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13.打診される前に断る②
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兄は嘘をつくと右耳を左手で触る癖があるが本人は気づいていない。これで私は何度となくピンチを切り抜けてきたから、……これからも教えるつもりはない。
でも今は全く触っていないから、挙動不審だけれども『……打診は来ていない』というのは本当の事のようだ。
とりあえずは良かった、これでどうするかが決まった。
「お兄様、エール伯爵家から王家に手紙を送って頂きたいのです」
「ちょっと待て!伯爵家から王家へ手紙なんて重要な内容でなければ出せないぞ!」
真面目な兄らしい至極真っ当な言葉が返ってくる。
それはそうだ、『今なにしてる?あっ、この手紙読んでるか(笑)』と軽い感じで手紙を書いたら領地を没収されそうだ。
「もちろん重要かつ大切なことです。実は先ほどイザク殿下から告白をされました。どうやら私との婚約の話が水面下で進んでいるようです。でも私は殿下とは結婚したくありません。ですから王家から婚約の打診をされる前にお断りしておこうと思います」
「ちょ、ちょっと待ったー」
兄は机に身を乗り出し叫んでくるから、私に唾が掛かりそうになる。
お兄様、汚い……。
唾を飛ばすのだけは本当にやめて欲しい。
そんな興奮している兄に構うことなく私は話しを続ける。
「待ちません、時は金なりです。もし王家から正式に打診が来たら我が家は断ることが出来なくなり――」
「そ、そうだ!それに常識的に考えて、申し込まれてもいないのにこちらから前もって断ることだって出来ない。そんなのどう考えてもおかしい!」
私の言葉は兄によって遮られる。
確かに兄は間違ったことは言っていない。
でも今回だけは例外が認められている。常識を逸脱した行為を先にしている者達が多く存在しているからだ。
「お兄様はお忘れですか?今回イザク殿下の婚約者の座を巡って多くの令嬢達が自主的に立候補し、そして『相応しくないから…』とこれまた自主的に辞退しております。これらは王家から正式に申し込まれる前の行動です。そして誰一人不敬罪を適用されてはおりません。
つまりイザク殿下の婚約絡みでは例外が認められているから、私も先手必勝作戦を決行します!」
私はひよこ殿下からの求愛を何らかの処罰がされる覚悟のうえで断った。
でもよくよく考えたら前例もある。
だから正式に打診される前に断れば大丈夫だと気がついた。
「いやいや、待って!早まるな!とりあえずは様子を見よう。なんか誤解があるような…」
「ゴカイ?今日は貝を持っていませんよ」
「いや、誤解だからな…」
兄がガックリと肩を落とし私の間違いを指摘する。
誤解なんてない、告白されたのは事実であってその先に待っているのは婚約の打診だ。
「それでは手遅れになります。それともお兄様は王家に媚びを売るつもりですか…。それとも賄賂でも貰っているのですか?」
「そうじゃない、そうじゃなくて……」
「では妹の気持ちなど蔑ろにして構わないと思っているのですか?」
「そんなことはない!私はリラに幸せになって欲しいと心から思っている!」
…もちろん知っていますわ、お兄様。
兄は私のことを心から愛してくれていて、結局のところ甘い。
――弱点を攻めて落とすのは基本中の基本。
幼い頃に兄からチェスを教わっていた時にそう教えてくれた。今こそ兄の熱心な教育の成果を見せる時だ。
お兄様の期待に応えますわ!
親代わりの兄にとって妹である私は可愛い娘のような存在でもある。つまり父は娘に縋られたら突き放すことは出来ない。
「では断ってもいいですね?」
「いや、でも、それは……」
「私のことを本当は愛していないのですか、お兄様」
「リラ……」
じりじりと攻めていくと、兄の声音に迷いが生じてくる。
うん、もうひと押しね。
でも今は全く触っていないから、挙動不審だけれども『……打診は来ていない』というのは本当の事のようだ。
とりあえずは良かった、これでどうするかが決まった。
「お兄様、エール伯爵家から王家に手紙を送って頂きたいのです」
「ちょっと待て!伯爵家から王家へ手紙なんて重要な内容でなければ出せないぞ!」
真面目な兄らしい至極真っ当な言葉が返ってくる。
それはそうだ、『今なにしてる?あっ、この手紙読んでるか(笑)』と軽い感じで手紙を書いたら領地を没収されそうだ。
「もちろん重要かつ大切なことです。実は先ほどイザク殿下から告白をされました。どうやら私との婚約の話が水面下で進んでいるようです。でも私は殿下とは結婚したくありません。ですから王家から婚約の打診をされる前にお断りしておこうと思います」
「ちょ、ちょっと待ったー」
兄は机に身を乗り出し叫んでくるから、私に唾が掛かりそうになる。
お兄様、汚い……。
唾を飛ばすのだけは本当にやめて欲しい。
そんな興奮している兄に構うことなく私は話しを続ける。
「待ちません、時は金なりです。もし王家から正式に打診が来たら我が家は断ることが出来なくなり――」
「そ、そうだ!それに常識的に考えて、申し込まれてもいないのにこちらから前もって断ることだって出来ない。そんなのどう考えてもおかしい!」
私の言葉は兄によって遮られる。
確かに兄は間違ったことは言っていない。
でも今回だけは例外が認められている。常識を逸脱した行為を先にしている者達が多く存在しているからだ。
「お兄様はお忘れですか?今回イザク殿下の婚約者の座を巡って多くの令嬢達が自主的に立候補し、そして『相応しくないから…』とこれまた自主的に辞退しております。これらは王家から正式に申し込まれる前の行動です。そして誰一人不敬罪を適用されてはおりません。
つまりイザク殿下の婚約絡みでは例外が認められているから、私も先手必勝作戦を決行します!」
私はひよこ殿下からの求愛を何らかの処罰がされる覚悟のうえで断った。
でもよくよく考えたら前例もある。
だから正式に打診される前に断れば大丈夫だと気がついた。
「いやいや、待って!早まるな!とりあえずは様子を見よう。なんか誤解があるような…」
「ゴカイ?今日は貝を持っていませんよ」
「いや、誤解だからな…」
兄がガックリと肩を落とし私の間違いを指摘する。
誤解なんてない、告白されたのは事実であってその先に待っているのは婚約の打診だ。
「それでは手遅れになります。それともお兄様は王家に媚びを売るつもりですか…。それとも賄賂でも貰っているのですか?」
「そうじゃない、そうじゃなくて……」
「では妹の気持ちなど蔑ろにして構わないと思っているのですか?」
「そんなことはない!私はリラに幸せになって欲しいと心から思っている!」
…もちろん知っていますわ、お兄様。
兄は私のことを心から愛してくれていて、結局のところ甘い。
――弱点を攻めて落とすのは基本中の基本。
幼い頃に兄からチェスを教わっていた時にそう教えてくれた。今こそ兄の熱心な教育の成果を見せる時だ。
お兄様の期待に応えますわ!
親代わりの兄にとって妹である私は可愛い娘のような存在でもある。つまり父は娘に縋られたら突き放すことは出来ない。
「では断ってもいいですね?」
「いや、でも、それは……」
「私のことを本当は愛していないのですか、お兄様」
「リラ……」
じりじりと攻めていくと、兄の声音に迷いが生じてくる。
うん、もうひと押しね。
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