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49.いざ王家の夜会へ

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王家主催の夜会当日。


両親とは予定通り別行動で、私は弟妹達と一緒に会場の隅のほうにいる。

今日の私は公爵令嬢ハナミア・マーズとしてこの会場に来ているけれど、見た目ではそうだと認識されていない。
皆が知っている公爵令嬢ハナミアは厚化粧の悪役令嬢だからだ。

でも今の私はホワイト家の夜会に参加した子爵令嬢レイミア・マードルとも違っている。

今日は薄化粧だけれどあの時よりは盛っていて(…レイリン作!)、自分で言うのも烏滸がましいがかなり可愛い。これは衣装選びをしてくれたダリムとレイリンのおかげでもある。

だから私が誰か分かっている人はこの会場に弟妹達しかいないはず。

ちらちらと見られている気がするのは、見目麗しい双頭の龍と一緒にいるからであって、そこに悪意はないし私への関心もない。つまりとても気楽な夜会だ。

うんうん、これを求めていたの!

殿下が隣にいないのは寂しいけれども、それでも何もない(それが一番!)夜会の雰囲気をそれなりに楽しんでいる。



「姉上、果実水をどうぞ。こっちはレイリンに」
「ありがとう、レイザ」
「ありがとう。で、見つかった?」

少しだけ離れますねとどこかに行っていたレイザは、飲み物を持って戻ってきた。ちょうど何かを飲みたいと思っていたところで、絶妙なタイミングだった。
レイザは周囲に気を配り、先回りして行動をする子なのだ。

レイリンは飲み物には口をつけずに、誰かを捜すように周囲を見回している。
レイザに見つかった?と尋ねていたから、二人で誰かを捜しているのかもしれない。

お父様やお母様ではないよね?

会場は広いので偶然会う確率は低いけれど、それでもばったり会うようなことがないように、レイザが事前に今夜の二人の行動は確認済みだ。

 もし会っても、お父様もお母様も私には気づかないけどね……。

それはホワイト家の夜会で嫌というほど分かっている。
でも目障りな小娘だと認識されているので接触を避けるに越しことはない。

 無駄に傷つく必要はないしね…。



「二人とも誰を捜しているの?挨拶しなければいけない人がいたら行ってちょうだい。私は一人でも大丈夫よ。ここで壁の花でいるから」

ひそひそ話は聞こえてこないから平気だ。

『可愛いな』とか『天使がいる…』とか『おい、あれ誰だ?』とか『初めて見るな』とか聞こえては来るけれど、それは私の自慢の弟妹達に向けた言葉だ。


褒め言葉はいいとして、ちょっと聞き捨てならない言葉もあるが…。

 
双頭の龍を知らないだと?
あの麗しの双頭の龍だよ!!
知らないって、初めて見るって、どこから来たんですかっ?!
田舎育ちの私だって知っているくらいの有名人ですからね!

と心のなかで叫んでから、自分の発言のおかしさに気づく。

 …あぅっ……姉だった。

ただの田舎者ではない。それなら知っていて当然で、もし知らなかったら、たぶん姉ではない。

それにあの人達は昨日王都に来たばかりかもしれないと思い直し、ごめんなさいと心のなかで謝っておく。

――反省は大切。




「姉上を一人には絶対にしません。この会場には姉上を狙っている者達がいて大変に危険です」

悪役令嬢でないのに狙われている?
ということは……。

「この珍しい髪飾りが狙われているのね」

守るように髪飾りに手を伸ばす。石の価値はさほど高くないようだけど、珍しい色だからだろう。
せっかく殿下の色を纏っているのだから死守せねば…。

「お姉様、王家の夜会で髪飾りを強奪しようとする者はさすがにおりませんわ。狙われているのは、お姉様自身です。この会場一可愛らしいから知り合いになろうと機会を伺っているんですわ」

……ないない。それはない。

私は首を横に振りながら『ふふ、笑える冗談ね』とレイリンの言葉を否定する。

確かに今日の私はいい感じに盛れている。でもそれは普通がちょっと良くなったくらいのものだ。

レイザとレイリンは家族だから、私を見る目が十割増しになっているのだ。
 

「はぁ…、どれだけ無自覚なんでしょうか。でもそこがお姉様らしいところでもありますけど。でもブンブンと飛び回る蝿は目障りですわね」
「いいさ、レイリン。姉上は今のままで。身の程を知らない男達は強制退場していただこう」
「ふふ、久しぶりにあれをやるの?レイザ」

二人して極上の笑みを浮かべて悪い顔をしている。
こ、これは…絶対にぷちっとしようとしているな…。
姉としてここで取るべき行動は一つだけ、――全力で阻止する。

「あ、あのね。たくさんぷちっとしたら、男女の比率が悪くなっちゃうからやめようね」

とりあえずぷちっと前提で話を進める。そんなつもりではなかっと否定したら、勘違いしてごめんねと謝ればいい。
出来ればそうであって欲しい。

「大丈夫ですわ。愚か者達はいなくなっても誰も気に留めませんから」
「比率なんて個人が気にすることではなく、国が考えることですよ、姉上」

淡い期待は一瞬で粉々になった。

……うん、そうだよね。

危ない天使達はいつだって姉の期待?を裏切らない。


まったく聞く耳を持たない二人。もう目つきからして怪しいし、行動に至っては――もう始めている。

うんうん、有言実行で偉い。……なんて言えないからー!!


レイリン、その豊満な胸元から出した小瓶はなんですか?!
一部の人達の名前と顔をブラックリストにして、その優秀な頭脳に刻みこむのはやめなさい、レイザ!

あの人達は軽い気持ちで呟いただけだろう。それなのに代償がこれではあんまりだ。

ここは話を変えて、殺る気に満ちている弟妹達の気を引く必要がある。
それが出来るのは私だけ。


……荷が重い。でもやらなければ、あの人達が殺られる……。


「そういえば捜している人は誰なの?友人と待ち合わせでもしていたの?」

口から出たのは一番無難な言葉だ。機転を利かせる?そんな余裕も時間もない。ゆっくりと言葉を選んでいたら、確実に比率が変わっていく。


「待ち合わせはしておりませんが、ここに来ると一方的に言っていたので…」
「正しくは虫のように湧いて出るという感じですわね、お姉様のそばに」
「…??」

ここに来るは分かるけれど、虫のように湧いて出るとはどういうことだろうか。二人の表情は苦々しいもので、親しい友人を待っているのではないみたいだ。

「レイザとレイリンはその人?のことが嫌いなの?」
「好きではありません、姉上」
「嫌いですわ、お姉様」

二人の言葉が重なる。でもそこにもう一人の声も重なってきた。

「双頭の龍、それは十分過ぎるほど承知している」

それは私がよく知っている声。でもこの夜会には参加しないと聞いていた。
レイザとレイリンは私の後ろを見ていて、その視線は好意的とは言えないけれど、安堵の色も感じられる。

「リューザ様…、どうして…」

振り返るとそこには、やはり隣国の第二王子ケイドリューザの姿があった。
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