15 / 15
閑話~まだ大丈夫~
しおりを挟む
---リア・ドウイ視点---
今日はドウ団長の奥さんサラさんから夕食に招かれている。サラさんは羊獣人だけど人族のドウ団長と結婚しているので、落ちこぼれを差別しない数少ない獣人だ。
ドウ団長とサラさんの間には、一人息子のマサがいる。10歳になる彼は羊獣人として生まれ、両親の愛を受け真っ直ぐに成長している。
(マサ、本当に良かったね。落ちこぼれに生まれなくて)
カルマ家の夕食はすべて料理自慢のサラさんの手作りでとても美味しかった。優しかった家族を5年前に失い、それから1人暮らしをしている私には、懐かしい家庭の味だった。
「リアもういいの?もっと食べればいいのに」
「サラさん、もうお腹いっぱいですよ。とっても美味しかった、ご馳走様」
「そう、お口に合って良かったわ。帰る時には少し料理を持って行ってね」
「じゃあ遠慮しないで貰っていきます♪サラさんの料理は絶品だから嬉しいな」
そんな会話をしていると子供であるマサは寝る時間になっていた。サラさんは寝るのを渋るマサを子供部屋に連れて行き、ダイニングルームには私とお酒を飲んでいる団長だけになった。
さっきまで上機嫌にお酒を飲みながらくだらない親父ギャグを披露していたのに、今は眉間に皺を寄せ真面目な顔で私を見ている。
(団長も普段から真面目な顔をしていれば、なかなかのイケオジなのになー。なんでいつもは緩いおじさんになっちゃうんだろう?)
「おい、なんか失礼な事を考えてるだろう。パンダはなんでも顔に出るから分かるんだぞ」
「えっ!団長、凄い、当たりです!」
「お前な、嘘でもいいからそこは『そんなこと考えていません』だろうが。少しは俺に気を遣えな~」
ドウ団長は呆れた風に言っているが、その表情は硬いままだった。
これはあの話をされるなと思ったが、その通りになった。
「なあ、リア。最近ますます辛くなってきているんじゃないか…。サラもリアがそろそろ限界じゃないかと心配している。
俺は人族だから『番』の感覚は知らんがな、獣人達から嫌というほど話は聞いているから理解はしているつもりだ。
もういいんじゃないか。この国を出ろ、【人】として幸せに暮らす道を選べ」
ドウ団長が私の事を考えてくれているのは痛いほど伝わってくるが、私はその提案を飲むわけにはいかない。私には何よりも大切なものがこの国にあるから。
「心配してくれて有り難う。でも私の決心は変わらないから、このままギザイン国で獣人として暮らします」
ドウ団長は渋い顔をしているが、もう5年の付き合いだから私の意志が固いのを知っているのでそれ以上なにも言わない。ただ部屋に戻って来たサラさんは涙声で私を諭そうとしてくる。
「分かっているとは思うけど獣人がみな『番』と巡り合って結婚するわけではないわ。番以外と結婚して幸せに暮らす獣人はたくさんいるの。私だって番でないドウと結婚しているけど幸せよ。
だからリア、こんな真似はもう止めましょう。こんな状態は良くないわ、いつかあなたが狂ってしまう…」
獣人は『番』以外と結婚する場合、結婚後に『番』と出会って修羅場にならないように番の認識を抑えるアルビー石を身に着け平穏な生活を送れるようにする。
私は結婚をしていないが、そのアルビー石を身に着け生活している。
5年前に偶然遠くから『番』を見る機会があり、自分の番が誰なのか知った。相手は私の方を見ていなかったので気づくことはなかったが。
すぐにアルビー石を買い求め身に着けた、これで彼が私を番と認識する事はない。
私は『番』と名乗り出ず、彼を陰ながら幸せにすることを誓った。
だが『番』を認識したのに結ばれない獣人はその苦痛から心を壊してしまうことが多かった。番と出会った後にアルビー石を身に着けても、その狂おしいほどの愛は止まることはない。内側から己の心を壊し続けるのだ。
だから事情があり番と結ばれない場合はその存在から離れ心を守るのだ。離れても辛さは残るが、傍にいて狂ってしまうよりはいい。
私は彼を幸せにするために傍にいる事を選んだ。
「私は、まだ大丈夫です!心配いりません。これでも灰騎士団所属の猛者ですから♪」
サラさんは獣人だから、まだ何か言いたそうだったけど、私が笑顔で言わせなかった。
私は帰り際にドウ団長の耳元で囁いた。
「まだ大丈夫です。だけど狂った時は殺してください」
今日はドウ団長の奥さんサラさんから夕食に招かれている。サラさんは羊獣人だけど人族のドウ団長と結婚しているので、落ちこぼれを差別しない数少ない獣人だ。
ドウ団長とサラさんの間には、一人息子のマサがいる。10歳になる彼は羊獣人として生まれ、両親の愛を受け真っ直ぐに成長している。
(マサ、本当に良かったね。落ちこぼれに生まれなくて)
カルマ家の夕食はすべて料理自慢のサラさんの手作りでとても美味しかった。優しかった家族を5年前に失い、それから1人暮らしをしている私には、懐かしい家庭の味だった。
「リアもういいの?もっと食べればいいのに」
「サラさん、もうお腹いっぱいですよ。とっても美味しかった、ご馳走様」
「そう、お口に合って良かったわ。帰る時には少し料理を持って行ってね」
「じゃあ遠慮しないで貰っていきます♪サラさんの料理は絶品だから嬉しいな」
そんな会話をしていると子供であるマサは寝る時間になっていた。サラさんは寝るのを渋るマサを子供部屋に連れて行き、ダイニングルームには私とお酒を飲んでいる団長だけになった。
さっきまで上機嫌にお酒を飲みながらくだらない親父ギャグを披露していたのに、今は眉間に皺を寄せ真面目な顔で私を見ている。
(団長も普段から真面目な顔をしていれば、なかなかのイケオジなのになー。なんでいつもは緩いおじさんになっちゃうんだろう?)
「おい、なんか失礼な事を考えてるだろう。パンダはなんでも顔に出るから分かるんだぞ」
「えっ!団長、凄い、当たりです!」
「お前な、嘘でもいいからそこは『そんなこと考えていません』だろうが。少しは俺に気を遣えな~」
ドウ団長は呆れた風に言っているが、その表情は硬いままだった。
これはあの話をされるなと思ったが、その通りになった。
「なあ、リア。最近ますます辛くなってきているんじゃないか…。サラもリアがそろそろ限界じゃないかと心配している。
俺は人族だから『番』の感覚は知らんがな、獣人達から嫌というほど話は聞いているから理解はしているつもりだ。
もういいんじゃないか。この国を出ろ、【人】として幸せに暮らす道を選べ」
ドウ団長が私の事を考えてくれているのは痛いほど伝わってくるが、私はその提案を飲むわけにはいかない。私には何よりも大切なものがこの国にあるから。
「心配してくれて有り難う。でも私の決心は変わらないから、このままギザイン国で獣人として暮らします」
ドウ団長は渋い顔をしているが、もう5年の付き合いだから私の意志が固いのを知っているのでそれ以上なにも言わない。ただ部屋に戻って来たサラさんは涙声で私を諭そうとしてくる。
「分かっているとは思うけど獣人がみな『番』と巡り合って結婚するわけではないわ。番以外と結婚して幸せに暮らす獣人はたくさんいるの。私だって番でないドウと結婚しているけど幸せよ。
だからリア、こんな真似はもう止めましょう。こんな状態は良くないわ、いつかあなたが狂ってしまう…」
獣人は『番』以外と結婚する場合、結婚後に『番』と出会って修羅場にならないように番の認識を抑えるアルビー石を身に着け平穏な生活を送れるようにする。
私は結婚をしていないが、そのアルビー石を身に着け生活している。
5年前に偶然遠くから『番』を見る機会があり、自分の番が誰なのか知った。相手は私の方を見ていなかったので気づくことはなかったが。
すぐにアルビー石を買い求め身に着けた、これで彼が私を番と認識する事はない。
私は『番』と名乗り出ず、彼を陰ながら幸せにすることを誓った。
だが『番』を認識したのに結ばれない獣人はその苦痛から心を壊してしまうことが多かった。番と出会った後にアルビー石を身に着けても、その狂おしいほどの愛は止まることはない。内側から己の心を壊し続けるのだ。
だから事情があり番と結ばれない場合はその存在から離れ心を守るのだ。離れても辛さは残るが、傍にいて狂ってしまうよりはいい。
私は彼を幸せにするために傍にいる事を選んだ。
「私は、まだ大丈夫です!心配いりません。これでも灰騎士団所属の猛者ですから♪」
サラさんは獣人だから、まだ何か言いたそうだったけど、私が笑顔で言わせなかった。
私は帰り際にドウ団長の耳元で囁いた。
「まだ大丈夫です。だけど狂った時は殺してください」
121
お気に入りに追加
1,730
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(23件)
あなたにおすすめの小説


あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます
おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」
そう書き残してエアリーはいなくなった……
緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。
そう思っていたのに。
エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて……
※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。

あの日、さようならと言って微笑んだ彼女を僕は一生忘れることはないだろう
まるまる⭐️
恋愛
僕に向かって微笑みながら「さようなら」と告げた彼女は、そのままゆっくりと自身の体重を後ろへと移動し、バルコニーから落ちていった‥
*****
僕と彼女は幼い頃からの婚約者だった。
僕は彼女がずっと、僕を支えるために努力してくれていたのを知っていたのに‥


【完結】番(つがい)でした ~美しき竜人の王様の元を去った番の私が、再び彼に囚われるまでのお話~
tea
恋愛
かつて私を妻として番として乞い願ってくれたのは、宝石の様に美しい青い目をし冒険者に扮した、美しき竜人の王様でした。
番に選ばれたものの、一度は辛くて彼の元を去ったレーアが、番であるエーヴェルトラーシュと再び結ばれるまでのお話です。
ヒーローは普段穏やかですが、スイッチ入るとややドS。
そして安定のヤンデレさん☆
ちょっぴり切ない、でもちょっとした剣と魔法の冒険ありの(私とヒロイン的には)ハッピーエンド(執着心むき出しのヒーローに囚われてしまったので、見ようによってはメリバ?)のお話です。
別サイトに公開済の小説を編集し直して掲載しています。
(完結)貴方から解放してくださいー私はもう疲れました(全4話)
青空一夏
恋愛
私はローワン伯爵家の一人娘クララ。私には大好きな男性がいるの。それはイーサン・ドミニク。侯爵家の子息である彼と私は相思相愛だと信じていた。
だって、私のお誕生日には私の瞳色のジャボ(今のネクタイのようなもの)をして参加してくれて、別れ際にキスまでしてくれたから。
けれど、翌日「僕の手紙を君の親友ダーシィに渡してくれないか?」と、唐突に言われた。意味がわからない。愛されていると信じていたからだ。
「なぜですか?」
「うん、実のところ私が本当に愛しているのはダーシィなんだ」
イーサン様は私の心をかき乱す。なぜ、私はこれほどにふりまわすの?
これは大好きな男性に心をかき乱された女性が悩んで・・・・・・結果、幸せになったお話しです。(元さやではない)
因果応報的ざまぁ。主人公がなにかを仕掛けるわけではありません。中世ヨーロッパ風世界で、現代的表現や機器がでてくるかもしれない異世界のお話しです。ご都合主義です。タグ修正、追加の可能性あり。

夫は私を愛してくれない
はくまいキャベツ
恋愛
「今までお世話になりました」
「…ああ。ご苦労様」
彼はまるで長年勤めて退職する部下を労うかのように、妻である私にそう言った。いや、妻で“あった”私に。
二十数年間すれ違い続けた夫婦が別れを決めて、もう一度向き合う話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
数日前にこの話を知りました。以前から知っている方々の感想を見ながら、最後まで作者様が進めれない何かがあることも分かりました。いつかは続きが再開されることを楽しみにお待ちしています。
感想有り難うございます(*´ω`*)
更新が停滞しており申し訳ございません……m(__)m
続きを期待して、読み返しつつ、待ちに待っております(#^.^#)
どうか、更新宜しくお願い致します〜\(^o^)/
感想有り難うございます(=´▽`=)
続きが気になります。
お願いします。
感想有り難うございます(=´▽`=)