悲恋の恋人達は三年後に婚姻を結ぶ~人生の歯車が狂う時~

矢野りと

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13.王女の帰還

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「「「タチアナ王女様!お帰りなさいませーー!」」」

タチアナ王女が王城の大広間の壇上で、微笑みながら帰還の挨拶を述べると歓声と共にその帰還を称える声が集まった貴族達から一斉に上がった。みな王女の帰還を心から歓迎し、口にこそ出していないが卑劣な隣国の王との離縁を喜んでいた。

周りが王女の帰還で歓喜に湧き上がっているなかリデックだけは壁際に立ち、その様子を冷めた目で見ていた。傍から見たら王女の帰還を喜んでいないような彼の不敬な態度は許されないものだ。だが彼は元から表情の変化が乏しく、それさえも美形であるがゆえに肯定的に評価されていたので、誰も問題には思わなかった。

それどころか『悲恋の恋人達の奇跡の再会』が見れるとあって、周囲の者達は期待に胸を膨らませていたのだ。

リデックがいつ動くのかと、周囲の者達はチラチラと視線を向けていたが、彼が動く気配は一向になかった。すると挨拶を終えたタチアナ王女が優雅な足取りでリデック・バウアーのもとへと歩き始めた。
彼らの間にいた者達は自分が悲恋の恋人達が会う妨げになるのを恐れ脇に避けたため、リデックと王女の間には自然と一本の道が出来上がっていた。

これで『悲恋の恋人達の再会』を盛り上げるシチュエーションは完璧になった。あとは彼らを固唾を飲んで見守るだけである。

王女は皆の期待通りにリデックのもとに近寄り愛おしい人にしか聞かせないような甘い声音で話し掛けた。

「リデック、お久しぶりね。貴方にどれほど会いたかったことか」

「タチアナ様…」

「そんな他人行儀に呼ばないで。以前二人だけの時に呼んでいたようにと呼んでちょうだい」

「いいえ、臣下である私がそんな、」

「これからは主従関係ではなく夫婦になるのだから遠慮はいらないわ」

リデックは王女の言葉を聞き動揺した。降嫁の件は了承したが、まさか前妻と離縁が成立したその日に王女の口から降嫁の件が出るとは考えてもなかった。

---いくらなんでも早すぎるだろう!ハンナが出て行った翌日になんて…。

タチアナ王女はリデックの動揺を照れだと判断して、嬉しそうに微笑みながら彼の腕に自分の腕を絡ませ隣に立った。それは悲恋の恋人ではなく、より親密な関係になることを態度で示していた。

王女は『ふふふ、私から言うわね』とリデックの耳元で囁くと、周りに向かって高らかと宣言を始めた。

「私タチアナは、リデック・バウアーに降嫁いたします。これからは王女ではなく次期バウアー伯爵夫人として夫を支えていく所存です。皆様、一貴族となる私を温かい目で見守ってくださいますようお願い申し上げます」

「「「わぁーーー!!タチアナ王女万歳!リデック・バウアー万歳!」」」

悲恋の恋人達が繰り広げる劇が、『王女の降嫁』という幸せで幕を閉じることは人々が望んだ結末そのものだった。人々は目の前で起きた奇跡に興奮し自然と万歳の声が起こり、大広間は興奮の渦に包まれた。

悲恋の恋人達の幸せを堪能する人々にとってリデック・バウアーの離縁など些細なことであり、気にする者はほとんどいなかった。



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