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プロローグ
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ギザイン国領土の果てにある広大な森の中では、騎士達と一人の少女によって倒された魔獣の死骸があちらこちらに横たわっていた。
辺り一面に魔獣の血が飛び散り新緑の木々を毒々しく見せ、本来なら爽やかな空気に満ちているはずの森なのに今はムッとするほど血の臭いが充満している。
そんな中、たった一人で腹から血を流した少女が静かに大木を背にして座っている。さっきまで少女が手にしてた愛用のレイピアは無残にも折れ、傍らに放置されている。大切な相棒であるそれををなんとか掴もうとしたが、もうそれすら出来ないほど手に力は入らなかった。
日は沈みかけ空は綺麗なオレンジ色に染まり、辺りは鳥の鳴き声しか聞こえてこない。
(こんな綺麗な夕焼けは初めて見たかも。こんな状況じゃなきゃ楽しめるんだけど…)
先ほどまでこの場所で第二王女を乗せた豪華な馬車と数人の護衛の騎士達が魔獣と戦っていたが、その姿はもうどこにもない。森で偵察任務中の少女が助けに入ったのをこれ幸いと、少女一人を囮にして自分達だけ魔獣達から逃れて行ってしまったのだ。少女は魔獣達に囲まれ、一人で戦うしか選択肢は残されていなかった。
(あれが獣王の第二王女とその護衛騎士なんて笑っちゃうわ、フフフ、情けないったら…)
少女はギザイン国の第三騎士団、通称『灰騎士団』に所属する実力者だったが、一人で魔獣の相手をするにも限界はあった。
最後の魔獣を倒し終えた後に自分も魔獣の爪によって腹を負傷している事に気づいたが、出血が酷くて自分で手当てしてどうこう出来る段階ではなかった。
顔からは完全に血の気が引き、自慢の白い肌が青白くなっている。
もう指一本動かすことさえ出来ず、なんとか息をしている状態にまでなっていた。
(これは死ぬな…。私も魔獣にやられるなんて相当情けないわ、灰騎士団のみんなに怒られちゃうな~。アハッ、もう死ぬんだから怒られる心配なんてないじゃない…)
死にそうになっているこの時間は、皮肉な事に少女にとって久しぶりに訪れた穏やかな時間でもあった。
そしてぼんやりと夕焼け空を見上げながら考えているのはたった一人のこと。
(これであの人は幸せになれるかな…。後悔なんてしないけど、最後にもう一度あの人の笑顔を見てから死にたかったな…)
少女は頬を涙で濡らしながら命が尽きる瞬間を静かに受け入れ始めていた。
辺り一面に魔獣の血が飛び散り新緑の木々を毒々しく見せ、本来なら爽やかな空気に満ちているはずの森なのに今はムッとするほど血の臭いが充満している。
そんな中、たった一人で腹から血を流した少女が静かに大木を背にして座っている。さっきまで少女が手にしてた愛用のレイピアは無残にも折れ、傍らに放置されている。大切な相棒であるそれををなんとか掴もうとしたが、もうそれすら出来ないほど手に力は入らなかった。
日は沈みかけ空は綺麗なオレンジ色に染まり、辺りは鳥の鳴き声しか聞こえてこない。
(こんな綺麗な夕焼けは初めて見たかも。こんな状況じゃなきゃ楽しめるんだけど…)
先ほどまでこの場所で第二王女を乗せた豪華な馬車と数人の護衛の騎士達が魔獣と戦っていたが、その姿はもうどこにもない。森で偵察任務中の少女が助けに入ったのをこれ幸いと、少女一人を囮にして自分達だけ魔獣達から逃れて行ってしまったのだ。少女は魔獣達に囲まれ、一人で戦うしか選択肢は残されていなかった。
(あれが獣王の第二王女とその護衛騎士なんて笑っちゃうわ、フフフ、情けないったら…)
少女はギザイン国の第三騎士団、通称『灰騎士団』に所属する実力者だったが、一人で魔獣の相手をするにも限界はあった。
最後の魔獣を倒し終えた後に自分も魔獣の爪によって腹を負傷している事に気づいたが、出血が酷くて自分で手当てしてどうこう出来る段階ではなかった。
顔からは完全に血の気が引き、自慢の白い肌が青白くなっている。
もう指一本動かすことさえ出来ず、なんとか息をしている状態にまでなっていた。
(これは死ぬな…。私も魔獣にやられるなんて相当情けないわ、灰騎士団のみんなに怒られちゃうな~。アハッ、もう死ぬんだから怒られる心配なんてないじゃない…)
死にそうになっているこの時間は、皮肉な事に少女にとって久しぶりに訪れた穏やかな時間でもあった。
そしてぼんやりと夕焼け空を見上げながら考えているのはたった一人のこと。
(これであの人は幸せになれるかな…。後悔なんてしないけど、最後にもう一度あの人の笑顔を見てから死にたかったな…)
少女は頬を涙で濡らしながら命が尽きる瞬間を静かに受け入れ始めていた。
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