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45.この後ろめたさは…〜妹視点〜②
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これは罪悪感というもの…なの?
あり得ない、だって私のせいじゃないっ。
あの令嬢が勝手に使った言葉だ。
誰かに言えなんていわれてないのに、彼女が自分の判断で言った。
そしてその言葉がたまたま核心をついていただけ。
後ろめたく感じることなにもないはず…なのに。
なにが正しいことかちゃんと理解している。
私が罪を作ったわけではない、あの人の妹だからこんな変な気持ちになっているだけ。
私は昔から気が弱いから。
考えすぎてしまうから。
そして騙されていたとはいえ慕っていたことを覚えているから、こんなふうに思ってしまうのだ。
せっかく幸せなのに……。
姉は暴言を残し、屋敷から静かに出ていった。
残された両親もガイアロス様もみな笑顔を浮かべて姉がいなくなったことを心から喜んでいる。
私だけが取り残されていく気がした。
どうしよう…。
こんな気持ちなのは私だけ。
話せやしない。
どう話せばいいのかわからない…。
憎いのになぜか後ろめたい気持ちがある…と言えばいいの?
そんなこと分かってもらえない。
もし言えても『妊娠しているから気持ちが不安定なんだ』と言われて終わってしまう気がする。
それに今になって言ったことや言わなかったことを伝えて、変に誤解されたくない。
どうしてこんな気持ちになるの…。
今になってどうして…。
楽しげに将来のことを話している家族からそっと離れて姉のあとを追う。
姉のことを罵倒しようと思った。
この後ろめたさのような気持ちをそれで排除できる気がしたから。
このまま行かせない。
姉なんだから最後に妹のことを助けてもいいはずだ。
『ま、待ってーーー』
遠くにいる姉には私の言葉は届かなかった。そのまま振り返ることなく馬車に乗り込んで行ってしまう。
どうなるの…。
この気持ちはいつ消えてくれるの?
すぐに消えるわよね……。
ねえ、私は…幸せになれるのよね…。
こんな気持ちは正しくない。
きっといろいろなことがあって心が疲れて不安定になっているだけだ。
きっとすぐに消えてくれるはず。
排除できなかったざわつきを抱えながら何度も『すぐに消える…』と呟く。
でもそれはいつなの?
いつまで私は抱かなくてもいい罪悪感?に苛まれればいいの…。
とても幸せなのに、愛する人と結ばれて、周りからも祝福されて、そして姉がいなくなって、完璧なのに…。
それから私は幸せな毎日を送って、元気な男の子を産んだ。
私にも夫にもよく似ている可愛い子だ。
両親も跡継ぎの誕生を喜び、夫も我が子のためにより一層頑張ってくれている。
私は産後の肥立ちもよく、愛しい我が子を胸に抱き、腕にかかるその重さに幸せを感じている。
夢に描いたままの幸せ。
でも…あれは消えていない。
じわじわと気持ち悪いほど離れてくれない。
ずっと感じているわけではない。我が子が寝てくれ、時間が空いてほっとした時に胸の奥から這い上がってくるのだ。
そのたびに『消えて…』と胸の奥底に押しつけ感じないふりをする。
…でも確実に蝕まれている。
我慢できずにさり気なく両親や夫に訊ねたことがある。
『あの人がいなくなって、どう感じている?…なにか困ったことはある?』
『困ったことなんてない。私達を困らせていたあの子がいなくなったんだからな』
『そうね、いなくなって清々してるわ』
『憎しみは相変わらず消えないが、その存在自体思い出すこともないよ』
誰も嘘をついていないのは、その声音で分かった。
…やはり私だけだった。
両親も夫もとても幸せそうに笑えている。
その隣で私もみんなに合わせるように笑ってみると、なんだかそれだけで安心できた。
一人だと不安だから、みんなと同じならきっと大丈夫だから…。
大丈夫、大丈夫……だ、いじょ…ぶ……。
この幸せは現実なのだから。
偽りなんかじゃない。
こんなに幸せなのだから、いつかあれも消えてくれる。
あり得ない、だって私のせいじゃないっ。
あの令嬢が勝手に使った言葉だ。
誰かに言えなんていわれてないのに、彼女が自分の判断で言った。
そしてその言葉がたまたま核心をついていただけ。
後ろめたく感じることなにもないはず…なのに。
なにが正しいことかちゃんと理解している。
私が罪を作ったわけではない、あの人の妹だからこんな変な気持ちになっているだけ。
私は昔から気が弱いから。
考えすぎてしまうから。
そして騙されていたとはいえ慕っていたことを覚えているから、こんなふうに思ってしまうのだ。
せっかく幸せなのに……。
姉は暴言を残し、屋敷から静かに出ていった。
残された両親もガイアロス様もみな笑顔を浮かべて姉がいなくなったことを心から喜んでいる。
私だけが取り残されていく気がした。
どうしよう…。
こんな気持ちなのは私だけ。
話せやしない。
どう話せばいいのかわからない…。
憎いのになぜか後ろめたい気持ちがある…と言えばいいの?
そんなこと分かってもらえない。
もし言えても『妊娠しているから気持ちが不安定なんだ』と言われて終わってしまう気がする。
それに今になって言ったことや言わなかったことを伝えて、変に誤解されたくない。
どうしてこんな気持ちになるの…。
今になってどうして…。
楽しげに将来のことを話している家族からそっと離れて姉のあとを追う。
姉のことを罵倒しようと思った。
この後ろめたさのような気持ちをそれで排除できる気がしたから。
このまま行かせない。
姉なんだから最後に妹のことを助けてもいいはずだ。
『ま、待ってーーー』
遠くにいる姉には私の言葉は届かなかった。そのまま振り返ることなく馬車に乗り込んで行ってしまう。
どうなるの…。
この気持ちはいつ消えてくれるの?
すぐに消えるわよね……。
ねえ、私は…幸せになれるのよね…。
こんな気持ちは正しくない。
きっといろいろなことがあって心が疲れて不安定になっているだけだ。
きっとすぐに消えてくれるはず。
排除できなかったざわつきを抱えながら何度も『すぐに消える…』と呟く。
でもそれはいつなの?
いつまで私は抱かなくてもいい罪悪感?に苛まれればいいの…。
とても幸せなのに、愛する人と結ばれて、周りからも祝福されて、そして姉がいなくなって、完璧なのに…。
それから私は幸せな毎日を送って、元気な男の子を産んだ。
私にも夫にもよく似ている可愛い子だ。
両親も跡継ぎの誕生を喜び、夫も我が子のためにより一層頑張ってくれている。
私は産後の肥立ちもよく、愛しい我が子を胸に抱き、腕にかかるその重さに幸せを感じている。
夢に描いたままの幸せ。
でも…あれは消えていない。
じわじわと気持ち悪いほど離れてくれない。
ずっと感じているわけではない。我が子が寝てくれ、時間が空いてほっとした時に胸の奥から這い上がってくるのだ。
そのたびに『消えて…』と胸の奥底に押しつけ感じないふりをする。
…でも確実に蝕まれている。
我慢できずにさり気なく両親や夫に訊ねたことがある。
『あの人がいなくなって、どう感じている?…なにか困ったことはある?』
『困ったことなんてない。私達を困らせていたあの子がいなくなったんだからな』
『そうね、いなくなって清々してるわ』
『憎しみは相変わらず消えないが、その存在自体思い出すこともないよ』
誰も嘘をついていないのは、その声音で分かった。
…やはり私だけだった。
両親も夫もとても幸せそうに笑えている。
その隣で私もみんなに合わせるように笑ってみると、なんだかそれだけで安心できた。
一人だと不安だから、みんなと同じならきっと大丈夫だから…。
大丈夫、大丈夫……だ、いじょ…ぶ……。
この幸せは現実なのだから。
偽りなんかじゃない。
こんなに幸せなのだから、いつかあれも消えてくれる。
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