報われない恋の行方〜いつかあなたは私だけを見てくれますか〜

矢野りと

文字の大きさ
上 下
21 / 43

21.私は私②

しおりを挟む
私達に気づいたミネルバは顔を顰める。私が彼女の気遣いを無にしてこの場に来たからだろう。まず最初にするべきは謝罪だ。

「ミネルバ様、申し訳ご――」

「まったく、マール伯爵は役に立たない方ですわね。もう少し出来る方かと思っておりましたわ」

彼女に遮られて私は最後まで言えなかった。
そして、なぜか彼女の鋭い視線は、私ではなく彼に向けられている。

 役に立たないって……?

辛辣な言い様に私が驚いてると、更に驚くことが待っていた。

「私はあなたと違って、レティシア様の意思を尊重しますので。そして、ミネルバ様、そのお言葉そっくりお返しします。まだ収めていないとは、もう少し出来る方かと思っておりました」

「尊重とは、自分の無能さを隠す時にも使えるのですね。教えてくださり感謝しますわ、マール伯爵」

「こちらこそ、新しい解釈を知りました。尊重とは自分の意見を押し付けることでもあるのですね、ミネルバ様」


マールとミネルバはともに長身なので、間に挟まれた私の頭上で、言葉の応酬を始めた。

私は忙しなく二人の顔を見比べる。
どちらも笑顔を受かべ穏やかな口調だけれど、その目は鋭く話している内容は……なかなかである。

どうやら、ミネルバは彼に私を引き止める役を暗に頼んでいたようで、彼にもそれは伝わっていた。しかし、私がここに来たいと言ったから……。

彼らの善意を私が台無しにしたことで、こんな事態になっている。

私は先ほど言えなかった言葉をもう一度言おうと口を開く。


「私が我儘を言ったばかりに申し――」

「レティシア様の立場なら当然の行動ですから、謝る必要はありませんわ。ね、マール伯爵」

「それについてはミネルバ様に同意します」

にこやかに私を見る彼らは先ほどまでとは別人のようで、私が知っている二人だった。
きっと彼らは気の置けない関係だからこそ、あんなふうに言い合えるのだろう。

ほっとすると同時にそういう関係を築けて羨ましいなと思っていると、ミネルバがあちらを見てと視線を中心に向けた。

「装飾が被っているの。どちらも自分が考案したものだと主張しているわ」


義母とルーマニ伯爵夫人の胸元を飾るネックレスは同じに見える。

紫水晶を金のチェーンに絡ませていて繊細なのに華やかさもある代物で、どちらにもよく似合っている。


最近、貴婦人達の間で自分でデザインを考えて装飾品を作るのが流行っている。つまり、自分の手で一点ものを作るのだ。普通に考えたら被ることはないはずだが、似通ったデザインはよく見かけた。

それにはこういう事情があった。
デザインを考えると言っても一からではなく、宝石商人から提示された案を組み合わせるのだ。
素人判断で突飛な方向に向かっていると感じたら、商人は無難なデザインに上手く誘導する。出来上がってから『こんなはずじゃなかったわ』と支払いを拒まれないために。

先を読んで確実に利益が取れる手段を用いる――それが商売。

だから、似てしまうのは仕方がないことだけれども、そっくり同じなのは初めて見た。

 ……たぶん、商人のせいね。

全く同じデザインをうっかり提供してしまったのだ。商売が繁盛してチェックが追いつかなかったのかもしれない。


状況は分かったけれど、ここまで揉める問題ではないはずだ。
内心は穏やかではないにしろ、この場にいない者――宝石商人――のせいにして、お互いの面目を保つのが社交の基本。


ミネルバは少しだけ屈んで、口元を私に近づける。

「ルーマニ伯爵夫人の後ろの面子をご覧なさい、レティシア様」

しおりを挟む
感想 246

あなたにおすすめの小説

【本編完結】独りよがりの初恋でした

須木 水夏
恋愛
好きだった人。ずっと好きだった人。その人のそばに居たくて、そばに居るために頑張ってた。  それが全く意味の無いことだなんて、知らなかったから。 アンティーヌは図書館の本棚の影で聞いてしまう。大好きな人が他の人に囁く愛の言葉を。 #ほろ苦い初恋 #それぞれにハッピーエンド 特にざまぁなどはありません。 小さく淡い恋の、始まりと終わりを描きました。完結いたします。

王子殿下の慕う人

夕香里
恋愛
【本編完結・番外編不定期更新】 エレーナ・ルイスは小さい頃から兄のように慕っていた王子殿下が好きだった。 しかし、ある噂と事実を聞いたことで恋心を捨てることにしたエレーナは、断ってきていた他の人との縁談を受けることにするのだが──? 「どうして!? 殿下には好きな人がいるはずなのに!!」 好きな人がいるはずの殿下が距離を縮めてくることに戸惑う彼女と、我慢をやめた王子のお話。 ※小説家になろうでも投稿してます

【完結】え、別れましょう?

須木 水夏
恋愛
「実は他に好きな人が出来て」 「は?え?別れましょう?」 何言ってんだこいつ、とアリエットは目を瞬かせながらも。まあこちらも好きな訳では無いし都合がいいわ、と長年の婚約者(腐れ縁)だったディオルにお別れを申し出た。  ところがその出来事の裏側にはある双子が絡んでいて…?  だる絡みをしてくる美しい双子の兄妹(?)と、のんびりかつ冷静なアリエットのお話。   ※毎度ですが空想であり、架空のお話です。史実に全く関係ありません。 ヨーロッパの雰囲気出してますが、別物です。

王命を忘れた恋

須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』  そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。  強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?  そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。

彼が愛した王女はもういない

黒猫子猫(猫子猫)
恋愛
シュリは子供の頃からずっと、年上のカイゼルに片想いをしてきた。彼はいつも優しく、まるで宝物のように大切にしてくれた。ただ、シュリの想いには応えてくれず、「もう少し大きくなったらな」と、はぐらかした。月日は流れ、シュリは大人になった。ようやく彼と結ばれる身体になれたと喜んだのも束の間、騎士になっていた彼は護衛を務めていた王女に恋をしていた。シュリは胸を痛めたが、彼の幸せを優先しようと、何も言わずに去る事に決めた。 どちらも叶わない恋をした――はずだった。 ※関連作がありますが、これのみで読めます。 ※全11話です。

貴方が側妃を望んだのです

cyaru
恋愛
「君はそれでいいのか」王太子ハロルドは言った。 「えぇ。勿論ですわ」婚約者の公爵令嬢フランセアは答えた。 誠の愛に気がついたと言われたフランセアは微笑んで答えた。 ※2022年6月12日。一部書き足しました。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。  史実などに基づいたものではない事をご理解ください。 ※話の都合上、残酷な描写がありますがそれがざまぁなのかは受け取り方は人それぞれです。  表現的にどうかと思う回は冒頭に注意喚起を書き込むようにしますが有無は作者の判断です。 ※更新していくうえでタグは幾つか増えます。 ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

【完結】元婚約者の次の婚約者は私の妹だそうです。ところでご存知ないでしょうが、妹は貴方の妹でもありますよ。

葉桜鹿乃
恋愛
あらぬ罪を着せられ婚約破棄を言い渡されたジュリア・スカーレット伯爵令嬢は、ある秘密を抱えていた。 それは、元婚約者モーガンが次の婚約者に望んだジュリアの妹マリアが、モーガンの実の妹でもある、という秘密だ。 本当ならば墓まで持っていくつもりだったが、ジュリアを婚約者にとモーガンの親友である第一王子フィリップが望んでくれた事で、ジュリアは真実を突きつける事を決める。 ※エピローグにてひとまず完結ですが、疑問点があがっていた所や、具体的な姉妹に対する差など、サクサク読んでもらうのに削った所を(現在他作を書いているので不定期で)番外編で更新しますので、暫く連載中のままとさせていただきます。よろしくお願いします。 番外編に手が回らないため、一旦完結と致します。 (2021/02/07 02:00) 小説家になろう・カクヨムでも別名義にて連載を始めました。 恋愛及び全体1位ありがとうございます! ※感想の取り扱いについては近況ボードを参照ください。(10/27追記)

(完)なにも死ぬことないでしょう?

青空一夏
恋愛
ジュリエットはイリスィオス・ケビン公爵に一目惚れされて子爵家から嫁いできた美しい娘。イリスィオスは初めこそ優しかったものの、二人の愛人を離れに住まわせるようになった。 悩むジュリエットは悲しみのあまり湖に身を投げて死のうとしたが死にきれず昏睡状態になる。前世を昏睡状態で思い出したジュリエットは自分が日本という国で生きていたことを思い出す。還暦手前まで生きた記憶が不意に蘇ったのだ。 若い頃はいろいろな趣味を持ち、男性からもモテた彼女の名は真理。結婚もし子供も産み、いろいろな経験もしてきた真理は知っている。 『亭主、元気で留守がいい』ということを。 だったらこの状況って超ラッキーだわ♪ イケてるおばさん真理(外見は20代前半のジュリエット)がくりひろげるはちゃめちゃコメディー。 ゆるふわ設定ご都合主義。気分転換にどうぞ。初めはシリアス?ですが、途中からコメディーになります。中世ヨーロッパ風ですが和のテイストも混じり合う異世界。 昭和の懐かしい世界が広がります。懐かしい言葉あり。解説付き。

処理中です...