呪われた姿が可愛いので愛でてもよろしいでしょうか…?

矢野りと

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23.リラの追及とイーライの告白①

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イーライは私の目を真っ直ぐに見ながら話す。

「帰国する前から大量の釣書が送られてきていた。実際に帰国すると私が表舞台に出る前から、第二王子という肩書目当ての令嬢達が王宮まで押しかけてくる始末だった。……あれは本当に怖かった」

彼の最後の言葉にはとても心が籠もっていた。
余程だったのだろう、彼は辛そうな顔をしている。


その噂は辺境にも届いていから知っている。
『肉食令嬢達の熾烈な闘い。獲物第二王子は誰の手に?!』と田舎の新聞の一面を飾っていたからだ。あの当時は大袈裟な見出しだと思っていたけれど、イーライの反応を見ると事実を正確に文字にしただけだったようだ。

好きな人の辛そうな顔は見たくない。
重い空気を変えようと前向きな言葉を送ることにする。

「シマウマの気持ちが分かる王族なんて貴重よね」
「分からない」

真顔で即答するイーライ。
シマウマが嫌いだとは知らなかった。

「ごめんなさい、たとえが悪かったわね。インパラの――」
「それも分からないし、草食動物全般分からないと思う。だからもうこの話はなかったことにしよう」

――なかったことにされる。


強引なイーライも格好よくてクラっときてしまいそうになる。でも尋問の途中なので、気を引き締めてやり過ごす。



とりあえず今日の尋問には関係がないので素直に頷くと、彼は続きを話し始める。

「心に決めた人がいるから、令嬢達との面会はすべて断っていた。だがある日、迷ったふりをして王宮の中庭まで忍び込んできた令嬢がいた」

さすが肉食令嬢と言うべきだろう。
そう呼ばれるに相応しい行動力だ。

思わず『凄いわ!』と呟くとまだ何も言っていないのに『…真似はしないでくれ』と釘を刺された。


「話を戻すが、その時私はエレンと一緒にミミズを探していて、ひよこは東屋にある王族専用の椅子に座って待っていた。そしたらいきなりその令嬢がひよこを指差し『殿下がひよこに…』と言って勝手に気を失ったんだ。
その後すぐに第二王子は呪われているという噂が流れ、それを聞いた他の令嬢達も私の側にいるひよこの姿を盗み見て、更に噂は広まっていった。だから私が企んだわけではない。噂を放置はしていたが…」
「でもそんなに都合よく勘違いするものかしら?」

私は当然の疑問を口にする。
だって本物の第二王子を間違うはずがない。

「私は普段は華美な服装はしないし、その時は服も土で汚れていた。それに隣国へ数年前から留学していたから最近の容姿は知られていなかった。そのうえ私が頑なに面会を拒んでいたので、何かあるのではと良からぬ噂も当初からあったから先入観があったのだろう。それにひよこの態度も大きな要因だった」
「ひよこ殿下の?」

いくらなんでもひよこのせいだとは思えない。

私が首を傾げると、イーライはその時の様子を詳しく語る。

「ひよこはクッションの上で優雅に寝そべっていた。私達が捕まえたミミズを与えると、小さいのが気に入らなかったらしくてピーピー言いながら何度か遠くに放り投げていた。まあ、叱らずにその後もミミズを探していたんだ。それが令嬢には横暴な第二王子が従者を顎で使っているように見えたらしい」
「それは勘違いするかもしれないわね…」

噂の原因はひよこ殿下の態度が八割占めているのかもしれない。


「それにリラだって私が分からなかったじゃないか。再会した時、私もいたのにひよこを第二王子だと思って挨拶を始めた。正直、気づいてもらえなくて堪えたよ」
「……ごめんなさい」

少しだけ拗ねたような口調でそう言う彼は年相応に見える。

言われてみたら私もイーライとエレンとひよこが並んでいて、勝手にひよこを第二王子だと思い込んだ。
それは噂のせいあるけれど、それよりもイーライ自身が変わっていたからだ。

 どうして少しも面影が残っていないのよ…。


そうなのだ、幼い頃のイザク殿下はふわふわの茶色がかった金髪、色白に桃色の頬で、背も小さく少しだけぽっちゃりしていた。そしてひよこ殿下は、金色のふわふわの羽で小さいけれど丸々としている。

一方イーライはがっしりとして背が高く、髪も直毛の薄茶色で肌も浅黒い。
確かに髪色は成長とともに変化する人もいるし、肌の色も焼ければ変わる。体格だって鍛えたらそうなる。

でもあんなに格好良く成長するなんて思わない。。

――あれは反則だ。


それに王族は貴族名鑑には載っていないから、成長した姿は想像するしかなかった。
私の中では、イザク殿下は可愛いぼっちゃり系王子になっていたのだ。


「でもイーライは昔のイザク殿下の面影がなかったから。逆にひよこ殿下にはしっかりと面影が残っていて…」

つい言い訳をしてしまう。

「私はひと目見てリラだと分かった。十年前も可愛かったけれど、今はもっと素敵な女性になっていて、でも気づいた。どうして噂を消さなかったと思う?噂を消すのは簡単だったが、それを利用して他の令嬢達を遠ざけたかった。
さっき心に決めた人がいるって言っただろう。それはリラのことだよ」

イーライは真剣な表情でそう告げてくる。
そこには偽りも隠し事もなく、真っ直ぐな想いしかない。

鏡を見なくても自分の顔が真っ赤になっているのが分かる。
イーライの告白に私の鼓動は早まり、その表情は嬉しさが隠しきれていない。
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