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8.信じたい声
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私の体調を心配したライアンによって私は夜会への参加を控えていた。
『もう大丈夫だから』と何度言っても彼は『まだ無理しないで、***。本当に心配なんだ』と言う。
だから私は屋敷からも出ずに静かに過ごしている。
可愛いルイスと一日中一緒に過ごせることに喜びを感じていると、荒んでいた心が少しずつ落ち着いてくる。
心配性のライアンも仕事を早めに切り上げなるべく私のそばに居ようとしてくれる。
夜会も必要最低限のものだけは一人で参加しているが、それさえも早めに切り上げて帰ってくるようになった。
相変わらずあの言葉は聴こえないし、彼のことは『ライアン』としか呼べない。
だけれどもこの穏やかな日常は私に安らぎを与えてくれる。
我が家でカトリーナの話が出てくることは一切ない。
彼の口から紡がれるのは妻である私と息子であるルイスのことばかり。
それが泣きそうになるくらい嬉しくて、『***』と呼び掛けられるたびに削れていく心をそっと包み込んでくれているように感じてしまう。
自分の都合の良いように考えているだけかもしれないけれども、この穏やかな日常がこのまま続けば元に戻れるのではと思ってしまう。
ガザン侯爵夫人であるカトリーナが長期に渡って夫の元に帰らないことはないだろう。
きっともう暫くしたら帰国するはず。
そうなったら…前のように戻れるかしら。
彼の心から彼女は消えてくれる?
消えなくても、前のように心の奥底にしまってくれるかしら。
私が気づかないくらい、奥深くに…。
彼女がいなくなることを望んでしまう。
皆から愛されている傷心の黒薔薇を追い出したいと願うのは私くらいだろう。
でもそれくらいは許して欲しい。
『***』という言葉が聴こえないのを上手く誤魔化しながら、私に愛を囁いてくれる彼を必死に取り戻そうとする私はみっともないかもしれない。
大切な我が子を腕に抱き、跡継ぎを生んだことすら彼を取り戻す武器にしようとしている。
こんな汚い私を彼には知られたくないけど、足掻くのは止められない。
偽りでもいい。
これがずっと続くのなら…私の元を去らないでくれるのなら。
笑って耐えてみせる。
私が愛した人は最初から他に好きな人がいた。それを承知で婚姻を結んだのだから、彼のすべてを受け入れるのが私の愛でいい。
どんなに苦しくても彼を失うほうが耐えられない。
心の中で涙を流しても、失わなければ彼の前では笑っていられる。
本当は離縁したほうがお互いに幸せになれるかもしれないけれども、愛している彼を解放できるほど私は優しくない。
ごめんなさい、ライアン。
貴方から本当の幸せを奪ってしまうわ。
でも愛しているから、あなたの隣にいさせて。
私は苦しむ心を隠して彼の隣にいる。
幸せなのか不幸なのか分からない日々を送っているとリーブス伯爵家に王家からの招待状が届いた。
それは王妃様主催のお茶会への誘いで断ることは出来ないものだった。
ライアンはそれを手にして『チッ…』と不敬にも舌打ちしている。そして私の方を見ると済まなそうな顔をする。
「…***、すまない。これは夫婦で参加しないといけないものだ。
もっと君のことを休ませたかったのに…。
なるべく早くに退出できるようにするから一緒に行ってくれるかい?」
王家主催なのだから断る選択肢はない。それはライアンのせいではないのに彼はまるで『自分が不甲斐ないから…』とういような表情を浮かべている。
そこには私を心配する気持ちだけしかない。
愛されていると自分に都合よく感じてしまう。それくらいは許されてもいいはずだ。
「もうすっかり体調だっていいから一緒に参加しましょう。久しぶりのお茶会だから少しドキドキしてしまうわ。それに王妃様のお茶会だから粗相なんて出来ないし…。
……だから私とずっと一緒にいてくれる?」
彼と穏やかな時間を過ごせていたことで私は大胆にも自分の願いを口にする。
不自然にならないような言い方で、カトリーナの側に彼が行かないようにする。
この状況なら優しい彼はきっと私の願いを拒まない。
淑女とはほど遠い振る舞いだけれども、今の私はこのまま彼にそばに居て欲しかった。
「もちろんだ、君のそばにずっといるから安心してくれ。***、愛しているよ」
「ありがとう、ライアン。私も愛してるわ」
一時とはいえ彼は私を選んでくれた。
その事実が私の心を強くしてくれる。
カトリーナに彼の心があるとしても、私はきっと彼女を見ても動揺せずにいられると思った。
お茶会で彼女と会うことに不安があったが、彼が側にいてくれるならきっと微笑んでいられる。
そして王家のお茶会の日がやって来た。
国中の高位貴族が参加しているので、昼間のお茶会とは思えないほど華やかな催しとなっている。
王族への挨拶が終わっても繋がりのある貴族にも挨拶をしなければいけないので、なかなか帰ることは難しかった。
彼は何度も私の体調を心配しているが、彼が約束通りに私から離れないので大丈夫だった。
何度か友人達に声を掛けられたけれども『今日は妻と一緒にいるから』と断ってくれた。
それが嬉しくて私は浮かれていた。
もしかしたら彼はこれからも私を選んでくれるのではないかと信じようとするくらいに。
愛は盲目とは言うけれど、その時の私はまさにそれだった。
真実から目を背け、自分の愛が勝ったのではないかと都合よく浮かれてカトリーナの存在を頭の片隅に追いやる。
そんなことをしても真実は変わらないのに。
だがそんな愚かな私に神様は残酷な現実を教えてくれた。
『もう大丈夫だから』と何度言っても彼は『まだ無理しないで、***。本当に心配なんだ』と言う。
だから私は屋敷からも出ずに静かに過ごしている。
可愛いルイスと一日中一緒に過ごせることに喜びを感じていると、荒んでいた心が少しずつ落ち着いてくる。
心配性のライアンも仕事を早めに切り上げなるべく私のそばに居ようとしてくれる。
夜会も必要最低限のものだけは一人で参加しているが、それさえも早めに切り上げて帰ってくるようになった。
相変わらずあの言葉は聴こえないし、彼のことは『ライアン』としか呼べない。
だけれどもこの穏やかな日常は私に安らぎを与えてくれる。
我が家でカトリーナの話が出てくることは一切ない。
彼の口から紡がれるのは妻である私と息子であるルイスのことばかり。
それが泣きそうになるくらい嬉しくて、『***』と呼び掛けられるたびに削れていく心をそっと包み込んでくれているように感じてしまう。
自分の都合の良いように考えているだけかもしれないけれども、この穏やかな日常がこのまま続けば元に戻れるのではと思ってしまう。
ガザン侯爵夫人であるカトリーナが長期に渡って夫の元に帰らないことはないだろう。
きっともう暫くしたら帰国するはず。
そうなったら…前のように戻れるかしら。
彼の心から彼女は消えてくれる?
消えなくても、前のように心の奥底にしまってくれるかしら。
私が気づかないくらい、奥深くに…。
彼女がいなくなることを望んでしまう。
皆から愛されている傷心の黒薔薇を追い出したいと願うのは私くらいだろう。
でもそれくらいは許して欲しい。
『***』という言葉が聴こえないのを上手く誤魔化しながら、私に愛を囁いてくれる彼を必死に取り戻そうとする私はみっともないかもしれない。
大切な我が子を腕に抱き、跡継ぎを生んだことすら彼を取り戻す武器にしようとしている。
こんな汚い私を彼には知られたくないけど、足掻くのは止められない。
偽りでもいい。
これがずっと続くのなら…私の元を去らないでくれるのなら。
笑って耐えてみせる。
私が愛した人は最初から他に好きな人がいた。それを承知で婚姻を結んだのだから、彼のすべてを受け入れるのが私の愛でいい。
どんなに苦しくても彼を失うほうが耐えられない。
心の中で涙を流しても、失わなければ彼の前では笑っていられる。
本当は離縁したほうがお互いに幸せになれるかもしれないけれども、愛している彼を解放できるほど私は優しくない。
ごめんなさい、ライアン。
貴方から本当の幸せを奪ってしまうわ。
でも愛しているから、あなたの隣にいさせて。
私は苦しむ心を隠して彼の隣にいる。
幸せなのか不幸なのか分からない日々を送っているとリーブス伯爵家に王家からの招待状が届いた。
それは王妃様主催のお茶会への誘いで断ることは出来ないものだった。
ライアンはそれを手にして『チッ…』と不敬にも舌打ちしている。そして私の方を見ると済まなそうな顔をする。
「…***、すまない。これは夫婦で参加しないといけないものだ。
もっと君のことを休ませたかったのに…。
なるべく早くに退出できるようにするから一緒に行ってくれるかい?」
王家主催なのだから断る選択肢はない。それはライアンのせいではないのに彼はまるで『自分が不甲斐ないから…』とういような表情を浮かべている。
そこには私を心配する気持ちだけしかない。
愛されていると自分に都合よく感じてしまう。それくらいは許されてもいいはずだ。
「もうすっかり体調だっていいから一緒に参加しましょう。久しぶりのお茶会だから少しドキドキしてしまうわ。それに王妃様のお茶会だから粗相なんて出来ないし…。
……だから私とずっと一緒にいてくれる?」
彼と穏やかな時間を過ごせていたことで私は大胆にも自分の願いを口にする。
不自然にならないような言い方で、カトリーナの側に彼が行かないようにする。
この状況なら優しい彼はきっと私の願いを拒まない。
淑女とはほど遠い振る舞いだけれども、今の私はこのまま彼にそばに居て欲しかった。
「もちろんだ、君のそばにずっといるから安心してくれ。***、愛しているよ」
「ありがとう、ライアン。私も愛してるわ」
一時とはいえ彼は私を選んでくれた。
その事実が私の心を強くしてくれる。
カトリーナに彼の心があるとしても、私はきっと彼女を見ても動揺せずにいられると思った。
お茶会で彼女と会うことに不安があったが、彼が側にいてくれるならきっと微笑んでいられる。
そして王家のお茶会の日がやって来た。
国中の高位貴族が参加しているので、昼間のお茶会とは思えないほど華やかな催しとなっている。
王族への挨拶が終わっても繋がりのある貴族にも挨拶をしなければいけないので、なかなか帰ることは難しかった。
彼は何度も私の体調を心配しているが、彼が約束通りに私から離れないので大丈夫だった。
何度か友人達に声を掛けられたけれども『今日は妻と一緒にいるから』と断ってくれた。
それが嬉しくて私は浮かれていた。
もしかしたら彼はこれからも私を選んでくれるのではないかと信じようとするくらいに。
愛は盲目とは言うけれど、その時の私はまさにそれだった。
真実から目を背け、自分の愛が勝ったのではないかと都合よく浮かれてカトリーナの存在を頭の片隅に追いやる。
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