
調べた者は違うのにほぼ同じ内容の二通の報告書。
それはアンの周囲には今回の行動に繋がるようなことはないことを示している。
いったいどいうことだ。
なんで問題はなかったという結果しか出てこない?
意図的に操作した形跡は…ない。
なにも…、なにもだ…。
クソっ、それなら何かを見落としているのか?
なにをだ……、いったい何を見落としているっ!
なにかあるはずだっ。
ガッシャンーーー!
近くにあった酒の入ったグラスを掴んで壁に投げつける。そして粉々に砕けたグラスを素手で掴み、力一杯握り締める。
ぽたり、ぽたり…と垂れ落ちる血。
アンはこんなちっぽけな痛みではなかった。
柔肌を深く傷つけたのだから…。
またこれを繰り返させなどしない。
そんなことは何があろうと防いでみせるっ。
二度とあんなアンは見たくない!
ジャリ、ジャリリ……。
更に力を込めて握り締めれば、食い込む破片によって足元に血だまりが出来る。
甦るあの時の記憶に胸が締め付けられ息が出来なくなる。
これは自分への戒めだ。二度と同じ失敗を繰り返さないように身体に刻み付ける。
特に問題が見当たらない報告書を何度も読み返す。もうほとんど一字一句頭に入っている。
みなに見守られ成長していく番の記録。
【少し大人しいが何事にも一生懸命な番様。
当初は幼いゆえに環境の変化への戸惑いから悲しんでいたようだが、素直で聞き分けの良い番様は意外なほど早くに馴染んで様々な勉強に熱心に取り組んでいた。
離宮に自分を連れて来た竜王様や市井にいる家族のことを最初は気にされていたが、自立心が強いようですぐに口にされる事はなくなり、周りの侍女達もその様子に安堵していた。
そして番様が竜王様の婚約者として自覚が出てきてた頃には家族とも定期的に交流を持つように手配し楽しく過ごしている。
家族も丁寧な態度で接しており問題は見当たらない。
小鳥がお好きな番様は餌付けをし話し掛けたりする優しさを持っている。常に笑顔を絶やさず素晴らしいお方に成長している。
そして成長と共に竜王様と結ばれる日を待ち望む気持ちも大きくなり、婚姻の儀当日もまさに幸せの絶頂にいた】
膨大な報告書の内容を纏めるとざっとこんなことが書かれてある。
それは自分が10年間受けてきた報告と大差ない内容でもあった。
何度読んでもあの行動の理由に繋がることが浮かび上がってこない。
完璧な環境に優秀な侍女達に定期的とはいえ家族とも会っている。
いつも穏やかに微笑んでいて幸せそうな番。
一見すると何も問題はない、しかし実際にはあったはず。
あったけれども報告書に記載はない。
あるけれども…ない…。
…どういうことだ。
私や臣下達ではそれに気づけないのか…。
視点を変える必要が…あるのか?
どう変えればいい…。
私達とアンの違いを考える。
一番の違いは獣人の血の濃さだろう。
私は純血の竜人で、臣下や侍女達も獣人の血が濃いものが多い。別に獣人を優遇しているのではなく、心身ともに優秀な者達は獣人の血が色濃く出ている者が多いからだった。
そして番の為に選んだお付きの者達は結果的に獣人要素が非常に濃く、生まれながらに獣人の特徴と感覚を持っている者達になった。
『人の感覚の番』と『獣人の感覚の臣下達』。
差別がない我が国ではまったく問題はない、そこにあるのは違いのみ。
違いは持って生まれた個性でしかない。それに応じた配慮は必要だが…それだけだ。
そう…、気にする必要はないはずなのに、なぜか引っ掛かる…。
なにがと言われたら答えられないが…。
ここに何か手掛かりがあるかもしれないと思わず馬鹿なことを考える。
…進展のない状況だからだろうか。
獣人と人の摩擦がアンを傷つけたとは考えにくい。だがなにも問題が見つからない以上、些細なことでも確認してみる必要はあるのかもしれない。
……ない訳がない、絶対に。
竜王の命令は絶対だ。
宰相をはじめ臣下達はすぐさま調査を始めたが、アンが離宮に来た頃から遡って調べているが答えに繫がるようなことは何も出てこない。
アンの周囲にいた誰に聞いても
『番様にそのような兆候はございませんでした。申し訳ありません、番様のお付きなのに何も気づけずに…』
と侍女達は泣き崩れ、護衛達は己の不甲斐なさにその拳を震わせる。
そこに偽りは微塵も感じられない。
これが演技なら大したものだが、そもそもアンの周囲には身元が確かで信頼のおける優秀な者しか置いていない。
裏で動いている黒幕がいるのかと疑念を抱く。
念のため宰相達の調査とは別に竜王直属の裏の部隊にも極秘で探らせるが、上がってきた報告書の内容はほとんど宰相が上げたものと相違ないものだった。
調べた者は違うのにほぼ同じ内容の二通の報告書。
それはアンの周囲には今回の行動に繋がるようなことはないことを示している。
いったいどいうことだ。
なんで問題はなかったという結果しか出てこない?
意図的に操作した形跡は…ない。
なにも…、なにもだ…。
クソっ、それなら何かを見落としているのか?
なにをだ……、いったい何を見落としているっ!
なにかあるはずだっ。
ガッシャンーーー!
近くにあった酒の入ったグラスを掴んで壁に投げつける。そして粉々に砕けたグラスを素手で掴み、力一杯握り締める。
ぽたり、ぽたり…と垂れ落ちる血。
アンはこんなちっぽけな痛みではなかった。
柔肌を深く傷つけたのだから…。
またこれを繰り返させなどしない。
そんなことは何があろうと防いでみせるっ。
二度とあんなアンは見たくない!
ジャリ、ジャリリ……。
更に力を込めて握り締めれば、食い込む破片によって足元に血だまりが出来る。
甦るあの時の記憶に胸が締め付けられ息が出来なくなる。
これは自分への戒めだ。二度と同じ失敗を繰り返さないように身体に刻み付ける。
特に問題が見当たらない報告書を何度も読み返す。もうほとんど一字一句頭に入っている。
みなに見守られ成長していく番の記録。
【少し大人しいが何事にも一生懸命な番様。
当初は幼いゆえに環境の変化への戸惑いから悲しんでいたようだが、素直で聞き分けの良い番様は意外なほど早くに馴染んで様々な勉強に熱心に取り組んでいた。
離宮に自分を連れて来た竜王様や市井にいる家族のことを最初は気にされていたが、自立心が強いようですぐに口にされる事はなくなり、周りの侍女達もその様子に安堵していた。
そして番様が竜王様の婚約者として自覚が出てきてた頃には家族とも定期的に交流を持つように手配し楽しく過ごしている。
家族も丁寧な態度で接しており問題は見当たらない。
小鳥がお好きな番様は餌付けをし話し掛けたりする優しさを持っている。常に笑顔を絶やさず素晴らしいお方に成長している。
そして成長と共に竜王様と結ばれる日を待ち望む気持ちも大きくなり、婚姻の儀当日もまさに幸せの絶頂にいた】
膨大な報告書の内容を纏めるとざっとこんなことが書かれてある。
それは自分が10年間受けてきた報告と大差ない内容でもあった。
何度読んでもあの行動の理由に繋がることが浮かび上がってこない。
完璧な環境に優秀な侍女達に定期的とはいえ家族とも会っている。
いつも穏やかに微笑んでいて幸せそうな番。
一見すると何も問題はない、しかし実際にはあったはず。
あったけれども報告書に記載はない。
あるけれども…ない…。
…どういうことだ。
私や臣下達ではそれに気づけないのか…。
視点を変える必要が…あるのか?
どう変えればいい…。
私達とアンの違いを考える。
一番の違いは獣人の血の濃さだろう。
私は純血の竜人で、臣下や侍女達も獣人の血が濃いものが多い。別に獣人を優遇しているのではなく、心身ともに優秀な者達は獣人の血が色濃く出ている者が多いからだった。
そして番の為に選んだお付きの者達は結果的に獣人要素が非常に濃く、生まれながらに獣人の特徴と感覚を持っている者達になった。
『人の感覚の番』と『獣人の感覚の臣下達』。
差別がない我が国ではまったく問題はない、そこにあるのは違いのみ。
違いは持って生まれた個性でしかない。それに応じた配慮は必要だが…それだけだ。
そう…、気にする必要はないはずなのに、なぜか引っ掛かる…。
なにがと言われたら答えられないが…。
ここに何か手掛かりがあるかもしれないと思わず馬鹿なことを考える。
…進展のない状況だからだろうか。
獣人と人の摩擦がアンを傷つけたとは考えにくい。だがなにも問題が見つからない以上、些細なことでも確認してみる必要はあるのかもしれない。
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