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6.変わらない日常と変わっていく心③
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それからも私の生活に自然と叔母が入り込んでいた。不自然ではない、親戚としての付き合い程度の関係を続けていく。
だから誰も何も言わない。
表面上はただ仲の良い叔母が姪を訪ねてきているだけ。
そして夫であるオズワルドもそんな叔母の訪問を拒むことなく受け入れていた。
彼は何も変わらなかった。
傍から見たら、彼はライナー伯爵としてただ妻の叔母を丁重にもてなしているだけ。
すべてが私以外にとっては正しいことだった。
ギシリッ…。
でも楽しげに会話を交わす二人を見ると私のなかの何かが音を立て軋んでいく。
これはなにかしら…。
その音に対処はする術も逃げる術もなく、ただ聞いている。
世の中には理不尽に対応できない弱き者だっている。
正しく生きてこようとしてきたけれど、だからといって正しいから強くなれるわけではない。
正しく強くあることは理想だけれども多くの人にとってはそんなの幻想だ。
…私にとってもそうだ。
夫は変わらずに私に『愛しているよ、ニーナ』と愛を囁きながら、いつものように私と夜もともにしている。
彼は何も変わらない、何も言ってくれない。
だからこそ私の心は追い詰められていった。
本当のことを告げて欲しかった。
どう思っているのか教えて欲しかった。
何でもいいから言って…。
このままは嫌なの。
お願い、一言でもいいから…。
おねが…いよ。
何も言ってくれないからこそ、考えは悪いほうにいってしまう。
でも彼は変わらないまま、私の前でかつて愛した人を笑顔で受け入れている。
まだ…愛しているの…。
だからなの…。
その胸のうちにどんな想いを抱えているのだろうか。
考えずにはいられない。
そして考えれば考えるほど…私の心を悲鳴を上げ、壊れていくのを感じる。
私は自分でも驚くほど脆かったようだ。
愚かな私は『聞かない』と自分が決めたことに囚われ自分自身を勝手に追い込んでいく。
淑女の仮面を被った道化のようだった。
いつしか私の中で彼が囁く甘い言葉は偽りになっていた。
彼から囁かれる甘く優しい愛の言葉は苦痛でしかなく、心を抉っていく。
それが嘘だと私には分かっているから…。
だってそうじゃなければ彼は隠したりしないわ。
これは嘘、きっと嘘でしかない。
私の周りには嘘が溢れている。
彼から吐き出される『愛』と言う名の優しい嘘に私は溺れていく。
気づけば息をするのも苦しかった。
そして一人になると耐えられず吐くようになっていた。
まるで私の身体に染み込んでいる彼の言葉を拒絶するかのように。
彼らは私の前で平気で嘘をつき、楽しげに微笑み合う。
もし彼が私を心から愛していたら、もし叔母が私のことを姪として大切に思っているならば、私の前でこんな茶番を演じないはずだろう。
…そうよね?
…もう疲れてしまった。
いつから心から笑っていないのかも思い出せない。
ただ…ただ…必死になって微笑んでいた。
感情を押し殺しながら。
いいえ多分そうじゃない。
きっともう感情が分からなくなっている。
愛しているって大切だって感覚が麻痺しているのだろう。
自分を守るための防衛本能だろうか。
それももう意味はないというのに。
だって私はもう壊れている、だから微笑んでいられるのだ。
ただ終わりにしたかった。
何を終わりにしたいのか…。
いったいなにを終わらせればいいのだろうか。
それすら分からないけれども、『終わりにしたい』とだけ思い続けていた。
それを望んでいる時だけは彼らのことを考えずに済んで少しだけ楽になれる。
そんな日々を過ごしているとある日、私は体調を崩し倒れてしまう。
そして医者に診てもらったあと満面の笑みで『奥様、おめでとうございます。お腹にお子が宿っております』という祝福の言葉を告げられた。
夫を含め屋敷中の者が喜びの声を上げるなか、私だけは何も感じられなかった。
命を宿したというのに喜べない、だが悲しいわけでもない。
ただ感情がなにも湧いてこないだけ。
どうすれば感じることができるのか分からずただ周りに合わせてぎこちなく微笑む。
これでいいのだろうかと思いながら。
だから誰も何も言わない。
表面上はただ仲の良い叔母が姪を訪ねてきているだけ。
そして夫であるオズワルドもそんな叔母の訪問を拒むことなく受け入れていた。
彼は何も変わらなかった。
傍から見たら、彼はライナー伯爵としてただ妻の叔母を丁重にもてなしているだけ。
すべてが私以外にとっては正しいことだった。
ギシリッ…。
でも楽しげに会話を交わす二人を見ると私のなかの何かが音を立て軋んでいく。
これはなにかしら…。
その音に対処はする術も逃げる術もなく、ただ聞いている。
世の中には理不尽に対応できない弱き者だっている。
正しく生きてこようとしてきたけれど、だからといって正しいから強くなれるわけではない。
正しく強くあることは理想だけれども多くの人にとってはそんなの幻想だ。
…私にとってもそうだ。
夫は変わらずに私に『愛しているよ、ニーナ』と愛を囁きながら、いつものように私と夜もともにしている。
彼は何も変わらない、何も言ってくれない。
だからこそ私の心は追い詰められていった。
本当のことを告げて欲しかった。
どう思っているのか教えて欲しかった。
何でもいいから言って…。
このままは嫌なの。
お願い、一言でもいいから…。
おねが…いよ。
何も言ってくれないからこそ、考えは悪いほうにいってしまう。
でも彼は変わらないまま、私の前でかつて愛した人を笑顔で受け入れている。
まだ…愛しているの…。
だからなの…。
その胸のうちにどんな想いを抱えているのだろうか。
考えずにはいられない。
そして考えれば考えるほど…私の心を悲鳴を上げ、壊れていくのを感じる。
私は自分でも驚くほど脆かったようだ。
愚かな私は『聞かない』と自分が決めたことに囚われ自分自身を勝手に追い込んでいく。
淑女の仮面を被った道化のようだった。
いつしか私の中で彼が囁く甘い言葉は偽りになっていた。
彼から囁かれる甘く優しい愛の言葉は苦痛でしかなく、心を抉っていく。
それが嘘だと私には分かっているから…。
だってそうじゃなければ彼は隠したりしないわ。
これは嘘、きっと嘘でしかない。
私の周りには嘘が溢れている。
彼から吐き出される『愛』と言う名の優しい嘘に私は溺れていく。
気づけば息をするのも苦しかった。
そして一人になると耐えられず吐くようになっていた。
まるで私の身体に染み込んでいる彼の言葉を拒絶するかのように。
彼らは私の前で平気で嘘をつき、楽しげに微笑み合う。
もし彼が私を心から愛していたら、もし叔母が私のことを姪として大切に思っているならば、私の前でこんな茶番を演じないはずだろう。
…そうよね?
…もう疲れてしまった。
いつから心から笑っていないのかも思い出せない。
ただ…ただ…必死になって微笑んでいた。
感情を押し殺しながら。
いいえ多分そうじゃない。
きっともう感情が分からなくなっている。
愛しているって大切だって感覚が麻痺しているのだろう。
自分を守るための防衛本能だろうか。
それももう意味はないというのに。
だって私はもう壊れている、だから微笑んでいられるのだ。
ただ終わりにしたかった。
何を終わりにしたいのか…。
いったいなにを終わらせればいいのだろうか。
それすら分からないけれども、『終わりにしたい』とだけ思い続けていた。
それを望んでいる時だけは彼らのことを考えずに済んで少しだけ楽になれる。
そんな日々を過ごしているとある日、私は体調を崩し倒れてしまう。
そして医者に診てもらったあと満面の笑みで『奥様、おめでとうございます。お腹にお子が宿っております』という祝福の言葉を告げられた。
夫を含め屋敷中の者が喜びの声を上げるなか、私だけは何も感じられなかった。
命を宿したというのに喜べない、だが悲しいわけでもない。
ただ感情がなにも湧いてこないだけ。
どうすれば感じることができるのか分からずただ周りに合わせてぎこちなく微笑む。
これでいいのだろうかと思いながら。
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