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8.従者エレン・ゼイロの胸の内
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第二王子の従者に抜擢されたのは、イザク殿下が隣国に留学中の一年ほど前のことだった。
『イザクは来年留学を終えて戻ってくる予定だ。お前のような優秀な者が支えてくれたら心強い。どうだ、第二王子であるイザクの従者になるつもりはあるか?』
『はい!謹んでお受け致します、陛下』
国王陛下から直々のお言葉を頂いたのは初めてのこと。それに第二王子の従者に選ばれるのは信頼されている証であり、大変栄誉なことだった。
私は恭しく頭を下げお受けした。
そして帰国前から殿下と交流を取っておいたほうが良いだろうという上の判断で、私はその翌週には隣国へと旅立った。
イザク殿下は早い時期から隣国へ留学していた為、私はちゃんと話したことはない。
だから殿下の印象は『体が小さく、あどけなさが残る第二王子』でしかなかった。
だが実際に会って話すとその印象はすぐに消え去った。
殿下は体を鍛えられ逞しくなっていた。
それに五歳も年下なのにとても落ち着いており、年下だと感じさせない佇まい。それでいて気さくな方だった。
畏れ多いことだが、私と殿下は気が合って、二人だけの時になると友人のように接してくださるようになった。
いろいろなことを話していると、殿下には想う人がいることが分かった。
殿下の話には幼い頃に一緒に遊んだ令嬢の名が何度も出てきたから。
『リラは凄く優しくて、病弱な私をいつも気にかけてくれた。だがら離宮まで毎日のように遊びに来てくれたんだ』
『それは素敵なご令嬢ですね』
静養中の殿下を見舞う優しい令嬢の姿が頭の中に浮かぶ。
私は殿下の言葉に素直に頷く。
『何度も森に置き去りにされたおかげで、心が強くなった。大嫌いな虫取りに無理矢理付き合わされたから、虫嫌いを克服できた。こうして今の私があるのは彼女のおかげだ』
――今度は頷けなかった。
殿下の言葉に顔が引き攣る、なんとか笑って誤魔化した。
『…それは良かったですね』
内心では『世間一般ではそれは振り回されていたと言うのですよ』と言いたかったが、愛しそうにその令嬢を語る殿下はとても幸せそうだった。
…口が裂けても言えないな。
だから私は殿下にこの時は現実を教えることはしなかった。
帰国してその令嬢と再会したら、きっと思い出は美化されていたと現実を知って大人になると思ったからだ。
でも今はあのとき本当に余計なことを言わなくて良かったと思っている。
イザク殿下が一途に想い続けていた令嬢は、とても賢く素敵な女性だった。
ある意味、少しだけ残念な令嬢でもあるリラ・エール伯爵令嬢。…だが愚かではない。
それに前向きで明るく、どんなことも乗り越える強さもある。
第二王子の相手としてこれ以上なく相応しい。
なにより昔も今も、第二王子という肩書きではなくイザク殿下自身を見ているところが気に入った。
だから私は二人の仲が上手くいくように温かい目で見守っていた。
離宮に来てから数カ月後のある日のこと、イザク殿下は真剣な表情で私に告げてきた。
「王家から正式にエール伯爵家に婚約を申し込もうと思っている。父上達には手紙ではなく直接話したいから、しばらく離宮を留守にする。戻ってきたら私からリラに直接話すつもりだ。だから他言無用だ」
「承知いたしました、イザク殿下。イーライ・ゴサンが消える日も近いですね」
「ああ、そうだな」
殿下の顔がにやけている。これは仕方がない、殿下の一途な思いが叶う日がついそこまできているのだから。
順調に愛を育んでいる二人を見守ってきたので、殿下の決断は私にとって嬉しい限りだった。
そして殿下が王都に向かってから数日後、早馬で王都から使者がこの離宮にやって来た。
殿下の願いが認めらたことを知らせに来てくれたのだ。
「エレン殿、お久しぶりです。どうなるかと思っていましたが、本当に良かった」
「ええ、雨降って地固まるですね」
使者として離宮に来たのはゼイロ公爵家の縁戚の者だったので、お互いに畏まる必要もなかった。
だから一緒に廊下を歩きながら話し始める。
「エレン殿、ところで第二王子自ら、強く望んだ令嬢はどんな方ですか?私はまだ詳しいことは聞かされていなくて…」
正式な発表前だから、まだごく一部の者にしか詳細は知らされていないのだろう。
だがこの辺境まで休むことなく馬を飛ばしてきた使者に少しは報いてあげでもいいだろう。
使者が口が固い人物なのは分かっていた、だからこそ使者としてここ遣わされたのだ。
周りには誰もいない。
「エール伯爵家のリラ様です。でも発表されるまで他言無用でお願いしますよ」
私はこっそりとその名だけを教えてあげた。
『イザクは来年留学を終えて戻ってくる予定だ。お前のような優秀な者が支えてくれたら心強い。どうだ、第二王子であるイザクの従者になるつもりはあるか?』
『はい!謹んでお受け致します、陛下』
国王陛下から直々のお言葉を頂いたのは初めてのこと。それに第二王子の従者に選ばれるのは信頼されている証であり、大変栄誉なことだった。
私は恭しく頭を下げお受けした。
そして帰国前から殿下と交流を取っておいたほうが良いだろうという上の判断で、私はその翌週には隣国へと旅立った。
イザク殿下は早い時期から隣国へ留学していた為、私はちゃんと話したことはない。
だから殿下の印象は『体が小さく、あどけなさが残る第二王子』でしかなかった。
だが実際に会って話すとその印象はすぐに消え去った。
殿下は体を鍛えられ逞しくなっていた。
それに五歳も年下なのにとても落ち着いており、年下だと感じさせない佇まい。それでいて気さくな方だった。
畏れ多いことだが、私と殿下は気が合って、二人だけの時になると友人のように接してくださるようになった。
いろいろなことを話していると、殿下には想う人がいることが分かった。
殿下の話には幼い頃に一緒に遊んだ令嬢の名が何度も出てきたから。
『リラは凄く優しくて、病弱な私をいつも気にかけてくれた。だがら離宮まで毎日のように遊びに来てくれたんだ』
『それは素敵なご令嬢ですね』
静養中の殿下を見舞う優しい令嬢の姿が頭の中に浮かぶ。
私は殿下の言葉に素直に頷く。
『何度も森に置き去りにされたおかげで、心が強くなった。大嫌いな虫取りに無理矢理付き合わされたから、虫嫌いを克服できた。こうして今の私があるのは彼女のおかげだ』
――今度は頷けなかった。
殿下の言葉に顔が引き攣る、なんとか笑って誤魔化した。
『…それは良かったですね』
内心では『世間一般ではそれは振り回されていたと言うのですよ』と言いたかったが、愛しそうにその令嬢を語る殿下はとても幸せそうだった。
…口が裂けても言えないな。
だから私は殿下にこの時は現実を教えることはしなかった。
帰国してその令嬢と再会したら、きっと思い出は美化されていたと現実を知って大人になると思ったからだ。
でも今はあのとき本当に余計なことを言わなくて良かったと思っている。
イザク殿下が一途に想い続けていた令嬢は、とても賢く素敵な女性だった。
ある意味、少しだけ残念な令嬢でもあるリラ・エール伯爵令嬢。…だが愚かではない。
それに前向きで明るく、どんなことも乗り越える強さもある。
第二王子の相手としてこれ以上なく相応しい。
なにより昔も今も、第二王子という肩書きではなくイザク殿下自身を見ているところが気に入った。
だから私は二人の仲が上手くいくように温かい目で見守っていた。
離宮に来てから数カ月後のある日のこと、イザク殿下は真剣な表情で私に告げてきた。
「王家から正式にエール伯爵家に婚約を申し込もうと思っている。父上達には手紙ではなく直接話したいから、しばらく離宮を留守にする。戻ってきたら私からリラに直接話すつもりだ。だから他言無用だ」
「承知いたしました、イザク殿下。イーライ・ゴサンが消える日も近いですね」
「ああ、そうだな」
殿下の顔がにやけている。これは仕方がない、殿下の一途な思いが叶う日がついそこまできているのだから。
順調に愛を育んでいる二人を見守ってきたので、殿下の決断は私にとって嬉しい限りだった。
そして殿下が王都に向かってから数日後、早馬で王都から使者がこの離宮にやって来た。
殿下の願いが認めらたことを知らせに来てくれたのだ。
「エレン殿、お久しぶりです。どうなるかと思っていましたが、本当に良かった」
「ええ、雨降って地固まるですね」
使者として離宮に来たのはゼイロ公爵家の縁戚の者だったので、お互いに畏まる必要もなかった。
だから一緒に廊下を歩きながら話し始める。
「エレン殿、ところで第二王子自ら、強く望んだ令嬢はどんな方ですか?私はまだ詳しいことは聞かされていなくて…」
正式な発表前だから、まだごく一部の者にしか詳細は知らされていないのだろう。
だがこの辺境まで休むことなく馬を飛ばしてきた使者に少しは報いてあげでもいいだろう。
使者が口が固い人物なのは分かっていた、だからこそ使者としてここ遣わされたのだ。
周りには誰もいない。
「エール伯爵家のリラ様です。でも発表されるまで他言無用でお願いしますよ」
私はこっそりとその名だけを教えてあげた。
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