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58.静かに暮らせそうにないけど、幸せだから逃げません!①
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「ケイドリューザ殿下、おめでとうございます。ハナミア嬢、これからそなたの人生はこの国と隣国との架け橋となる。大変なこともあるだろうが、殿下がついているのだから大丈夫だろう。今まで苦労した分、幸せになるんだぞ」
「国王陛下、有り難うございます」
まだ書面を交わしていないので私と殿下の婚約は正式なものではない。
けれども、国王陛下の祝福の言葉によって、それは揺るぎないものとなったと貴族達は認識した。
「おめでとうございます!ケイドリューザ殿下、ハナミア様」
「お幸せになってくださいませ、ハナミア様!」
「殿下、ご婚約おめでとうございます!」
人々から上がっていた歓声は、はっきりと祝福の言葉に変わっていく。
貴族は空気を読むのが上手だ。
「お、おめでとうございます。ケイドリューザ殿下…」
王太子までちゃっかりと便乗してくる。どうやら自分の発言をなかったことにするつもりらしい。
「王太子殿下は随分ころころと考えが変わるようですね。流れに乗るのが上手いのでしょうか、それとも私のような凡人では理解できない深いお考えがあるのでしょうか……」
殿下の口調は丁寧だけど、その眼差しは氷点下だ。
「少し深すぎたかな、あっはは……」
氷点下の視線には気づかずに、王太子はへらへらと笑っている。上手く誤魔化せたと思っているようだ。
……いやいや、無理だからね。
王太子という身分があるから誰も口には出さないけれど、みんな呆れている。
殿下に至っては、負のオーラが滲み出ている。
「王太子よ、もう黙れ。殿下、この場は抑えていただきたい。殿下の為に協力をいたしましたが、その代わりこの者のことはこちらに任せて頂きたい」
「ち、父上?一体何の話をしているのですか…?」
「王太子は体調が優れないようだ。連れて行け」
「えっ?私は元気ですが‥‥」
国王陛下はシャキッとした口調で近衛騎士に命令する。そして王太子は呆気なく屈強な騎士に連れられていった。
さっきまでのぷるぷる国王陛下とは別人だ。
まさか影武者と入れ替わった?
「ふっ、狸はどこの国にもいるようだな?ダリム」
「あれと一緒にされては心外ですが……」
どうやら本物のようだ。
殿下とダリムは驚いている様子はない。
『化けの皮をやっと脱いだか』『まだまだ脱げる皮がありそうですが…』なんて話しているから、国王陛下がシャキッと出来ることも把握していたのだろう。
ぷるぷるとシャキッと…。
見事な使い分けで、すっかり騙された。
さっきまでは応援しなければと思っていたが、その気持ちはきれいサッパリ消えた。
応援しなくとも、あと百年は絶対に生きる。
「ほっほほ…。殿下のおかげで、問題なく後継者を交代できます。これだけの前で失態を重ねたのだから、王太子派もあれを見捨てるでしょう。いやいや、血が流れずに済みそうで良かった、良かった」
「それは僥倖です」
「殿下とはこれからも良い関係を続けていけそうです」
「私もそう思っていたところです、国王陛下」
二人は顔を見合わせにやりと笑う。
すると国王陛下はぷるぷるの姿に戻ってから、壇上に用意されている王座へとおぼつかない足取りで戻っていく。
「杖…、忘れていきましたね。国王陛下」
「ふっ、必要ないからな。それはただの小道具だ」
そんな会話をしながら国王陛下の背中を見送る。
殿下は何から何までお見通しのようだ。きっとすべて計算通りなのだろう。
…私の愛する人も将来立派な狸になりそうだ。
国王陛下が王座に着くと同時に軽快なダンスが始まり、何事もなかったかのように華やか夜会に戻る。
お父様とお母様を除いて…。
放心状態の二人はこの場から去ることも出来ずにいる。
――誰も手を貸さない。
「ミア、一緒にダンスを踊ろう」
殿下がダンスに誘ってくる。もちろん、返事は『はい!』だ。でもその前にやりたいことがある。
「リューザ様、その前にちょっとだけ両親のところに行きたいのですが…」
殿下が片眉を上げる。
私の言葉を否定しているのではなく、また傷つけられたらと心配しているのだ。
「けじめをつけたいのです、自分のために。今まで言いたいことを言えませんでした。だから最後くらい思っていることを伝えようと思います」
国王陛下の命だから、両親は今夜中に領地へと旅立つはず。
きっと会うことはもうないだろう。
心残りはいらない。
すっきりとした気持ちで前に進みたい。
「分かった。だが私も一緒に行く」
「はい、お願いします」
私は殿下と一緒に両親のもとに歩いて行く。言いたいことを全部吐き出すために。
「国王陛下、有り難うございます」
まだ書面を交わしていないので私と殿下の婚約は正式なものではない。
けれども、国王陛下の祝福の言葉によって、それは揺るぎないものとなったと貴族達は認識した。
「おめでとうございます!ケイドリューザ殿下、ハナミア様」
「お幸せになってくださいませ、ハナミア様!」
「殿下、ご婚約おめでとうございます!」
人々から上がっていた歓声は、はっきりと祝福の言葉に変わっていく。
貴族は空気を読むのが上手だ。
「お、おめでとうございます。ケイドリューザ殿下…」
王太子までちゃっかりと便乗してくる。どうやら自分の発言をなかったことにするつもりらしい。
「王太子殿下は随分ころころと考えが変わるようですね。流れに乗るのが上手いのでしょうか、それとも私のような凡人では理解できない深いお考えがあるのでしょうか……」
殿下の口調は丁寧だけど、その眼差しは氷点下だ。
「少し深すぎたかな、あっはは……」
氷点下の視線には気づかずに、王太子はへらへらと笑っている。上手く誤魔化せたと思っているようだ。
……いやいや、無理だからね。
王太子という身分があるから誰も口には出さないけれど、みんな呆れている。
殿下に至っては、負のオーラが滲み出ている。
「王太子よ、もう黙れ。殿下、この場は抑えていただきたい。殿下の為に協力をいたしましたが、その代わりこの者のことはこちらに任せて頂きたい」
「ち、父上?一体何の話をしているのですか…?」
「王太子は体調が優れないようだ。連れて行け」
「えっ?私は元気ですが‥‥」
国王陛下はシャキッとした口調で近衛騎士に命令する。そして王太子は呆気なく屈強な騎士に連れられていった。
さっきまでのぷるぷる国王陛下とは別人だ。
まさか影武者と入れ替わった?
「ふっ、狸はどこの国にもいるようだな?ダリム」
「あれと一緒にされては心外ですが……」
どうやら本物のようだ。
殿下とダリムは驚いている様子はない。
『化けの皮をやっと脱いだか』『まだまだ脱げる皮がありそうですが…』なんて話しているから、国王陛下がシャキッと出来ることも把握していたのだろう。
ぷるぷるとシャキッと…。
見事な使い分けで、すっかり騙された。
さっきまでは応援しなければと思っていたが、その気持ちはきれいサッパリ消えた。
応援しなくとも、あと百年は絶対に生きる。
「ほっほほ…。殿下のおかげで、問題なく後継者を交代できます。これだけの前で失態を重ねたのだから、王太子派もあれを見捨てるでしょう。いやいや、血が流れずに済みそうで良かった、良かった」
「それは僥倖です」
「殿下とはこれからも良い関係を続けていけそうです」
「私もそう思っていたところです、国王陛下」
二人は顔を見合わせにやりと笑う。
すると国王陛下はぷるぷるの姿に戻ってから、壇上に用意されている王座へとおぼつかない足取りで戻っていく。
「杖…、忘れていきましたね。国王陛下」
「ふっ、必要ないからな。それはただの小道具だ」
そんな会話をしながら国王陛下の背中を見送る。
殿下は何から何までお見通しのようだ。きっとすべて計算通りなのだろう。
…私の愛する人も将来立派な狸になりそうだ。
国王陛下が王座に着くと同時に軽快なダンスが始まり、何事もなかったかのように華やか夜会に戻る。
お父様とお母様を除いて…。
放心状態の二人はこの場から去ることも出来ずにいる。
――誰も手を貸さない。
「ミア、一緒にダンスを踊ろう」
殿下がダンスに誘ってくる。もちろん、返事は『はい!』だ。でもその前にやりたいことがある。
「リューザ様、その前にちょっとだけ両親のところに行きたいのですが…」
殿下が片眉を上げる。
私の言葉を否定しているのではなく、また傷つけられたらと心配しているのだ。
「けじめをつけたいのです、自分のために。今まで言いたいことを言えませんでした。だから最後くらい思っていることを伝えようと思います」
国王陛下の命だから、両親は今夜中に領地へと旅立つはず。
きっと会うことはもうないだろう。
心残りはいらない。
すっきりとした気持ちで前に進みたい。
「分かった。だが私も一緒に行く」
「はい、お願いします」
私は殿下と一緒に両親のもとに歩いて行く。言いたいことを全部吐き出すために。
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