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1.呪われた第二王子との再会
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我が国の第二王子は最近留学していた隣国から帰国したばかりだが、王都から遠く離れたこの辺境の地にまで彼についての噂が届いてきている。
――『第二王子は呪われているらしい』と…。
第二王子であるイザク殿下は今年で16歳になったが、まだ婚約者はいない。
そのため彼が帰国する前から、第二王子妃になろうと未婚の令嬢達が水面下で激しい争いを繰り広げていたらしい。
らしいというのは、田舎の伯爵令嬢である私リラ・エールはその争いに参加していないからこれも噂で知っただけだ。
――そもそも今年で19歳になった年上の私に出る幕はない。
けれども第二王子が無事に帰国して、その呪われた姿を実際に目にした令嬢達はみな顔を引き攣らせたり、失神してしまったという。
そして『私のような人間はイザク殿下には相応しくありませんので…』と謙虚な言葉を口にしてから蜘蛛の子を散らすように令嬢達は去ってしまった。
いったいどんな恐ろしい姿になったのだろうかと人々は噂しているし、実は私も案じている。
王都に行くことが殆どない私だけれども、実は第二王子であるイザク殿下とは幼い頃に一緒に遊んだことがある。
彼は幼いころ病弱だったため、辺境にある離宮で静養していた時期があるからだ。
本来なら王子である彼と田舎の伯爵令嬢である私が一緒に遊ぶなんてことはない。でもお互いにまだ子供だったし、ここは王都から遠く離れた辺境だから大目に見てもらえていたのだと思う。
『イザク殿下、遊びましょ!』
『でも無理はしちゃいけないって言われているから…』
『無理しなかったらいいのよね?木登りはやめて、大人しく虫取りしましょうね!』
『う、うん。大人しくなら…』
『大丈夫よ、まっすぐ走るだけだから!』
『えっ…?』
…確か、こんなふうに二人で仲良く遊んでいたと私は記憶している。
ちょっと強引だったところはあるけれど、たぶん彼も楽しんでいてくれたはずだ…。
6歳のイザク殿下が離宮にいたのは半年間くらいだったので、きっと16歳になった殿下は田舎で遊んだ私のことなんて忘れているだろう。
でも私ははっきりと覚えている。
なぜならイザク殿下は男の子だけれど、天使のように愛らしかったからだ。
柔らかい茶色がかった金髪はふわふわと綿菓子のようで、子供だった私は我慢出来ずに『食べてみていい?』と尋ねてしまうほど。
『だめ!』とぷるぷる震えながら断られたことは、今では良い思い出になっている。
それに色白の肌に桃色の頬は女の子と見間違えるほどで、田舎の女の子達は足元にも及ばなかった。
私にとってイザク殿下は可愛い妹のような存在で、一緒に過ごした時間は素敵な思い出になっている。
天使のような甘い顔立ちの美男子に成長しているに違いないわ。
呪われてしまって、本当にお可哀想に…。
そうは思っていても私にできることはなにもないし、10年前に少しだけ遊んだ田舎の令嬢がその身を案じる手紙を出したところで、玉の輿狙いだと勘違いされるだけだ。
結婚適齢期を過ぎつつあるのは気にしていないけれど、狙っていると思われる不名誉な事態は避けたい。
だから早く呪いが解けますように秘かに祈るだけにしている。
私の祈りなど効果はないだろうけれど、これは気持ちの問題なのだ。
◇ ◇ ◇
しばらく経ったある日のこと、兄から第二王子が辺境に来ることが告げられる。
「イザク殿下がお忍びで離宮に静養に来ることになった。二日後には到着される予定だが、私は王都に行く用事がある。だからエール伯爵家としての挨拶にはお前が行ってくれ」
「私がですか?ですが相手は王族ですから、その用事よりも第二王子への挨拶を優先するべきではありませんか?」
「そうするべきだが、今回王都へ出向く用事とは国王陛下への報告も含まれているんだ。だから予定を変更することは難しい。本来ならエール伯爵夫人であるシャロンが代わりに行くのが筋だが、無理はさせたくない」
そう言いながら12歳年上の兄タイラ・エールは隣りにいる妻に優しい眼差しを向ける。
今、義姉は第二子を身ごもっており、いつ産気づいてもおかしくないほど大きなお腹をしている。
私も義姉には無理はさせたくない。
「ごめんなさいね、リラ。私が行くべきなのに…」
「お義姉様、気にしないでください。私だって挨拶くらいはちゃんと出来ますから」
「リラ、すまないな。だが挨拶だけにしてくれ。余計なことはしなくていいからな!」
なぜか兄は私が余計なことをすると疑っているようだ。
そんなに心配性だとより早くに禿げてしまうだろう。そうでなくても亡くなった父の遺伝で早くに禿げる可能性が高いのに…。
でもそれは言葉にはしないでおく。なぜなら最近、兄は頭頂部をとても気にしているからだ。
「お兄様、私だって大人ですから虫取りにはもう誘いませんし、木登りもしません」
「……それは当たり前だ」
確かに十年前は病弱な殿下を少しだけ振り回していたかしれないけれど、私だってあの頃のままではない。
もう立派な淑女だわ、たぶんね…。
こうして私は二日後にイザク殿下に挨拶するために離宮を訪れた。
離宮はエール伯爵家の屋敷からそう離れてはいない場所にある。それほど大きくない建物だが、内装はやはり豪華だ。
子供の頃はそんなことは意識しておらず、泥だらけのまま二人で歩き回り、青ざめた侍女達が『お帰りなさいませ』と涙目で言っていた記憶がある。
今思えば本当に申し訳ないことをしたと反省するばかりだ。
でも辺境という田舎では貴族でも子供の時は誰もがこんなものだったと思う。
親代わりでもある兄は『違うぞ!』と言っていたが、あの兄は両親が亡くなり早くに爵位を継いだからか昔から頭が固い。
だから兄はちょっと例外的な存在で、私が普通だと思っている。
豪華な内装を眺めながらそんなことを考えていると、年配の侍女が声を掛けてくる。
「イザク殿下はただ今中庭にいらっしゃいますのでご案内致します」
「はい、お願いします」
なぜ中庭なのだろうかと思ったが、尋ねることはしなかった。
どんな姿になっているのかは知らないけれど、おとぎ話などでは呪われると大きな獣になったりしている。
もしそうなら部屋では窮屈なのかもしれない。
どんな姿でも驚かないわ。
だって人は見掛けではないもの!
私は案内してくれる侍女に気づかれないように、小さく息を吸い込んで心の準備をする。私があからさまに驚いてては殿下の心を傷つけてしまう。
「イザク殿下はあちらでお待ちございます」
立ち止まった侍女の視線の先には東屋がある。どうやら案内はここまでのようだ。
「ありがとう」
私は案内してくれた侍女にお礼を言ってから、そちらに向かって歩いていくと、二人の男性の姿が見えてきた。
イザク殿下とその従者だろうか。この距離ではまだどちらが殿下までは分からない。
あら?二人ではないわ…。
近くまで行くと、そこにいるのは二人だけではなかった。
ふかふかの豪華なクッションにちょこんと座っている生き物が真ん中にいて、その両脇に守るように二人が立っている。
この立ち位置、そして二人の男性の華美でない装いを考えたら、間違えようがなかった。
この真ん中にいる生き物こそが、呪われたイザク殿下本人。
これが呪い?か、可愛すぎるわ。
あの頃と同じくらい、いいえ格段に可愛さが増しているわ!
身悶えしたくなるほどの可愛さに叫びたくなる。
でも私は淑女だからそんな感情は表に出さずに、微笑んで挨拶の言葉を口にする。
「お久しぶりでございます、イザク殿下。本来ならエール伯爵である兄がご挨拶に伺うところですが不在のため、妹である私がご挨拶に参りました。滞在中我が家に出来ることがあれば、何なりとお申し付けださいませ」
「……」
私の挨拶に対して殿下から返事が返ってくることはなかった。
でもそれは仕方がないことだろう、嘴では人の言葉を話すことは難しいに違いない。
姿形は全く違っていても、その柔らかい金色の羽やぷくっとした頬や大きな丸い目は幼い頃の殿下の面影がしっかりと残っているのがなんとも不思議だ。
挨拶は済んだのだからすぐに去るべきだが、平静を装ってそのまま去るなんて私には無理だった。
ちょっとだけ、ちょっとだけならいいわよね…?
殿下を昔と同じようにぎゅっと抱きしめたい。
しかし大人になった私が殿下を抱きしめるなんて不敬でしかなく、許されることではない。
頭では勿論分かっている、……が感情と理性が戦った結果、見事に前者が勝利してしまった。
――私はきっと悪くない、可愛すぎる殿下がいけない。
「あの、……ちょっとだけなら抱きしめてもいいかしら?」
「……駄目です」
思わずイザク殿下を抱きしめたいと口にしてみたが、その願いは近くにいる従者によって却下されてしまった。
落胆している私に、『ひよこ』ではなくイザク殿下が言葉を掛けてくれた。
「ぴぃ、ぴぴ!」
「えっ、抱きしめても構わないのですか?!イザク殿下、お心遣いありがとうございます!」
小さな羽を広げて私の抱擁を待ってくれているイザク殿下。
やはり殿下は呪われても、中身は昔と同じく素直なままだった。
満面の笑みを浮かべてながら私も手を伸ばし一歩近づくと、私と殿下の間に先ほど駄目だと言ったあの従者がすっと割り込んでくる。
「…そんなことは誰も、一言も、言っておりません」
せっかく殿下が『構わない』と言ってくれたはずなのに、またしても真面目で頭が固そうな従者に邪魔をされてしまった。
――『第二王子は呪われているらしい』と…。
第二王子であるイザク殿下は今年で16歳になったが、まだ婚約者はいない。
そのため彼が帰国する前から、第二王子妃になろうと未婚の令嬢達が水面下で激しい争いを繰り広げていたらしい。
らしいというのは、田舎の伯爵令嬢である私リラ・エールはその争いに参加していないからこれも噂で知っただけだ。
――そもそも今年で19歳になった年上の私に出る幕はない。
けれども第二王子が無事に帰国して、その呪われた姿を実際に目にした令嬢達はみな顔を引き攣らせたり、失神してしまったという。
そして『私のような人間はイザク殿下には相応しくありませんので…』と謙虚な言葉を口にしてから蜘蛛の子を散らすように令嬢達は去ってしまった。
いったいどんな恐ろしい姿になったのだろうかと人々は噂しているし、実は私も案じている。
王都に行くことが殆どない私だけれども、実は第二王子であるイザク殿下とは幼い頃に一緒に遊んだことがある。
彼は幼いころ病弱だったため、辺境にある離宮で静養していた時期があるからだ。
本来なら王子である彼と田舎の伯爵令嬢である私が一緒に遊ぶなんてことはない。でもお互いにまだ子供だったし、ここは王都から遠く離れた辺境だから大目に見てもらえていたのだと思う。
『イザク殿下、遊びましょ!』
『でも無理はしちゃいけないって言われているから…』
『無理しなかったらいいのよね?木登りはやめて、大人しく虫取りしましょうね!』
『う、うん。大人しくなら…』
『大丈夫よ、まっすぐ走るだけだから!』
『えっ…?』
…確か、こんなふうに二人で仲良く遊んでいたと私は記憶している。
ちょっと強引だったところはあるけれど、たぶん彼も楽しんでいてくれたはずだ…。
6歳のイザク殿下が離宮にいたのは半年間くらいだったので、きっと16歳になった殿下は田舎で遊んだ私のことなんて忘れているだろう。
でも私ははっきりと覚えている。
なぜならイザク殿下は男の子だけれど、天使のように愛らしかったからだ。
柔らかい茶色がかった金髪はふわふわと綿菓子のようで、子供だった私は我慢出来ずに『食べてみていい?』と尋ねてしまうほど。
『だめ!』とぷるぷる震えながら断られたことは、今では良い思い出になっている。
それに色白の肌に桃色の頬は女の子と見間違えるほどで、田舎の女の子達は足元にも及ばなかった。
私にとってイザク殿下は可愛い妹のような存在で、一緒に過ごした時間は素敵な思い出になっている。
天使のような甘い顔立ちの美男子に成長しているに違いないわ。
呪われてしまって、本当にお可哀想に…。
そうは思っていても私にできることはなにもないし、10年前に少しだけ遊んだ田舎の令嬢がその身を案じる手紙を出したところで、玉の輿狙いだと勘違いされるだけだ。
結婚適齢期を過ぎつつあるのは気にしていないけれど、狙っていると思われる不名誉な事態は避けたい。
だから早く呪いが解けますように秘かに祈るだけにしている。
私の祈りなど効果はないだろうけれど、これは気持ちの問題なのだ。
◇ ◇ ◇
しばらく経ったある日のこと、兄から第二王子が辺境に来ることが告げられる。
「イザク殿下がお忍びで離宮に静養に来ることになった。二日後には到着される予定だが、私は王都に行く用事がある。だからエール伯爵家としての挨拶にはお前が行ってくれ」
「私がですか?ですが相手は王族ですから、その用事よりも第二王子への挨拶を優先するべきではありませんか?」
「そうするべきだが、今回王都へ出向く用事とは国王陛下への報告も含まれているんだ。だから予定を変更することは難しい。本来ならエール伯爵夫人であるシャロンが代わりに行くのが筋だが、無理はさせたくない」
そう言いながら12歳年上の兄タイラ・エールは隣りにいる妻に優しい眼差しを向ける。
今、義姉は第二子を身ごもっており、いつ産気づいてもおかしくないほど大きなお腹をしている。
私も義姉には無理はさせたくない。
「ごめんなさいね、リラ。私が行くべきなのに…」
「お義姉様、気にしないでください。私だって挨拶くらいはちゃんと出来ますから」
「リラ、すまないな。だが挨拶だけにしてくれ。余計なことはしなくていいからな!」
なぜか兄は私が余計なことをすると疑っているようだ。
そんなに心配性だとより早くに禿げてしまうだろう。そうでなくても亡くなった父の遺伝で早くに禿げる可能性が高いのに…。
でもそれは言葉にはしないでおく。なぜなら最近、兄は頭頂部をとても気にしているからだ。
「お兄様、私だって大人ですから虫取りにはもう誘いませんし、木登りもしません」
「……それは当たり前だ」
確かに十年前は病弱な殿下を少しだけ振り回していたかしれないけれど、私だってあの頃のままではない。
もう立派な淑女だわ、たぶんね…。
こうして私は二日後にイザク殿下に挨拶するために離宮を訪れた。
離宮はエール伯爵家の屋敷からそう離れてはいない場所にある。それほど大きくない建物だが、内装はやはり豪華だ。
子供の頃はそんなことは意識しておらず、泥だらけのまま二人で歩き回り、青ざめた侍女達が『お帰りなさいませ』と涙目で言っていた記憶がある。
今思えば本当に申し訳ないことをしたと反省するばかりだ。
でも辺境という田舎では貴族でも子供の時は誰もがこんなものだったと思う。
親代わりでもある兄は『違うぞ!』と言っていたが、あの兄は両親が亡くなり早くに爵位を継いだからか昔から頭が固い。
だから兄はちょっと例外的な存在で、私が普通だと思っている。
豪華な内装を眺めながらそんなことを考えていると、年配の侍女が声を掛けてくる。
「イザク殿下はただ今中庭にいらっしゃいますのでご案内致します」
「はい、お願いします」
なぜ中庭なのだろうかと思ったが、尋ねることはしなかった。
どんな姿になっているのかは知らないけれど、おとぎ話などでは呪われると大きな獣になったりしている。
もしそうなら部屋では窮屈なのかもしれない。
どんな姿でも驚かないわ。
だって人は見掛けではないもの!
私は案内してくれる侍女に気づかれないように、小さく息を吸い込んで心の準備をする。私があからさまに驚いてては殿下の心を傷つけてしまう。
「イザク殿下はあちらでお待ちございます」
立ち止まった侍女の視線の先には東屋がある。どうやら案内はここまでのようだ。
「ありがとう」
私は案内してくれた侍女にお礼を言ってから、そちらに向かって歩いていくと、二人の男性の姿が見えてきた。
イザク殿下とその従者だろうか。この距離ではまだどちらが殿下までは分からない。
あら?二人ではないわ…。
近くまで行くと、そこにいるのは二人だけではなかった。
ふかふかの豪華なクッションにちょこんと座っている生き物が真ん中にいて、その両脇に守るように二人が立っている。
この立ち位置、そして二人の男性の華美でない装いを考えたら、間違えようがなかった。
この真ん中にいる生き物こそが、呪われたイザク殿下本人。
これが呪い?か、可愛すぎるわ。
あの頃と同じくらい、いいえ格段に可愛さが増しているわ!
身悶えしたくなるほどの可愛さに叫びたくなる。
でも私は淑女だからそんな感情は表に出さずに、微笑んで挨拶の言葉を口にする。
「お久しぶりでございます、イザク殿下。本来ならエール伯爵である兄がご挨拶に伺うところですが不在のため、妹である私がご挨拶に参りました。滞在中我が家に出来ることがあれば、何なりとお申し付けださいませ」
「……」
私の挨拶に対して殿下から返事が返ってくることはなかった。
でもそれは仕方がないことだろう、嘴では人の言葉を話すことは難しいに違いない。
姿形は全く違っていても、その柔らかい金色の羽やぷくっとした頬や大きな丸い目は幼い頃の殿下の面影がしっかりと残っているのがなんとも不思議だ。
挨拶は済んだのだからすぐに去るべきだが、平静を装ってそのまま去るなんて私には無理だった。
ちょっとだけ、ちょっとだけならいいわよね…?
殿下を昔と同じようにぎゅっと抱きしめたい。
しかし大人になった私が殿下を抱きしめるなんて不敬でしかなく、許されることではない。
頭では勿論分かっている、……が感情と理性が戦った結果、見事に前者が勝利してしまった。
――私はきっと悪くない、可愛すぎる殿下がいけない。
「あの、……ちょっとだけなら抱きしめてもいいかしら?」
「……駄目です」
思わずイザク殿下を抱きしめたいと口にしてみたが、その願いは近くにいる従者によって却下されてしまった。
落胆している私に、『ひよこ』ではなくイザク殿下が言葉を掛けてくれた。
「ぴぃ、ぴぴ!」
「えっ、抱きしめても構わないのですか?!イザク殿下、お心遣いありがとうございます!」
小さな羽を広げて私の抱擁を待ってくれているイザク殿下。
やはり殿下は呪われても、中身は昔と同じく素直なままだった。
満面の笑みを浮かべてながら私も手を伸ばし一歩近づくと、私と殿下の間に先ほど駄目だと言ったあの従者がすっと割り込んでくる。
「…そんなことは誰も、一言も、言っておりません」
せっかく殿下が『構わない』と言ってくれたはずなのに、またしても真面目で頭が固そうな従者に邪魔をされてしまった。
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