10 / 11
10.その愛は永遠に…①
しおりを挟む
ある日の夜会でまた壁の花となっていた私に近づいてくる人がいた。
それは父だった、珍しく隣に母の姿はない。あたりを見回すと離れたところで友人達と談笑している母の姿があった。
「お父様、お久しぶりです。侯爵家のみなはお変わりないですか?」
父と話すのは本当に久しぶりだった。
新しい事業のことで奔走していた父とはだいぶ前からゆっくりと話す時間を持てていなかった。
嫁ぐ前に二人で話す時間を持ちたいとは思っていたけれども、跡を継ぐ弟の為に必死に侯爵家を立て直そうと頑張ってくれている父に我儘は言えなかった。
「あ、ああ…みな元気だ。サマンサも…その、大丈夫か?」
父は言葉を詰まらせながら心配そうに私には問いかけてきた。きっと新たな噂を耳にして心配してくれているのだろう。
心配は掛けたくなかった。
そうでなくても財政難や事業のことなどで父の負担は大きい。嫁いで侯爵家の人間でなくなった私が負担を増やしては申し訳ない。
「ええ大丈夫です、お父様。子爵家では良くして貰っていますからなんの問題もありませんわ」
笑みを浮かべていつも以上に明るい声音でそう伝える。嘘はついていない、表面上はなんの問題もない政略結婚からの完璧な結婚生活だから。
すると父は明らかに安堵した様子で言葉を続けた。
「はっはは、そうか…それは良かった!
お前なら上手くやっていけると思っていたが、本当に良かった!うん、うん、幸せで良かったぞ!
終わりよければ全てよしだな。
…ああ、それなら今更余計なことを言う必要はないな…」
娘の結婚生活が順調なことを知り大喜びしている父は最後に小さな声で何かを呟いてる。
よく聞こえなかったので聞き返そうとしたけどそれは叶わなかった。その直後に父は友人に呼ばれてすぐにその場を立ち去ったからだ。
私は父がすぐに離れてくれて少しだけホッとしていた。
もしあのまま会話が続いていたら、優しい父に弱音を吐いてしまっていたかもしれない。
心配かけたくないと思いながらも縋ってしまいそうになる弱い自分に気がつく。
上手くやれているつもりだったけれど、結局はそうではなかった。
…もう何もかも限界だった。
見ないつもりだったのに階段上で仲睦まじく二人で話しているカイルとエミリー様の姿に目をやってしまう。
学園に在学中からお似合いだと言われていた二人だが、それは今も変わらない。
惹かれ合っている二人の姿はとても美しく見えた。
本当にお似合いの二人ね。
別れてもお互いに想い合っているなんて…なんて素敵なんでしょう。
これが…真実の愛…なんでしょうね。
邪魔者は私、妻である私…。
誰もそのことを私に言ってくることはないけど、噂が、二人の行動が、それを肯定している。
そのことを考え始めると現実がどこか作り物のような感覚に陥る。心が壊れるのを無意識に防いでいるのだろうか。
ふふ、そんな必要ないのに。
一層のことバラバラに壊れてしまえばいいのに。
浅ましい私は壊れもせずにまだ現実にしがみついている。
自分の愛が恐ろしい。
居た堪れなくなり二人から視線をそらすと、階段を昇りながら彼らに近づいていく一人の男性に気がついた。
その顔には隠しきれない怒りが宿り、歩く姿から殺気を感じるほどだった。
明らかに夜会に相応しくない態度だった。
夜会をそれぞれ楽しんでいる人達はその男性の行動に誰も気づいていない。
その人には覚えがあった。確かに学園でカイル達の同級生だった男爵家の三男だったはず。素行が悪く、遊び回っていると噂されていた人で卒業することなく退学になったと聞いている。
なぜその人がここに…。
それもカイル達に用事があるの?
彼の目にはカイル達しか写っていないようだった。不穏な空気を纏いながらカイル達に詰め寄っている。声までは聞こえていないが嫌な感じだった。
胸騒ぎがして気がつけば私は階段を駆け上がっていた。
それは父だった、珍しく隣に母の姿はない。あたりを見回すと離れたところで友人達と談笑している母の姿があった。
「お父様、お久しぶりです。侯爵家のみなはお変わりないですか?」
父と話すのは本当に久しぶりだった。
新しい事業のことで奔走していた父とはだいぶ前からゆっくりと話す時間を持てていなかった。
嫁ぐ前に二人で話す時間を持ちたいとは思っていたけれども、跡を継ぐ弟の為に必死に侯爵家を立て直そうと頑張ってくれている父に我儘は言えなかった。
「あ、ああ…みな元気だ。サマンサも…その、大丈夫か?」
父は言葉を詰まらせながら心配そうに私には問いかけてきた。きっと新たな噂を耳にして心配してくれているのだろう。
心配は掛けたくなかった。
そうでなくても財政難や事業のことなどで父の負担は大きい。嫁いで侯爵家の人間でなくなった私が負担を増やしては申し訳ない。
「ええ大丈夫です、お父様。子爵家では良くして貰っていますからなんの問題もありませんわ」
笑みを浮かべていつも以上に明るい声音でそう伝える。嘘はついていない、表面上はなんの問題もない政略結婚からの完璧な結婚生活だから。
すると父は明らかに安堵した様子で言葉を続けた。
「はっはは、そうか…それは良かった!
お前なら上手くやっていけると思っていたが、本当に良かった!うん、うん、幸せで良かったぞ!
終わりよければ全てよしだな。
…ああ、それなら今更余計なことを言う必要はないな…」
娘の結婚生活が順調なことを知り大喜びしている父は最後に小さな声で何かを呟いてる。
よく聞こえなかったので聞き返そうとしたけどそれは叶わなかった。その直後に父は友人に呼ばれてすぐにその場を立ち去ったからだ。
私は父がすぐに離れてくれて少しだけホッとしていた。
もしあのまま会話が続いていたら、優しい父に弱音を吐いてしまっていたかもしれない。
心配かけたくないと思いながらも縋ってしまいそうになる弱い自分に気がつく。
上手くやれているつもりだったけれど、結局はそうではなかった。
…もう何もかも限界だった。
見ないつもりだったのに階段上で仲睦まじく二人で話しているカイルとエミリー様の姿に目をやってしまう。
学園に在学中からお似合いだと言われていた二人だが、それは今も変わらない。
惹かれ合っている二人の姿はとても美しく見えた。
本当にお似合いの二人ね。
別れてもお互いに想い合っているなんて…なんて素敵なんでしょう。
これが…真実の愛…なんでしょうね。
邪魔者は私、妻である私…。
誰もそのことを私に言ってくることはないけど、噂が、二人の行動が、それを肯定している。
そのことを考え始めると現実がどこか作り物のような感覚に陥る。心が壊れるのを無意識に防いでいるのだろうか。
ふふ、そんな必要ないのに。
一層のことバラバラに壊れてしまえばいいのに。
浅ましい私は壊れもせずにまだ現実にしがみついている。
自分の愛が恐ろしい。
居た堪れなくなり二人から視線をそらすと、階段を昇りながら彼らに近づいていく一人の男性に気がついた。
その顔には隠しきれない怒りが宿り、歩く姿から殺気を感じるほどだった。
明らかに夜会に相応しくない態度だった。
夜会をそれぞれ楽しんでいる人達はその男性の行動に誰も気づいていない。
その人には覚えがあった。確かに学園でカイル達の同級生だった男爵家の三男だったはず。素行が悪く、遊び回っていると噂されていた人で卒業することなく退学になったと聞いている。
なぜその人がここに…。
それもカイル達に用事があるの?
彼の目にはカイル達しか写っていないようだった。不穏な空気を纏いながらカイル達に詰め寄っている。声までは聞こえていないが嫌な感じだった。
胸騒ぎがして気がつけば私は階段を駆け上がっていた。
204
お気に入りに追加
4,160
あなたにおすすめの小説
【完結】彼の瞳に映るのは
たろ
恋愛
今夜も彼はわたしをエスコートして夜会へと参加する。
優しく見つめる彼の瞳にはわたしが映っているのに、何故かわたしの心は何も感じない。
そしてファーストダンスを踊ると彼はそっとわたしのそばからいなくなる。
わたしはまた一人で佇む。彼は守るべき存在の元へと行ってしまう。
★ 短編から長編へ変更しました。
記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話
甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。
王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。
その時、王子の元に一通の手紙が届いた。
そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。
王子は絶望感に苛まれ後悔をする。
【完結】貴方の望み通りに・・・
kana
恋愛
どんなに貴方を望んでも
どんなに貴方を見つめても
どんなに貴方を思っても
だから、
もう貴方を望まない
もう貴方を見つめない
もう貴方のことは忘れる
さようなら
あの日、さようならと言って微笑んだ彼女を僕は一生忘れることはないだろう
まるまる⭐️
恋愛
僕に向かって微笑みながら「さようなら」と告げた彼女は、そのままゆっくりと自身の体重を後ろへと移動し、バルコニーから落ちていった‥
*****
僕と彼女は幼い頃からの婚約者だった。
僕は彼女がずっと、僕を支えるために努力してくれていたのを知っていたのに‥
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる