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1.少女は落ちこぼれです
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ギザイン国は偉大な獣王が治めている国で国民の多くが獣人達であった。その中で少数ではあるが人族も暮らしており、獣人は実力を重視する種族なので人族が差別される事はほとんどなかった。
ただそんなギザイン国の中でも唯一差別される存在がある、それが【落ちこぼれ】であった。
落ちこぼれとは片親が獣人にも関わらず容姿に獣人要素を一切持たずに生まれてきたハーフ獣人達であった。
獣人同士の間に生まれた子供は必ずどちらかの獣人要素を受け継ぐ。そして獣人と人族が結婚しその間に生まれた子供は、強い獣人の血の影響で獣人として生を受けるのが常識であった。
---ただ何事にも例外はある。
極稀に片親が獣人なのに人族の容姿で生まれてくる者達も存在した。
獣人は自分達が獣人であることにプライドを持ち、それぞれの部族を示す容姿に誇りを持って生きている。だから容姿に獣人要素が現れない獣人など認めなかった。
なので落ちこぼれは蔑まれ、獣人達から差別される存在であった。決して獣人としての本能がない訳ではないし無能でもない、ただ容姿に獣人要素が無いだけなのにギザイン国では辛い人生を歩むことが生まれた瞬間から決定されている。
だからほとんどの落ちこぼれは大人になると差別されない人族の国で【人】として生活する事を選ぶのであった。
ただそれは獣人の『番』と出会うチャンスを捨てる行為でもあった。
獣人にとって番は運命の伴侶で、みな自分のたった一人の相手と巡り会い結婚することを熱望する。それは落ちこぼれも同じであった。
けれども彼らはまだ巡り会えていない番の為に国に残るより、人としての平穏な生活を選ぶほうが多かった。それほどまでに理不尽な扱いが多いのが現実だった。
ギザイン国に留まることを選ぶ落ちこぼれは、その状況に耐える以上の価値がある何かを持っている者だけなのだ。
******************************
早朝から活気ある市場の真ん中でマントを被った一人の小柄な少女が酔っ払った熊獣人に因縁をつけられている。どうやら前を見ず千鳥足で歩いていて少女にぶつかったのに『お前がワザとぶつかって来たんだー。慰謝料払いやがれ』と喚き散らしいるようだ。どう見ても熊獣人の方が悪いのは周囲の人々は分かっているが、大柄な酔っ払い相手に仲裁に入ることを躊躇している。
周りがハラハラとしながら二人のやり取りに注目していると。
「はぁ~。悪かった、悪かった、ごめんなさい。私が100%悪いです。これでいい?」
少女は臆することなくぞんざいな口調で謝り、この場を後にしようとする。だがその態度は、火に油を注いだだけだった。
熊獣人はもともとお酒で赤くなっていた顔を更に真っ赤にさせ怒りを爆発させる。
「チビのくせにその口の利き方は何だ!俺を誰だと思ってやがる」
「そんなの知らないわよ、あなたと私は初対面だもん。私はちゃんと謝っているのにその態度、馬鹿丸出しよ」
「クッソ、生意気な奴だ。大人の俺様がしっかりと常識を身体に教え込んでやる!歯を食いしばりやがれ」
熊獣人は『ガォー』と叫びながらその巨体から強烈なパンチを繰り出し少女に襲い掛かった。誰もが拳を受けて地面に沈む憐れな少女の姿を見たくないと思わず目を閉じる。
その直後、ドッサッサッサー!と人が地面に転がる音がし、辺りに砂ぼこりが立ち込めた。
周りの人々は無残な少女の姿を想像し恐る恐る目を開ける。すると目の前には少女では無く白目をむいた熊獣人が仰向けにだらしなく倒れていた。そして少女は無傷な様子で、マントについた砂ぼこりをめんどくさそうに叩いている。
「もうー、せっかく昨日洗ったのに汚れちゃったじゃないの。また小煩い団長に怒られちゃうじゃない、どうしてくれるのよ、この馬鹿熊が!」
そう文句を言いながら、汚れたマントを脱いだ少女は誰もが知るあの有名な【落ちこぼれのリア】だった。
リス獣人の父を持ちながら母が人族であった為、その容姿にリス獣人の要素を持たずに生まれた不幸な少女【リア・ドウイ】18歳。
その容姿は漆黒の髪・黒曜石の瞳で肌は透けるように白い小柄な美少女で、まるでおとぎ話に出てくる妖精のように可憐であった。そのうえ18歳らしいほのかな色気も漂わせていて、落ちこぼれでなかったら間違いなくモテる人生を約束されるといっても過言ではない。
それくらいに容姿だけは文句の付けようがないくらいピカ一だった。
実はこの少女、見掛けと中身がかなり違った、いや正確には詐欺レベルで大違いであった。その容姿から守られるべきか弱き存在と誤解されることが常だが、酔っ払っていたとはいえ大柄な熊獣人をいとも簡単に倒す腕前があった。
落ちこぼれでありながらリア・ドウイはギザイン国の第三騎士団、通称『灰騎士団』に所属する正真正銘の騎士だったのだ。
ただそんなギザイン国の中でも唯一差別される存在がある、それが【落ちこぼれ】であった。
落ちこぼれとは片親が獣人にも関わらず容姿に獣人要素を一切持たずに生まれてきたハーフ獣人達であった。
獣人同士の間に生まれた子供は必ずどちらかの獣人要素を受け継ぐ。そして獣人と人族が結婚しその間に生まれた子供は、強い獣人の血の影響で獣人として生を受けるのが常識であった。
---ただ何事にも例外はある。
極稀に片親が獣人なのに人族の容姿で生まれてくる者達も存在した。
獣人は自分達が獣人であることにプライドを持ち、それぞれの部族を示す容姿に誇りを持って生きている。だから容姿に獣人要素が現れない獣人など認めなかった。
なので落ちこぼれは蔑まれ、獣人達から差別される存在であった。決して獣人としての本能がない訳ではないし無能でもない、ただ容姿に獣人要素が無いだけなのにギザイン国では辛い人生を歩むことが生まれた瞬間から決定されている。
だからほとんどの落ちこぼれは大人になると差別されない人族の国で【人】として生活する事を選ぶのであった。
ただそれは獣人の『番』と出会うチャンスを捨てる行為でもあった。
獣人にとって番は運命の伴侶で、みな自分のたった一人の相手と巡り会い結婚することを熱望する。それは落ちこぼれも同じであった。
けれども彼らはまだ巡り会えていない番の為に国に残るより、人としての平穏な生活を選ぶほうが多かった。それほどまでに理不尽な扱いが多いのが現実だった。
ギザイン国に留まることを選ぶ落ちこぼれは、その状況に耐える以上の価値がある何かを持っている者だけなのだ。
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早朝から活気ある市場の真ん中でマントを被った一人の小柄な少女が酔っ払った熊獣人に因縁をつけられている。どうやら前を見ず千鳥足で歩いていて少女にぶつかったのに『お前がワザとぶつかって来たんだー。慰謝料払いやがれ』と喚き散らしいるようだ。どう見ても熊獣人の方が悪いのは周囲の人々は分かっているが、大柄な酔っ払い相手に仲裁に入ることを躊躇している。
周りがハラハラとしながら二人のやり取りに注目していると。
「はぁ~。悪かった、悪かった、ごめんなさい。私が100%悪いです。これでいい?」
少女は臆することなくぞんざいな口調で謝り、この場を後にしようとする。だがその態度は、火に油を注いだだけだった。
熊獣人はもともとお酒で赤くなっていた顔を更に真っ赤にさせ怒りを爆発させる。
「チビのくせにその口の利き方は何だ!俺を誰だと思ってやがる」
「そんなの知らないわよ、あなたと私は初対面だもん。私はちゃんと謝っているのにその態度、馬鹿丸出しよ」
「クッソ、生意気な奴だ。大人の俺様がしっかりと常識を身体に教え込んでやる!歯を食いしばりやがれ」
熊獣人は『ガォー』と叫びながらその巨体から強烈なパンチを繰り出し少女に襲い掛かった。誰もが拳を受けて地面に沈む憐れな少女の姿を見たくないと思わず目を閉じる。
その直後、ドッサッサッサー!と人が地面に転がる音がし、辺りに砂ぼこりが立ち込めた。
周りの人々は無残な少女の姿を想像し恐る恐る目を開ける。すると目の前には少女では無く白目をむいた熊獣人が仰向けにだらしなく倒れていた。そして少女は無傷な様子で、マントについた砂ぼこりをめんどくさそうに叩いている。
「もうー、せっかく昨日洗ったのに汚れちゃったじゃないの。また小煩い団長に怒られちゃうじゃない、どうしてくれるのよ、この馬鹿熊が!」
そう文句を言いながら、汚れたマントを脱いだ少女は誰もが知るあの有名な【落ちこぼれのリア】だった。
リス獣人の父を持ちながら母が人族であった為、その容姿にリス獣人の要素を持たずに生まれた不幸な少女【リア・ドウイ】18歳。
その容姿は漆黒の髪・黒曜石の瞳で肌は透けるように白い小柄な美少女で、まるでおとぎ話に出てくる妖精のように可憐であった。そのうえ18歳らしいほのかな色気も漂わせていて、落ちこぼれでなかったら間違いなくモテる人生を約束されるといっても過言ではない。
それくらいに容姿だけは文句の付けようがないくらいピカ一だった。
実はこの少女、見掛けと中身がかなり違った、いや正確には詐欺レベルで大違いであった。その容姿から守られるべきか弱き存在と誤解されることが常だが、酔っ払っていたとはいえ大柄な熊獣人をいとも簡単に倒す腕前があった。
落ちこぼれでありながらリア・ドウイはギザイン国の第三騎士団、通称『灰騎士団』に所属する正真正銘の騎士だったのだ。
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