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44.親心
しおりを挟む家族以外に獣体を見せることは、獣人族にとって裸を見られる以上に恥ずかしくてたまらないんだって。
なので、普通は番関係になったあとに見せるらしい。
だからかな、いくら頼んでも、カイナル様は見せてくれないんだよね。でもそれって、少し卑怯だって思うのは、私だけかな。考えればすぐにわかることだけど、完全に逃げ道を塞いだ上でのことだよね。正式な番になる前に、最悪逃げられることもあるから見せないって……なんか、やだな。
そもそも、がっちりと、外堀をこれでもかって埋めたのに、まだ心配するなんて……私を信用してないのか、それが獣人族の性質なのか……後者だって思いたいな。
「……いきなりで、疲れたか? 怒っているのか? ことを速やかに執り行いたかったんだ。すまない」
この日は、王城で泊まることとなったのだけど、知らず知らずのうちに溜め息を何度も吐いていたみたい。部屋に案内された途端に、なんにも話さなくなったんだから、機嫌が悪いと勘ぐられても仕方ないよね。まぁ実際は、あまり怒ってないけど。素直に、それを言うのは嫌。
「…………事情と経緯はわかりました。それが必要なことも。コーマン王国第一王女様の件もありますし」
張り合うには強力な手札が必要。私が王女になったことで、手に入れることができた。
「どうして? そんな窮屈な喋り方なんだ……やっぱり、怒ってるのか……俺は、少しでもシアを守りたかっただけなのだ」
ふさふさの耳がペタンとなってる。尻尾も垂れたまま。表情があまり変わらないカイナル様が、唯一素直なところ。
耳と尻尾がなければ、ここまで私が心を預けることはなかったと思う。日頃の発言が発言だからね……表情も乏しいし。
「……わかってますよ。散々、私が愚痴ってましたし。平民であることを一番気にしていたのも、私だから、それをどうにかしようと考えたのでしょう」
「シア……」
「ただし、これからは私にも決定権を与えてください。なにも知らないところで決まるのは嫌です」
「そうだな……そうしよう」
眩しい!!
普段、あまり表情が変わらない美形のホッとした笑みは、かなりの攻撃力があるんだよね。七年一緒にいるのに、まだ慣れないよ。直視できないわ。
「それで、カイナル様、私のお願いをきいてはくれませんか?」
少し目線を下げ顔を近付けてからそうお願いすると、カイナル様は考えていた以上に動揺して狼狽える。
えっ……!?
「なに、壁に張り付いているのですか?」
それも、鼻を押さえて。
「なっ、なんでもない!! 気にするな!!」
そう叫ぶと、風のように部屋を出ていったよ。もしかして、疲れてたのかな? それとも、私臭かった? 慌てて袖口を嗅いでみたけど、特に臭くはなかった。なんで?
たまに……カイナル様って、想像できない行動とるんだよね。理由を訊いても教えてくれないし、深く訊こうとすると誤魔化して逃げる。
まぁ、嫌われてはいないし、不快に感じてないみたいだし、いいかな。結局、獣体の件切り出せなかったよ……残念。
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