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14.王女との生活
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タチアナ王女の降嫁は王女自身が『隣国での辛い生活を早く忘れたい』と切望したため、婚約期間なしですぐに結婚式を挙げ、新たな生活を送ることとなった。
リデックの離縁などまるでなかったかのように、誰も触れもしなかった。そしてリデックの気持ちを慮る者は王女側に誰一人現れなかった。
そもそも屋敷の者以外は彼の本当の気持ちを知らない。なのでリデックが離縁を喜びこそすれ悲しんでいるとは思ってもみなかったし、タチアナ王女との婚姻を喜んでいると信じていたからだ。
リデックとタチアナ王女の結婚生活は間違った前提からスタートしていた…。
慌ただしくタチアナが嫁いできたため、夫婦の主寝室は前妻が使用していたままで、その隣にある女主人の私室もそのままだった。リデックはハンナが戻って来た時の為にその部屋はそのまま残し、王女の為に新しい豪華な部屋を用意するつもりだった。
だが改装は間に合わず、とりあえずは客間で暮らしてもらおうとお願いした。
「タチアナ様、申し訳ありません。部屋の用意がまだなので暫くは客間で不自由をさせてしまいます」
「もうリデック、アナと呼んでちょうだい。もう私達は正式な夫婦なのだから、いつまでも妻をそんな呼び方ではおかしいわ、ふふふ。それに部屋は夫婦の寝室と女主人の私室で構わないわ」
「いや、あの部屋は…」
「私はもうただの次期伯爵夫人なのよ。前妻が使っていた部屋が嫌だとか我が儘は言いません。出来る範囲で模様替えはするけど、それぐらいの贅沢はいいでしょう?」
「だが………」
「そんなに気を使わないで、私は大丈夫だから。それに貴方と前妻の嫌な思い出を私が上書きしてあげるわ、良い考えでしょう?」
「ああ、そうだな。アナ有り難う…」
話が噛み合ってないがそれは当然のことだった。
タチアナの言っていることは妻として間違っていない。ただその発言は『自分はリデックに愛されて、彼と前妻は不仲だった』が前提だから、リデックが本当は前妻の部屋を残しておきたいのだとは考えもしない。
本来なら夫であるリデックの意向が尊重されるべきだが、タチアナは妻になったとはいえ元王女なのには変わりがない。ただの騎士であるリデックはこれ以上反対する事は出来なかった。
こうして愛するハンナの思い出が詰まった部屋はタチアナが連れてきた侍女達によってあっという間にタチアナが好む部屋へと変えられてしまった。
屋敷の装飾もタチアナ好みにいつの間にか変わり、センスは良いが豪華なそれはリデックが寛げる空間ではなくなった。
そしてもう屋敷のどこからもハンナの面影を探し出すことはできなくなっていた。
タチアナは一生懸命に次期伯爵夫人としての質素な生活に馴染もうと頑張っていたが、やはり王女感覚から抜け出すことは出来なかった。多額の持参金を持って降嫁したタチアナは自由に使えるお金があるのでその必要に迫られる事もなかったからだ。
リデックにとって新たな結婚生活は、王女と臣下との延長のようなものでやすらぎとは程遠いものだった。
リデックの離縁などまるでなかったかのように、誰も触れもしなかった。そしてリデックの気持ちを慮る者は王女側に誰一人現れなかった。
そもそも屋敷の者以外は彼の本当の気持ちを知らない。なのでリデックが離縁を喜びこそすれ悲しんでいるとは思ってもみなかったし、タチアナ王女との婚姻を喜んでいると信じていたからだ。
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慌ただしくタチアナが嫁いできたため、夫婦の主寝室は前妻が使用していたままで、その隣にある女主人の私室もそのままだった。リデックはハンナが戻って来た時の為にその部屋はそのまま残し、王女の為に新しい豪華な部屋を用意するつもりだった。
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「いや、あの部屋は…」
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「だが………」
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「ああ、そうだな。アナ有り難う…」
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タチアナの言っていることは妻として間違っていない。ただその発言は『自分はリデックに愛されて、彼と前妻は不仲だった』が前提だから、リデックが本当は前妻の部屋を残しておきたいのだとは考えもしない。
本来なら夫であるリデックの意向が尊重されるべきだが、タチアナは妻になったとはいえ元王女なのには変わりがない。ただの騎士であるリデックはこれ以上反対する事は出来なかった。
こうして愛するハンナの思い出が詰まった部屋はタチアナが連れてきた侍女達によってあっという間にタチアナが好む部屋へと変えられてしまった。
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タチアナは一生懸命に次期伯爵夫人としての質素な生活に馴染もうと頑張っていたが、やはり王女感覚から抜け出すことは出来なかった。多額の持参金を持って降嫁したタチアナは自由に使えるお金があるのでその必要に迫られる事もなかったからだ。
リデックにとって新たな結婚生活は、王女と臣下との延長のようなものでやすらぎとは程遠いものだった。
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