悲恋の恋人達は三年後に婚姻を結ぶ~人生の歯車が狂う時~

矢野りと

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11.暫しの別れ①

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王命を受け意気消沈したままリデックは屋敷へと急ぎ戻った。

明日にはタチアナ王女が帰還される、きっとその後すぐに降嫁の件は発表されるだろう。そうしたら妻であるハンナの耳に嫌でも離縁のことが入ってします。
本当はハンナに『離縁』という言葉を自分の口から告げたくなどなかったが、他人から聞かされては彼女がもっと傷つくことになる。
リデックは悩んだが、帰ったらすぐに降嫁と偽りの離縁の件を話し、残り少ない二人だけの時間を大切にしようと思っていた。

---本当にハンナには辛い思いをさせてしまうな。だが王女が降嫁しようと愛しているのはハンナだけだと真摯に伝えよう。流石に怒るだろうけど、きっと彼女なら『愛を貫くための一時の離縁』を理解してくれるはずだ。
俺は悲しむ彼女を支え受け止めよう。



重い足取りで屋敷に到着したリデックは意を決して屋敷に入った。
いつもなら明るい雰囲気が屋敷の主人であるリデックを迎えてくれるが、今日の様子は明らかにいつもと違い重苦しいものだった。愛妻ハンナに笑顔はなく、執事は硬い表情をし、使用人達は動揺を隠せていなかった。

---ああ、一足遅かったか…。

どうやら王家から通達を受けているタオ伯爵を通じハンナや使用人達にも降嫁と離縁の件が伝わっていたようだった。
リデックを愛している妻が悲しんでいるのは当然だが、屋敷の使用人達は健気な女主人を慕っているので王女の降嫁の喜びよりもハンナを失う悲しみに包まれていた。

リデックは暗い表情のハンナに近寄るといつものように優しく抱き寄せその髪に口付けを落とした。

「ハンナ、ただいま」

「リデック様、お帰りなさいませ」

半年前から続くいつもの二人のやり取りだったが、そこにはいつもの甘さはなく、悲壮感が漂っていた。使用人達はそんな主人夫妻を無言のまま見つめて、何も出来ないことを歯がゆく感じその目に涙を滲ませていた。

二人は暫くお互い無言のまま見つめ合っていたが、リデックは身重の妻を立たせたままなのに気づき場所を変えることにした。

「ハンナ、もう知っているみたいだけど俺の口からちゃんと伝え直したい。ここでは身体が冷えてしまうから南の居間で話そう」

「はい、分かりました。私もリデック様の考えも直接と聞きたいと思っていました」

リデックはハンナと手を繋ぎ暖かい南の居間に行くと、いつもなら傍で控えている侍女すらも席を外させ二人きりで一時間以上も話し合っていた。


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