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【おまけの話】従者エレンの奮闘(後編)
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「エレン様、今日の夜九時にひよこはイザク殿下に媚薬を盛るつもりです」
報告してくる部下はひよこの企みだけでなく、その時間まではっきりと告げてくる。
普通はここまで具体的に計画が分かるものではない。紙か何かに記していたなら話は別だが、ひよこは文字を理解するが書くことは出来ないはずだ。
…まさか文字を書けるようになったのか?
「どうしてそんな詳細に分かったんだ?お前の憶測ではないよな…」
優秀な部下が憶測で報告してくるとは思ってはいない。だがなぜそんなに詳しく分かったのか知る必要がある。それによって今後の対応が違うからだ。
「もちろん、私の憶測ではありません」
私の言葉をきっぱりと否定すると、部下は情報入手の経緯を話し始めた。
『ぴよっぴーろ(おやつちょーだい)』とせがまれたので持っていたミミズをあげると、とても喜んだそうだ。そして近くにあった文字盤をトントントンと叩いて話し始める。
『ぴよぴよぴっぴ(お前いい奴だから僕の親友にしてやる)』
『……あ、ありがとう』
『ぴっぴろっぴー、ぴぴ!(僕の秘密を教えてあげる、親友特典だぞ!)』
『……嬉しいな?』
文字盤を突くリズミカルな音と部下の戸惑いの声が部屋に響く。
イザク殿下は夕食を済ませるといつも執務室に戻って、お茶を飲みながら書類に目を通している。それがだいたい夜の九時頃のことだ。
ひよこはそのお茶に媚薬をこっそりと仕込み、そのうえリラ様が連れてきた鶏を部屋にスタンバイさせ既成事実を作る計画を立てていると自慢げに話したという。
それを聞いた部下は思わず疑問を口にする。誰だって聞きたくはなるだろう。
『だが鶏は計画通りに動いてくれないのでは?』
『ぴろ!ぴっぴ(だいじょーぶ!鶏もノリノリだから)』
『そ、そうなのか……。本当にやるのか?』
『ぴぴ!(うん!)』
これがひよことその親友の秘密の会話の内容だった。
…ひ・よ・こ……、お前って奴はっ!
馬鹿なのだろうか。
愚問だった、正真正銘のお馬鹿さんだ。
「エレン様、今晩のメニューを変更しますか?」
これはひよこを食卓に載せるかと聞いているのだ。
『そうしてくれ』と答えるのが、従者として正しい判断だ。
しかし私としてはひよこをなんとか助けてやりたい。もちろんイザク殿下の幸せを壊すことなくだ。
何を優先するべきかはちゃんと分かっている。情に流されて判断を誤るなんて愚かな真似はしない。
「変更はしなくて大丈夫だ、この件は私が対応する。報告ご苦労だった」
「では失礼します、エレン様」
部下が部屋から出ていったあと、私は頭を抱えながら椅子に座り込んだ。
はぁ………。
もうため息しか出てこない。
上手くいくはずは絶対にない。そもそも運良くイザク殿下が媚薬を飲んだとしても、どうやって鶏と既成事実を作ると言うのだ。
――無理に決まってる。
このことを殿下に報告したら、ひよこはただでは済まないだろう。だから穏便にそれでいて最善の方法を取ることにした。
報告によるとひよこは媚薬を自分のクッションの下に隠している。だからこっそりと中身を水とすり替えておくことにした。
夜八時過ぎた頃、小瓶を担いだひよこが意気揚々と殿下の部屋に入って行った。
十分後、手ぶらのひよこが部屋から出て来て、鶏がいる鶏小屋へと向かって歩いていく。
きっとこれから鍵を開けて鶏を小屋から出し、イザク殿下の部屋に連れて行くのだろう。
私は鶏小屋の近くまでひよこが行くと、後ろから声を掛ける。
「こんばんわ、ひよこ殿下。こんなところで一体何をしているのかな」
「ピ、ロピロ…(ム、ムーンウォーク……)」
目が完全に泳いでいる、分かりやすく挙動不審だ。普通なら問い詰めるところだが、今は気づかないふりをする。
「星が綺麗だから見に来たのかな?」
「…ぴっぴ!(…う、うん!)」
「そうだ、美味しいジュースを持っているんだ。良かったら、どうぞ」
私は微笑みながら小皿に注いだジュースをひよこに差し出す。
「ぴろ、ぴっぴ♪(下僕、ありがとう♪)」
迷うことなくひよこは小皿から液体をゴクゴクと飲んでいく。
なんでひよこ用の小皿を持ち歩いているのかと聞いてくると思って、適当な言い訳を用意していたが全然必要がなかった。
…なんでも食べるな、そして怪しいものを飲むな。
――完全に育て方を間違えた。
「ぴ、ぴぴろー(じゃあね、ばいばーい)」
飲み終わったひよこは疑うことなく、真っ直ぐに鶏小屋へと向かっていく。
そこで待っているのはすでに餌に媚薬を盛られた鶏だとも知らずに…。
ガチャガチャッ。
ひよこが鍵を開けて中に入っていく。
あの薬の効果は十分後くらいから現れるはずだから、まだひよこの意識は正常だ。
「ぴろー(迎えに来たよー)」
「コッケーココッーーー♡♡」
「ピヨーーーーーー!(いやーーーーー!)」
小屋の中から鶏の甘い声とひよこの悲痛な叫び声と、たぶん一方的に襲われているのだろう、羽をバタつかせる音が聞こえてくる。
鶏には二十分前に媚薬を与えていた。だから効果の差が出ているのだろう。
――だいじょうぶだ、ひよこ。恐怖を感じるのはあと数分間だけだ。
その後はお前の計画通りにことが進むだろう。
ただちょっと配役が変わるだけだ。
私はニワトリ小屋の鍵をしっかりと締めてから、静かにその場を立ち去った。
翌朝、鶏小屋を訪れたリラ様によって、ある意味心が瀕死のひよこが発見される。
「あら、いつの間にそんな仲になっていたの♪全然気がつかなかったわ」
「ぴ、ぴ。ぴっろ!(ち、違う。誤解だ!)」
「ふふふ、ひよこ殿下に先を越されるとは思わなかったわ。おめでとう、ひよこ殿下。エレンちゃんと末永くお幸せにね」
満面の笑みを浮かべてリラ様はひよこに祝福の言葉を告げる。
鶏の名前が私と同じなのは納得がいかないが、主君の大切な人が決めたことなので耐えている。
「ぴろー!(結婚なんてしない!)」
ひよこは首をブンブンと横に振って拒絶を表している。きっと結婚したくないとでも言っているのだろう。
リラ様は頭ごなしに叱ったりはしなかった。
「はい、それでは選んでね。結婚と焼鳥、どちらがいいかしら?」
「……ヒッヒ(…ケッコン)」
すべてが上手くいった。
従者としてイザク殿下の幸せを守る事が出来たし、育ての親?としてひよこの命を救うことも出来た。
ひよこも今はこの状況を受け入れることは難しいだろう。
だがこれから子供が生まれ孫が生まれ、そして家族に囲まれて天国に旅立つ時には幸せだったと自分の人生を振り返るに違いない。
その時にはそっと耳元で私が裏でやったことを囁いてみよう。きっと私に感謝しながら旅立つはずだ。
********************
おまけの話まで読んで頂き有り難うございます♪
これでこのお話も終わりです。
今までも感想のお返事でひよこ殿下が登場しております。
最後だからひよこ殿下から名前を呼び捨てられても構わない、失礼な態度も寛大な心で許すという読者様がおりましたら、感想にその旨を明記くださいませ。ひよこ殿下がそういう対応(腹黒な対応?)をさせて頂きます。
※後から苦情は受け付けませんのでご了承くださいm(_ _)m
報告してくる部下はひよこの企みだけでなく、その時間まではっきりと告げてくる。
普通はここまで具体的に計画が分かるものではない。紙か何かに記していたなら話は別だが、ひよこは文字を理解するが書くことは出来ないはずだ。
…まさか文字を書けるようになったのか?
「どうしてそんな詳細に分かったんだ?お前の憶測ではないよな…」
優秀な部下が憶測で報告してくるとは思ってはいない。だがなぜそんなに詳しく分かったのか知る必要がある。それによって今後の対応が違うからだ。
「もちろん、私の憶測ではありません」
私の言葉をきっぱりと否定すると、部下は情報入手の経緯を話し始めた。
『ぴよっぴーろ(おやつちょーだい)』とせがまれたので持っていたミミズをあげると、とても喜んだそうだ。そして近くにあった文字盤をトントントンと叩いて話し始める。
『ぴよぴよぴっぴ(お前いい奴だから僕の親友にしてやる)』
『……あ、ありがとう』
『ぴっぴろっぴー、ぴぴ!(僕の秘密を教えてあげる、親友特典だぞ!)』
『……嬉しいな?』
文字盤を突くリズミカルな音と部下の戸惑いの声が部屋に響く。
イザク殿下は夕食を済ませるといつも執務室に戻って、お茶を飲みながら書類に目を通している。それがだいたい夜の九時頃のことだ。
ひよこはそのお茶に媚薬をこっそりと仕込み、そのうえリラ様が連れてきた鶏を部屋にスタンバイさせ既成事実を作る計画を立てていると自慢げに話したという。
それを聞いた部下は思わず疑問を口にする。誰だって聞きたくはなるだろう。
『だが鶏は計画通りに動いてくれないのでは?』
『ぴろ!ぴっぴ(だいじょーぶ!鶏もノリノリだから)』
『そ、そうなのか……。本当にやるのか?』
『ぴぴ!(うん!)』
これがひよことその親友の秘密の会話の内容だった。
…ひ・よ・こ……、お前って奴はっ!
馬鹿なのだろうか。
愚問だった、正真正銘のお馬鹿さんだ。
「エレン様、今晩のメニューを変更しますか?」
これはひよこを食卓に載せるかと聞いているのだ。
『そうしてくれ』と答えるのが、従者として正しい判断だ。
しかし私としてはひよこをなんとか助けてやりたい。もちろんイザク殿下の幸せを壊すことなくだ。
何を優先するべきかはちゃんと分かっている。情に流されて判断を誤るなんて愚かな真似はしない。
「変更はしなくて大丈夫だ、この件は私が対応する。報告ご苦労だった」
「では失礼します、エレン様」
部下が部屋から出ていったあと、私は頭を抱えながら椅子に座り込んだ。
はぁ………。
もうため息しか出てこない。
上手くいくはずは絶対にない。そもそも運良くイザク殿下が媚薬を飲んだとしても、どうやって鶏と既成事実を作ると言うのだ。
――無理に決まってる。
このことを殿下に報告したら、ひよこはただでは済まないだろう。だから穏便にそれでいて最善の方法を取ることにした。
報告によるとひよこは媚薬を自分のクッションの下に隠している。だからこっそりと中身を水とすり替えておくことにした。
夜八時過ぎた頃、小瓶を担いだひよこが意気揚々と殿下の部屋に入って行った。
十分後、手ぶらのひよこが部屋から出て来て、鶏がいる鶏小屋へと向かって歩いていく。
きっとこれから鍵を開けて鶏を小屋から出し、イザク殿下の部屋に連れて行くのだろう。
私は鶏小屋の近くまでひよこが行くと、後ろから声を掛ける。
「こんばんわ、ひよこ殿下。こんなところで一体何をしているのかな」
「ピ、ロピロ…(ム、ムーンウォーク……)」
目が完全に泳いでいる、分かりやすく挙動不審だ。普通なら問い詰めるところだが、今は気づかないふりをする。
「星が綺麗だから見に来たのかな?」
「…ぴっぴ!(…う、うん!)」
「そうだ、美味しいジュースを持っているんだ。良かったら、どうぞ」
私は微笑みながら小皿に注いだジュースをひよこに差し出す。
「ぴろ、ぴっぴ♪(下僕、ありがとう♪)」
迷うことなくひよこは小皿から液体をゴクゴクと飲んでいく。
なんでひよこ用の小皿を持ち歩いているのかと聞いてくると思って、適当な言い訳を用意していたが全然必要がなかった。
…なんでも食べるな、そして怪しいものを飲むな。
――完全に育て方を間違えた。
「ぴ、ぴぴろー(じゃあね、ばいばーい)」
飲み終わったひよこは疑うことなく、真っ直ぐに鶏小屋へと向かっていく。
そこで待っているのはすでに餌に媚薬を盛られた鶏だとも知らずに…。
ガチャガチャッ。
ひよこが鍵を開けて中に入っていく。
あの薬の効果は十分後くらいから現れるはずだから、まだひよこの意識は正常だ。
「ぴろー(迎えに来たよー)」
「コッケーココッーーー♡♡」
「ピヨーーーーーー!(いやーーーーー!)」
小屋の中から鶏の甘い声とひよこの悲痛な叫び声と、たぶん一方的に襲われているのだろう、羽をバタつかせる音が聞こえてくる。
鶏には二十分前に媚薬を与えていた。だから効果の差が出ているのだろう。
――だいじょうぶだ、ひよこ。恐怖を感じるのはあと数分間だけだ。
その後はお前の計画通りにことが進むだろう。
ただちょっと配役が変わるだけだ。
私はニワトリ小屋の鍵をしっかりと締めてから、静かにその場を立ち去った。
翌朝、鶏小屋を訪れたリラ様によって、ある意味心が瀕死のひよこが発見される。
「あら、いつの間にそんな仲になっていたの♪全然気がつかなかったわ」
「ぴ、ぴ。ぴっろ!(ち、違う。誤解だ!)」
「ふふふ、ひよこ殿下に先を越されるとは思わなかったわ。おめでとう、ひよこ殿下。エレンちゃんと末永くお幸せにね」
満面の笑みを浮かべてリラ様はひよこに祝福の言葉を告げる。
鶏の名前が私と同じなのは納得がいかないが、主君の大切な人が決めたことなので耐えている。
「ぴろー!(結婚なんてしない!)」
ひよこは首をブンブンと横に振って拒絶を表している。きっと結婚したくないとでも言っているのだろう。
リラ様は頭ごなしに叱ったりはしなかった。
「はい、それでは選んでね。結婚と焼鳥、どちらがいいかしら?」
「……ヒッヒ(…ケッコン)」
すべてが上手くいった。
従者としてイザク殿下の幸せを守る事が出来たし、育ての親?としてひよこの命を救うことも出来た。
ひよこも今はこの状況を受け入れることは難しいだろう。
だがこれから子供が生まれ孫が生まれ、そして家族に囲まれて天国に旅立つ時には幸せだったと自分の人生を振り返るに違いない。
その時にはそっと耳元で私が裏でやったことを囁いてみよう。きっと私に感謝しながら旅立つはずだ。
********************
おまけの話まで読んで頂き有り難うございます♪
これでこのお話も終わりです。
今までも感想のお返事でひよこ殿下が登場しております。
最後だからひよこ殿下から名前を呼び捨てられても構わない、失礼な態度も寛大な心で許すという読者様がおりましたら、感想にその旨を明記くださいませ。ひよこ殿下がそういう対応(腹黒な対応?)をさせて頂きます。
※後から苦情は受け付けませんのでご了承くださいm(_ _)m
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