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12.世界にひとつの声①
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背中が燃えるように熱くて目が覚める。
そして背中に感じていた熱は目覚めとともに痛みへと変わる。あまりの痛さで息が詰まりそうだ。
ズッキン、ズッキン…。
どうして自分の背中がこんなに痛むのだろうか。
理由が分からずそっと自分の身体を見ると寝間着の下に包帯が見えた。
け、が…したの?
一体どこで…。
どうして私は怪我をしているのだろうか。
意識ははっきりしてきたけれど自分の問いに答えられない
それにこの部屋はどこだろう。
白を基調とした部屋で飾られてある装飾品に派手さはないがそれが柔らかい雰囲気を醸し出している。私好みの部屋で落ち着ける、まるで自分の部屋のように思えるけどそうではない。
ここは知らない場所だった。
そして自分のこともよく分からない。
分からないことばかりの状況なのになぜか私は不安を感じていない。
それどころか不思議と気分がいい。
身体は痛みに悲鳴を上げているけれども心は凪いでいる。
ふわふわと海を漂っているみたいに心地いい。
ずっとこのままでいたいと思っていると目覚めた私に気づいた侍女が大きな声を上げる。
どうやらこの部屋にはいたのは私だけではなかったようだ。
『お、奥様っ!!誰かすぐに来てください、奥様がお目覚めに!』
その声を聞きつけて大勢の人が部屋へとなだれ込んでくる。みな涙を流し私の目覚めを喜んでいるようだ。
でもその理由が私には分からないから一人取り残される。
それに『奥様』や『リーナ』と呼ばれているのは分かるけれど、それは音でしかなく私の心に言葉として響かない。
なんだろう…上手く伝えるのが難しい。
音は聞こえるし理解はできている、でもそれだけ。言葉として心に留まってはくれない。
それはまるで騒音?と言えば伝わるのだろうか。
『私にとって必要ではない不快な音』
初めての経験で自分でもこの解釈が正しいのか判断できない。
そもそもこれが初めてなのかも曖昧だ。だって何も分からないのだから。
ただ私はもう自由だって思える。
今の私にはそれだけが本当だった。
他はすべていらない、だって興味がないから。
周りにいる人達が涙を流しながら気遣いの音を口にする。特に窶れた様子の男性が私の手をとって熱心に音を浴びせてくる。
苦痛で眉をしかめてしまう。
彼に悪気はないのだろう、でも不快な音が心に入り込もうとして気持ちが悪くなる。
心が何かを拒絶している。
「…ごめんなさい。言ってることは分かります、でも私のなかでそれは不快な音でしかなくて言葉ではなくて…。
おかしなことを言っているのは分かっていますが、でもどう言えば伝わるのか分からなくて。
とにかく気分が悪くなるんです。
だから話し掛けるのを控えてもらえますか?
それに自分のことも皆さんのことも分かりません。
どうしてここにいるのかも。
でもそれは良いんです、何もわからないけど心は軽いから…ふふふ」
私が笑うと部屋は静まり返り、みな困惑の表情を浮かべている。それがなんだか余計におかしく感じ子供のように無邪気に笑ってしまう。
「クスクス…ごめんなさい、なんだかおかしくて。ふっふふ」
「「「………」」」
黙りこくっている人々を見て、皆も一緒に笑えば楽しくなるのにと思い微笑みかけるが誰も笑ってはくれなかった。
私の様子に医者らしき人が数人の侍女だけを残し他の人達を部屋から出す。
あの男性だけは必死になってそれを拒んでいたけど最後には連れ出されて行った。
そして医者から質問が繰り返され私は思ったままに答えていく。
不思議なことに不快だけれども会話?は大体出来ていた。
どうやら私は侍女とか医者とかその役割は理解できているけど、その人自身は認識出来ないらしい。
生活の仕方は自然と体が覚えている。
でも言葉は意味が分かるけど騒音のように感じるのは心が関係していることで、拒絶することで自分を守っているのではないかと告げられる。
『大丈夫ですか?お気を確かに…。時間が経てば戻るかもしれませんから希望を持ちましょう』
『大丈夫です、なんの問題もありませんから』
医者は私を痛ましそうに見ていたが、私は特に思うことなく現実を受け止めるだけだった。
私の症状は一定ではなく日によって人によって異なり、酷い時は誰の音にも反応できないようだ。
自分ではよく分からないけど。
でもこんな私をここは受け入れてくれている。
どこに行けばいいか分からないからただ意味もなくぬるま湯のようなこの場所にいる。
一体私は何から自分を守っているのだろうか。
それは誰も教えてくれない。
考えるとなぜか頭が割れるように痛むので考えることをやめる。
毎日を夢の中にいるような感覚で過ごす。時折これが夢なのか現実なのかも怪しくなる。
『これは現実かしら…?』
気まぐれにこんなことを呟くと『そうだよ。アリーナゆっくりでいいから…』と優しい音が隣からする。
気づくとあの男性は私の隣にいる。
なぜかこの声音を聴くと悲しくないのに涙が溢れてくる。
その涙を拭う彼の手は優しくて、いつまでも触っていて欲しいと思っているのになぜか私は乱暴に振り払ってしまう。
矛盾している思いと行動に戸惑い、そっと隣を見るが彼は怒っていない。
ただ静かに微笑んでいるだけ。
すぐに私は興味を失って視線を逸らす。
何も考えず周りからも何も求められない。全てにおいて無関心でいるのが心地よくてこのままでいたい。
そうするべきだと心が囁いてくる。
どれくらいこうしているのかも分からない、一週間なのか一年なのか…時間の感覚もない。
死にたいとは思わないけど、たまに『このままでいいのだろうか』と思って心がざわつく時がある。
そういう時は隣を見る。
あの男性が静かに微笑んでくれているのを見ると『これでいいのよ、きっと…』と安心できるから。
そして背中に感じていた熱は目覚めとともに痛みへと変わる。あまりの痛さで息が詰まりそうだ。
ズッキン、ズッキン…。
どうして自分の背中がこんなに痛むのだろうか。
理由が分からずそっと自分の身体を見ると寝間着の下に包帯が見えた。
け、が…したの?
一体どこで…。
どうして私は怪我をしているのだろうか。
意識ははっきりしてきたけれど自分の問いに答えられない
それにこの部屋はどこだろう。
白を基調とした部屋で飾られてある装飾品に派手さはないがそれが柔らかい雰囲気を醸し出している。私好みの部屋で落ち着ける、まるで自分の部屋のように思えるけどそうではない。
ここは知らない場所だった。
そして自分のこともよく分からない。
分からないことばかりの状況なのになぜか私は不安を感じていない。
それどころか不思議と気分がいい。
身体は痛みに悲鳴を上げているけれども心は凪いでいる。
ふわふわと海を漂っているみたいに心地いい。
ずっとこのままでいたいと思っていると目覚めた私に気づいた侍女が大きな声を上げる。
どうやらこの部屋にはいたのは私だけではなかったようだ。
『お、奥様っ!!誰かすぐに来てください、奥様がお目覚めに!』
その声を聞きつけて大勢の人が部屋へとなだれ込んでくる。みな涙を流し私の目覚めを喜んでいるようだ。
でもその理由が私には分からないから一人取り残される。
それに『奥様』や『リーナ』と呼ばれているのは分かるけれど、それは音でしかなく私の心に言葉として響かない。
なんだろう…上手く伝えるのが難しい。
音は聞こえるし理解はできている、でもそれだけ。言葉として心に留まってはくれない。
それはまるで騒音?と言えば伝わるのだろうか。
『私にとって必要ではない不快な音』
初めての経験で自分でもこの解釈が正しいのか判断できない。
そもそもこれが初めてなのかも曖昧だ。だって何も分からないのだから。
ただ私はもう自由だって思える。
今の私にはそれだけが本当だった。
他はすべていらない、だって興味がないから。
周りにいる人達が涙を流しながら気遣いの音を口にする。特に窶れた様子の男性が私の手をとって熱心に音を浴びせてくる。
苦痛で眉をしかめてしまう。
彼に悪気はないのだろう、でも不快な音が心に入り込もうとして気持ちが悪くなる。
心が何かを拒絶している。
「…ごめんなさい。言ってることは分かります、でも私のなかでそれは不快な音でしかなくて言葉ではなくて…。
おかしなことを言っているのは分かっていますが、でもどう言えば伝わるのか分からなくて。
とにかく気分が悪くなるんです。
だから話し掛けるのを控えてもらえますか?
それに自分のことも皆さんのことも分かりません。
どうしてここにいるのかも。
でもそれは良いんです、何もわからないけど心は軽いから…ふふふ」
私が笑うと部屋は静まり返り、みな困惑の表情を浮かべている。それがなんだか余計におかしく感じ子供のように無邪気に笑ってしまう。
「クスクス…ごめんなさい、なんだかおかしくて。ふっふふ」
「「「………」」」
黙りこくっている人々を見て、皆も一緒に笑えば楽しくなるのにと思い微笑みかけるが誰も笑ってはくれなかった。
私の様子に医者らしき人が数人の侍女だけを残し他の人達を部屋から出す。
あの男性だけは必死になってそれを拒んでいたけど最後には連れ出されて行った。
そして医者から質問が繰り返され私は思ったままに答えていく。
不思議なことに不快だけれども会話?は大体出来ていた。
どうやら私は侍女とか医者とかその役割は理解できているけど、その人自身は認識出来ないらしい。
生活の仕方は自然と体が覚えている。
でも言葉は意味が分かるけど騒音のように感じるのは心が関係していることで、拒絶することで自分を守っているのではないかと告げられる。
『大丈夫ですか?お気を確かに…。時間が経てば戻るかもしれませんから希望を持ちましょう』
『大丈夫です、なんの問題もありませんから』
医者は私を痛ましそうに見ていたが、私は特に思うことなく現実を受け止めるだけだった。
私の症状は一定ではなく日によって人によって異なり、酷い時は誰の音にも反応できないようだ。
自分ではよく分からないけど。
でもこんな私をここは受け入れてくれている。
どこに行けばいいか分からないからただ意味もなくぬるま湯のようなこの場所にいる。
一体私は何から自分を守っているのだろうか。
それは誰も教えてくれない。
考えるとなぜか頭が割れるように痛むので考えることをやめる。
毎日を夢の中にいるような感覚で過ごす。時折これが夢なのか現実なのかも怪しくなる。
『これは現実かしら…?』
気まぐれにこんなことを呟くと『そうだよ。アリーナゆっくりでいいから…』と優しい音が隣からする。
気づくとあの男性は私の隣にいる。
なぜかこの声音を聴くと悲しくないのに涙が溢れてくる。
その涙を拭う彼の手は優しくて、いつまでも触っていて欲しいと思っているのになぜか私は乱暴に振り払ってしまう。
矛盾している思いと行動に戸惑い、そっと隣を見るが彼は怒っていない。
ただ静かに微笑んでいるだけ。
すぐに私は興味を失って視線を逸らす。
何も考えず周りからも何も求められない。全てにおいて無関心でいるのが心地よくてこのままでいたい。
そうするべきだと心が囁いてくる。
どれくらいこうしているのかも分からない、一週間なのか一年なのか…時間の感覚もない。
死にたいとは思わないけど、たまに『このままでいいのだろうか』と思って心がざわつく時がある。
そういう時は隣を見る。
あの男性が静かに微笑んでくれているのを見ると『これでいいのよ、きっと…』と安心できるから。
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